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本日の更新は、 「元気の素は・・・」で話しておりました、日夏里とつの字が都の練習先であるスケートリンクに遊びに行くお話です。
都が栞ちゃんと小学校の同級生だったということで、その栞ちゃんと恋人の佑介くんも誘われてます。

今回の話は、これから先に起こることの「前兆」ともいうべき話です。
本来なら「学園祭は踊る」シリーズをきちんと終わらせてから書きたかったのですが、どうにも「学園祭」の方の文章が降ってこなくて(話の流れというか、プロットは出来ているんです;;)書けずにおります。
「学園祭」を書き終えるのを待っていたら、ちょっといろいろ支障がでてしまうので、強引だとは重々承知の上で『こと』を起こすことにしました。

「学園祭は踊る」は時間がかかってもきちんと完結させますので、気長にお待ちいただければと思います。

それでは、つづきをよむからどうぞ。



「あ、ここここ。神宮外苑アリーナ」


2月のとある日曜日。
フィギュアスケートの選手である徳成 都に誘われて、同じ学校の友人の橘日夏里と晴田次子、そして小学校時代からの友人の草壁栞とその恋人の土御門佑介は、都が練習するホームリンクにスケートをしにやってきた。

日夏里や次子と栞や佑介はすでに面識がある。
栞と佑介は翠嵐の学園祭に来ているし(日夏里の所属する弓道部が佑介たち、朱雀高校の弓道部と対抗試合をしたから)、日夏里と次子は自分達の学園祭の二週間後にあった朱雀の文化祭に遊びに行っており、日夏里はその文化祭で佑介に「視て」もらってもいた。
その後は共通の友人、都を通じて互いの動向はそれなりに耳に入っていたりしたのだった。


入り口から中に入ると、受付ロビーにはすでに都がいた。
「みんな、いらっしゃい♪あたしの貸切時間を使うから、思いっきり滑れるよ」
すでに練習着を着て、スケート靴も履いている都。エッジが傷むので、当然エッジカバーはちゃんとつけている。
「貸切時間って、貴重な練習時間なのに;;大丈夫なの?」
他の3人よりはフィギュアにくわしい日夏里が心配する。
昨今のフィギュアスケートブームもあって、リンクでの練習時間が連盟の強化選手であっても確保するのが厳しいと耳にしているからだ。
「心配してくれてありがとね。でも大丈夫。高校選手権で優勝したからコーチのご褒美なんだ」
そう言ってにこっと笑う。
先月の18日から22日まで広島で行われた、フィギュアスケートの高校選手権。都は見事女子シングルで優勝を飾ったのだ。
「しばらくは試合もないし、だから平気。それにせっかく来てもらったんだもの。みんなにゆっくりと滑ってほしいしね。・・・・・滑れない人は手取り足取り教えるよ(笑)」
月末から今月初めにかけての冬季国体も終わっており(都は東京都代表で出場)、世界ジュニアの代表には選ばれていないので(補欠ではあるが)当分はオフなのであった。
「国体でも大活躍だったし、都ちゃんすごいね♪」
日夏里の母親すみれがフィギュアスケートの大ァンで試合やアイスショーに足を運ぶ傍ら、ネットでしっかりと選手達の情報も掴んでおり、自然娘の日夏里も様々な情報が耳に入っていた。今日ここへ来ることを話したときも、都のコーチがすみれが若い頃に大好きだった選手なので「お母さんも連れて行って!」とちょっとした騒ぎだったのだ(笑)。もちろん、ふたりの息子に止められたことは言うまでもない。
「国体は男子もがんばってくれたから。でもありがとね。・・・・・で、滑れない人は?」
照れまじりに答える都。
「ん~と、つーさんが滑ったことないって言ってるけど、草壁さんや土御門さんは滑れるの?」
栞や佑介の方を見て尋ねる。
「あたしは小学校の頃、よく都ちゃんと滑りに来てたから多分今でも滑れると思うな」
日夏里の視線を受け止め、にこっと笑って答える栞。
「あ、そっか。草壁さんは都ちゃんと同じ小学校だったんだもんね。じゃあ、土御門さんもそうなのかな」
他意なく日夏里は聞いたのだが。
「・・・・・俺は行ってないから、初めてだよ」
そう言う佑介の表情は、ほんの一瞬だけ曇った。
自身の力が上手くコントロール出来なかった小学生の頃は、家族と草壁家の人たちにしか佑介は心を開いていなかった。
人の多い場所へ行けば否応無しに様々な感情や思惑が飛び込んできた。頭に直接入ってくるから、耳をふさいでも意味がなかく、ゆえにこの頃の佑介は極端に人交わりを嫌っていたのだ。
「そっか。普通、小学生の男の子はあんまりスケートなんてしないよね。ほかに面白いことあるもん。・・・・つーさんと同じ初心者だけど、土御門さんは運動得意だろうしきっとすぐ滑れるようになるよ。草壁さんってかわいいコーチもいるしね♪」
そう言ってにこっとおひさまのように笑う。
「橘さんたら////;;」
栞はほんのり赤くなった。

(・・・・・橘さん、きみって子は・・・・)
佑介は少々驚きを持って、日夏里をまじまじと見た。
日夏里は佑介の一瞬の表情の変化を見逃していなかったのだ。きっと佑介にとってあまり語りたくない部分なのだろうとすぐさま察した。
翠嵐の学園祭の時に日夏里(と次子)は佑介の特殊な能力のことを知ることとなったが、その後まったくこのことにはふれていない。日夏里も次子もたがいの胸に秘め、黙っていた。
日夏里は相手の感情の機微に実に敏い。ふれられたくない部分にはけっして踏み入らないのだ。

「・・・・・私は別に滑らなくてもいいんだけどね」
それまで黙っていた次子がぽつりと言う。
「写真撮りたいのわかるけど、少しは滑ろうよ。せっかく来たんだもん」
日夏里には次子が今日ここにやってきたのはスケートをするよりも、また佑介の写真が撮れるからだと承知の上ではある。先ほども会って早々に、文化祭の時に撮った写真を今度はきちんとアルバムに入れて渡していたのだ。
「そうそう。ちょっとは滑ってほしいな、晴田さんにも。あ、でもついででいいからあたしの写真も撮ってくれる?スパイラルのポーズとかどんな感じなのか知りたいし」
「それは構わないけど、徳成さんはいつもきれいなポーズをしているよ」
「え?」
「指先まできちんと神経が行き届いてて、でもそれでいてしなやかさも失ってないから、どのポージングでもきれいだし。すごく撮り甲斐があると思う」
写真のこととなると普段より饒舌になる次子はさらりと言ってのける。言われた都は思わず顔が赤くなってしまった。
「あ、ありがとね////;;」
次子のこういう面が、下級生達にひそかに人気がある所以なのかも・・・・と都は思った。


バッグなどの手荷物を預け、それぞれに自分にあったサイズのスケート靴を貸りてから簡単な準備運動をして、それからスケート靴を履きいよいよリンクへと向かう。
「ゆっくりでいいからね」
すでにリンクに降りている都が声をかけた。初心者の佑介と次子は後の方がいいだろうと経験者の栞と日夏里が先にリンクに降りることにした。
「わ、今年初滑りだ♪」
言いながらリンクに降りるなり、すいすいと軽やかにすべりだす日夏里。
ただ前に滑るだけではなく、バッククロスもひょうたんすべりも簡単にやってのけた。そんな日夏里を見て。
「日夏里ちゃん、スケートしによく行くって聞いてたけど、何歳くらいから滑りに来てたの?」
かなりの驚きをもって都は尋ねた。
「う~ん、3歳くらいからかなあ?お母さんが冬になると連れていってくれて。小学生のときはスケート教室にもちょこっと通ってたし、『もっと本格的にやってみませんか?』とも言われたよ」
言いながら、ハーフジャンプひとつ。
「ホントに?日夏里ちゃんが通っていたリンク横浜だよね。あそこは有力選手たくさんいるし、そこのコーチにそう言われたってことは将来性ありってお墨付きもらったようなものなのに、なんでやらなかったの」
「あはは、ありがと。あたしもやりたいなとは思ったけど、いろいろとね。・・・・でも、今こうやって都ちゃんとお友達になって一緒に滑れるだけですっごく嬉しいよ。全日本5位の選手と滑ることが出来る機会なんて、めったにないことだもん♪」
にっこり笑う日夏里。
「もう、日夏里ちゃんてば」
思わずぎゅっと抱きしめてしまう都。
「都ちゃん?」
「ホント、素直で真っ直ぐだね。・・・翔ちゃんや涼原さんが日夏里ちゃんをかわいがる気持ち、よくわかっちゃった」
都はにっこり笑った。

「橘さんのあとだと、気が引けるかも;;」
栞もゆっくりとリンクに降りる。久しぶりのすーっと足元が滑る感覚。
「そんなことないってば。・・・・ね、ちょっとふたりで滑ってみようよ。それぞれの連れをコーチする前に(笑)」
栞のそばに来て、手を取り笑う。真っ直ぐなその笑顔に栞もつられ。
「あは、そうだね」
そろってふたりでゆっくりと周回し始めた。
「もう、勝手に決めちゃって。日夏里ちゃんたら」
苦笑しながら都も滑っていき、ふたりが周回する輪に加わったのだった。


まだ、リンク外にいる佑介と次子。
(・・・・晴田さん、やけに痩せたような)
少し離れたところに立つ次子を見て、佑介はふと思った。
どちらかというとボーイッシュで中性的な次子の服装は、自分とさしてかわらない。チャコールグレイのダッフルコートにジーンズというスタイルだ。
・・・・そのダッフルコートの上からですら、次子の細さは感じ取れ、リンクにいる日夏里を見つめる横顔は・・・・かなり青白かった。
学園祭で初めて会った時もスレンダーな印象は受けていたが、今の次子は『スレンダー』を通り越しているように思う。
(食べることすらままならないほど、悩んでしまっているんだろうか)
日夏里を「視た」ときに視えてしまったこと。
大学までは一緒にいられると、同じ学校に通えると信じている日夏里。
でも次子は、日夏里たちと同じ翠嵐の付属大学に進学するつもりはまったくないのだ。
日夏里から「学部は違うけど、大学も一緒だね」と言われるたびに、自分はそうじゃないことをつげるべきだと思うのだが、日夏里のなにもかもを射抜くような真っ直ぐな瞳で見つめられると、もう言葉が出てこなくなってしまう。
この次子の葛藤までが、佑介には視えてしまったのだ。
そして、それ以外のことまでも。
・・・・それは、日夏里と次子の絆がそれだけ強いということなんだろうと思わされた。


「さ、からだもあったまったことだし、そろそろ初心者レッスン始めますか(笑)」
都は時々スパイラルやステップなどを織り交ぜながら、日夏里と栞の前を滑っていた。
「そうだね。もっと都ちゃんのスケートを見ていたいけど」
と栞が言うと。
「あとで、ゆっくり見せてもらおうよ♪」
日夏里がにっこりと提案。
「それ、いいかも(^^)」
栞も同意する。
「また、勝手に決めて~(笑)」
すっかり意気投合しているふたりに都は苦笑するしかない。
「え。だめなの?」
残念そうな表情で都を見る日夏里。そんな日夏里に都は。
「そんなわけないよ。自分の演技を見たいって思われるのすごく嬉しいもの。ありがとね」


いよいよ初心者のふたり----佑介と次子が滑ることとなった。
「まずは滑ろうと思わずに、氷の上を歩くつもりでね。肩幅より少し開いて」
言いながら都が手本を示す。おそるおそる、そしてゆっくりと佑介はリンクに降りた。
「力、抜いてね。佑くん」
「そうそう。力むと転ぶから」
栞と日夏里も声をかける。
まずはリンクのフェンスに掴まり、都に教えられたとおりに一歩二歩とスケート靴を持ち上げて歩こうとするのだが・・・・。
(思っていたより重いんだな、スケート靴って;;こんなの履いてジャンプしたり片足で滑ったりしてるんだからなあ・・・・)
思わずまじまじと都を見てしまう。
スケート靴は片足だけで1.5kgの重さがあるのだ。
「転びそうになったら、もう、思いっきりね(笑)下手にかばおうとすると逆に怪我するよ」
都にそう言われるが。
「・・・・・;;」
滑ろうと思わず・・・・と言われても、勝手につーと滑り出す足元をどうすればいいのか。足の指に力をいれてコントロールすればいいのか。
そんなことを考えていたが、スケートのブレードは容赦なく氷の上を滑り・・・・・・・。

「いってえ~;;」
思いっきり派手に転んだ。
「佑くん、大丈夫;;」
あわてて栞が滑り寄る。
「・・・・・大丈夫、といいたいけど、痛いな;;」
少し顔を顰める佑介。そしてなんとか立とうと試みるがどうにも上手くいかない。
「少し横向きになって、それから立ち上がるといいよ」
日夏里も滑ってきて、立つのに苦労している佑介にアドバイスをする。言われた通りにしてみると、確かに割合ラクに立てたのだった。
「ありがとう。橘さん」
「どういたしまして♪・・・・・って、あ~。つーさん何撮ってんの」
ふとまだリンクの外にいる次子を見れば、愛用の小型カメラをしっかりと構えていたのだ。
「・・・・めったに見られそうにないものをね(笑)」
と、次子は笑いまじりに答える。
「ひどいな、晴田さん」
立ち上がった佑介は苦笑いだ。
「つーさんてば、悪趣味」
「・・・・・人聞きの悪い。シャッター・チャンスはのがさないだけだよ」
佑介の横をすりぬけて、日夏里は次子のもとへと滑って行く。
「土御門さん、草壁さんの前でコケてばつが悪いのに、そんな尻餅ついたのを撮ったのが悪趣味じゃないなら、なんなの?つーさん」
「・・・・・日夏里のほうが、ひどいこと言ってるんじゃないか;;」
「え?そうかな。・・・・・あれ、つーさん。スケート靴脱いじゃったの?」
フェンスの上に腕をのせてもたれかかった日夏里が、なんとはなしに視線を下に向け、向けた先に入った視界。先ほど確かに一緒にスケート靴を履いた筈なのに、今の次子の足元は元々履いてきていたスニーカーに戻っていたのだ。
「------私は滑るより、やっぱり写真を撮る方がむいてるからね」
日夏里の視線を感じて次子がそう言えば、日夏里はそんな次子をただただじっと見ている。
(・・・・やせちゃったつーさん。・・・・・本当はスケートする元気なんてないのかな・・・・)
年が明けてから休みや遅刻が多く、学校に来てもぐったりとしている様子を考えれば、有り得ないことではない。
本当はここに来ることさえ、しんどかったのではないだろうか。
「・・・・つーさん、今日、来ない方が良かった・・・・?」
青白い次子の顔色。休みの今日はゆっくり休養させた方が良かったのではないか。
日夏里の大きな瞳に不安の色が宿る。
自分を見上げる日夏里の大きな瞳。真っ直ぐで、けしてそらされない瞳。
次子はカメラを持っていない左手を少しあげ、逡巡した後、日夏里の頭を2,3回ぽんぽんとかるくたたいた。
「ばかだな。約束は守るよ。・・・・それに日夏里が滑っているの見てるのも楽しいから」
やわらかく笑う次子。
見つめる瞳がいつになくやさしくて、日夏里は思わず泣きそうになってしまう。
もっと自分を大事にしてほしいのに。
そんなに痩せて青白い顔色をしているのに、どうして自分を優先しないのか。
約束が反故になったって、怒りはしないのに。
「日夏里?」
うつむいて黙ってしまった日夏里を訝しみ、次子は少し屈んで日夏里の顔を覗き込んだ。日夏里は慌てて顔を上げ。
「・・・・じゃあ、たくさん写真撮ってね。もちろん、みんなの」
にこっと笑う。
「・・・・了解」


「橘さんと晴田さんってホント、仲がいいんだね。翠嵐の学園祭でもそうだったけど、うちの文化祭に来た時もずっと一緒だったし」
よろけながらも少しずつ滑り方のコツをつかんできた佑介の横に並んで、ゆっくりとその佑介のペースに合わせながら滑っている栞が言う。
「・・・・ああ、そうだな」
佑介の返事はどこか心ここにあらずな感じだ。
(佑くん?)
どうしたんだろうと栞は思う。
初めてのスケートで苦労しているのはわかるのだが、どうもそれが佑介の憂かない表情の原因ではないように感じる。
「晴田さんもね、日夏里ちゃんの前でだと『素』が出るみたいなんだよね」
都はふたりから少し離れたところに立っていた。
「『素』って・・・・?」
次子とそんなに多く話をしたことがない栞には、都の言うことが当然よくわからなかった。
「あたしは中学の2、3年と晴田さんと同じクラスだったんだけど、彼女ってクラスメイトのこと全然覚えなくってね。で、基本いつもひとり。・・・・なんていうのかなあ。女の子特有の“グループ”っていうのから完全に隔絶していたんだよね」
中学の頃を思い出しながら、ゆっくりと話す都。
「もちろん、こちらから話しかければちゃんと答えてくれるし、成績が学年トップだから試験の前とかにはよく教えてほしいってクラスメイトが自然と机に集まってね。そんなクラスメイト達に丁寧に教えてくれてたけど、でもどこか必要以上に構わないでほしいっていうのがみえみえだったんだよね。だからみんな自然、遠巻きにしてた」

(晴田さん・・・・・)
佑介は次子をじっと見つめてしまう。

「・・・・晴田さんのことそんなに知っているわけじゃないけど、今はとてもそんな風には感じられないよ?」
翠嵐の学園祭の時、区民大会での佑介を無断で撮ってしまったことを実に真摯にわびていた態度。その後の騒動の時には躊躇う佑介を励ましてもくれた。
佑介は次子を「真面目で不器用な人」と評している。
「うん。今はね。それは高1の時に翔ちゃんがそんな晴田さんの壁に穴を開けて、日夏里ちゃんがそれを思いっきり壊したから。-----あの天真爛漫な真っ直ぐさでね」
・・・・それだけではないだろう。
佑介は思う。
文化祭で日夏里を視て、日夏里の一途な想いを知った佑介は「ひとりの人間として好きなんだろ?」と尋ねた。そして戸惑いも躊躇もせずに「うん。大好き」と答えた日夏里に、彼女のおおらかな強さを垣間見たのだ。
(・・・・晴田さん。言わないとだめだ。このままでいちゃいけない)
佑介は都の言葉を聞きながら、思いに沈む。
「だから、久しぶりに晴田さんと話した時はほーんとびっくりした(笑)全然印象が違うんだもの。特に日夏里ちゃんが一緒にいると、ね」
そう言って都はフェンスのところで話し込んでいる日夏里と次子を見た。日夏里もこちらを見ていたので都と目が合い、すると苦笑しながら滑ってきた。
「・・・・・つーさん、スケートするより写真撮ってるほうがいいんだって」
「結局そうなっちゃったんだ(笑)では、好き勝手滑りますか」
「賛成!・・・・・・あ、草壁さんは土御門さんと一緒にね♪手を繋いでらぶらぶでどうぞ」
そう言って、かわいらしく片目を閉じる。
「もう、橘さんてば////;;」
途端赤くなる栞。佑介も苦笑いを浮かべてはいたが、気持ちはどこか沈んだままだった。


その後。
佑介はすっかり滑られるようになり、都に「さすがだね」と思わしめ、栞と日夏里は都からスケートの基礎である『コンパルソリー』の簡単なものを教わって、氷上に図形を描く練習をしたりした。
最後に都が衣装こそ練習着のままだったが、今季のフリープログラム「古事記」を披露してくれ、にぎやかな時間は終了したのだった。
次子は結局、フェンスまわりを移動しながら写真を撮り続けていたのだ。

都はまだこの後練習をするというので、日夏里たちは都にお礼を言い(ひょっこり現れた都のコーチにも)、スケート場を後にした。
日夏里と次子、佑介と栞は帰りは同じ地下鉄でホームまでは一緒だったが、行き先は反対であった。

「今日は楽しかった。・・・・ふたりのらぶらぶな雰囲気にはあてられちゃったけど(笑)」
日夏里がにっこり笑って言う。
「//////;;橘さんたら」
栞の頬がほんのり赤くなる。
「・・・・・写真、現像したらまた差し上げます。・・・・私が撮ったのでよければ、ですけど」
「そんな謙遜しないで下さい。晴田さんの写真はどれもみな素敵ですよ、自分が被写体とは思えないくらいに」
どこまでも真面目な次子。佑介も日夏里を相手にしている時のようなくだけた態度は取れなかった。
「も~、つーさんってば、なんでそんな丁寧語使って話してるの?土御門さんに対して。・・・・・同い年なんだから、それ、なし!」
「なしって(^^;)」
日夏里がふたりに割って入る。場の空気が少しゆるんだ。
そんな日夏里に笑顔をむけてから。
「確かに橘さんの言うとおりだよな。・・・・・・じゃあ、それはなしの方向で」
と言い、次子の方をむく佑介。
「そんないきなり;;」
次子は面を喰らっている。
佑介に対しては被写体として興味を持っているが、それ以上の関心はまったく持っていない。丁寧語で話そうがタメ口きこうが、正直どうだっていいというのが次子の本音だ。
「だめなら、今後被写体にはならないけど?」
「う;;」
悪戯っ子のような笑顔を浮かべながら言う佑介。佑介をこれからも撮りたいと思っている次子は二の句につまる。
「佑くんてば、晴田さん困ってるよ(^^;)」
「いーのいーの、草壁さん。こうでもしないとつーさんかった~いまんまだから」
「日夏里~;;」
恨みがましく日夏里を見る次子。
「あ、土御門さんたちが乗る電車来たよ。じゃあ、気をつけてね」
そんな次子の視線はうっちゃって、日夏里はさらりと佑介と栞のふたりに別れの挨拶を告げる。佑介たちは同じように挨拶を返し苦笑しながらホームに入ってきた地下鉄に乗り込んだ。
佑介と栞が乗り込んだドアの前に立ち。
「そうそう。・・・・土御門さん、送り狼になっちゃだめだからね~」
にこっと笑って言う日夏里。
「橘さんっっ////;;」
佑介と栞の顔が赤くなったのと同時にドアが閉まった。
電車はゆっくりと動き出し、やがてふたりの姿は見えなくなった。

「さ、あたしたちも帰ろ。・・・・・あ、ケーキ食べたいな♪」
どこか複雑な表情の次子ににっこり笑顔をむける日夏里。
「・・・・まったく。かなわないよ、日夏里には」
「だって、絶対丁寧語じゃないほうがいいもん。つーさんにとっても土御門さんにとっても」
「・・・・・・」
「だから、次はフツーにね。・・・・・で、ケーキ食べるよね?」
この話はおしまいとばかりに、ケーキの話題に持っていく。
「・・・・・私はコーヒーだけでいいよ」
「だめ!運動した後は糖分とらなきゃ」
「私は運動してないよ」
「いいの、食べるの」
そんなことを話しているうちに、地下鉄がホームに滑り込んできた。
「新宿がいいよね。つーさんそこから小田急だしあたしも山手線に乗って渋谷に出ればいいんだから」
「・・・・まかせるよ」
ドアが開き、中に乗り込む。
「じゃ、高島屋の『デメル』がいいな。ザッハトルテ食べたいから♪」
「了解」
そして、ドアが閉まる。



・・・・・・この日以来、日夏里は次子とふたりで出かけることは出来なくなったのだった。

2009.02.17 Tue l 空に咲く花、光の雨(連作) l コメント (0) トラックバック (1) l top

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