10日ぶりくらいの更新でございます(^^;)
本来なら「学園祭は踊る」をアップすべきなんですが、どうにもこうにも筆が進まないのであきらめて別の話をアップします。
・・・・・あんまり長い期間更新ゼロなのはどうも落ち着かなくて(爆)
とはいえ、今回の話はあまり明るい話ではありません(--;)
しかも佑介くんがちょっと情けなくなっちゃいました。>毬さん、ごめ~ん(^^;)

そんな話でも読んでみたいと思われる方はつづきをよむからどうぞ。



左腕の怪我のリハビリも無事に終了し、二週間ほど前くらいから佑介は稽古に復帰し始めていた。
今までこんなに体を休めた経験のなかった佑介にとって、このリハビリの期間はかなりの忍耐が必要だったようで、医者からOKが出るとすぐに竹刀を振り始めた程だった。
久しぶりの竹刀は少々重く感じたが、その重みも嬉しい重みであった。
自分はこんなにも剣道が好きだったのだ・・・・・と実感した。
そして今日は、師匠である真穂にお願いして道場を開けてもらい、剣友の千葉航とふたりで思いっきり稽古しあおうと約束していた。
航もまた、佑介のいない間は稽古に来てもいまいちしゃっきりしないでいたので、二つ返事でにこやかにその約束に応じたのだった。


「あ~、腕が鳴るな。今日は思いっきりやるぞ」
航が来る前に軽い準備運動を佑介はしていた。
「佑くんたら。・・・・でも無理しちゃだめだよ?」
そんな佑介の様子を見ながら栞はくすりと笑う。
以前はあまり道場に顔を出さなかった栞だが、最近はよく来るようになっていた。
「わかってるって。・・・・・もう、おまえを泣かせたくないからな」
ぽつりと佑介は言う。

晴明の宿敵・芦屋道満の怨霊と戦い、佑介は大怪我を負った。
佑介に仕えている四神の白虎が運んでくれてなんとか家に帰りついたが、母と祖母の顔を見た途端意識を手離し、数日間は目が覚めなかったのだ。
ようよう目を明け一番最初に会いたいと思ったのは、長年の想いをやっとかなえ自分にとってかけがえのない恋人となったおさななじみの栞。
可憐な容姿からは想像できないほど芯が強く、そうそう泣いたりしない栞が自分の姿を見るやいなや、人目もはばからず抱きつき泣いた。
そんなにも心配させてしまったのか・・・・と佑介の胸は強く痛んだ。
そしてもう二度とこんな涙を流させたくないと思ったのだ。

「・・・・・栞・・・・」
そっと栞の腕を取り、自分に引き寄せ抱きしめた。
「おまえが泣いているのは見たくない」
「佑くん・・・・・」
「見たくないんだ・・・・・」
そう言って栞の頬に手をそえる。
ほんのり赤くなりながらも、栞は瞳を閉じた。

栞を愛しいと守りたいという想いが佑介の体中からあふれてくる。
いつも笑顔でいてほしい。・・・・・自分の傍らで。
この想いのすべてを託すかのように、佑介は栞のくちびるにそっとくちづけた。

(あ・・・・・)
今自分の目の前で起きている場面。
・・・・・ここにいてはいけないと思った。はやく離れなければいけないと。
うつむきくるりとむきを変え、芙美は道場から出て行った。

今日は剣道の稽古日ではなかったが、来月七五三を迎える芙美のために祖母である真穂が着物を用意しており、その着物が出来上がってきたというので、芙美の父親絋次の祖母のやち代と母親の咲子と一緒に芙美は草壁家へやってきたのだ。
一通り袖を通し足りない小物類などないかを確認し終える頃には、さすがに芙美もあきてしまったようで(常に着物を着て生活する人間ふたりとそうではないが着物が好きな人間が集まってしまっては着物談義に花が咲きすぎてしまうらしい)真穂がぽろっと、佑介に頼まれて今日は特別に道場を開けてあると言ったがはやいか、芙美は部屋から飛び出して行ってしまったのだ。
母屋に隣接するように建てられた道場---尚壽館の前まで来て、芙美は佑介を驚かそうと思い、静かにそっと道場の扉を開けたのだった。
すると中には佑介と栞がいた。
「ゆうちゃ・・・・・」
声をかけて、わっと中に飛び込もうと思っていたのだが、何故か芙美にはそれが出来なかった。
佑介が栞を抱きしめていたから。
そして栞を見つめる佑介の表情はとても穏やかで優しく、愛しさにあふれていた。

・・・・・いつもなら気配(人に限らず)に敏感な佑介なのだが、この時芙美の気配には気がつかなかったようだった。


道場から飛び出した芙美は庭にある金木犀の木の下にうずくまっていた。
その金木犀の周りには満天星躑躅が植わっており、今は金木犀の甘いやわらかな香りが満ちていて、芙美のお気に入りの場所でもあった。
(ゆうちゃんとしおちゃん、おとうさんとおかあさんとおなじことしてた)
芙美の父親と母親---絋次と咲子はとても仲の良い夫婦で、娘の前で始終絋次は咲子にキスをしていた。
(・・・・おかあさん、まえにゆうちゃんとしおちゃんはこいびとどうしっていってた。こいびとだからするのかな)
佑介が大怪我を負って入院していた時、お見舞いにはやく行きたがっていた芙美をなだめるため、咲子がそう言ったのだ。
その時には3歳児の芙美には当然よく理解出来なかったのだが、先ほど見た佑介の表情はいつも自分にむけてくれるものとは全く違い、そして仲の良い自分の両親がしていることを佑介と栞のふたりはしていたのだ。
芙美にもそれがどういうことなのかわかってしまった。
「う・・・・ふえっ・・・」
大きな声で泣いては聞こえてしまう。
声をころし、嗚咽をこらえながら芙美は泣きだした。


(あれ・・・・?なにか聞こえる)
佑介とふたりで稽古をするために尚壽館へとやってきた航。
門から入って道場へとむかう道すがら、それはとてもか細くはあったけれども航の耳に入ってきた。
航は耳をすましながら、そのか細い音の方へ近づいていった。
(もしかして泣き声かな?)
そして。
「芙美ちゃん!」
満天星躑躅に隠れるよう、金木犀の木の下にうずくまって泣いているちっちゃな芙美を見つけたのだった。

「わたるおにいちゃん・・・・」
くりくりとした大きな瞳に涙をいっぱいためて航を見上げる芙美。
「どうしたの?こんなところで泣いて」
すっと航はしゃがみこんだ。
「・・・・・」
芙美は答えない。
「誰かにいじめられたかな」
やさしく尋ねる航に芙美はふるふると首を振る。
「じゃあ、どうしたの?」
「・・・・・・」
やはり無言だ。
「-----佑介はもう来てる?」
何気なく言った一言だったのだが、芙美の体がびくりと反応した。
(・・・・佑介が原因・・・・?)
まさかと思うが。
「う、うん。・・・・しおちゃんもいっしょに」
そうぽつりとつぶやく芙美の様子で、敏い航にはなんとなくだがどうして芙美が泣いているのかがわかってしまった。
(・・・・・・佑介にあんなに懐いているのは、幼いながらに『恋』をしているからだったんだ)
航が尚壽館での稽古を再開してからまだ数ヶ月しか経っていないが、芙美が佑介にとても懐いて慕っているのは誰の目にも明らかであった。
(でもなあ、当の佑介はきっとこの子の気持ちには全然気が付いていなくて、兄として慕われている程度としか思っていなさそうだな)
航はふうと溜息ひとつ。
そしてうずくまって泣いている芙美をひょいと抱き上げながら立ち上がり、視線を合わせた。
「・・・・・これから佑介と稽古をするんだけど、見に来るかい?」
「・・・・・」
「芙美ちゃんの大好きな“ゆうちゃん”をこてんぱんにしちゃうから、見物だと思うよ」
「・・・・・わたるおにいちゃん、ゆうちゃんよりつよいの・・・・?」
「多分ね。僕の方が佑介よりアタマがいいからさ」
にこりと航は芙美に笑いかけた。

「佑介、きたぞ~」
「あ、航・・・・・に、芙美ちゃん」
栞の姿はすでになかった。
芙美が航に抱っこされて道場に入ってきたので、佑介はちょっとびっくりしたようだ。
・・・・・そんなに航と親しかったかな、と。
とはいえ、芙美は人見知りもなく物怖じもしない性格の女の子ではあったが。
「そこで会ったからね。未来の『鬼姫』さまをお連れしたんだ」
航はさらりと言ってのける。
『鬼姫』とは芙美の祖母で佑介や航の剣道の師匠、真穂の現役時代の通り名だ。
真穂は着物の良く似合う瓜実顔の色白美人だが、ひとたび竹刀を手にするとその姿からは想像できないほど激しく鋭い攻めの剣道をするので、姫のような容姿に鬼神が宿るからと、『鬼姫』------『警視庁の鬼姫』と周囲のものから呼ばれていたのだった。
「・・・・芙美ちゃん、目が赤いよ?泣いてた?」
芙美の顔をじっと見て佑介は言う。
「うん。おっきなゴミがね、めにはいっちゃったの。だからいたくてなみだがでたの。でももうへいきだよ」
にこっと笑ってそう言う芙美。
そして芙美が降りるという仕草をしたので、航はそっと芙美を抱き下ろした。
芙美はとててと道場のはじの方へ行き、ちょこんと座った。
(なんて強い子なんだろう・・・・)
正直、航はそんなに芙美の事は知らない。
ただ明るくておしゃまで佑介を“ゆうちゃん”と呼び、慕っているという印象しかなかったのだ。
それが、今目の前にいる佑介が原因で泣いていたとはけして悟らせていないのだ。
わずか3歳の女の子が。
(まったく。鈍いにもほどがあるよ、佑介)
「わ、航?なんだか今日はこわいぞ;;」
知らず知らず佑介のことを航はにらみつけていたらしい。
「そうかな。気のせいだよ」
「・・・・・俺、なにかしたか?」
「別に」
(僕にはなにもしてないさ。・・・・・ほんっと、罪な男だよな)
いつもと違ってどこか素っ気ない航に、佑介は訝しげだ。
「航。言いたいことがあるならきちんと言ってくれよ」
航の態度がふに落ちない佑介。
「・・・・・にぶちん」
そんな佑介に航はぽつりとつぶやく。
「え?!なんだよ、それ」
面を喰らう佑介に、さらに航は言う。
「じゃあ、朴念仁だ」
「わたる~。何のことを言ってるんだよ。いいかげん、怒るぞ」
さすがに佑介も腹がたってきた。
「ふん。のぞむところだね。・・・・・そろそろやろうよ。無制限、ルール無用の稽古をさ」
挑発するかのように言う航。
「・・・・そこまで言うのなら、こっちもやってやるさ。覚悟しろよ」
航の真意はつきかねたが、ここまで言われては佑介も応じないわけにはいかなかった。


竹刀を構えた途端、航は腹の底から出したかのような大きな気声をあげ、打って出てきた。
いつもの航ならまずはこちらの出方を探るのに。
スピードのある攻めをする速攻型の佑介に対し、航はどちらかといえば応じ技から一瞬の隙をついて打って決めるタイプの剣道をするからだ。
今日の航は、鍔迫り合いになればすぐにそれを切って、息もつかせず佑介に対し打ちに行っていた。

バン!

航は思いっきり体当たりを佑介にくらわせた。
しばらくブランクのあった佑介は咄嗟に上手くそれをかわすことが出来ず、その場に座り込んでしまったのだった。

航は竹刀を構えてじっと佑介を見下ろしていた。佑介はそんな航をただ見上げている。
立ち上がろうと思えばすぐに立ち上がれたのだが、佑介は航の真意が掴めないままこれ以上立ち会いたくなかった。
(・・・・・俺に何が言いたいんだよ)
高校に入学して以来尚壽館から遠ざかっていた航がまた出入りするようになり、なかなか同じ高校生と稽古する機会のない佑介は、再会の嬉しさもあって積極的に航と稽古していたが、こんな航は初めてだった。
航と佑介の力はほぼ互角。
これまでだって何回も激しい稽古はしてきていたが、こんな容赦ない航は見たことがなかった。

「・・・・俺に言いたいことがあるんだろ、航」
言いながら立ち上がる佑介。面越しにじっと航を見据えている。
「あるよ」
佑介の視線を受け止め、航もまた佑介を見返す。
「はっきり言ってくれ」
(どこまでも本当に真っ直ぐなんだな)
航はふうと力を抜き、構えていた竹刀を下ろした。
「佑介はさ、幼い頃にいろいろ辛い目にあっているのに、ひねくれもしないですごく真っ直ぐで優しいよね。それに人の気持ちにも敏感で」
「航?」
「でも、自分にむけられるものに対しては信じられないくらい鈍感」
苦笑いをする航。
佑介はいまだ航の真意が掴めない。
「だけどそれは時にひどく残酷なことなんだよ、佑介。わからずにしている優しさが仇になる時だってあるんだ」
「・・・・・残酷って・・・・」
思いがけない言葉が出てきて戸惑う佑介。でも航の表情はとても優しかった。
「僕に言えるのは、ここまで。・・・・・でも僕もちょっと冷静さを欠いていたような気がするから、今日はもう終わりにしよう」
「あ、ああ」
「またあらためてやろうな」
そう言うと航はにこっと笑い、踵を返してすたすたと歩き出した。
そしてふたりのやり取りを見ていた芙美のところにきて、自分を見上げる芙美の頭をぽんぽんとかるくたたいて道場から出て行った。
「わたるおにいちゃん・・・・」

佑介はいまだ呆然と立ち尽くしていた。
『優しさが仇になる』
この言葉をどう受け取るべきなのか。
自分は優しくしているなどと特に意識して行動しているわけではない。
そうしたいと思っていることをしているのにすぎないのだ。

「ゆうちゃん」
「あ、芙美ちゃん」
自分を慕ってくれて懐いている、この妹のように可愛い芙美にも残酷なことをしてしまっているのだろうか。
大きな瞳で見上げてくる芙美。
「ゆうちゃん、だーいすき」
佑介の惑いを吹き飛ばすかのように、芙美はにこっと笑い、きゅっといつものように抱きつく。
「・・・・・汗臭くなっちゃうよ」
「ゆうちゃんだから、いいんだもん。・・・・・だいすき、ゆうちゃん」
「俺も芙美ちゃんが大好きだよ。・・・・・ありがとう」
芙美の『だいすき』という言葉が佑介を安心させてしまった。

・・・佑介が真実を知るのはまだ先になりそうだった。

2008.11.04 / Top↑
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