「ささやかな願い」、後編です。
シリアスとお笑いが混在しております(--;)

ちょっとここのところ、話のまとまりが悪いようです。
しかも尻切れとんぼ気味ですがお許しを。

ではではつづきをよむからどうぞ。


次の更新は「学園祭」です。
「・・・・佑介」
咲子が階下へ戻ると、すうっと晴明が現れた。
「何?晴明公」
晴明に視線を移す佑介。
「・・・・なかなか、胆力のある女人のようだな」
「咲子さんのこと?・・・・そうだね、すごく凛としてて強い人だよ」
そしてとても愛情深い。その「愛情」に救われたことは二度や三度じゃなかった。
「私をずっと不思議そうに見つめていたあの幼子にはかなりのお方がそばにいるようだ」
「芙美ちゃんのそばにって・・・・あ」
佑介は春休みの一件を思い出した。
自分はあの人形町の神社でちらっとその姿を見た程度だったが、芙美の口ぶりから察するに、その神社でひとりで遊んでいた時にかなりはっきりと見たようだったのだ。
「・・・・・ええと、俺もちらっとは見たんだけど、甲冑をつけた武将のことだよね?」
確認するようかのように佑介は晴明に尋ねる。
「ああ。・・・・かなり気に入られておるようだぞ、あの幼子を」
神に・・・・武将神に好かれた芙美。
母親の咲子の実家・草壁家は関ヶ原までは確実に遡れる武士の家系だ。代々卓越した剣士を輩出し、藩の剣術指南役に抜擢された者もいた。現在も曽祖父、祖父母、母とが剣の道に入り、芙美もまたその道を同じように歩み始めていた。
そして芙美本人はとても明るく素直で天心爛漫な子供だった。
「幼い子供は神に近い」というが、きっと神でさえ微笑まずにはいられないほどに芙美は好かれているのではないかとさえ思えた。
でも。
「晴明公。そんな神様にまで好かれる芙美ちゃんには、もしかして俺みたいな力があったりするのかな」
佑介は心配になる。
ちらりと咲子から聞いただけだが、すでに亡くなっている曾祖母は山陰地方の古い神社の神官の娘で多少の霊能力を持った巫女だったという。
母親の咲子も妹の栞にもまったくそのような力もなければ気配もない。芙美にだけなのだ。それゆえに不安がないわけではなかった。
「それはなさそうだな。・・・だが」
晴明の言葉に息を飲む。
「『見鬼』の能力は確実にある。それもかなり強く、な」
隠行の術で姿を隠していたハクの本来の姿を見た芙美。区民大会の時は龍の肩に乗っていたロンも見ている。そもそも晴明の姿でさえ芙美はかなり以前から見ていたのだ。
「そうなんだ。・・・・・いやなものを見ないといいな」
佑介はぽつりとつぶやく。
幼い頃から己のうちにあるこの能力のせいで見たくないものを多く見てきた佑介は、自分を慕い懐いてくれるかわいい妹のような芙美にそんな目にあってほしくなかった。
「・・・・護ってやりなさい。あの日誓ったように」
「晴明公・・・・」
道満の怨霊との死闘で負った怪我は佑介の意識を一週間近く奪い、母親の小都子をはじめかけがえのない恋人となった栞やその姉の咲子など周囲の多くの人々に心配をかけてしまった。
佑介とて自分にとって大事な人たちにそのような心配は当然かけたくないと思っているが、これからも自分のこの力を狙ってくるモノは後を絶たないはずだ。
だから誓ったのだ。
それらに立ち向かえるだけの護る力と剛き心を持とうと。
自分の力をきちんと見つめ、使いこなせるように。
「・・・・・そういう力の使い方もあるのだよ、佑介。そなたなら、きっと出来るはずだ」
晴明は優しく微笑んだ。


佑介もようよう下へと降りていった。
居間では咲子たちが持ってきたおもたせのお茶菓子をつまみつつ・・・・のティー・タイムならぬコーヒータイムになっていた。
佑介もブラックのコーヒーを淹れてもらう。
祖母の梅乃がいれば、日本茶で一服・・・・だったかもしれないが今日は友人と芝居見物に出かけいたのだった。

「そういえば、ずっと聞きたいと思っていたことがあったんだけど」
二杯目のコーヒーにはミルクを入れて飲んでいた咲子は、佑介に尋ねる。
「なんですか?」
「ん、あのね。竹刀袋のあの星みたいなのって何?・・・・・家紋じゃないものね。どこかで見た覚えはあるんだけど・・・・」
先ほど佑介の部屋でその竹刀袋を見つけ、以前芙美が「ゆうちゃんのしないぶくろにおほしさまがついてたの」って言っていたのを思い出したのだ。
最初は家紋かとも思ったのだが、土御門家の家紋は「揚羽蝶」なのを咲子は知っていた。
なので、だったらそれはなんだろうとずっと疑問に思っていたのである。
「あれは・・・・」
口を開きかけて、佑介はそこで止まってしまった。
咲子の様子から察するに、まったくあの星----『五芒星』が何を意味するのかわかっていないように思える。
・・・・・どこから話したらいいものか。

「咲ちゃん、『安倍晴明』って知ってる?」
栞はそう言うと佑介ににこっと笑いかけた。
佑介がどう話すべきか逡巡していたので・・・・佑介の力にもかかわってくることなので話しづらいのかも、とも思い、自分にまかせてほしいと姉の咲子に話しかけたのだった。
栞にそう言われた咲子は。
「・・・・・誰?(--;)」
まったくその名に聞き覚えがないというような反応であった。
「平安時代に活躍した歴史上の人物なんだけど・・・・」
咲子の反応が面白くて、ちょっと笑い混じりになってしまう。
「しーちゃん。わたしがあまり歴史に興味がむいてないの知ってるでしょ;;」
興味がむいていないのではなくて、本当は『苦手』なのである、咲子は。地理・倫社・政経ならお手の物なのに。
「意外ですね。おじさんも栞も歴史が大好きで、一緒に大河ドラマとか見ているって聞いてますよ(笑)」
思いがけず咲子の苦手分野を知り、佑介は苦笑いをしていた。
とはいえ晴明は確かに平安時代に活躍した人物だが、学校の日本史にはよほど教える教師がマニアックでなければ晴明こと『安倍晴明』のことは出てこないだろう。
だが今ではかなり落ち着いたものの、一時期「安倍晴明」はブームにすらなっていた。少しは名前くらい耳に入っていてもおかしくはなかったと思うのだが・・・・・。。
「・・・・もう、面白がって;;・・・・・・で、その『安倍晴明』って人が何なの?」
弱味を見せてしまったようで、咲子は居心地が悪った。
「ん、あのね。佑くんのおうちのご先祖様なの、その晴明さまが」
「え?」

それから栞は、ほぼまったく晴明について知識のない咲子に、根気よく説明していったのだった。
まずは、歴史的な事実に基づく晴明像から話を始めた。そこから「今昔物語」などに伝えられる伝承や伝説も話した。
さらには今苗字が『安倍』ではなくてどうして『土御門』なのかということもきちんと説明し、もちろんあの星『五芒星』のことも話したのだった。
日本史について大学受験に必要だった最低限の知識しか持っていない咲子には、そのほとんどが初めて聞くようなことばかりであった。
栞の説明はさすがに歴史が得意で「歴史研究部」に所属しているだけあり、よどみがなくわかりやすかった。
そして最後に、あくまで想像でしかないけれど、佑介の能力は『稀代の陰陽師』とまで言われた晴明の力が先祖返りとして現れ、その力があまりに強いために色々なことに巻き込まれてしまうのかも・・・・・と、表情を曇らせて栞は話し終えたのだった。

芙美の健やかな寝息が聞こえてきていた。
おやつを食べておなかがいっぱいになり眠くなってしまったようだ。
咲子の膝を枕にして寝ている芙美に小都子が膝掛け用の小さな毛布を持ってきてくれたのでそれをかけてやり、咲子はゆっくりと芙美の頭をなでていた。

「『土御門』ってめずらしい苗字だとはずっと思っていたんだけど、まさかそんなことがね・・・・」
ふうっと咲子は大きく息をはいた。
「でも『安倍晴明』が先祖だってわかったのはそんな前じゃないんですよ」
「そうね。おばあちゃんも特に何も言ってなかったし」
当の土御門家の佑介と小都子でさえ、知らずにいた事実だ。
祖父ではなく祖母の梅乃の実家が土御門家だが、明治には福井(応仁の乱の頃京から福井へ逃れたらしい)から東京へ出てきており、こちらの家には五芒星の入った小柄くらいしかそれらしいものは残っていないのだから。

「・・・・佑介くん」
「なんでしょう?」
佑介は咲子の強い意思のこもった瞳に見つめられ、戸惑いを隠せなかった。
「・・・・佑介くんは、本当に重いものを背負っているのね。幼い頃からずっと見てきたのに、わかっているようで全然わかっていなかったわ」
「咲子さん・・・・?」
「・・・・でもね、佑介くんはその能力以外は、極々普通の高校生の男の子なんだから。それを忘れないで。ご先祖さまがどれだけ偉大だろうとその力を受け継いでいようと、わたしにとっては大事な弟分でしかないの。・・・・だから、決して無茶はしないでほしい。・・・・・あんな思いはもうしたくないわ」
ゆっくりと佑介に言い聞かせるかのように語る。咲子の気持ちがひしひしと伝わってくる。
「それはわたしだけじゃない。おばさんもしーちゃんもみんなよ。・・・・・みんな佑介くんが大事なんだからね」
「咲子ちゃんたら・・・・・」
佑介が幼い頃は、妹の栞と一緒に面倒をみてきてくれていた咲子。佑介に心無い言葉を投げつけた人間に怯むことなく敢然と立ち向かい守ってくれ、嫁いでもなおこうやって心配してくれる。
幼馴染からようよう恋人となった栞も、ありのままの佑介を受け入れてくれた。
祐孝が亡くなってから草壁夫妻には随分と世話になったが、その娘達の愛情が嬉しくて、小都子は言葉を詰まらせていた。
佑介や栞も言葉なく黙ってしまった。

咲子は一度目を閉じ、ふたたび開くと。
「・・・・・前にも言ったけど、またこんな風に心配かけさせたらしーちゃんをお嫁にあげないからね」
今度はおどけた口調でこう言った。
「!咲子さんっ;;」
「咲ちゃん////」
佑介と栞のふたりは仲良く同時に赤くなった。
「あら、咲子ちゃん。それは困るわ」
「だって、わたしの大事なかわいいしーちゃんを泣かすようなオトコにはとてもお嫁に出せないもの」
「そんなことになったら佑をしばき倒すから大丈夫(笑)」
咲子と小都子は楽しそうだ。
「・・・・・もう、勝手言ってろよ;;」
しょせん、母と咲子に口で勝てるわけがなかった。


「そうだ、佑介くん」
「・・・・・なんですか」
結局、またさんざんからかわれてもはやあきらめの感のある佑介。
「何年後かわからないけど、その時は『咲子さん』じゃなくて『お義姉さん』って呼んでね」
「はい?」
何を突然言い出すのやら。
「だって、中学に上がるくらいまでは咲ちゃんとか咲姉って呼んでくれていたのに、いつの間にか『咲子さん』で丁寧口調になっちゃったんだもの。・・・・結構さみしかったんだから」
「それは・・・・・」
それは、咲子が結婚したからだ。それまで本当の姉同様と思い親しく接していたけれど、咲子は愛する男性のもとへ嫁ぎ新しい家族をもったのだから、線を引くべきだと考えたのだ。
でもまさかそんな風に感じていたとは佑介は思ってもみなかった。
「・・・・って、何の話をしてるんですか;;」
よくよく考えてみれば、咲子が言っていることは自分が栞と一緒になった時のことを指しているわけで。
「何の話も、いずれは本当に弟になるんだから、『おねえさん』じゃない」
今更何を言わんや。咲子は平然と言った。

「咲子さんっ」
「往生際が悪いわね」
「そーゆー問題じゃ;;」
「あら、なあに。不満でも?」
「そうじゃなくてですね」
「だって、しーちゃんお嫁にほしいでしょ?」
「う;;」
言葉を詰まらせる佑介。
「もう、正直なんだから」
くすくすと咲子は笑い出す。
「・・・・勘弁してくださいよ、ほんとに」

咲子と佑介のやり取りに栞はただただ頬を朱に染めていた。


・・・・こんなささいな日常がいとおしい。
これからもずっと、こんな風に過ごしていけたらと願うのだった。
2008.11.27 / Top↑
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