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今回のアップは、星野家・過去編になります。
ちょっと(いやかなり;;)季節が合わないのですが、咲子がお嫁に行く、その日の様子です。
本当は「新婚さんに贈る七つのお題」のひとつのつもりで書いていたんですが、予定していたお題と内容が一致しなくて(爆)
なので、別タイトルをつけてアップすることに(^^;)
ひねりもなにもないタイトルです;;←も~、タイトルつけるの苦手(--;)

ちなみに今日で、当ブログは一年になりました。
SSを書き始めたのはもう少し早いのですが、ま、このブログの開設が23日なので(笑)
これからもきっと、ボンノーとモーソーの趣くままに、書きたいものを楽しく書く!という姿勢を貫いていくことと思います(爆)

ではではつづきをよむからどうぞ。



梅雨の明けかかった7月終わりの土曜日。
曇り空ではあるけれど、雨は幸いに降っておらずまたいつもよりは涼しいその日、草壁家は朝からぱたぱたと慌ただしかった。
何故かと言えば、この家の長女の咲子が同級生の星野絋次に嫁ぐ日であるからなのだ。

大学を卒業してまだ4ヶ月ほどのふたりは、「早すぎるのでは?」という周囲の声も承知の上で、新しい家庭を築こうと決意した。
社会人としても駆け出しの身だ。
そうであるから、身内のみのささやかな式でよいと決め、絋次の祖父史隆の友人が宮司を務める神社で執り行ってもらうことにしたのだった。
式の際の衣装も絋次の両親が着たものに決めた。咲子の母方の祖母迪子(みちこ)からは「呉服屋の孫娘が、花嫁衣裳を新調しないなんて」と言われたが、咲子は全く頓着しなかった。絋次の亡母葉月(はづき)の花嫁衣裳を絋次の祖母のやち代に見させてもらったときに、咲子は一目で気に入ってしまったのだから。
のしめの文様が艶やかに織りだされていた白無垢。凝った刺繍などはないけれど、シンプルですっきりとしていた。
咲子はその場で「わたし、この衣装を着てお嫁に来たいです」と言っていたのだった。
そして咲子が葉月の花嫁衣裳を着ることになったので、絋次も亡父の尚義(ひさよし)の黒紋付一式を着ることになったのだ。
ただ絋次の場合、尚義より背が高かったので袴だけは作り直さないといけなかったが。(長着も少々袖丈が短めではあった)

咲子は自宅ですべての支度を整えて式を行う神社に向かうことにしていた。
花嫁の髪型である「文金高島田」は咲子の髪の長さであればじゅうぶん地毛で結い上げられるので、やち代が懇意にしている美容師に(やち代は元芸妓なので、以前は日本髪を結っていた)、そして着付けの方は仲人を引き受けてくれた都竹夫妻の妻波瑠花(はるか)ができると言うのでお願いしたのだった。
波瑠花は咲子と絋次のことを高校時代から知っていた。(絋次のほうは中学からだが)それは夫の忍がふたりの弓道の師匠で、忍が自宅にふたりを連れてきたりしていたこともあったからだ。そのうえ偶然ではあったのだが、忍は今では絋次の勤務先の上司でもあったのだ。

咲子がそのように準備をしている間、母親の真穂は自身ともうひとりの娘栞の振袖の着付けをしていたのだった。

「はい、出来た」
「ありがとう、お母さん。・・・・咲ちゃんももう着付け終わったかな?」
13歳の少女らしいやわらかい色合いのピンク地に桜や菊に御所車といった古典柄の振袖を、金糸銀糸が織り込まれた帯でふくら雀に結んでいた。髪型は束髪くずし。大きなリボンがゆれている。清楚で可憐な栞にとてもよく似合っていた。
「どうかしらね」
そう言う真穂は花嫁の母らしい、落ち着いた柄ゆきの黒留袖姿だ。
「見に行ってみようよ。きっと、終わってるよ」
言うが早いか袂をひるがえして、栞は咲子が着付けている部屋へと向かった。


「咲ちゃん、入ってもいい?」
ふすまの外からそっと声をかける。
「しーちゃん?・・・・大丈夫よ。どうぞ」
咲子の返事を聞き、栞はそろそろとふすまをあけた。
「わ~咲ちゃん、すっごくきれい」
全ての支度を整え、部屋の真ん中に白無垢姿の咲子は座っていた。
もともと白く肌理細やかな肌が白粉とほんのりとはたかれた頬紅によってつやつやと輝いていた。唇の紅がさらに華を添えている。
綿帽子を被って、少し俯き加減の咲子は栞の姿を認め、にっこりと笑った。
「ありがとう。しーちゃんもその振袖よく似合っててかわいいわ」
「ホント?嬉しいな」
くるくるとまわり、花がほころぶように笑う栞。
「せっかくだから、佑介くんに見せに行って来たら?」
「佑くんに?」
「ええ。きっと驚くわよ」
栞の幼馴染の佑介は、咲子にとっても弟みたいな子だ。幼い頃から妹の栞とともに面倒をみていた。
今回の式にも佑介の母親の小都子や祖母の梅乃とともに参列してほしかったのだが、小都子から「身内ではないから」と言われ遠慮されてしまっていた。
「じゃあ、見せに行こう♪」
くるりときびすをかえすと、あとからやってきた真穂とぶつかりそうになる。
「どこに行くの、栞」
振袖を着ていても、おしとやかになるわけではなくぱたぱたとしている栞に、真穂は苦笑いだ。
「佑くんとこ。佑くんに見せてくるの」
「もうすぐ出かけるわよ」
「大丈夫。すぐそこだもん」
「仕方ないわね。汚さないように気をつけるのよ」
「はーい」
返事もそこそこに栞は玄関へと走っていってしまった。

「転ばなければいいけどねえ(^^;)」
栞の駆けていく後姿に溜息をつく真穂。
「大好きな佑介くんに見せに行くんだから大丈夫でしょ」
「だといいけど。・・・・・・綺麗に仕上げてもらったわね」
娘の晴れの日の姿に真穂は目を細めた。
「わたし自身と結髪をしてくれた美容師さんに着付けをしてくれた波瑠花さんの腕がいいからよ」
おどけながら言う咲子。咲子の着付けを終えた波瑠花は、隣室で自身も留袖に着替えている。
「あら、言うわね(笑)」
「今日は主役だもの(笑)」
ふたりしてくすくすと笑いあう。
「・・・・楽しそうだね、ふたりとも」
「お父さん」
「直哉さん」
開け放したふすまの入り口には、モーニング姿の父親の直哉が立っていた。
「・・・・ああ、綺麗だ。本当に」
直哉はまぶしそうに娘を見つめる。
「ありがとう、お父さん。・・・・・それに、いろいろわがままも聞いてくれて」
「いいんだよ。幸せになってくれれば、それでいいから」
まだまだ若いふたりだ。結婚はもう少し遅くてもいいのではないかと直哉は思っていた。
だが、娘の咲子から聞いた絋次の家庭環境や絋次自身をよくよく見てみれば、これも仕方のないことかと納得せざるを得なかった。

・・・・わずか二歳で両親を失った絋次。
父方の祖父母に育てられ、『花街』という特殊な環境のなか幼い頃から大人に囲まれたゆえか、どこか老成しているのだが時にひどく子供の面もあらわれ、心の奥に孤独と寂しさを抱えているのだ。
咲子は、そんな絋次に惜しみなく愛をそそいでいる。

直哉はふと、亡くなった母由利のことを思い出した。
由利は、山陰地方の由緒ある古社に奉仕する神官職の三古神(みこがみ)家の長女で、この三古神家には草壁家の5代前の先祖のひとりが養子に入っていたという縁で嫁いできたのだ。
からだが弱く儚げな女性であったが、草壁家に堅く封印されて伝わっていた妖刀にさえ。

『哀しいって、寂しいって、啼いているのよ』
『・・・・私が鞘になって、すべてを連れて行くわ。だから、私の棺に一緒にいれてね』

と、刀の持つ憎しみも哀しみもなにもかもを引き受けて、静かに息を引き取ったのだ。
芯の強い、愛情深い人だった。
そういう由利の面影は栞に色濃く出ているが、愛情深いところは咲子がより受け継いでいるようだった。

(かあさん。貴女の生涯はけして長いものではなかったけれど、その血はしっかりと娘達のなかで生きているんですね)

そっと横を向き、眼鏡をはずして潤む涙をぬぐった。
「直哉さん・・・・・」
めったに涙など見せない直哉を、真穂は心配そうに見ている。
「おめでたい日に、いけないね。・・・・咲子があまりに綺麗で輝いているから嬉しくて」
そう言って、はずした眼鏡をかけ直しにこりと笑う。
「そろそろ行かないとだろう?・・・・・・都竹さんに声をかけないと」
「そうね」
と、隣室へむかおうとする直哉と真穂に。
「お父さん、お母さん」
言いながら、咲子は座っていた椅子からおり、畳の上に正座した。
「咲子?」
ふたりの動きがとまる。
「今日、この日まで慈しみ育ててくださってありがとうございました。・・・・お父さんとお母さんの大きな愛に包まれて、とても幸せでした」
三つ指をついて、ふかぶかと頭をさげる咲子。
「・・・・やだ、この子ったら・・・・」
真穂の目に涙があふれる。
昨晩はいつものように過し、つい先ほどまで微塵にもこのような態度を咲子は出さなかった。お互いにどこか照れくさいし、あえて口に出さなくともしっかりと愛情は伝わっていたから。
「私達も幸せだったよ。・・・・・これからはその愛を絋次くんとふたりで育んでいきなさい」
涙ぐむ真穂の肩に手をまわし、直哉は優しい微笑みを咲子にむけたのだった。


隣室のふすまのところで様子をうかがっていた波瑠花が、「そろそろ行かないと」と声をかけた。
ここ、芝から式をあげる深川の神社まではたいした距離ではないが、あちらで待つ花婿を待たせるわけにはいかないので(口うるさい、真穂の母迪子もいる)、出発することにした。

「栞を呼びにいかなきゃね」
門の前に止まっている車のところで真穂は土御門家のある方向を眺めた。
すると、佑介に手をひかれ連れられて来る栞の姿を認めた。
「間に合って、よかった」
「今、呼びに行こうと思っていたのよ。・・・・佑介くん、ありがとうね」
真穂にそう言われ、佑介は握っていた栞の手をぱっと離した。
「いえ。・・・・遅れちゃうと困るだろうから」
どこか照れたようにぼそぼそという佑介。
「佑介くん」
「!」
呼ばれた方に顔を向ければ、きらきらと輝くような笑みを浮かべた咲子と出会う。
色白で瓜実顔をした美しい真穂に似て咲子もとても綺麗な女性なのだが、今日の咲子はその名の通り、盛りと咲き誇る花々のように美しかった。
だから佑介は、瞬間言葉が出なかった。
「しーちゃんをお願いね。・・・・・それと、なにがあってもわたしはずっと佑介くんの味方よ。それを忘れないで」
「咲ちゃん・・・・」
人とは違う、特殊な能力を持つがゆえに家族と草壁家の人々にしか心を開けない佑介。
心無い言葉を浴びせられたとき、そばにいた咲子は幾度となく佑介をかばい、救ってくれたものだった。-------実の姉のように。
・・・・そんな咲子が、嫁ぐのだ。
「小都子おばさんと梅乃おばあちゃんを守ってあげるのよ。・・・・男の子なんだからね」
「はい」
「ん、よろしい(笑)」
にこっと最後に佑介に微笑みかけ、咲子は波瑠花に手をとられながら車にゆっくりと乗り込んだ。
咲子が乗ったのを確認して、もう一台の車の方にも直哉や真穂に栞、いつの間にか出てきていた祖父の綱寛が乗り込む。
ふと見ると栞が車の中から手招きをしているので佑介は車に近寄った。すると窓が静かに開いた。
「佑くん、ホントに来ないの?」
「・・・・行かないよ。俺は身内じゃないから。ここで見送る」
かわいらしく小首をかしげ問いかける栞に、佑介はきっぱりと告げる。
・・・・本当は、ここに来るつもりもなかったのだ。栞がしきりに「咲ちゃん、すっごく綺麗だから見てあげて」と言い、手を引っ張ったからだ。
つかまれた手も離せなかったから。
「じゃあ、あとで写真見てね。いっぱい撮ってくる」
佑介の決意の固さが栞にも伝わったのだろう。
「ありがとうな。・・・・・もう、行かないとだろ?」
「うん。・・・・あとでね、佑くん」
開いた時と同じように、また静かに窓が閉まる。
閉まったのを確認して佑介は車から離れた。
佑介がたたずみ見守る中、二台の車は滑るように動き出した。


(咲ちゃん、ありがとう。・・・・・・幸せに)

車が見えなくなるまで、佑介はそこに立っていたのだった。
2009.01.23
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