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今回のお話は「君を恋う」の少し前の話にあたります。季節は9月の終わりから10月はじめくらいでしょうか。(これからしばらく「学園祭は踊る」の合間をぬって更新する咲子や芙美たちの話はちょっとカレンダーとずれますことをご容赦くださりませ。・・・って、「学園祭」も一ヶ月以上ずれちゃってますけどね(^^;))

区民大会のあとに芙美は佑介くんの家に行きたいといい、約束をしました。
いろいろあって、やっと訪問です。何が起きますのやら。

ちょっと長くなってしまったので、前後編に分けました。
ではではつづきを読むからどうぞ。


ある晴れた秋の日。
佑介の怪我もすっかり回復し、いろいろなことで延びていた芙美の「ゆうちゃんちにいく」が果たされることとなった。

その約束は6月の区民大会の後、佑介が栞の父親・直哉との手合わせをした後の草壁家での夕食の場で決まったことだった。
だが、夏休み前に佑介が巳波香苗という女子学生から告白をされ-----それには当然丁重にお断りしているが------ただそのことがいいきっかけとなったのか、幼馴染の栞へ長い間ずっと秘めていた想いを告げることが出来、晴れて恋人同士になれた。
それで何事もなく済めばよかったが、栞の身にあることが起き無事に解決したはものの、夏休み前半はその出来事でつぶれたような感じになってしまった。
そして佑介は、それらの合間合間に部活の弓道と剣道の稽古(思いがけなく真穂の通う警視庁の道場で稽古することにもなってしまっていた)にも行っていたし、後半は今は神霊として佑介を護っている晴明の宿敵芦屋道満との闘いで相当の怪我を負い、入院を余儀なくされ新学期が始まっても退院出来ないほどだったのだ。
退院後は学校と病院へのリハビリ通いがあり、芙美も佑介が尚壽館へ剣道の稽古へ来ていないので、佑介の家へ行きたい気持ちはずっとあったのだが口には出さず我慢していた。
そんな佑介もやっとリハビリの回数が減り剣道の稽古を(無理しない程度に)再開してもよいとの許可も下りたので、久しぶりに尚壽館へ顔を出し、芙美に「もういつ来てもいいよ」と告げたのだった。
佑介にそう言われた芙美はさっそく母親の咲子に話し、咲子から佑介に土御門家の予定を聞き訪問する日を決めたのだった。


「このひとがゆうちゃんのおとうさん?」
「そうだよ」
佑介の父・祐孝の写真を見ながら芙美は横に座る佑介に問う。
母親の咲子と栞とともに「ゆうちゃんち」こと土御門家にやってきた芙美。
「ゆうちゃんのおとうさんにごあいさつするの」の言葉通りに、家の中へ入りまず一番に仏壇のある居間へと案内してもらい、咲子や栞とともに今は亡き祐孝に焼香を上げたのだった。
佑介が大人になったらこうなるであろうかと思わせる優しい笑顔で、写真の中の祐孝は笑っていた。
「ゆうちゃんとおなじえがお」
そう言ってにこっと笑う。
「うふふ、そうね。優しくて素敵な笑顔をよね」
咲子もにっこりと笑う。
「ほんとに佑くん、よく似てる・・・・」
栞はまじまじと写真を見つめている。
少年から青年へと近づき精悍さの増した今の佑介は、祐孝の面影を色濃く映していた。
「祐孝さんの方がこんなのより、数倍格好よかったわよ、栞ちゃん」
「かーさ~ん(--;)」
佑介を指差し、その佑介の母親で祐孝の妻の小都子は少しおどけながら栞に向かって言う。
「おばちゃん、ゆうちゃんはかっこいいよ」
芙美が小都子の服の袖をくいくいと引っ張った。
「そうかしらねえ。・・・・で、芙美ちゃん。佑のどこがかっこいいの?(笑)」
「ぜんぶだよ♪」
満面の笑みを浮かべ、即答する芙美。
「あらら~。もう栞ちゃんといい芙美ちゃんといい、ほんとにこんなののどこを気に入ってくれたのやら。佑にはもったいないわ」
「おばさま・・・・(^^;)」
「そりゃないだろ」
栞も佑介も苦笑いを浮かべている。
「小都子おばさんってば(笑)・・・佑介くんは十分『イイオトコ』に育ちつつありますよ。何といってもおばさんと祐孝おじさんの息子なんですから」
「それはそうなんだけど」
小都子のその一言に、みな一斉に笑い出した。


「ゆうちゃんのおへやどこ?」
焼香をすませ、ちょっとお茶でも・・・・と小都子が席をたち、栞もその手伝いに台所へついていった。
居間に残っている芙美はちゃっかりと佑介が胡坐をかいているところに座っており、佑介を見上げながらそう尋ねた。
(・・・・なんだか、親子みたいね)
咲子はふたりの様子に思わず微笑んでしまう。
「ん?2階だよ。上がってすぐの部屋だけど・・・・」
「ゆうちゃんのおへやみたいな、ふーちゃん」
じっと佑介を見つめる芙美。
「・・・・・面白くもなんともないよ(^^;)」
ちょっと困った表情の佑介。
「・・・・芙美に見られたらまずいものでもあるのかしら~(笑)」
「!咲子さんっ;;」
「まあ、健康な高校生男子ですものね。そりゃあ、いろいろと・・・・」
「さーきーこーさん(--;)」
「ふふふ。冗談、冗談(笑)」
真っ赤になっている佑介にくすくすと笑う咲子。
「ゆうちゃん、おかおまっかだよ?どうして?」
「な、なんでもないよ、芙美ちゃん;;」

咲子には一ヶ月以上前に起きた出来事が今は夢のように思えた。
佑介が大怪我を負って、意識不明の重体だと知らされた時の全身の血がすうっと引いていったあの感覚。電話で知らせてくれた母親の真穂が何を言っているのかわからなくなっていた。
もう二度とそんな思いはしたくないが、お見舞いに行ったとき「もっと自分を大事にしてほしい」と言った際に佑介は返事をしてくれなかった。
佑介が『事故』なんかで怪我を負ったわけじゃないことは重々承知している。
それゆえに佑介の持つ「力」は自分が思っている以上に強くて大変なもので、相当に重い「何か」を佑介は背負っているのだと思い知らされたのだった。

自分はそんな佑介に何をしてやれるのだろうか。
せめて、当たり前の高校生としてすごす日常を大事にしてあげたいと咲子は願うのだった。
今、自分の目の前で芙美と遊んでくれている佑介を見ながら。

「ゆうちゃんのおへやにいっちゃだめなの?」
大きな瞳を見開いて佑介を見る芙美。そんな芙美を見て。
「・・・・・いいよ。一緒に行こう」
佑介は根負けしたようだ。
「じゃ、わたしもついていこうかな(笑)うふふ、何が見つかるかしら♪」
「・・・・・何もありませんよ(^^;)」
佑介は台所にいる小都子に一声かけて、3人で2階へ上がっていった。


「ここだよ」
部屋の扉を開けて中へどうぞと誘導する。
「ゆうちゃんのおへや~♪」
芙美はきょろきょろと好奇心丸出しで部屋の中に入っていった。
「あら。もっと散らかっていると思ったのに(笑)」
「・・・・実は昨日掃除しました(^^;)」
苦笑いの佑介。
・・・・佑介の部屋は実にシンプルだった。
窓際に勉強机が置いてあり、壁際に沿って本棚がひとつと小さな箪笥が一棹。向かいにはベッドがあり、部屋の隅には剣道の防具や竹刀、弓袋に入った弓道の道具があるのみだ。
(あ、あの刺繍。弓袋にも縫い付けてあったのね)
咲子はある一点を見つめ、剣道の竹刀袋にも同じものが縫い付けたあったことを思い出した。

「じゃ、お邪魔虫は早めに退散するから、しーちゃんとゆっくりなさいね♪」
悪戯な表情で咲子は言うと。
「・・・・・いや、かあさんがいるし」
ぽつりと佑介が言った。
「佑介くん・・・・・?」
「あ、その/////;;」
自分の言ってしまったことにあせる佑介。思わず出てしまった本音らしい。
「ごめんね、佑介くん。ちょっとからかいすぎちゃったかな」
そんな佑介の様子を見て咲子は素直に謝る。
「・・・・いえ、本音なんで」
赤くなりながらもそう答える佑介に咲子は驚いた。。
「あら、ずいぶん正直ね。小都子おばさんはそんなにいろいろ言うの?」
「それはもう・・・・;;」
心配をかけてしまった分、いやそれ以上に栞に「想い」を返したい佑介は、少しでも一緒にいられるようあまり遅くない時間であれば、学校帰りに自宅に栞を連れてきていた。
母の小都子も交えて話をするのも楽しいが、やはりふたりでゆっくりしたいと思うのが正直なところ。そう思って自分の部屋へ連れて行こうとすれば何かしら小都子に言われからかわれてしまう。
・・・・栞は半分くらい意味がわかっていないのだが。
どこか公園など外で話をしてもいいのだろうが、それでは栞を抱きしめたりすることは出来ない。・・・・当然それ以上もだ。
「かなり長い間やきもきさせられちゃったのもあるのかもしれないわね、おばさんとしては」
「う;;」
「ほんとにさっさと言わなかったから(笑)」
「・・・・・・否定はしません;;」
「じゃ、しばらくは甘んじてなさい。それも『愛情』ゆえよ」
にっこりと笑う咲子。佑介ははあっと大きな溜息をついたのだった。

「ゆうちゃん、これなあに?」
弓袋を指差し芙美が問う。
「けんどうのしないをいれるふくろとおんなじおほしさまがあるよ」
咲子もさきほど見つけた弓袋だ。小都子のお手製で晴明の印ともいえる「五芒星」が刺繍で縫い付けられている。
「そうだね。・・・・あのね、それは弓道で使う弓が入っているんだよ」
「ゆみ・・・・?」
「そう。芙美ちゃんのお父さんとお母さんも使っていたよ」
言いながら弓袋に手をかける佑介。
「今は弦を張っていないけど・・・・」
と袋から弓を取り出し、軽く構えて見せる。
「こんな感じにね(笑)」
その様子を芙美はじっと見ていたが、何か不満そうだった。
「芙美ちゃん?」
「・・・・ゆうちゃんは、けんどうのほうがいい」
そう言ってぷいっと横を向いてしまった。
「佑介くんは全部格好いいんじゃないの?」
「ぜんぶだけど、けんどうのときがいちばんだもん。・・・・ふーちゃん、もうしたにいく」
ぷっと頬を膨らませながら芙美はすたすたと部屋から出て1階へと降りていってしまった。
「・・・・俺、なんかしましたか;;」
芙美の態度に戸惑う佑介。
「なにも(笑)大丈夫よ、ちょっとすねているだけだから。すぐに機嫌直るわ」
弓道をしている佑介は芙美にとって異質に思えたのだろう。
「そうですか。ならいいんですけど。・・・・・芙美ちゃんも下に行っちゃいましたし、俺はこれを片付けてから降りますから咲子さんも」
袋から出した弓を再び戻しながら佑介は咲子に言う。
咲子はすぐには動かず、少し逡巡してから口を開いた。
「・・・・実はね、わたしまた、剣道を始めようと思っているの」
「え・・・・?」
思いがけない言葉を聞き、驚く。
「あ、でもそれは・・・、真穂先生もおじさんも喜ぶんじゃないですか」
咲子はもともと中学3年生まで剣道を習っていた。
佑介が剣道を習い始めたのその頃、咲子は二段まで取得しており全中にも出場したほどの実力を備え、同年代の男子にも負けない程であった。そんな咲子に佑介は幼心に憧れていたものだった。
ただ、それから半年ほどで咲子は剣道をやめてしまったのだ。

「どうかしらね。ふたりとも佑介くんに今も昔も夢中だもの」
にっこりと笑う。
「そんなことないですよ」
佑介はどう返答すべきか悩んでしまう。
「ふふ、別にいいのよ。わたしももう思春期の女の子じゃないしね」
「?」
「------佑介くんの区民大会での試合を見ていたらね、無性に竹刀が握りたくなったの」
「・・・・・・」
「芙美の稽古の付き添いで毎週こっちに来ていたってそんな気持ちにはならなかったのにね」
ふと佑介は、咲子がどのようないきさつがあってやめてしまったのかを思った。時々それを示唆することを咲子は言うが、はっきりとはわからず仕舞でいた。
咲子はさらに続ける。
「・・・・父が佑介くんと手合わせしたくなったように、佑介くんの剣にはそれだけのものがあるの。周りを引き込むなにかが」
「そんな、すごいもんじゃないですよ。俺の剣道は」
「自分ではわからないものね。・・・・多分、佑介くんの性格から来るものだと思うし」
にこっと咲子は笑う。
「・・・・ところでね、わたしの剣道復帰はまだ内緒なの。こーさんにも言ってないしね。だからしーちゃんにも黙っていてね」
「わかりました」
そう返事はしたものの、何故咲子は自分にだけ先にこのことを告げたのだろうかという疑問が佑介の頭のなかでしばらくぐるぐるとしていた。

2008.11.26 Wed l 短編小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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