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つの字の葛藤。本音。想い。
それらが吐露されます。

このみ姫や翔子、満実も動き始めます。

つづきをよむからどうぞ。




後ろ髪を引かれる様に織依は帰っていった。
消灯までいると言いはる織依を、弟の尋貴が家でひとりで待っているし夜勤明けでしかもそのまま外来もこなしていたのだから、早く帰ってゆっくり休んでほしいと言って帰したのだ。
その消灯時間まであと30分ほどで、次子はすでに灯りを消してベッドに横になっていた。
次子は織依を心配させたくなくて最後まで表情を崩すことはなかった。だが・・・・。

(・・・・もう、笑うしかないな)
自嘲的な笑みが浮かぶ。

露ほどにも女の子らしくなく、父の理想からもほど遠い自分。
それでも。
どこかで「女性」の自分に違和感がわいていても、なんとか己を納得させてあの空間で過ごしてきたというのに。
なんとか、父の願いをかなえたいと思っていたのに。
・・・・同性の日夏里へ惹かれていく想いも封じ込めてきたのに。

何故今になって、こんなことが。

母へは「神様のきまぐれだ」と自分は言った。
だがなんて残酷な「きまぐれ」なんだろう。

自分と同じような人たちがいるということも知った。
みな、どのように乗り越えて行くのか。
乗り越えることが出来るのか。

このままでもいられるというが、でも多分、それは無理だろう。
・・・・入院してから気がついたが、背が伸びていた。もともと高い方ではあったが今は170を越えていると思う。声も心なしか低くなったように感じていた。
きっとこの先自分の姿は変わる。今のままの筈がない。

あのあたたかいやさしさに囲まれた時間には戻ることは出来ないのだ。

------また孤独になるのか。

こんなことなら、こころを開くのではなかったか。
堅く堅く閉じて、ひとり蹲っていればよかったのだろうか。

そうすれば、彼女も飛び込んでこなかった。
・・・・・こんな、締め付けられるような胸の痛みを味あわずにすんだのだ。

もう会えない。
会ってはいけない。
あの引き込むようなきらきらとした瞳を見たら、きっと離せない。

「・・・っ・・・」
涙が枕に零れ落ちる。
上掛けを引っ張り上げ、覆い、からだを丸めて扉に背を向けた。



翌日いつものようにお見舞いに来た日夏里は次子に会うことが出来なかった。次子は扉を開けた日夏里にずっと背を向けていた。
そして、しばらく来ないでほしいと告げたのだ。
日夏里は一言「わかった。・・・・ごめんね」とだけ言って立ち去った。泣くまいと懸命に涙をこらえながら。

次子はその日から一切のお見舞いを遮断した。母に頼み、面会謝絶の札をかけてもらった。
もう、誰にも会いたくなかった。

・・・会ってはいけなかったのだ。



「日夏里。今日もこのあとつーさんのところに行くの?」
「・・・・ううん。行かない」
試験休みが開け、今日は終業式だった。
一年間の評価が下され、配られた成績表を見て一喜一憂しているクラス内。
そしてまた明日から春休みに入る。
「あら。でも明日は行くでしょう?満実や翔子たちも一緒に、みんなで」
「・・・行かない」
帰りのHRも終わっていて、日夏里とこのみは一緒に帰る満実と翔子を待っているところだった。
「日夏里、なにかあって?」
日夏里の表情はどこか冴えない。このみの声にいたわりの色が宿る。
「何も、ないよ。・・・・あのね、あたし先に帰るのね。翔ちゃんと満実にそう言っといて」
日夏里はカバンを持ち立ち上がると、このみが何か言うより早く教室から出て行ってしまった。
「え?日夏里?・・・・待って」
呆然とするこのみ。
(・・・・おかしいわ。朝から元気なかったし。それにあんな頑なで・・・・)
「このみ姫~。今出て行ったの日夏里だよね?」
「なんか急いでたけど」
翔子と満実が教室の入り口から声をかける。このみは意識をそちらに向けた。
「ええ、日夏里よ。・・・・様子がおかしいのよ」
机の上のカバンを持ち、周りのクラスメイトに挨拶をして翔子らと合流する。
「おかしいって、どんな風に?」
「・・・・明日、みんなで行こうって行っていたつーさんのお見舞いに行かないって言うのよ」
「急な用事が入ったとかじゃないの?」
3人は話しながら、地下の靴箱に向かう。
「そんな雰囲気じゃないの。だって、今日も行かないって言うのよ?」
「それはヘンだわ。日夏里が二日続けてつーさんのとこへ行かないなんて、有り得ないわ」
「確かに。試験期間中だって行ってたよね、日夏里は」
一階に着き、このみはふたりの腕を取って、旧三館と第四館を繋ぐ連絡通路----そこは第五館も繋ぎ、校庭や体育館、弓道場へも繋ぐ通路であったため、ちょっとした広場のようになっていた-----に誘導した。
「・・・・今日、急いで家に帰らないとまずいかしら?」
満実を見てこのみは言う。
「大丈夫だよ。連絡さえ入れれば平気。・・・・つーさんとこに行くんだよね?」
にこっと満実は笑う。
「ええ」
「仕方ないなあ、このみ姫は。ホント、日夏里のねーちゃんなんだから」
肩をすくめる翔子。
このみが満実にだけ確認を取ったのは、満実の家は真っ当だからだ。このみの家も翔子の家も両親は不在がちで、彼女らが何時に帰宅しようが感知していないのだ。
「・・・・絶対、何かあったんだわ。そうじゃなかったら、日夏里はあんなに沈んでいなくてよ」
きっぱりと言うこのみ。
「じゃ、腹ごしらえしてから行こっか。あたしもちょっと話があるしね」
「話?」
このみと満実の声が重なる。
「お昼食べながら話すよ」
言いながら、ふたたび歩き出した。


お嬢さま私立として名が通っている翠嵐女子。もちろん、下校途中での立ち寄りは許可されていない。立ち寄りをしたい場合は、生徒手帳の連絡欄に保護者からその旨を書いてもらい、学校に提出して担任から許可を取らないといけないのだ。しかし、飲食関係の立ち寄りは一切許されていない。許されていないが、きちんと守っているのは極一部の生徒に過ぎないだろう。
このみや翔子たちも普段はあまり飲食関係の立ち寄りはしないのだが、今日はそうも言ってられない。駅からさほど遠くないドーナツ屋に落ち着いた。
2~3個好きなドーナツを選び、レジで飲み物を頼む。このみと満実はカフェ・オレ。翔子はコーヒーにした。店内には同じ制服を着た生徒達も何人かいた。

「・・・・翔子の話って、何かしら?」
席に座るなり、尋ねるこのみ。
「このみ姫;;いつになくせっかちだな~。せめて一個くらい食べさせてよ」
“いただきます”とつぶやいて、今まさにひとつ目のドーナツを食べようとしていた翔子はぼやく。
「あはは、まあねえ。でも翔子ももったいぶるから。・・・・ここに来るまでに話しちゃえばよかったのに」
満実は苦笑している。
「だっておなかすいてるからさあ。食べてからって思ってたんだよ」
ちらっと上目遣いでこのみを見る。このみはふうと溜息ひとつ。
「・・・・わたしが悪かったわ。そうね、食べてからの方がいいわね」
「そうそう♪」
まずは目の前の、甘い香りをはなつドーナツを食すことにした。


カフェ・オレとコーヒーのおかわりをもらいに行き、そして。
「あ~、人心地ついた。あのね・・・・」
と翔子は話し始めた。

今朝方、翔子は同じクラスの都から次子の現在の病状と入院先のことを聞かれた。
都は中学の時次子と同じクラスではあったが、さほど親しかったわけではない。何故だろうと思って都にきけば、2月に日夏里と次子は朱雀の土御門佑介と佑介の恋人で都の小学校時代の友人でもある草壁栞と都の練習拠点であるスケートリンクにスケートをしに行っていたのだ。その時の次子の青白い顔色と尋常じゃない痩せ方が気になっていて、元気なんだろうかと栞が心配のメールを寄こしたというのだ。

「あら。そんなに仲良くなったのかしらね」
「日夏里は、すごく仲良くなったみたいなこと言ってたよ」
「そう。・・・・まあ、いいわ。それで徳成さんはなんて返事したの?」
このみの口調はどこかきつい。
「ん?正直に入院したって伝えたみたいだよ」
「部外者じゃない。朱雀の人なんて」
「このみ姫;;そう目の敵にしなくても」
このみの掃き捨てるような物言いに満実がフォローする。
「だって、関係なくてよ」
「も~、あんまり過保護なのはだめだよ。日夏里だってちゃんとわかってるさ」
翔子の言葉にこのみははっとしてうつむいた。このみはただ、日夏里がまた何かつらい目にあうのではないかと心配なのだ。
このみの気持ちもよくわかるので、満実がこのみの肩をぽんぽんとたたく。
「それから、翔子?」
うながす満実。
「あ、うん。でね、そしたらなんかつーさんのとこにお見舞いに行きたいから入院している病院を教えてほしいとも言われたらしくてさ。それで聞きに来たんだよ。教えてもいいのかって」
そしてコーヒーをすする。
「・・・・教える必要なんて・・・」
「こーのーみーひーめ~;;」
このみの言葉を遮る満実。
「だって、草壁さんだけが来るわけじゃないのでしょう?仮にも女性の病室に全く関係ない男性が来るなんて・・・・・・無礼だわ」
最もではある。
「まあ、そうだけど、とりあえずつーさんに聞いてみない?」
「断るに決まっているわ」
このみは決め付ける。
そんなこのみをなだめ、日夏里とのこともきかなければ・・・と、翔子たち3人は次子の入院先・赤坂総合病院に向かった。


だが次子の病室へ行ってみると、「面会謝絶」の札がドアにかかっていた。驚くこのみたち。
次子の病状が悪化したのか、だから日夏里が「行かない」と言ったのか。
とにかく心配になり、ナース・ステーションで尋ねてみるが、具体的なことは何もわからず、ただ面会は出来ないと言われるのみだった。
埒があかないので、次子の母親の織依に聞いてみようと思ったが、織依の返事ははかばかしいものではなかった。

なにかがおかしい。

暗澹とした思いを抱え、このみ、翔子、満実は病院をあとにするしかなかった。


2009.04.01 Wed l 空に咲く花、光の雨(連作) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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