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つの字の入院もそろそろ1ヶ月経とうとしています。
少しずつ体力も回復してきているので、時々病室から抜け出しております。

つづきをよむからどうぞ。


3/23追記
碧穂さま、拍手コメントありがとうです。
はい、次回つの字の「病気」があきらかになります。
でも入院は、それが直接の原因ではないんですけどね。
日夏里とつの字、ふたりが幸せになれるためにがんばりますわ。



(あれ?いない)

後期期末試験も無事終了し、試験休みとなっていた。
最上級生である三年生は3日の雛祭りの日に卒業しており、この試験休みと新学年にあがる春休みには部活動は基本的になかった。(大会などが近い部は練習している)
ちなみに春休みは25日からとなる。24日が終業式で、始業式は4月7日だ。

12時から面会時間が始まるが、昼食の時間とかぶるので1時半から2時頃に日夏里は来るようにしていた。

いつものように、扉をかららと開けてまず挨拶。そして次子がどうぞと言うようにうなずくのを確認してから病室に入るのだが、その病室の主が不在だった。
入院したばかりの1,2週間は体力が落ちていて点滴もしていたので、ベッド上で絶対安静を言い渡されたいたのもあり、大人しく病室にいた次子だったが、近頃は看護士たちの監視の目をすり抜けて抜け出しているようなのだ。
(仕方がないなあ)
日夏里は次子がどこに行っているかわかっていた。
わかっているがゆえに、探しに行こうとは思わなかった。
長い入院生活。
もう1ヶ月にもなるが、まだ退院の兆しはない。いい加減息も詰まるだろう。
だから愛用の小型カメラを持って、ある場所に行っている筈だ。カメラは弟の尋貴がこっそり持ってきたくれたのだ。フィルムは日夏里が買ってきた。こんなささいなことではあるが、次子の気持ちの支えになればいいと日夏里は思っている。
とはいえ、そう長く病室を不在にしていることが出来ないということも次子自身重々承知しているので、ほどなく戻ってくるであろう。
日夏里は中に入り、指定席であるベッドサイドの椅子に座って、電車の中で読んでいた小説を開き、読みながら次子の戻りを待つことにした。

「次子、いる?」
がらっと扉が開く。
「おばさん・・・・」
そこに立っていたのは、次子の母織依だった。今日は術着は着ておらず、カッターシャツにジーンズという服装に白衣をまとっただけのラフな格好である。
「あ、あら、日夏里ちゃん。・・・・次子は・・・・・いないね」
視線を巡らせば、病室の主が不在なのは一目瞭然だ。
「え、違いますよ。つーさんいま・・・・」
と日夏里がかばおうとしたが。
「いいよ、日夏里ちゃん。あの子が時々病室から抜け出しているのは知ってるわ。・・・・いないのなら、また来るから」
そう言って織依は踵を返す。織依の表情はどこかかたい。
「・・・・おばさんが来たこと言った方がいいですか?」
何となく不安になって日夏里は織依の立ち去る背中に問いかける。
「どちらでも」
それだけ言って、手をひらひらさせながら戻っていった。

(おばさん、なんだったんだろう。・・・・つーさんに何かあるのかな・・・・)
いつも理性的な織依の表情が憂かなかったのが、日夏里には引っかかった。
結局、後期期末試験を受けられなかった次子。
今までの成績を鑑みて進級は出来るとのことだが(次子は学年トップで、全国模試においても常に上位にいた)退院できる目処がたっていないということは、新学期になっても学校に登校出来るかわからないのだ。

日夏里はふるふると首を振る。
(暗いこと考えちゃいけない。・・・・つらいのは、大変なのはつーさんだもん。あたしは明るく元気にしてなくちゃ)
暗く沈んでいると、妹思いの兄ふたりにも過剰に心配させてしまう。
(雪にいちゃんも七にいちゃんも、妹より彼女を優先にしなきゃだめなのに)
彼女との約束をキャンセルしてまで、元気のない妹を励まそうと買い物やら食べ歩きに連れて行ってくれる優しい兄たち。
でも妹を優先されたら、彼女は怒る。わかってない。
兄の愛情は嬉しいけれど、はやく自分よりも優先できる大事な女性を見つけて欲しかった。
(・・・・風子ちゃんはどうしてるかな)
上の兄雪也の幼馴染の伊達風子(だて ふうこ)を日夏里はふと思い出した。
小柄でかわいらしい、おっとりとした気持ちの優しい笑顔が素敵なお姉さん。風子の弟が日夏里とは同級生だったのもあり、日夏里は風子にかわいがってもらった。
幼稚園の頃からずっと一緒で、小、中学校と風子の家まで雪也は迎えに行き通学していた。
けれど、高校は別々のところへ進学したゆえか雪也と風子は疎遠になった。(一年の夏くらいまでは一緒に行っていたらしい)日夏里も中学から私立の翠嵐に入り地元の友人達との交わりが無くなってきていたから、どうしてそうなったのかはあまり深くは考えてこなかったのだが・・・・。
雪也がいまだどこか真剣に女性と付き合っていないのは、風子のことがあるからかもと日夏里は思ったのだった。

「あ、日夏里来てたのか。・・・悪い」
「つーさん;;」
思考の海に漂っていたせいか、次子が戻ってきたことに気がつかなかった。慌てて本を閉じる。
「・・・・・難しい顔してるよ。なにかあった?」
ベッドに戻りがてら、拳でかるくこつんと日夏里の額を次子はたたいた。日夏里は次子を見上げる。
「ううん。なにもないよ。・・・・今読んでいたところがね、ちょっとシリアスで」
膝の上に置いてある小説を示しながら誤魔化した。次子はなんとなく納得してない風だが。
「ところで、今日も屋上?いい写真撮れた?」
だから、会話の方向を変える。
「まあ、それなりにね。・・・・いつ現像出来るかはわからないけど」
寂しげな笑みを浮かべる次子。次子のこの言葉からやはり退院できる日はまだまだ先だということがわかってしまった。
「つーさん・・・・」
日夏里の大きな瞳がわずかに曇る。
「日夏里が落ち込むことないよ。・・・・それより、翔子に次に来る時はああいうの持ってくるなって言っておいて」
とげんなりしつつ指差したのは、花瓶に挿してある綺麗な紫色のばらの花。
「どうして?綺麗だよ。紫のばら」
笑いを含めながら答える日夏里。


先日、ふらっと単身、翔子が次子の元を訪れたという。
「これからわけのわかんない、立食パーティがあってさ」
うんざりした顔で告げる。
翔子の家は本人いわく「土地成金」。
初めに手にした金額はさほど大金ではなかったのに、何がどう転んだのか、何十倍もの金額に膨れ上がっていったのだ。
慎ましやかに、祖父母の開いた酒屋を営んでいた両親は変わってしまった。
そんな両親の変貌が、翔子には哀しくてたまらなかった。
次子は無言で翔子を見ていた。
からりとしてて、誰にでも人懐こいが、時にとてもシニカルな翔子。
翔子と友人になれたのは、翔子の強引さもあったが、なにか通じるものがあったからかもしれない。
「ま、おいしいものたくさん食べられるからいいけどね」
「・・・・・・」
「あ、そうそう。この病室殺風景だからさ、彩りを添えようと思ってさ・・・・」
そう言って、今まで後ろにしていた手を前に持ってきた。
「!・・・・;;」
翔子が手にしていたのは、鮮やかなばらの花束だ。だがその色が・・・・・。
「ほんとにあったんだね。この色。漫画だからだと思ってたよ」
翔子が言っている、その漫画で描かれているほど濃い色ではなかったけれど、確かにそのばらの色はそれといえる色だった。
「はい。・・・・・ま、ピンクとか真っ赤よりいいっしょ?」
にっと笑い、次子にそのばらの花束を押し付けた。
「・・・・翔子;;」
「ほんとはさ、つーさんがいない時にこっそり置いていくつもりだったんだけどさ。じゃないと『紫のばらの人』にならないし?」
「あのな・・・・;;」
次子は呆れはじめていた。翔子は楽しげに笑っている。
だが、ふと笑いを止めて。
「なんの病気かは知らないけど、とっとと退院しなよね」
真剣な眼差しで次子を見る。
「・・・・」
次子だって、退院したいのだ。
けれど、いまだ回復しないからだ。様々な検査をされたが、結果の大半はまだ出ていない状態なのだ。
「・・・・そうは言っても、つーさんの事情もあるのわかってるよ。でもさ、日夏里があまりにも健気でさ」
「・・・・・」
「元気になったらちゃんと応えてやんなよ。・・・・逃げちゃだめだよ」
同じようなことをこのみにも言われた。
覚悟を決めなければいけないのだろうか。
「も、あたし行くね。それ、ちゃんと花瓶に挿しとくんだよ」
そう言って、病室の扉に手をかける翔子。
「・・・・ありがとう」
ぽつりと呟く。
「お礼は、『キハチロール』でいいよ♪」
にっこりと翔子は笑った。


「翔ちゃんは、面白いな」
日夏里はまだ笑っている。
「・・・・夜、顔出した母さんに思いっきり笑われた」
殺風景だからといって、普通紫色のばらは選ばないであろう。翔子のユーモアのセンスはちょっとずれているような気がしてならない。
「あ、そうだ。さっきおばさん来たよ」
・・・・いつもと違う雰囲気だったとは言えない日夏里。
「母さんが?」
次子もちょっと驚いていた。
織依は入院初日こそ勤務中に顔を出したが、その後は勤務時間内にはけして病室に来ることはなかったからだった。
「またあとで来るって言ってたけど・・・・」
ざわざわと得体の知れない不安が広がってくる。
「じゃあ、たいした用じゃないと思うよ」
「うん・・・・」


そうであって欲しかった。

2009.03.19 Thu l 空に咲く花、光の雨(連作) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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