約一ヶ月ぶりの「学園祭は踊る」でございます(^^;)
昨日一度前半部のみをアップしたのですが、多少長めですが「第一章」全部アップすることにしました。
少しずつですが、いろいろ動き始めます。

つづきをよむからどうぞ。
日夏里と朝葉に案内されながら朱雀高校のメンバーは、中庭を通りぬけ(その際校舎内や中庭で模擬店の準備をしている生徒たちからの視線をずっと浴びていた)いくつかの校舎を結ぶ通路をくぐり、さほど広くはない校庭の左端に位置する弓道場へとたどり着いた。

(・・・・・?)
佑介はなんらかの気配を感じたのか、ふと振り返り、いま歩いて来た場所を見やった。
翠嵐はさすがに歴史が古いだけあって、校舎もそれなりに古い。
(悪いものじゃないようだが)
明治の頃、女官として皇后に仕え、皇女たちの教育掛もしていた女性が創立した学校である翠嵐は、校舎が建っているこの土地もそのかしこきあたりから下賜されたものだった。
それゆえかどうかはわからないが、戦前からの校舎が一棟のみ残っており、その校舎はたった今佑介たちがその入り口を掠めてきた『旧三館』のことであった。
佑介はその不思議な気配が気にはなるが、いますぐ何かが起きるわけではなさそうなのでひとまず頭に入れておいて、今はあえて無視しておくことに決めた。


「おう、着いたか」
「藤成先生!」
道場の出入り口には両校の顧問が立っており、にこやかに談笑をしていた。
朱雀高校の顧問藤成は、「引率なんかしなくたって、ちゃんと来られるだろう」と生徒達とは別行動で翠嵐に来ていたのだった。
「おはようございます」
「おはよう。・・・・なんだ、梁河。その不景気な顔は。女子校に来てそれはないだろうに(笑)」
挨拶に来た梁河のなんともいえない暗い表情に、藤成は苦笑交じりに答えた。
「・・・・・来たくなかったんですから」
「え?」
「あ、なんでもないです。梁河ちょっと朝から元気がないみたいで」
ぽつりとつぶやいた梁河を横目で見つつ、すかさず佑介がフォローを入れた。
「そうか。まあ、おまえは試合には出ないしな。とりあえず無理はするなよ」
そんな会話を交わしていると、翠嵐側の部長の吉田朔耶と副部長の小澄侑那子がこちらにやって来るのが見えた。梁河は情けないことに思わず朔耶から視線をはずしてしまったのだった。朔耶の表情が一瞬曇ったのを佑介は見逃さなかった。

「おはようございます。どうぞよろしくお願いしますね」
内心の動揺は押し隠して朔耶は梁河や佑介ににこやかに挨拶をした。
「こちらこそ。お手柔らかに頼みます。な、筒井」
「え、ええ。・・・・・よろしくお願いします」
梁河の態度がどうにもすっきりとしないので変わりに佑介が挨拶を返す。
女子の試合なので、今まではどちらかというと蚊帳の外のようになっていた衣里那も挨拶にくわわった。
「お互い、フェアに全力で。・・・・そして楽しみましょう」
衣里那に向かってにこりと笑う朔耶。同性であっても思わず見惚れてしまう笑顔だ。
(ホントにきれいな人だな、吉田さんって)
つい、まじまじと見てしまう。
「なにか、あります?」
「いえ、何も;;」
目の前の朔耶に見とれていた・・・・とはとても言えない。
「じゃあ、今日の試合について説明しますから、メンバーのみなさんを呼んでいただけますか?」
「わかりました。・・・・みんな来て」
衣里那のその言葉を機に佑介と梁河は後ろに下がったのだった。あくまで自分達は付き添いでしかないからだ。


試合についての説明及び設備についてなどの案内についての話が一通り終わったが、早めにこちらへ来てもらったがゆえに、試合開始時刻までまだかなりの時間があまった。
今ならまだ一般のお客も少ないし、割合ゆっくり展示が見られるので良ければ校内を見て回ってください、と翠嵐側の顧問の城東が告げた。
じゃあ、せっかくだから・・・・と朱雀メンバーがかたまって話しているところへ日夏里が近寄って来た。
「お話中、ごめんなさい。・・・あの、土御門さんちょっと」
佑介に声をかけた。
「橘さん。・・・・なにか?」
なんだろうといぶかしみつつ、輪から抜けて日夏里の傍に行く佑介。
「お願いがあるんです」
「?」
自分の肩よりもさらに背が低いであろう日夏里を見下ろし、佑介は一体なんだろうと思う。日夏里は大きな瞳で真っ直ぐに佑介を見上げていた。
(・・・・・・なんか、全てを見透かすような瞳だな)
こんなにも真っ直ぐに目をそらしもせずに、自分のことを見る少女はめずらしいと感じた。
「もしも、もしもこれから校内の展示を見に行かれるのなら、一番に写真部に行ってもらえませんか」
「・・・・写真部に?どうして?」
「理由(わけ)はあたしからは話せないんだけど、あたしの友人が写真部にいて・・・・えっと、晴田次子って言います・・・・そのつーさんが土御門さんに用事があって」
日夏里は真剣そのものだ。それにこんなにまっすぐに自分を見ているのだから、とても何かウラがあるとは思えなかった。
「・・・・写真部に行けばいいんだよね?」
「はい!ありがとう、土御門さん」
日夏里の顔がぱあっと明るくなった。

「梁河さん」
日夏里とすれ違いに、今度は侑那子が梁河に声をかける。朔耶は顧問の城東に呼ばれ、弓道場に行ってしまったようだ。
「なんでしょう?」
言いながら梁河が振り向いて見た侑那子の表情は、友好的とはとても言いがたいものだった。
一番最初の打ち合わせのときから侑那子は朔耶を一番に立てていて、ほとんど会話にくわわらなかった。
ゆえに梁河は侑那子と直接話をしたことがなく、どうしてこんな表情を向けられるのか皆目見当がつかなかった。
「・・・・気に病んでいるのは朔耶も一緒よ。君だけじゃないんだから。そこをちゃんとわかりなさいよ」
「!」
「朔耶があんなに気丈に振舞っているのに、それを。情けないと思わないの。・・・・ちゃんと覚悟を決めてほしいわ」
しっかりと視線を梁河にあわせ、きっぱりと言う。
「言いたいことは、それだけだから」
言うが、くるりと向きを変えすたすたと歩いて行ってしまった。

「・・・・これで態度改めなかったら、男じゃないよな、梁河」
そばで何とはなしにふたりの会話を耳にしてしまった佑介は、梁河の肩にぽんと手を置いた。
「佑介・・・・」
「おまえが吉田さんのことをどう思っているのかはわからないけど、彼女を無視するのはよくないと思う」
梁河の顔を覗き込む。
「・・・・無視するつもりなんかなかったさ。けどな・・・・・」
どういう態度を取ったらいいのかわからない。ただそれだけだったのだ。
でも今の侑那子の言葉に梁河は、がつんと一発頭を殴られたような衝撃を受けた。
自分のことしか考えていなかったと。
冷静に考えてみれば、女性である朔耶がああいう行動に出るには相当の勇気がいったことだろう。
「・・・・ガキだな、俺」
ぽつりと言う。
「梁河?」
「なんか自分のことでいっぱいいっぱいになっちゃっててさ。吉田さんの気持ちまで思い遣れていなかったよ」
「あのさ、試合開始まで吉田さんと校内を回ってみたらどうだ?」
「え?!・・・いや、それは勘弁してくれ。あんな美人と一緒になんてとても」
「何もふたりきりで回れなんて言ってないよ。・・・・せっかくだから案内してもらえばいいだろ?俺ら弓道部」
「あ、そういうことか」
露骨にほっとする梁河に苦笑を禁じえない佑介だった。

で、その提案を弓道部プラスアルファのメンバーに伝えると・・・・・・。

「佑先輩は草壁さんとふたりでまわったらどうですか?」
「そうそう。恋人同士なんですから」
と、佑介と栞は別行動を取れとすすめる。
「いや、校内のことよくわからないし、みんなで一緒に見て回ればいいじゃないか」
とりあえず、佑介は断る。
「何言ってるのよ、佑ちゃんは。あたし達、お邪魔虫になりたくないわよ」
自身の心を押し隠して衣里那がつとめて明るく言う。
「そうそう。せっかくなんだからさ」
少しからかい口調でそう言うのは和樹。
みなは佑介から二言三言言い返されると思っていたのだが。
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうな。・・・・行こうぜ、栞」
平然と言い放った。
「え、佑くん?ちょっと待って;;」
栞が目を白黒させているのも構わずに、佑介は栞の手をしっかりと握りすたすたと歩き出してしまった。
「・・・・最初から草壁とふたりで回るつもりだったんじゃ・・・・・(^^;)佑介って、ああいうヤツだったかな;;」
和樹がぼやく。
残された面々は、ただただ呆然とふたりを見送っていたのだった。
そして、佑介と栞以外のみなは朔耶と侑那子の案内で時間まで適当に回ることになったようなのだ。


「ゆ、佑くん;;」
「なに?」
佑介は先ほどの日夏里からの頼まれごとを果たすべく、教えられた写真部の展示場所である1ーE目指して歩いていた。
ずっと栞の手を握りながら。
栞は手を握られているのにくわえ、周囲からの視線も感じ、落ち着かなかった。
「あの人って・・・・」、「もしかして彼女?」などなどの囁きも耳に入ってきたりするのだ。

「手、はなして」
「どうして?」
「だって、みんな見てるよ////」
「別にかまわないだろ」
注目を浴びるだろう覚悟はして、ここ翠嵐に佑介はきた。
だがよけいなことでわずらわされたくないとは思っている。
妙な期待を持たせる気などまったくないし、そもそも自分には栞しか見えていない。栞だけがいてくれればいいのだ。
だから周りへの牽制の意もあって、栞の手を離す気持ちは佑介にはほぼ皆無だった。
まあ、やわらかな栞の手を握っていたい、というのが正直なところだったかもしれないが。
「でも;;」
栞はほんのり赤くなりながら、なおも言い募る。
「・・・・・仕方ないな。・・・じゃあ・・・・」
そう言って手をはなすかと思いきや、佑介は栞を自分のほうへぐいっと引っ張り、その反動でよろけた栞を受け止めて額にかるくキスをした。
きゃーだのいやーだのわきあがる声。
「ゆ、ゆ、ゆう、くん/////;;」
真っ赤になって佑介を見上げれば。
「これでここの生徒にも俺が栞のものだとわかるだろ?」
にこっと笑ってとんでもないことを告げられた。
さらに栞は赤くなったのだった。


1-Eの教室は、第4館の3階の一番端にあった。廊下側に『高校写真部』と書いた手作りのポスターが貼ってある。
「ここみたいだな」
佑介はそのポスターをまじまじと見ている。
一体、その晴田さんとやらは自分に何の用事があるんだろうか。思い当たる節がまるでなかった。
そして栞もまた、なぜ佑介が写真部にまずやってきたのかわかっていなかった。
とにかく中へ入ってみようと、教室内に足を踏み入れた。

一般客の入場時間は過ぎているが、10時前と言うこともあり中にはまだあまり人がいなかった。
「え、あれって・・・・・」
入ってすぐのところにイーゼルに載せてある写真パネル。
それは佑介の写真だったのだ。
手ぬぐいを巻き面をつける直前のほどよい緊張感を漂わせた、凛々しい表情の佑介だ。
よくよく展示してある写真を見回すと、他にも何枚か佑介の写真があり、どうやらそれらは区民大会の時のもののようだった。
「あれ、佑くんだよね?」
「あ、ああ・・・・」
どういうことだろう。佑介は戸惑いを隠せなかった。
そこへ。
「佑介!」
聞きなれた声がかかった。
声の方を振り向くと。
「航」
「航くん」
尚壽館に稽古に通う剣友の千葉 航が立っていたのだ。
「おはよう、佑介。・・・まさか本当に会えるとは思っていなかったよ」
そう言ってにこりと笑う。
「それは俺もだよ。・・・・あ、でも航の彼女はここの生徒さんだって言ってたよな」
夏休み前に航が久しぶりに尚壽館へ稽古にやってきて(中学までは頻繁に道場へ来ていたが、高校に入学してからは部活中心になり、ほとんど顔を出していなかったのだ)、佑介と手合わせをしたその後の徒然話の中で聞いたのだ。
「そう。一年生だよ。・・・・しかし、七海からちょっと聞いていたけどこんなに佑介の写真が展示してあるとは思わなかったな(笑)」
展示されている佑介の写真を見ながら言う航。
「それは俺の科白だよ;;」
もっともである。
「・・・・これ、区民大会だよね。写真部の誰かが撮影したんだろうけど」
栞も首をひねっている。
「航ちゃん」
控えめな声が聞こえた。
「あ、七海」
教室の左隅の暗幕の切れ目から、小柄で少し茶色がかったロングヘアのかわいらしい女生徒が出てきた。暗幕の中はどうやら部員の控え室になっているようだ。
その航から七海と呼ばれた少女は、佑介と栞に向かってかるく会釈をしたので、佑介たちも会釈を返した。
「佑介、栞ちゃん、紹介するよ。僕の大事な彼女の清水七海。・・・さっきあそこから出てきたからわかるだろうけど、写真部に入っててね。僕は午後から模試があるんで、一番に展示を見に来たんだ」
航に紹介されると、七海は「はじめまして」と言ってまたぺこりと頭を下げた。七海のほほは、航が「大事な」といった時に染まった、赤いままだった。
「はじめまして。航の友人の土御門佑介です。・・・・航にこんなかわいい彼女がいるとは思わなかったよ」
にこりと笑う佑介。隣の栞も。
「はじめまして。草壁栞です。・・・・航くんが稽古に来ている剣道場はあたしの家なんですよ」
にこっと微笑んだ。
「栞ちゃんは佑介の幼馴染で大切な彼女でもあるんだよ」
「航っ;;」
航がそう付け足すが、佑介は「彼女」とか「恋人」とかいう言葉にいまだ慣れない。もちろん、栞も。
「だって、事実じゃないか。ちゃんとそう紹介しなきゃ」
「いや、その;;」
「僕は七海が大切だし誰にも渡すつもりはないから、はっきり言うよ」
そう言って七海を引き寄せて後ろから抱え込んだ。
「わ、航ちゃん/////;;」
真っ赤になってあせる七海。航はまったく意に介さない。
「周りにちゃんと意思表示するのも大事なことだからさ。・・・・佑介も栞ちゃんのためを思うならきちんといいなよね」
言葉に出してはそうそう言ってないが、行動でなら思い当たることが多々ある佑介だ。
つい先ほどもそういうことをしたばかりだし。
でも思わず無言になる佑介だった。

「あ、あの土御門さん。まだお時間大丈夫ですか」
航の腕からなんとか逃れて、七海は頼まれごとを果たすべく佑介に聞いた。
そう言われ腕時計を見るが、まだ試合開始までは十分に時間があった。
それにそもそも日夏里に言われてここに来たのだ。約束はきちんと果たさないといけない。
「大丈夫だよ。・・・・あ、そうだ」
晴田さんっている?と続けようと思ったのだが、七海は大丈夫と言う佑介の返事を聞くと「ちょっと待っててください」と言い置いて、先ほどの暗幕の中に戻ってしまった。
程なくして、七海は眼鏡をかけた長身の人物と一緒に出てきた。
(もしかして・・・・・)
佑介は、今七海と出てきた女性(正直なところ、かなり中性的な印象を受ける)が日夏里の言っていた“晴田次子”だろうと直感した。

「・・・・・土御門さんですね。私は晴田と言います。わざわざご足労いただきましてありがとうございました」
外見の印象にたがわず、次子の声は女性にしてはやや低めのアルトの声をしていた。
「いえ、たいしたことじゃないですから・・・・」
「私は------あそこに展示してあるあなたの写真を撮影した者です」
佑介の前に立った次子はイーゼルに立てかけてあるパネル写真を指差して淡々とそう言った。
佑介を被写体にしたものは他にも4~5枚展示してあった。
「ご本人の許可も取らず無断で撮影し、さらには展示してしまって申し訳ありませんでした」
そこでぺこりと頭を下げた。
(・・・・真面目で不器用な人なのかな)
ふと佑介はそんなことを思う。
自分の写真が展示してあったことには当然すごく驚いた。
だが、どの写真からも佑介の剣道に対する思いを捉えたような、真剣で凛としたたたずまいのものばかりだったので、被写体に対する真摯な姿勢と撮影者の人柄が察せられるようであったのだ。
「・・・・・不愉快にお思いでしたら展示してあるの全て下げます」
佑介の沈黙を次子はどうやら否定の意に取ったようだ。
そんな次子を見て、佑介はにこっと笑い。
「そんなことないですよ。ちょっとびっくりしましたが、どれも自分とは思えないくらい、いい写真ばかりです。気にしないでください」
と言った。
「ほんとに、どれもとても素敵です」
栞もにっこりと笑う。
「・・・・・ありがとうございます」
佑介と栞のふたりにそう言われ、ほんのわずかではあるが、安心したかのように次子の表情が変化した。
「・・・・実は現像した写真はまだ数枚あります。うち2枚は写真雑誌の月毎コンテストに出品しました。・・・・あとのものはもう、ネガごとご本人に差し上げた方がいいだろうと思って、それでわざわざここまで来ていただいたんです。・・・・・私のつたない腕で撮った写真ですが、どうぞお持ちください」
そう言って、少し大きめの封筒を佑介に手渡した。
手渡された佑介は戸惑いつつも、とりあえずどんなものか見てみようと封を開けた。
最初に目に付いたのは小さな付箋のついた写真雑誌。ここにそのコンテストに出したという写真が載っているのかと思い、雑誌を出してその付箋のついた頁を開いた。
栞や航も覗き込む。
「これ・・・・」
「あ、ふーちゃん」
「へえ」
『入選』と書いてある欄に載っていた次子が撮った写真は、区民大会の表彰式の後佑介に祝福をしに来た芙美が、佑介の頬にキスをしていた写真だった。タイトルは「小さな勝利の女神」。
ちょっと驚いた表情の佑介とはにかみながらも満面の笑みでキスをしている芙美。なんとも微笑ましくて、見ている側も優しい気持ちになれるような写真だった。
「ふーちゃん、かわいい」
「おませさんだなあ。・・・・佑介モテモテだね(笑)」
「航~;;」
航のにやにや笑いに苦虫を噛み潰したような顔をする佑介。
「まだあるんだろ?出してみなよ」
航にそう言われ、さら封筒の中を探ってみると写真らしき形のものに手が触れたので、これかと思い取り出した。
よく見えるように手元を上げて、佑介は絶句してしまった。
それにはやはり芙美を抱っこした佑介と栞が写っていたのだが・・・・・・。
(俺、こんなカオしてるのか/////;;)
芙美が祝福をしてくれた後、栞もやってきて佑介に“おめでとう”と伝えたのだが、それまでのいろいろなことを思い出して栞はぽろぽろと泣き出してしまったのだ。
そんな栞を佑介が慰めている。
ただそれだけの写真なのだが、佑介の表情が、栞を愛おしむような包み込むようななんとも言えない優しいもので、相手に対する愛情があふれんばかりににじみ出ていたのだった。
(・・・・・咲子さんが言ってたことがやっとわかった;;)
咲子はなかなか栞に対する想いを告げなかった佑介に、よく「気持ちはもう“だだ漏れ”状態なんだから。わかってないのは当のしーちゃんくらいね」と言っていたのだ。こんな表情を栞に対してしていたのなら、周囲の人間にはバレバレだったのが今更ながらにわかってしまった。
はっとわれに返って栞と航を見ると両者ともにやはり赤面で、佑介はあわてて写真を仕舞った。
「あの、どうもありがとうございました。・・・・大事にします」
次子はただ黙ってそこに立っていたが、佑介にお礼を言われかすかに微笑んだ。
「土御門さん」
「?」
「・・・・かなり図々しいお願いだとはわかっているんですが。・・・・迷惑でなければこれからもあなたを撮らせていただいてよろしいですか?」
「え?俺をですか?」
「はい。・・・・・・迷惑でなければ、です」
真剣なまなざしの次子。彼女の本気な気持ちが十分に佑介に伝わってきた。だから。
「・・・・俺でなんかでよければ」
少し照れくさそうにこう答えたのだった。

少し展示室内がざわついてきたようだ。
『朱雀高校の土御門佑介』がここにいる、と伝わりつつあるらしい。その佑介の写真が展示してあるということも。
「・・・・そろそろ弓道場に戻った方がいいんじゃないか」
航が周囲のざわめきを気にしつつ言う。
「そうだな。・・・・橘さんから言われたことはこれで果たせたわけだし。・・・・あ」
「どうしたの、佑くん?」
何か思い出したようだ。
「晴田さん」
「なにか?」
「----その橘さんに、何か不測の事態が起きたらあなたを頼れと言われたんですが・・・・」
先ほど日夏里と話をした時、最後に日夏里にこそっとこう言われたのだ。
「言葉通りですよ。じゃあ、これで」
次子はにこりと笑い、用は済んだとばかりに暗幕の中へ戻っていってしまった。
(晴田さんが笑った)
次子は日夏里と一緒の時は別にして、普段はあまり感情を表に出さないほうだったので七海はちょっと驚いてしまった。
「言葉通りって言われてもなあ;;」
佑介にはわけがわからなかった。
そもそも“不測の事態”とはなんだ。
「頼れってことは、ここに来いってことなんじゃないか」
「まあ、そうとも取れるけど」
航の言にもいまいち釈然としない。
「-----あのですね、あの暗幕の中なんですが」
「七海?」
次子の言葉の足りない部分を七海は補っておこうと思った。
「部員の控え室というか休憩室みたいになっているんです。それできっと、土御門さんにはこの後もしかするといろいろ大変なことが起きるかもしれないから、そういう時のための避難場所にしていいですって晴田さんは言ってるんです」
(・・・・ほんとに不器用な人だな)
自分がしている気遣いを周りに知られるのが苦手なんだろうと佑介は悟った。
「でもそれじゃ、こちらに迷惑がかかるよ。他の部員もいるだろうし・・・・」
次子の好意は嬉しいが。
「大丈夫です。みんな他の展示を見に行っててここにはまず戻ってきませんから(^^;)晴田さんも弓道部の試合は見に行きますけど、あとは今回土御門さんの写真を展示したのでずっといるって言ってたので」
「そうは言っても・・・・・」
なおも言い募る佑介に。
「遠慮しないでください。・・・・なにかあったらいつでもどうぞ」
にこっと七海は笑った。
2008.12.05 / Top↑
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