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久しぶりの「IF」シリーズです。
今回は翠嵐メンバーズのひとりが登場する、ちょっと番外編的なお話です。
ゆえに、翠嵐メンバーの未来が語られておりまする(^^;)
ちょっとネタばれ的なことも書いてあるし(一応ぼかしてはおりますが)、お蔵入りさせちゃうおうかとも思っていたのですが、今週はオフの方が忙しくてSSを書いている時間が取れないのと(3本くらい並行して書いているけど、まだ終わらない;;)、先に読んでもらった毬さんに「お蔵入りはもったいない」とおっしゃっていただいたので、思い切ってアップすることにしました。
10年後の未来のパラレルなお話、そういうのも読んでもいいよ、と思われた方はつづきをよむからどうぞ。
冬休み明けの始業式は体育館で行われる全校朝礼も兼ねていた。
担任を持つ教師達は受け持ちクラスの生徒達の一番後ろに立っているが、校長や教頭そしていろいろな報告ごとをする学年主任は、体育館内の壇上にいた。そのなかに見慣れぬ女性の教師がひとりいるようで、生徒達がわいわいがやがやとかまびすしかった。

「だれ?あれ?」
「今頃、赴任なんてありえる~?」
「飯島先生の代わりじゃないの。ほら、先生おなか大きいしさ」
「産休の代用教員?」
「そうそう」

(やれやれ。朝から一騒動だったな;;)
あちこち飛び交う憶測の会話を耳にしつつ、1-A担任の土御門佑介はわずかに苦笑する。
(それにしても、見覚えのある感じなんだけど・・・・)
壇上の新任教師を、受け持ちクラスの一番後ろから見ていた。
実は佑介、まだ壇上に立っている新任教師と顔を合わせていなかったりする。
受験勉強疲れなのか登校早々に貧血を起こした生徒がおり(名札で3年生とすぐにわかった)、たまたま近くを歩いていたのもあってその生徒を抱きかかえ保健室まで連れていったのだ。
一緒に登校していた友人らの話によると、、どうやら冬休み中の塾での模擬テストの成績がふるわず両親からはこのままでは不合格だとさんざんに怒られ、かなり情緒不安定になっていたらしい。目を覚まし養護教諭と佑介の顔を見た途端その生徒は泣き出し、気持ちが落ち着くまで傍についていてしばらく慰め励ましていたのだ。
養護教諭から、「佑介先生、全校朝礼始まっちゃいますよ」と言われ、あわてて教室へ行き生徒達を体育館へと誘導した。
それゆえに、職員室にも寄れなかったので(佑介が職員室に来なかった-----来られなかったのは、他の同僚教師がちゃんと説明してくれたらしい)その新任教師の紹介を先に聞くことが出来ないでいたのだ。


校長からの年始の挨拶に始まり、教頭や学年主任の報告と始業式はさくさくすすみ、生徒達の関心の的・新任教師の紹介となった。

「それでは、今年一年産休に入る飯島先生に代わりにきてくださった先生を紹介します。飯島先生と同じように一年生から三年生までの家庭科の授業を受け持ってくださる服部翔子先生です。・・・・・先生、どうぞ」
そう言って教頭は横へ避け、その新任教師・服部翔子を前に出るようすすめ、それからマイクを渡し自己紹介を促した。
服部翔子は教頭に軽く頭を下げ、そして生徒達に向かって一礼した。

(はっとり・しょうこ・・・・?名前に聞き覚えはないけど、でもどうも会った覚えが・・・・・・)
佑介はいまだ首をひねっている。

「はじめまして、矢の倉中学校のみなさん。先ほど教頭先生から紹介していただきました、家庭科担当の服部翔子です。・・・・・え~、小学二年生の息子と幼稚園年少の娘を持つ母親でもあります」
「ええ~」という生徒達の驚きの声。
そう、壇上の服部翔子はかなり若い。昨年四月に赴任してきた佑介とあまり年が変わらないように見える。そして、小柄だがショートカットが良く似合う快活な感じで「家庭科」よりは「体育」の方があいそうなイメージであった。
「その、『ええ~』はいい方にとっていいのかな?・・・・まあ、一年という短い間ではありますが、みなさんと仲良くやっていけたらと思ってますのでどうぞよろしくお願いいたします」
言い終えると、どうやら壇上の服部翔子は自分をじっと見ている佑介の視線に気が付いたようだ。目が合うとにっこりと笑った。
(え?俺のこと知ってる・・・・・)
そう、相手をよく知っているかのような微笑だ。
佑介の戸惑いをよそに、全校朝礼は終了したのだった。


「あらためて、みんなあけましておめでとう。朝はごめんな、ばたばたしちゃって」
クラスに戻り教壇の上に立って、佑介は生徒達に向かってまずは謝った。
「そんなことないよ、佑先生。それより倒れちゃった三年生の人は大丈夫なの?」
そう聞くのは、1-Aのクラス委員で実は佑介の姪っ子でもある星野芙美。小柄だが目がくりくりと大きく、明るくて元気いっぱいの女の子だ。
「ああ。今日はもう、帰らせたよ。受験生だしね」
「なら、良かった。・・・・あ、そういえば新任の服部先生、朝教室に来たんだよ」
「え?」
芙美がさらりと言った一言に、ますます戸惑いの気持ちが大きくなってしまった佑介。
「そうそう。土御門先生いますか~って」
「なんか、佑先生のこと知ってる口ぶりだったよね」
そんな佑介をよそに、生徒達は口々に続ける。
「・・・・俺のこと、なんか言ってたの?」
慎重に尋ねると。
「『高校以来だから、懐かしい』って。だからみんなで佑先生の知り合いなのかなあって話して」
「そうそう。『私のこと覚えてるかな(笑)』とも言ってたよね」
次々と生徒達はその『服部翔子』が言っていたことを話し出す。
「・・・・そうか。まあ、本人に会ってみればわかるかな(^^;)・・・・ということで、冬休みの課題提出な」
そんな生徒達の話を聞きつつも、ほっておくとこの話題でHRが終わってしまいそうなので、佑介はにっこり笑って切り返しを図ったのだった。
生徒達が一斉に「え~」とブーイングの声をあげたことはいうまでもなかった。


(・・・・しかし一体誰なんだろう?)
HRを終え、職員室へとむかう廊下を歩きながらふと佑介は考える。
帰り際に芙美が
「あたしを見て、『こんなに大きくなったんだ~!わたしも年を取るはずだよね』とも言ってたよ。あたしのことも知ってるということは、ホントにゆうちゃんのことをよく知ってる人だよね」
そんなこと言っていた。
芙美のことまで知っているとなると、確かにかなり近しい人物であったと言えた。
佑介は芙美がつい学校で“ゆうちゃん”と呼んでいたのを叱ることすら忘れて、芙美の言ったことを反芻していたのだった。

「ツチミカド先生」
なにやら聞き覚えのある呼ばれかただった。
どう想像しても漢字の「土御門」をイメージして呼んでいない、このアクセントのつけかた。
「ど~こ見てるかな?・・・・ま、相変わらずの長身だからねえ。あたしみたいにちっこいのは視界に入らないとか」
しかもなんだか、ものすごくくだけた口調(笑)
「でも、当時の恋人の草壁さんとあたし、そんなに変わらなかったと思うけど。・・・って仕方ないか。彼女とあたしじゃくらべもんになんないからね」
・・・・・栞のことも知ってる。
佑介はおそるおそる視線を少し下げた。
その視界の先にいた人物は。
「もしかして・・・・・町川さん・・・・・?」
「あたり(笑)・・・・旧姓町川翔子、今は結婚して服部翔子。久しぶりだね、ツチミカドさん!」
驚く佑介の顔をにんまりと見ながら、服部翔子は答えたのだった。


「んじゃ、再会を祝して乾杯!」
陽気に翔子がグラスをかかげた。
廊下で10年近くぶりの再会を果たした佑介と翔子は、互いの近況も知りたいということで、仕事帰りに佑介の行きつけのお店(正確には義兄の絋次の行きつけのお店なのだが)にやってきた。カウンターと座敷に机が三卓しかないこじんまりとしたお店だが、店主が吟味したお酒の数々と上手いつまみを食べさせてくれるところだ。
佑介は吟醸を冷やで翔子は芋焼酎の水割りにし、あといくつかのオススメのおつまみをまずは頼んだ。

互いが高校二年生のときに、知り合った。
初めは佑介も翔子も友人を通じての付き合いでしかなかったが(そもそも当時翔子は佑介に対してまったく関心を持っていなかったのだ)、あることがきっかけで交流が深まった。
・・・・・佑介という人物を翔子が見直したというべきか。
それでも、大学に入る頃には自然と付き合いはなくなり、そして今に至るというわけだ。

何杯かお酒も入ると(佑介はかなりお酒に強い方であったが、翔子もなかなかだった)、どこかぎこちなかった空気がゆるみ、やわらかくなってくる。
話す内容も、少しずつではあるがプライベートな方面に入りつつあった。

「ツチミカドさんは、指輪をしているから結婚してるんだよね。・・・・やっぱり草壁さんと?」
「めざいといね(^^;)・・・そう、栞とです(笑)そういう町・・・じゃない服部さんだって」
「やっぱり、草壁さんと?」と言われ、苦笑しながら佑介は答える。佑介が栞以外の女性と結婚する可能性はまったくないと思われていたようだ。
「ま、そういうとこに目が行くんです、女は(笑)・・・・あはは、大学二年のときに出来ちゃってさ。で、籍入れたってわけ。・・・・そちら子供は?」
尋ねた翔子もまた、苦笑いだ。
「出来ちゃった婚?!しかも大学の時って;;それで上の子がもう小学生なのか(^^;)・・・うちは3歳の息子がひとりいるよ」
「そーなのです(笑)・・・・でも義父母がすっごくいい人たちでね。『応援するから、ちゃんと大学を卒業して先生になるのよ』って言ってくれて。だから一年休学しただけで復学できて、無事こうして教師になれたわけ」
そう言ってにこっと笑った笑顔は幸せに満ちている。毎日忙しいながらも充実した日々を送っているのだろう。
「・・・・結婚前から居候させてもらって、そのままずっと。今日も子供たちを見てもらってるし、感謝してもしきれないくらいなんだわ」

大学に入ってから、翔子は家を出た。
弟の智志(さとし)が高校入学と同時に寮に入ってしまったのもあって、翔子はひとりで「あたたかさ」を失ってしまった家に帰ることに堪えられなかったのだ。
家を出て居候した先は、翔子の家がまだ酒屋を営んでいた頃のお得意さまで、幼い頃父親が配達する軽トラックに一緒に乗ってよく訪れていた家だった。息子はいたが娘のいないその夫婦は翔子のことをとてもかわいがってくれていて、翔子の両親が「変わって」しまってからも、翔子と智志のことをずっと心配していたのだ。
その居候先のひとり息子---貴明(たかあき)が翔子の夫となった人だ。5歳年上で、翔子のことを静かに見守ってくれていた。
家を出てから半年後、それまでほったらかしだった両親が、翔子にお見合いをさせるために連れ戻しにやって来て大喧嘩をし、「もうあなたたちを親とは思わない」と啖呵を切って翔子は両親に別れを告げた。
両親が立ち去った後、悲しくて悔しくてつらくて、翔子は泣いた。あとからあとから涙があふれ止まらず、気が付くと貴明がそっと抱きしめ背中をさすってくれていたのだった。
あたたかい腕の中。とげとげした気持ちがゆっくりと溶けていった。
この腕の中にいたい。
その翔子の想いが伝わったのか、貴明は「僕のお嫁さんになって、ずっとこの家にいてくれると嬉しいな。僕は翔子ちゃんが大好きだから」と優しいプロポーズをしたのだ。
これまで貴明はそのような素振りは一度も見せたことなかったし、翔子もまったく考えたことがなかったのに、今この腕の中にいる自分がとても自然に思えてすとんとそのプロポーズを受け入れた。
・・・・・とはいえ、本当は大学を卒業してから結婚する予定ではあったのだけれども。

「幸せなんだね」
「最高に。それはそちらも同じでしょ?」
「ああ・・・・」
返事をしながらふと佑介は、目の前の翔子が高校時代に仲良くしていた友人らのことを思い出した。
特に、ふたり。
最後に会ったのは、もう何年も前だ。
「ちなみに満実は3月にやっとゴールイン(笑)相手はツチミカドさん同様、高校時代から付き合ってきた彼氏と。紆余曲折あったけど、ほっとしたよ~(^^;)」
「・・・・・」
翔子の口から出たのは佑介が思い出したふたりではなかった。

満実こと伊山満実は一番理性的で落ち着いた印象を持っていた。
翔子と同じように翠嵐の付属大学の英文学科に進学し、卒業後は得意な英語を生かして外資系の企業に就職し、満実の彼氏である雪谷春彦は中堅商社に就職していた。
大学時代と違い互いに仕事が忙しく、会えない日々が続いているうちに何度も危機がおとずれたが、その度ごとに歩み寄り別れたりすることはなかった。
そんななか春彦に海外赴任の話が持ち上がった。赴任すれば最低3年は戻れないという。3年で戻ってきてもその頃はもう30になってしまう。働くことは嫌いではないが、出来れば30前に結婚して子供も生みたいと満実は思っていた。そしてその相手はやはり春彦がいいと。
が、肝心の春彦はなかなかプロポーズをしてこない。春彦は着実にキャリアを積みつつある満実に仕事を止めさせて自分についてきてほしいと言い出せなかった。満実の方はたとえ数年働けなくても、いずれまた落ち着いてから仕事をすればいいと考えていたのに。
お互いがお互いを思いやるゆえに、まとまるものもまとまらず・・・・・・。
結果、おせっかいをしたのはやはり高校の時と同じ春彦の妹の小夜子だったのだ。
小夜子にはっぱをかけられ、春彦は満実に「一緒についてきてほしい」と告げることが出来た。

「あのさあ、ツチミカドさんみたいにね、波風たたなく常にラブラブっていうカップルの方がはるかに少ないんだよ。わかってる?」
翔子はちょっとからみ口調で黙っていた佑介に向かって言う。
「・・・・そんなこと言われても(^^;)」
自分と栞はそうなんだから、仕方ない。「ラブラブ(爆)」かどうかは判断付かないが、波風は確かに立ったことはなかった。佑介は栞以外の女性には関心がまったく向かなかったし、栞も同じだったから。互いがかけがえのない存在で離れることなど露ほどにも考えたことがなかったのだから。
「ま、いいや。『仲良きことは美しき哉』だしね」
「・・・・・服部さん;;」
どこか一歩置いた感じはやはり変わらないようだ。
「このみ姫もいまは一児の母でね」
「へえ」
肌が透き通るように白く、漆黒の髪は長いストレートで日本人形のようであったこのみ。そんなこのみも母親となっていた。
「・・・・・実は押しかけ女房なんだよ」
「それはまた、意外だね」
佑介は少々驚いた。
「弟以外の家族に大反対されちゃったからね。相手をさ」
「涼原さんが選んだ男性なら、反対されるような人じゃないように思えるけど」
高校当時のこのみは男性に対してとてもクールであった。佑介に対してもかなり厳しい目で見ていたのだ。
「相手の森崎さんは包容力のある、男らしいいい人だよ。でも、ブンヤさんでとてもこのみ姫のおうちを継いでくれるような人じゃなかったから。年も15違うし」
「彼女の実家って・・・・?」
「ん?老舗の料亭。だからこのみ姫は高校生の頃からお見合いさせられてたよ」
「新聞記者じゃ確かに継いではくれなさそうだけど、高校生の時からお見合いって・・・・」
このみも目の前の翔子も自分が会って話をしていた頃はそういったつらい部分はいっさい見せず明るかった。
日夏里といい、つらさをけして表に見せない、みな芯の強いしっかりした女性ばかりなのだ。
「上手く逃れていたけどね。そんな時に森崎さんに出会ってさ・・・・・」

もう何回目になるのかわからないお見合いの席。懲りない祖父母と両親を相手にさすがにこのみもいいかげん疲れてきていた。
それでも親のいいなりには絶対なりたくなかった。自分には目指しているものがあるのだ。だからいつものように双子の弟の翼(つばさ)と旭(あさひ)に手伝ってもらってお見合いの席から抜け出そうとし、そこでばったり出会ったのが森崎だったのだ。
彼は利権がらみのネタを追いかけていて、さる政治家がここでその相手と会うというので張っていた。
高級料亭にはあまりにも不似合いなくたびれた格好に無精ひげだらけの顔の森崎。このみは不信感丸出しの表情で森崎を見つめるが、何故かそこから動けなかった。
はやく行かないと・・・・。そう思うのに足が動かない。「お嬢さま、どこですか」と自分を探す声にあせりもでる。どうしようかと思っていたこのみに、
「あんた、逃げ出してきた姫さんなのか」そう言って森崎はにかっと笑い、このみをひょいと肩に担ぎ上げてすたすたと歩き出した。
新聞記者で政財界の表裏の様々な部分を見ている森崎にはすぐ状況がどんなことか察せられたのだ。だから、とりあえずこれ以上騒ぎが起きると自分も困るのでこういう行動に出たのだった。
だが今までこんな扱いはうけたことのないこのみは内心大パニックだ。しかも自分はお見合い用の大振袖姿。「おろしてください」と何度も言うが森崎は聞かず、あげく「見合いの席はどこだ」と尋ねる。逃げ出そうとしているのがわかっているのに、何故連れ戻そうとするのか。このみは散々渋ったが、言わなければ落っことすと言われたので渋々話し、されるがまま元のお見合いをしていた部屋へ連れて行かれてしまった。
このみが戻ってきたのはいいが、担ぎ上げられている上に、その担いでいる男の出で立ちといったらひどいものだった。文句を言おうとしたこのみの両親に向かい森崎はこう言ったのだ。
「逃げ出すほどいやなことを親がさせてんじゃねえよ。親の勝手で子供の可能性をつぶすな」
絶句する祖父母や両親達。森崎はこのみをそこでようよう降ろし、呆然としているこのみに。
「・・・・・お姫さんもな、いやなことはいやだってはっきり言うんだぞ。そして自分がやりたいことは自分で掴め」
そしてまた、無精ひげだらけの顔でにかっと笑い、小さな声で「がんばれ」とささやいて言ってしまったのだ。
そう。自分は逃げ出すことばかり考えていた。言ってもわかってくれないから。
それでも大学だけはなんとか行かせてもらった。まだまだいくらでも可能性はあるのだ。あきらめてはいけなかったのだ。
このみにとって、エポック・メイキングな出来事だった。
そして、さわやかからは程遠かったけど、どこか人を安心させる笑顔が忘れられなかった。
もう、会うことはないだろうと諦めかけていた時に、ばったり出会ったのだ。このみは「運命」だと思った。
・・・・・年齢差と育った環境のあまりの違いを楯に、このみを追い払おうとした森崎だったが、このみの隠されていた火のような一途さに陥落させられてしまった。
このみが、トレードマークともいえた美しくて長い髪をばっさり切り、何もかも捨てて森崎の胸に飛び込んできたのだから。

「うちのもそうだけど、みんな芯が強い。しなやかな強さを持ってるよ」
みな自分の意思で自分の人生をしっかりと選び取り、何者にも媚びず生きている。
「当たりまえ!男だって、女が産むんだからね。女の方が強いの」
にこっと翔子は笑う。
そういえば義姉の咲子も同じようなことを言っていたなとふと佑介は思った。
「そうかもしれないな。・・・・男なんて、しょせん永遠に『マザコン』だし(^^;)」
「へえ。よくわかってるね、ツチミカドさんは」
「・・・・・肯定されると複雑なんだけど」
そこで、ふたりぷっと吹き出した。


「あ、もうこんな時間だな。そろそろお開きにしますか」
ふと見た腕時計の時間は午後10時を指していた。明日も仕事があるし、一緒に暮らしているとはいえ翔子は子供ふたりを義父母に預けている身だ。あまり遅くなっては困るだろう。
「そうだね。・・・・これからよろしく。『土御門先生』(笑)」
「こちらこそ、『服部先生』(笑)」
「あはは。・・・・さ、明日からがんばるぞ」
会計は、「こちらから誘ったから」と佑介がもった。翔子は素直に「ごちそうさま」と言い、先に店の外に出た。

一月の冴え渡った冷たい空気が、酔ったほほに心地よい。
会計を済ませ出てきた佑介に。
「・・・・あのね、日夏里もつーさんも元気だよ」
と、翔子は告げる。
このみや満実のように話題にあがらなかったふたりのこと。自分が気にしていたことに翔子は気が付いていたんだろうか。
「今は、一緒に暮らしてる」
「・・・・ふたりで?」
「もちろん(笑)・・・・だって先日会ったばかりだし。その時にツチミカドさんのことも話したよ」
「そう、だよな・・・・。ってどんなことを」
「え?産休の代理で赴任する学校に偶然ツチミカドさんがいたんだって。そしたら『私たちは元気にやってるから、安心して』と伝えてってね」
日夏里の天真爛漫な笑顔を思い出す。
つらいことがたくさんあっただろうに、彼女はいつも笑顔だった。そう、名前の通り「おひさま」のように。
今でもその「おひさま」の笑顔ではなれず傍らにいるのだろう。
「そうか・・・・。もしも会えるのなら、いつか会いたいよ。彼女達に」
「伝えておく、ふたりに」
翔子は優しい笑顔を佑介にむけた。


最寄り駅で翔子と別れ(路線がそれぞれ違うので)、電車に揺られながら佑介は、ふと佑介は考えた。
10年前の自分は、今の自分を想像できただろうか。
教師になりたいという漠然とした思いは抱いていて、現実に教職に付いたが、まさか姪っ子の担任になるとは思わなかったし、翔子と再会する(ましてや同僚になる)とは思ってもいなかった。
自分が教える生徒達も、同じようにこれから紡いでいく『未来』をしっかりと自分の手で掴んでいってほしいと佑介は願うのだった。



2009.01.19 / Top↑
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