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都竹に佑介が弓道の披露をしたその日。
帰り際に、絋次の上司でもある都竹がこう告げた。
「あ、星野くん。来月のオーストラリアへの出張は1ヶ月半ほど行って貰いますよ。なので、ホテルじゃなくて現場の宿舎に泊まってもらいますからそのつもりで」
何もこんな時に言わなくても・・・・・と絋次は内心思っていた。明日どうせ会社で会うのだから。

絋次は営業職とは言っても「海外営業」が専門で、英語に長けていることもあり(流暢ではないが、中国語と仏語と独語も話せる)、月のうち必ず一度はどこかしらの国に出張していた。
ただそれらの出張は、大概は長くても1、2週間程度で済んでおり、今回のような1ヶ月以上という長期は初めてであった。(5年くらい前に半年間海外赴任したことはあったが)

翌日、仕事から帰ってきて絋次が妻の咲子に告げた出張に出発する日は2月15日。・・・・そうバレンタインデーの翌日だった。
絋次は「1ヶ月半も一人寝か。たまらんな;;」とぼやき、今から充電しておこうとばかりに咲子を求めた。
咲子とて、そんなに長く絋次が不在なのは当然寂しいのであるが、どうにも意地っ張りな面が邪魔をして、素直に「寂しい」と言えなかったりする。
言葉で言えないのなら、せめて態度で・・・・とそれもなかなか出来ない咲子だ。
なにか伝えられる方法はないものか、と思いついたのがバレンタインだった。

『恋人』として付き合い始めてからずっと、バレンタインにはチョコレート(プラスα)を渡している咲子だが、実は手作りのものは過去に一度しかない。
料理の腕は素人はだしな咲子もお菓子作りはからっきしで、その過去に一度作ったチョコもレシピ通りに作ったのに、出来上がったものはなかなか歯がたたないかたいチョコだった。とてもこんなのは渡せないと結局は市販のものを渡して、その時はそれでおさまったのだが、後日母親の真穂の口から絋次にそのかたい手作りチョコの存在がばれてしまったのだ。
咲子の部屋の机の上にぽつんと置かれたそのチョコをそっと持ち帰り、絋次はしっかりと食べた。愛する恋人ががんばって作ったものなのだから、多少のかたさなどたいした苦ではなかった。

・・・・この時以来、一度も作っていない。
だからこそ、とことん意地っ張りで素直に「寂しい」と言えない自分の、精一杯の想いを伝える手段として、苦手な手作りのものを渡そうと思ったのだった。。



バレンタインはから数えて3日前の日の今日は祝日であった。
でも、夫の絋次は長期出張に備えて色々準備やら引継ぎやらがあるらしく、祝日など関係なく仕事に行っていた。このことが事前にわかっていたので、咲子は妹の栞を人形町の自宅へ呼んだ。
栞はお菓子作りが上手であるし、きっと恋人の佑介に手作りのチョコレートを渡すであろうから、だったら一緒に作りながら教われば失敗はしないであろうと考えたのだ。


「咲ちゃんてば、今年はどんな心境の変化なの?お菓子作りは苦手だからしないっていつも言ってるのに」
咲子はラム酒の入った「トリュフ・チョコ」を、栞は甘さ控えめの「玄米フレークチョコチップクッキー」を作る予定だ。
「え、別に。・・・・なんとなくよ;;」
材料のチョコレートや、ボウル・泡だて器などをダイニングテーブルの上に揃え、準備する。
「・・・・絋次お義兄さんが、出張に行っちゃうのと関係あったりとか(笑)」
義兄の絋次がよく出張に出かけているのは栞も承知しているし、ましてや今回の出張は常より長期だということを絋次の上司の都竹は、栞や佑介の前で話していたのだ。
「・・・・・ありません;;」
咲子の顔はどこか赤い。
「そうかなあ」
くすくすと栞はどこか楽しそうだ。
姉の咲子が意地っ張りな性格であることはよくわかっている。口に出していえない分、『想い』をチョコに込めて渡したいのだろう。
10歳も年上で、何かと佑介とのことをからかう姉ではあるが、こんなところはとてもかわいらしいのだ。
(絋次お義兄さんが咲ちゃんのことをつついちゃう気持ち、なんとなくわかるな)
ほんのりと頬を染めている咲子を見ながら、栞はふと思ったのだった。


「・・・そんなことより、その後佑介くんと進展はあったの?」
細かく刻んだチョコレートの入ったボウルに、鍋で沸騰直前まで温めた生クリームを一気に注ぎ、泡立て器で混ぜ合わながら咲子は言う。チョコレートが完全に溶けてなめらかなクリーム状になるまで混ぜるのだ。
「進展ってなんの?」
咲子に次の作業を指示しながら、栞は自分の方の手順をすすめている。
実はこちらに来る前に下準備は済ませてきており、あとはクッキー地を厚さ5ミリ程度でたい平らに延ばして型抜きをし、その型抜きしたものに用意してきたビターテイストのチョコレートをトッピングして、オープンで20分焼くだけなのであった。
お菓子作りが苦手な咲子が失敗なく作ることが出来るよう、教えられるようにと思ってのことだった。
なのに。
「佑介くんとの、エトセトラ(笑)」
とにこっと鮮やかに笑いながら言われ、栞は手に持っていたトッピング用のチョコレートの入れ物を落としそうになった。
「や、やだ、咲ちゃんてば;;・・・・な、なにもないよ」
あわてて、その入れ物に手を添える。
「ホントに?」
咲子はボウルの中のクリーム状になったものにラム酒を加えて混ぜ合わせていた。時々かき混ぜながらそのまま涼しい所に置いて冷やすのだ。
「ホントだってば/////;;」
真っ赤になりながらも、的確に咲子に指示を出したりしているところはなかなかかもしれない(笑)
「見上げた理性と自制心よねえ。・・・・・大阪でのことといい」
大阪への一泊旅行のあと、咲子は栞からいろいろと聞き出していた。

・・・・・近頃すっかり佑介がかわいくてたまらない絋次からのとんでもないプレゼントや大阪の知人毬からの心遣い(?)などなど、いろんなことが重なって、流石の佑介もぷつっと理性の箍がはずれそうになったようなのだが、栞の様子を見てなんとか踏みとどまっていたのだ。
栞を大切に、大事に思っているからこそだ。
そのことは、姉としてそして「女性」という立場から考えてもすごく嬉しかった。
世にそこで踏みとどまれない男性は多々おり、無理矢理に・・・・・という結果、こころもからだも傷つく女性は多いからだ。

栞は真っ赤になって黙ってしまった。
「・・・・・前にも言ったけど、自然とそうなっていくから。わたしもそうだったしね」
「え・・・?」
ふと視線をあげれば、やさしく微笑む咲子の顔があった。
「今のこーさんを見てるとちょっと想像しづらいんだけど(笑)、多分私が言わなかったら、こーさんはずっと待っていてくれてたと思うわ」
「・・・・私がって、咲ちゃんから、その、言ったの・・・・・?」
瞳が見開く栞。
「そうよ。・・・・もっとこーさんにふれたかったから。そして私にふれてほしかったから。だから、自然と言葉が出ていたの」
「・・・・だって、でも」
「もちろん、すごく恥ずかしかったけど、でも言ったことは後悔しなかったわよ。・・・・そうなれたことは、嬉しかったから。とてもね」
姉の顔はどこか誇らしげだ。
「・・・・・そばにいたい、ふれたい。ぬくもりを確かめあいたい。みんな自然なことよ。想いあうふたりが、たがいに求め合うことは、あたりまえのことだから」
「・・・・・」

大阪で佑介に頬や額、腕などをやさしくふれられているうちに芽生えていた想い。
-------『ふれたい』という・・・・・。
そして、もっと佑介にふれてほしいという想い。
その想いがいきつくさきはひとつしかない。

「・・・・だから、しーちゃんが心から佑介くんと結ばれたいと思ったら素直にその気持ちにまかせなさいな」
「咲ちゃん・・・・・」
「わたしは『高校生だから』なんて野暮なことは言わないわ。・・・・求め合うのにそんなの関係ないもの。・・・・ただ」
「ただ?」
「責任はちゃんと持つことね。何かあって泣くのは女の子だし」
「・・・・・」
「あ、でも佑介くんは大丈夫よ。こーさんが教育してたから(笑)」
そこで、ちょっと苦笑する咲子。
「?/////」
栞にはなんのことかわからない。
「ふふ。いずれわかるわ。・・・・・・・さて、これからどう作るのかな。教えてね」
姉の謎の言葉に疑問符を頭に浮かべつつも、栞は止まっていた作業を再開し、咲子にも先の手順をうながしたのだった。


栞の作るクッキーはもうすぐ焼きあがりそうだ。咲子の方も最後の作業である。
湯せんで溶かしたチョコレートでコーティングしたガナッシュを、バットに入れたココアの中で転がして、表面にココアをまぶしつけるのだ。
バットを持ち、右へ左へと中のガナッシュを転がす咲子。
「もう、いいかな」
この転がす作業は、どこか肉団子を作る作業に似ている。丸めた肉団子に片栗粉をまぶす時は同じようにするから。
なので、頃合は計りやすいようであった。
「うん、そうだね。・・・・・とってもおいしそう。味見してもいい?」
いいながら、なるべく小さめのをひとつ摘まんだ。
「どうぞ。・・・・・遠慮なく感想を言ってね」
栞が教えてくれたのだから大丈夫とは思うものの、内心はどきどきな咲子だ。
「・・・・どう?」
おそるおそる尋ねる。
「・・・・・合格。とってもおいしいよ」
にこっと笑う栞。咲子はふーっと息を吐いた。
「よかった。・・・・・ありがとね、しーちゃん」
「どういたしまして。・・・・あ、でもこれ結構ラム酒きついね(笑)」
「だって、こーさんにあげるんだもの;;」
「おおじいちゃまにはあげないの?(笑)」
「やち代さんがあげるでしょ」
そこへ。
「あたしがなんだって」
曾孫の芙美を抱っこしながら、当のやち代が入ってきた。
「なんでもないわ、やち代さん。・・・・芙美を見てくれてありがとう」
「うそおつき。あたしゃ、そんなもんにのせられやしないんだよ」
ふんとうそぶくやち代。咲子と栞は顔を見合わせくすりと笑った。
「おかあさん、おいしくできた?」
首をちょっとかたむけて芙美はきく。
「出来たわよ。しーちゃんが合格点くれるくらいにね」
「じゃあ、おとうさんおおよろこびだね」
「芙美・・・・・;;」
無邪気に芙美にそう言われ、咲子はなんと答えたらいいものやら。
追い討ちをかけるようにやち代が。
「ま、絋次を喜ばせてやるのは構わないけどね。飛行機の時間にだけは遅れないようにおしよ」
にっとチェシャ猫のように笑う。
「やち代さんっ!/////;;」
途端、咲子は真っ赤になった。
1ヶ月半も咲子にふれられない絋次が、出発前夜に何もしないで寝てしまうわけがない(爆)そして、一度でコトが済むはずもなく・・・・・。
果たして、結果はいかに。

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姉妹の会話・パートⅡでございます。(Ⅰは、佑介くんの告白後のSS「新しいスタート」
Ⅰの時よりはもうちょっといろいろつっこんだ話をしておりますねえ(^^;)
佑介くんと栞ちゃん、どう進展していくんでしょ(爆)

咲子とこーさんは、まあ、ご想像通りです(大爆)

2009.02.11 Wed l 短編小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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