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先に謝ります、今日も「学園祭」じゃありません(--;)
え~と、咲子の告白話です。
こーさんに剣道復帰するにあたって、どうしてやめたのか話しました。
その流れから、一生言うつもりになかったことを咲子は告白します。
結果・・・・・・・。

ものすご~く、甘ったるい話になりました(^^;)

覚悟してお読みください(笑)

ではではつづきをよむからどうぞ。




その日はめずらしく、絋次は定時で帰ってきた。
職場は江東区にあり人形町からは一度乗り換えなければいけないが、片道30分もかからない距離だった。
ゆえに7時前には帰途についていた。
祖母のやち代は「・・・・・なにかポカでもやらかして、クビだって言われたんじゃあないだろうね」などととんでもないことを言っていたが、普段は週末でなければ家族全員で食事をする機会がほとんどないので、内心は嬉しかったようだ。
娘の芙美も大喜びで、食事の後は絋次と一緒にお風呂に入り、お気に入りの絵本も読んでもらって眠りについたのだった。
絋次にとっても久しぶりにゆったりとした時間を過ごしていた。
子供が小さいから夜は遅くまで起きて待っていなくていいとは言っているが、やはり灯りの落とされた家に入るのはどこか寂しいものだった。
家族との語らいは、また明日への英気を養える。

やち代と史隆も休むというので絋次は2階に上がり、居間のソファでウィスキーを飲みながら、久しぶりの読書の時間を過ごしていた。
祖父の史隆が国文学を専門とした学者であるゆえか、祖父の書斎には数多くの本が壁一面の本棚に収まっていた。そして絋次は幼い頃からこの書斎が一番落ち着く場所だったようで、祖父が論文などを執筆している傍らで蔵書の数々を片っ端から読んでいったのだ。
高校生の頃には書斎の本はほぼ読みつくし、海外のペーパーバックに手を出していた。初めはもちろん辞書を片手にだったけれど。
そもそもは翻訳されているものを読んでいたのだが、同一シリーズでも翻訳者によって自分に合う文章合わない文章があり、どうにも違和感が拭えず、それなら自分で訳しながら読めばいいと思ったのだ。史隆は平安文学が専門だから原文テキストの本の方が断然多かった。それゆえ絋次も古典文学は原文で読んでいたから、海外物を翻訳するのも同じようなものだったらしい。
とはいえ今読んでいるのは海外物ではなく、日本の作家の書いた医療物ミステリだ。数多くのシリーズが出ていて、読み甲斐があるのが嬉しいようだ。

「こーさん、まだ起きてたの?」
「まだって、10時前だぞ。早く帰って来られたんだしな、ゆっくりしたいさ」
お風呂から上がってきた咲子は、居間でくつろぐ絋次を眼にして言った。
「あ、そうね。なんか時間の感覚がずれちゃって」
そっと苦笑する。
「いつもいつも遅いからな。・・・・悪いと思ってる」
「そんなことないわ、お仕事なんだし。むしろいつも先に寝ちゃってるわたしの方が・・・・」
読みかけの本を閉じ、絋次は咲子を静かに抱き寄せた。
「・・・・・家族がいるからがんばれるんだ。だから、そんな風に思わなくていい」
「こーさん・・・・」
自分を見上げる穏やかな瞳。
両手を咲子の頬の添え、そのまま引き寄せてそっとくちづけた。
かるくふれてはなれる。
ウィスキーの香りがほのかに残った。
「たまにはおまえも飲むか?」
「・・・・そうね」
咲子はそれなりにお酒は強い。たまに絋次が早く帰ってきたときくらいは晩酌につきあってもいいかと思ったのだが、絋次に言わなくてはいけないことがあると気が付いた。
絋次が今日のように早く帰ってこられる日は年に数回あるかないかであった。ましてや月のうち半分は海外出張に行ってしまう場合もある。
今日は話すいい機会だと思った。
・・・・また、剣道をやりたいということを。

「あのね、話があるんだけど・・・・」
「あらたまって、なんだ?・・・・・ふたりめでも出来たか」
何を言い出すのだろうと思いつつも、咲子の緊張をほぐすためか、絋次はそんなことを言う。
「もう。そうだったら嬉しいけど、ちがうの。・・・・実はね」


そう言って、咲子は絋次に剣道をまたはじめたいと告げた。
そして、どうしてやめたのかということも隠さずすべて話したのだった。


「・・・・・そうか。佑介くんは昔から才能のある子だったんだな。まあ、剣道をやめたわけはわかった。でもそれでなんで弓道を始めたんだ?」
話を聞き終えて、絋次は不思議そうに言った。弓道との接点がまったく見つからなかったからだ。
「それは・・・・・」
咲子はどきっとした。
絶対聞かれるだろうとは思っていたけれど、とうとうこの時が来てしまった。
本当は一生言うつもりがなかったのに。
絋次の弓を射るその凛とした美しいたたずまいに心惹かれて、自分も弓道をしたくなっただなんて。
-------つまりは、一目惚れしてしまったから、同じことをしたかったのだなんて。
出来れば黙っていたかった。

「どうした?」
絋次は咲子の顔を覗き込む。ほんのりとほほが赤い。
「そんなに言い辛いことなのか」
「そんなことは、ないわ。ただ・・・」
「ただ?」
いつも何事にもきっぱりはっきりという咲子がここまで言いよどむのはめずらしい。
「・・・・このことを告げるのに、わたしに勇気が足りないの」
そう言って目の前のソファに座っている絋次からすっと視線をはずす。
「どうして勇気が必要なんだ?言いたくなかったら無理に言わなくてもいいぞ」
右手で咲子の左手をぎゅっと握り、左手でそっとほほを優しく撫でた。
「ありがとう。でもここまできたら言わなきゃいけないわ」
「・・・・・・」
「ただこのことを言ってしまったら、わたしの負けな気がして・・・・」
「どうして?」
絋次には咲子がここまで言うのを躊躇うことがよくわからなかった。
それに「負け」とはいったいどういうことか。
「だって。・・・・だって、あの時、あの神社に足を踏み入れなかったら・・・・・」
「神社?」
「ばばさまにあんなこと言われてなければきっと迷わなかった」
「ばばさまって、深川か」
咲子の母・真穂の実家は深川にある老舗の呉服屋だ。女将は真穂の双子の姉・沙穂だが、その母の迪子は女将業から退いてはいるもののいまだ存在感十分だったし、茶道の教授として多くの弟子を育てていた。
絋次は咲子と結婚する前に一度顔を出しているが、同じ下町育ちの女性でも自分の祖母のやち代とはまったく違う人種なんだと感じたものだ。むしろ曾祖母の伊佐子の方が親しみがあって好感が持てた。
「お茶会で失敗して。それでなくても落ち込んでて。いつもなら通らない道を歩いていて・・・・」
咲子がその深川の祖母と折り合いが悪いのは以前から知っていた。
そのことで初めて自分の家に来た時、自分とやち代の口は悪いが言いたいことを言い合える関係がうらやましいと泣き出したのだ。
その時の咲子の涙が、それまでずっと気になっていた咲子に惚れる決定打にはなったのだが・・・・・。
「お囃子が聴こえてくるから行ってみたら、お祭りだったの」
・・・・「深川」で「神社」で「祭り」。
何かが引っかかる。
「わあって歓声が聴こえて・・・・。人の波をぬって中へ入っていくとそこには・・・・」
もしかして。
そう、もしかして。
「真っ白な着物と袴姿の人が弓を構え、すっと射ったの」
もう、間違えようがなかった。
「射た後の残心の姿も、下がっていく動作も全て美しかった。その落ち着いたたたずまいがとっても凛としていて素敵で。・・・・・わたしはそれで弓道をやってみたいって思ったの。自分も同じようになりたいと」
「それは・・・」
息をのむ絋次。
「わたしは。・・・・わたしは、その弓を射た人に捉われてしまったの」
咲子は言葉を継ぐが、どう考えてもその人物は咲子の目の前に座る自分しかありえなかった。
祖父の史隆の友人の神主に頼まれ、中学一年からその神社の神事で弓を射る役をやり続けていたのだ。
深川の、大通りから一本入ったちょっと奥まった場所に鎮座している神社で。
「そしていまでもそのひとにとらわれているわ」
「咲子」
それ以上言えなかった。
絋次は握っていた左手に力を込め、目の前で赤い顔をしてうつむいている咲子を座っている自分の方へ引っ張った。
倒れこんでくるやわらかなからだ。そのまま咲子を膝の上に抱き上げた。ぎゅっと抱きしめて離す。
左腕を咲子の背中にまわし、右手で頤をつかみ顔を上に向ける。
「・・・もう、何も言うな」
そう言うと、静かに唇を落としていった。


意地っ張りで気が強くて負けず嫌いで。
でも本当は情が深くてかわいい女。
好いてくれているとわかってはいたけれど、自分もまたどこか素直じゃなかったからずっと気持ちを告げられずにいた。
甘い関係じゃない、互いに言いたいことを言い合うそんなやり取りもまた楽しかった。
だが、その関係に甘んじていたら、今自分の腕の中で甘いくちづけに応える愛しい女は手に入らなかっただろう。

あの時。
泣かせてしまったことで理性の箍がはずされた。
息も出来ないほどの深いくちづけをし、想いを告げた。
受け入れてもらえた時の、あの喜びは一生忘れない。

あれから身も心もすべてをささげてくれて、そして自分を生涯の半身に選んでくれた。
それから幾夜過ごしたことか。

多くの愛の言葉を告げ、からだを重ね、互いの心を添わせてきた。
彼女は自分の半分も口に出してはくれないけれど、でも、こちらを見つめる瞳を見れば何もかもがわかった。自分の与える愛の動作に応えるからだがすべてを物語っていた。

「とらわれている」と彼女は言った。
最後まで、じぶんのことだとは言ってくれなかったが、意地っ張りやの妻が言える精一杯だったのだ。
なんて甘美な言葉だ。
自分こそが彼女にとらわれているというのに。


キスの雨を降らす。
額に、まぶたに、頬に。
そしてくちびるに。
とろとろと酔ってしまうような、優しくて甘いキス。
「こーさん?」
いつもとはちょっと違う砂糖菓子のようなキスにちょっと戸惑ってしまう咲子。
驚いた瞳で見上げれば、絋次の照れくさそうな微笑にぶつかった。
「・・・・とらわれているのは、俺だよ。・・・・・おまえのすべてにね」
またキスを落とす。
今度は少し深く。
でもいつものような、激しくすべてをむさぼるようなものではなかった。
じんわりとあたたかさが全身にしみわたっていくようなくちづけだった。

咲子を思いっきり抱きしめ、そっと耳元でささやいた。
「世界でたったひとりの、俺の半身。・・・・・愛しているよ」
2008.12.15 / Top↑
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