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佑介くん、登場です。
日夏里とつの字、ふたりの「想い」に気付き、いろいろと心を砕いてくれています。

話は佳境に入りました。

つづきをよむからどうぞ。



「佑くん。晴田さん、面会できないって・・・・」
先ほど都から送られてきたメールを読み、栞は目の前に座る佑介に言う。

弓道部の部活の後、佑介は真っ直ぐ家に帰らず草壁家へ立ち寄っていた。佑介の誕生日である4月5日に映画を見に行く予定で、何を見るのか決めるためにだった。
とはいえ、自分の誕生日ではあるが特に見たいものはないので、栞が見たい映画を優先しようと佑介は考えていた。
情報雑誌を開いてどれがいいかとふたりして話している時に、栞の携帯にメールが届いたのだ。

「そうか。行っても会えないんじゃな・・・・・」
佑介は思いに沈む。
次子が倒れ、入院した時に稲妻のように飛び込んできた「波動」。
このとき以来佑介は次子の波動をキャッチできるように心話を少し開いておくようにしていた。入院後は比較的穏やかだった波動が、先日大きくぶれた。

それは「慟哭」だった。
「絶望」とも言っていいかもしれない。それほどに強い強い感情の波が押し寄せた。
哀しみ。嘆き。・・・・・あきらめ。そして切ないほどの想い。
いったい何があったのか。佑介は気になって仕方なかった。

お見舞いに行って直接次子と話をしたいとずっと思っているが、まだそこまで親しい関係にはなってないし、どちらにしろいくら栞が一緒であっても、女性の病室を訪ねるのはあまりに失礼なような気がして、逡巡しているうちに日が過ぎていってしまったのだ。
そんな時に受けた波動だった。

「・・・・橘さん、どうしてるかな」
携帯を閉じて、栞がぽつりとつぶやく。
栞は佑介から話してもらったので、日夏里と次子----ふたりの「想い」を知っていた。

先月友人の都が練習をしているスケートリンクに招待され、日夏里と次子らと一緒にスケートをした帰り、何故か佑介の表情は沈みがちで、そんな佑介の様子を見ているのがつらく元気を出してほしくて、話せば少しは気持ちが軽くなるからと躊躇いがちだった佑介の口を開かせたからだ。

日夏里の次子に対する一途な想い。
・・・・「性別なんて関係ない。ひとりの人間として次子が好き」ときっぱり言える日夏里のおおらかな強さ。
うらやましいとさえ思えるのだ。

「彼女もそろそろ限界だと思う」
「佑くん・・・・」
次子だけではなく、佑介は日夏里のことも気にかけていた。
真っ直ぐに、臆することなく相手を見つめる大きな瞳。その瞳の中の不安な色を必死に隠し明るく振舞っていた。
「橘さんは晴田さんが入院しても、それでもお見舞いに行けば会うことが出来るから、がんばれたんだ。それが出来なくなってしまえば・・・・・晴田さんに会えなくなってしまえば、多分橘さんの心も折れてしまうような気がするんだよ」
「そんなことって・・・・」
「-----なんとしても、晴田さんに会って話をしないと」
強い決意を込めて佑介は言う。栞はそんな佑介を見ていて。
「佑くん。橘さんに会おうよ」
そう告げる。
「だって晴田さんに面会は出来ないみたいだし。・・・・彼女と話すことももちろん大切だと思うけど、あたしは今橘さんを元気づけてあげたい」
「栞・・・・」
「翠嵐の学園祭の時、佑くん橘さんに励ましてもらったじゃない。・・・・スケート場でも」
にこっと栞は笑う。
佑介は栞の最後の言葉にはっとした。栞はスケート場でのことに気がついていたのだ。
一瞬だけ見せてしまった佑介の暗い表情に日夏里は佑介のふれられたくない部分を悟り、上手く会話を別の方向に持っていったのだった。
「ああ、そうだった。・・・俺たちがどれだけ力になれるかわからないけど、ここであれこれ言ってるよりいいよな」
そう言って栞に笑顔を返す。
「じゃああたし、都ちゃんにメールする。橘さんに連絡とってもらうね」
先ほど閉じた携帯を、ふたたび栞は開いた。


都に間に入ってもらって、佑介と栞はなんとか日夏里に会えることになった。
“なんとか”というのは、都からメールを受け取った日夏里が佑介たちまで煩わせたくない、自分は大丈夫だからと頑なに会うことを拒んでいたからだ。
だがそんな日夏里の様子を、日夏里の母のすみれとふたりの兄・雪也と七星が見ていて、家に閉じこもってばかりではよけいに気持ちが沈むし、こんなに親身になって心配してくれる友達がいるのだから、その好意に甘えてこいと後押しをしたのだ。
日夏里は、つらいのは自分だけじゃない、自分が落ち込んでいてもなんの解決にもならないと気付きその誘いに応じたのだった。



寒さがやっとやわらぎ、春らしい陽気になったその日。日夏里は五分咲きの桜に彩られた新宿御苑に来ていた。友人の翔子、そして佑介と栞のふたりとも一緒に。
本当は都も来るはずだったのだが、この春休みは来季に滑る新プログラムの振り付けを覚えるのに忙しく、オフが取れない状況ということで、フィギュアの強化選手である都に無理は言えなかった。
ゆえに、場の空気はどこかぎこちない。
翔子は佑介に対し全く関心がないし、それは栞に対してもそうだ。このみのように目の敵にするつもりはないが、とくに仲良くしようとも思っていなかった。
日夏里が、本来の天真爛漫な日夏里ならこんな風にはけしてならないのだが・・・・・。

(なかなか手強い)
自分らの前を歩く日夏里と翔子。佑介はそっと溜息をつく。
翔子は人懐こそうでいるのに、どこか人を突き放す感があった。自分が関心を持たない人物にはまったくもって友好的になってくれないのだ。
「佑くん?」
隣を歩く栞が心配そうに覗き込む。
「あ、ごめんな。なんでもないよ」
「・・・・都ちゃんが、橘さんには守護者(ガーディアン)がたくさんいるから出る幕ないかもよって言ってたけど、本当だったみたいだね」
翔子の態度がいまいち友好的でないのは栞もじゅうぶんに感じていた。
「守護者(ガーディアン)か。確かにな。・・・・でも彼女は守られてるだけの女の子じゃない。ひとりで向かい風に胸をはる子だよ」
そうでなければ、あんな風にきっぱりと言えない筈だ。片手で数えられるほどしか会っていない自分に。
「だから、がんばりすぎないうちに休ませてあげないとなんだよ」


「橘さん」
佑介が栞から離れて声をかけてきた。
「草壁さんをひとりにしちゃだめだよ。悪い虫が寄ってくるよ」
日夏里は振り向き、悪戯っ子の表情で佑介に返事する。
「寄って来たら全部撃退するから大丈夫。それに栞は俺以外の男には興味ないから」
「すっごい自信!でも確かにこ~んなオトコマエがいつもそばにいたらほかに目がいかないよね」
さらりと言ってのける佑介に、日夏里は感心していた。
「・・・・なんてね。そんなことないからさ」
「そうなの?傍から見ててもお互いしか目に入ってない感じだよ?」
半分冗談のつもりで言ったのだが、本気に取られてしまい佑介は居心地が悪い。が、そうはいっていられない。
「・・・・ま、俺と栞のことは置いといて」
「?」
まじまじと佑介に見られて日夏里はなんだろうと思う。
「あのさ、ひとりでがんばりすぎちゃだめだよ」
もう、直球で行くことにした。
日夏里の大きな瞳が見開いた。
「橘さんには頼りになる友達がいるだろ?」
隣に立つ翔子をちらっと佑介は見る。
「・・・・そうだけど、でも、つーさんは病院でひとりでがんばっているから」
両手を胸の前にあわせてぎゅっと握る日夏里。
「ひとりじゃないと思うよ。ちゃんとみんなの気持ちは届いているはずさ」
「土御門さん・・・・」
「・・・・しんどい時はしんどいって言っていいし、泣きたい時は思いっきり泣いた方がいい」
佑介は、優しくにこりと笑う。
「だめだよ、土御門さん。・・・・草壁さん以外に、優しい言葉をかけたりそんな笑顔見せたりしちゃ・・・」
大きな瞳に、今にもこぼれ落ちそうな涙をこらえていたが。
「・・・・だめなんだよ・・・・」
なんとかそれだけ言うと、日夏里はうつむく。
「日夏里」
一緒に傍にいた翔子はそっと日夏里の肩に後ろから手をまわしぎゅっと抱き締める。
佑介もそれ以上かける言葉が見つからず、「大丈夫だよ」と言うように日夏里の頭をぽんぽんとかるくたたいた。
「・・・・ふ・・・・ふぇ・・・・」
その仕種と雰囲気がどこか次子に似ていて、とうとう日夏里は嗚咽をあげ始めてしまった。
「橘さんの想いはちゃんと晴田さんに届いているよ。大丈夫」
そう言うと佑介はその場を離れた。あとは翔子に任せた方がいいだろうと思ったのだ。


「佑くん」
「ん?」
日夏里から離れた佑介の後を栞は追ってきた。
「橘さん、すごくがんばっていたんだね・・・・。ホントに真っ直ぐで一途で。佑くんが手助けしたくなる気持ち、わかるな」
並んで、歩きながら佑介にそう言う栞。
「そうか?・・・・え。・・・・これは・・・・」
ある映像が佑介の頭を掠めた。


日夏里の携帯と翔子の携帯が同時に鳴り出した。ふたりは顔を見合わせる。
「なんだろね」
翔子がトートバッグから携帯を取り出す。
「うん・・・・」
涙をふき、日夏里も自分のカバンから携帯を出し、開いた。
「このみ姫からメールだよ」
「あたしのもだ」
言いながらそのメールを開封する。日夏里の手から携帯が落ちた。
「つーさんが・・・・・。翔ちゃん、つーさんが」
「も~、ばかもんだわ、つーさんは。なんでまた・・・・」
このみからのメールには、次子が病院から抜け出したと書いてあったのだ。



昼の検温に行った看護士から次子が病室にいないと織依は告げられた。
あの日以来、病室を抜け出さなくなった次子。
-----織依は嫌な予感がした。
次子は抜け出していた時でさえ、検温の時間などにはちゃんと病室にいたのだから。
(あの子・・・・・・!)
織依はすぐさま次子の病室へ向かった。

扉を開けるとやはり次子はいない。
もしやと思い、病室のロッカーをのぞけば、退院用に掛けてあった洋服一式がなくなっていた。
(外に出たんだわ。まだそんな体力は回復していないのに)
踵を返し、病室を出、探しに出かけようとするが。
「織依先生探しました!今搬送された妊婦さん、子宮外妊娠のようで緊急に帝王切開の手術を・・・・・」
看護士の切迫した表情。
・・・・・次子は今、緊急でどうにかなるわけではない。嫌な考えは頭をかすめてはいても。
だが、搬送された妊婦は一分一秒を争うのだ。医者である自分は、まず目の前の患者が第一。気持ちは引き裂かれそうでも、親としての自分は封印しなければいけなかった。
「わかった。・・・・今、行く」
譲も今日は学会で留守にしている。
織依は、次子の友人達にすべてを託すことにした。



「あ、このみ姫。このメールはいったい・・・・」
翔子は折り返し、このみに電話をかけた。
『織依おばさまから、連絡が来たのよ。つーさんが病院から抜け出したから探してほしいって』
織依と譲がどうして探しにでられないかもこのみは説明する。
「まったく、何考えているんだろうね。つーさんは。ばかもんだよ!」
『それはその通りだけど、そんなこと言ってられなくてよ。はやく探さないと』
どこかでまた倒れたりしていたら。・・・・考えたくはないけれど、もっと嫌なこともありえなくはない。
「見つけたら、締め上げてやる!」
『翔子ったら・・・・。でもそうね、そのくらいしてやりたいわね。こんなに心配かけさせているのだから』
「満実も一緒?」
このみと満実はあとから合流予定だったのだ。
『ええ。隣にいるわ。・・・・日夏里の様子はどう?』
「つーさんが入院した日と同じ。能面みたいに無表情になっちゃったよ。・・・・今草壁さんがそばにいるけど」
と、ちらりと日夏里の方を見る翔子。栞だけでなく、佑介も日夏里のそばにいた。
「ところで、いまどの辺りにいるわけ?」
『まだ上野よ。満実とはついさっきホームで待ち合わせたばかりだもの。これからまた地下鉄に乗って、と思った矢先に電話がかかってきたから・・・・』
このみの声の向こうに駅構内の雑踏の音が聴こえていた。
「そっか。・・・じゃあ、このみ姫と満実は病院で待っててよ。あたしらの方が病院に近いから早く探せると思うんだよね」
次子の今の体力ではそう遠くへは行かれないだろうと翔子は踏んでいた。公共交通機関を使われてしまえばその限りではないが、多分、それはないだろう。
しばらくの沈黙が電話の向こうで続いたが。
『・・・・確かにそうね。翔子の言う通りだわ。織依おばさまのことも心配だし、わたしたちは病院へ行くわ。・・・・・つーさんと日夏里をお願いね』
「りょーかい!」
翔子は電話を切った。それから携帯をバックにしまい、日夏里の元へ走り寄る。すると。
「橘さんたちは病院に先に戻っててくれ」
佑介が唐突にそう言った。翔子の瞳が見開く。
「なんで?・・・・あたしも探すよ。つーさんは大事な友達なんだから」
翔子は反論する。
「みんなであてもなく探したってなかなか見つからないだろ」
「それはそうだけど」
今日は、都から栞と佑介が傷心しきっている日夏里を会って励ましたいと言われたので、翔子は渋々ながらふたりに会うことを承知した。
が、連絡を取り合ってくれた都はどうしてもスケートの練習を休むことが出来ず、結果都抜きで会うことになってしまった。
翔子にとって、佑介や栞は「知り合い」以下の存在でしかない。
会って話をしているうちにどうしてなのかはわからないが、佑介は日夏里の次子への気持ちを知っているように思えてならなかった。
だがもしもそうであっても、部外者とも言える佑介には関係ないと翔子は言いたかった。
翔子は日夏里を守るように、佑介に対し強い視線をぶつけている。
「翔ちゃん、大丈夫。・・・・・土御門さんなら絶対探し出してくれるから」
日夏里は佑介を真っ直ぐ見、そして翔子を見てそう言った。
「日夏里・・・・」
「信じてあげて」
翔子には何故日夏里がここまで佑介のことを信頼しているのかがわからなかった。自分よりは佑介と接点が多かったのは認めるが、中学時代に「いじめ」にあっている日夏里は実は警戒心が強いのだ。おまけに日夏里を溺愛している兄達がいろいろ吹き込んでいるので「男」というものに対しても存外厳しい目を持っている。
その日夏里がここまで心を開いているのはどうしてなのだろうか。
「・・・・日夏里がそう、言うのなら」
釈然としないが、翔子は日夏里の気持ちを尊重することにした。日夏里は翔子に「ありがと」と言って、にこっと笑いかけた。そして。
「・・・・あたしたち、病院で待ってるから。絶対つーさんを連れて帰ってきてね」
「わかった」
佑介は力強く答えた。
2009.04.02 / Top↑
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