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前回更新からかなり間が空いてしまいました。

つの字の体調不良の理由がついに判明します。
私自身もかなり悩んだ上での決断で、それは本来考えていた日夏里とつの字の未来とは大きく違ったものになってしまったからなんですね。
つの字の想いを綴った「ファインダー」がひとつの転機だったように今では思います。

いつもより長く、しかも重くて暗い展開となってます。

つづきをよむからどうぞ。



もう、会えない。
会ってはいけない。

・・・・会うことは出来ない。

彼女は、たくさんのものを与えてくれた。
壁を作り、周りと関わろうとせずにいた自分の殻を壊し、真っ直ぐに飛び込んできた。
そして、殻の中に蹲る自分を外の世界へと引っ張りだした。

彼女はこんな自分を「大好き」という。
なにもかもが中途半端で、彼女から与えられたものをほとんど返せないでいるのに。

だからこそもう会えない。

彼女には、その名の通り光あふれる未来が待っている。



**************************************



「あら?ひー、帰ってきたの?」
玄関の扉の閉まる音が聞こえ、すぐに階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
「ひー?・・・・ただいまくらい言いなさい」
台所で夕食の準備を始めていたすみれは、いつもなら「ただいま」と元気に帰宅の声をかける娘の日夏里が黙って二階の自分の部屋へ行ってしまったことに訝しむ。
(おかしいわね・・・・。今日も次ちゃんのところへ行ってた筈だけど・・・・)
友人の次子が入院して以来、日夏里はほぼ毎日顔を出していた。それは試験休みに入った今も同じで、面会時間開始の1,2時間後から夕方までずっと次子の元で過しているのだ。
そして今日もいつものように、次子の入院する病院へと出かけていった。帰宅は7時近くが常であるのに・・・・。
様子がおかしいので、すみれは夕食作りを中断し娘の部屋へ向かった。

「ひー。日夏里。どうしたの?返事しなさい」
扉の外から声をかける。だが、中から返事は返って来なかった。
すみれはふうと大きく息をはいて。
「入るからね」
言うと同時に部屋の扉を開けた。
日が長くなってきとはいえ、灯りをつけなければすでに部屋の中は薄暗い。
目をこらして見てみれば、日夏里はベッドの上で膝を立ててそこへ顔を伏せたいた。
「灯りもつけないで」
と、すみれが部屋の電灯をつけようとしたが。
「つけないで」
小声ではあったが、きっぱりとした口調の返事。
すみれは溜息ひとつ。
「じゃあ、つけないけど。・・・・でも挨拶もなしで二階に上がるのはルール違反よ」
「・・・・ごめんなさい」
日夏里は素直に謝る。顔はまだ上げられていない。
「今日は帰ってくるの早かったわね。・・・・・・次ちゃんと喧嘩でもしたの?」
ふるふると頭を日夏里は振る。
「ならどうしたの?」
すみれはベッドの前に跪き、顔を伏せている日夏里に視線の位置を合わせた。
「・・・・なんでもない」
「なんでもなくはないでしょう」
そっと頭に手を置き、やさしく問いかける。

次子が自宅で倒れてそのまま入院してからもう一ヶ月が過ぎているが、いまだ退院の兆しはないと日夏里が言っていたことを思い出すすみれ。
昨年、日夏里が仲良しの友人らとクリスマスパーティを家で開き、その時次子も当然来ていたが、ほとんど食べ物には手をつけることがなく、しかもかなり痩せていたのだ。
年が明けてからは学校も休みがちになり、日夏里たちが心配しているその最中の入院だった。
はっきりとした病状は聞いていない(聞けない)ようで、顔色こそ良くなったものの、痩せたからだつきは変わっておらず、体力もいまだそう回復していないのが現状のようだった。

「・・・・次ちゃん、具合よくないの?」
娘がここまで傷心しきっている姿を見れば、たどりつく帰結だ。だが。
「・・・・わからないの」
「?」
「わからないの」
日夏里は、それ以上のことはもう頑として口を割らなかったのだった。

(つーさん、どうして。なんで)
(何があったの?あたしじゃ力になれないの?)
(・・・・・わからないよ。・・・・・どうして・・・・)



夜中に産気づいた初産婦は、明け方近くまでかかったが無事に男児を出産した。そのお産に携わった織依は、仮眠を取ってから、また午前の外来の診察に入ることになっていた。

大きく伸びをしながら診察室までの廊下を歩いていると看護師長に呼び止められ、次子の検査結果がすべて出たと告げられ、織依は外来が終わったら夫の譲とともに聞きに行くと返答し、また先を急いだ。
産科医は小児科医とともに人手不足だ。
こんな都会の真ん中でさえ地域の産院は閉院するところが多く、結果ひとつの病院へ患者が集中してしまい、「待つのは2時間、診療は5分」などと言われてしまうのだ。
(・・・・ひとりでも多くの人を診られるように)
10分くらいなら診療時間を早めてもいいだろう、そう思いながら診察室へと向かった。



午前外来の時間終了から30分後に最後の患者を見送った。電子カルテにすべての入力を終え、織依は席を立つ。
(さて、譲さんはおとなしく院長室にいるかしらね)
『病院長』という肩書きがついていても、現場主義な譲は院長室でどっかりと座っているタイプではなかった。宿直こそ流石にしないが、外来のローテーションにはきちんと名を連ねているし、救急が飛び込んでくれば手が空いている限り、必ず応援に出るようなそんな医師なのだ。
だが、医師としては優秀で尊敬される譲も『父親』としての評価は少々下がる。
妻の織依から妊娠が告げられた際、譲は「女の子以外はいらない」というような暴言とも取れる言葉を言い、織依に散々怒られていた。

------生まれた子供は譲の願い通りの『女の子』だった。
娘の次子は穏やかな性格の賢い子供であるが、譲の望むようなタイプの女の子ではなかった。
譲には、女の子はこうあるべきだ、こうあってほしいという理想像があった。それゆえ、子ども自身の性格や個性を省みずに押し付けることが多々あり、その都度織依は諌めたり窘めたりしていた。
だが譲は、「もっと女の子らしくなるように」とただそれだけの理由で地元の公立中学への進学をやめさせ、自分の母親の母校である私立の翠嵐女子を受験させたのだ。
娘の次子は特に不満も言わず、父親に従った。
-----何故自分は父親の望むようになれないのだろうと思いながら。

そもそも女子校に入ったからといって、「女の子らしく」なるわけではないのだ。むしろ異性の目がない分、露骨であからさまだ。
次子は結局この空間に馴染むことが出来ず、翔子や日夏里と出会うまで壁を作り続けていたのだ。

友人を得て、次子は変わった。織依は翔子の人懐こさや日夏里の素直さが娘を変えてくれたのだと感謝していた。
それなのに。
娘は今こころに大きななにかを抱えている。
自分の感情をあまり出さない娘は、親にさえ話さない。
「入院」という最悪の事態をむかえ、体力回復を最優先の治療を行ってはいるが、いまだ次子の状態は好転しているとは言えなかった。
からだの不調はもしかすると別のところにあるのではないだろうか。それと精神的なことが重なって今のような状態にいるのではないか。
そう考えて、次子には煩わしかっただろうけれど様々な検査を受けさせたのだ。
そしてその結果が出たという。
逸る気持ちをおさえ、織依はまずは病院長室の前に立った。



検査結果はあまりに残酷なものだった。
一体どうやってこのことを娘に告げたらいいのだろう。・・・・そして夫の譲にも。
譲は来客中であったため、織依ひとりで検査結果を聞いたのだ。

同僚の医師は、かなりためらっている様子が伺えた。
織依はどんな結果が出ようとすべてを受け留める覚悟でここに来ていた。だから隠さずにはっきりと伝えてほしいと告げた。そして話された内容は、織依の覚悟を粉々に砕いてしまうほど衝撃的なことだったのだ。

織依は混乱する気持ちを整理しきれないまま席を立った。



ふたたび病院長室を訪れれば、来客は帰ったあとだった。

「次子の検査結果が出たようだね」
「ええ・・・・」
譲のところにも当然連絡が入っていたようだ。
「どうした織依。・・・・そんなに悪い結果だったのか」
目の前に座る織依の青ざめた顔色を見て、譲はそう言う。
「・・・・・」
上手く言い出せない織依。
「どんな診断が下されようと、全力で治すぞ、私は」
「・・・・・」
譲の言葉に嘘はないだろう。でも織依はどう切り出していいのかわからないのだ。
「織依。・・・・言ってくれ」
娘を大切に思う気持ちは一緒の筈だ。
織依は膝の上の手をぎゅっと握り締め、ゆっくりと話し出したのだった。
2009.03.30
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