今日のお話の内容は、剣道に関したちょっとしたことともうひとつです。
(やっとトップが「あだると」じゃなくなる<^^;>)
今回もままさん剣士Kさんのご協力を得ましたv(さて、どこでしょう?<笑>)
いつもありがとうです♪

私にしては短めの話ですね。
ではではつづきをよむからどうぞ♪


「はい、これ」
咲子は、稽古が始まる前にさほど大きくない紙袋を佑介にぽんと手渡した。
長方形の形をした薄い袋。佑介はまじまじと見つめ。
「?・・・・なんですか?」
「手ぬぐいよ。先日深川のおおばばさまと一緒に行った展示会で見つけたの。良かったら使って」
にこりと咲子は笑う。
剣道では、面をつける前に頭に手ぬぐいを必ず巻く。面をはずした後にそれで汗を拭いたりするので、いわば消耗品といえた。
「ありがとうございます。でも、いいんですか?」
「そんなご大層なものじゃないから、気にしないで。・・・じゃ、あとでね」
そう言って咲子は子供達がいる方へと行ってしまった。


(手ぬぐいか。どんなのだろう)
もらった袋を眺める。
佑介は特に手ぬぐいにはこだわりがなく、家にあるもの(母の小都子や祖母の梅乃がもらったものだろう)や防具店でもらったものを使っていた。今日持ってきていた手ぬぐいも防具店でもらったもので、白地に『無念無想』という文字と兜が染められたものだった。
「佑介おはよ。・・・・って、それなんだ?」
「あ、航。おはよ。・・・いや、咲子さんからもらってさ」
面と竹刀を持った航は佑介の手にあるものを眺め、尋ねた。
「・・・・まさかまたトンデモないモノじゃ・・・・」
「あのなあ;;んなわけないだろ。手ぬぐいだよ(--;)」
「あ、手ぬぐいね」
航の言う『トンデモないモノ』とは、咲子の夫絋次が佑介と何故か航にプレゼントしたあるブツのこと。佑介はひとつ使い、航はまだ、ということだ。
「そういや航はどんなの使ってるんだ」
ふと思いついた佑介。
「僕のは部で揃えたやつ」
と、面の中に置いてあった手ぬぐいを取り出し、広げて見せた。
航の通う『桜谷高校』にちなみ、中心に桜の花をモチーフにした校章が藍色で染められてあった。「桜谷高校 剣道部」という文字が凛々しく書かれている。
伝統校らしいシンプルだが誇りを感じさせるものだった。

「航くん、佑介くんおはよう」
「月人」
「つっきー」
佑介と航が同時に振り向くと、ひとつ年下の相馬月人が立っていた。
小学生の頃から中学までは母親ともに尚壽館の稽古に通ってきていて、高校に入学してからは部活の方をメインにし、こちらには今は月一くらいで顔を出していた。
「・・・・航くん、『つっきー』はやめてよ;;」
月人は航をかるくにらみつける。。
「月人だから『つっきー』だよ。そのジャ○ーズばりのイケメンに合うと思うんだけど」
「・・・・いや、そーゆー問題じゃないだろ(^^;)」
佑介は航の隣で苦笑していた。
「佑介くんの言う通りだよ。・・・・ところで何してたの?」
と、佑介や航の手元を覗き込んだ。
「僕の手ぬぐいを佑介に見せてたんだよ」
ほら、と航は月人の目の前に広げた。
「・・・これって、試合で使うやつじゃないの?」
「使うけど、何枚もあるしね。・・・ちなみにつっきーのはどんなの?」
手ぬぐいに限らず、防具類も稽古用と試合用では違う。
試合用は今日航が持ってきた手ぬぐいのように、防具(主に胴にだが)に学校名や校章などが入っている揃いのものを使うのだ。
「(だからつっきーじゃないのに;;)・・・・俺のは母さんがお年始にどっかからもらってきたやつ」
そう言ってひろげた手ぬぐいの柄は今年の干支である牛の絵が染められていた。
「三羽がらすが集まって何をしてるかと思えば、手ぬぐい談義だなんて(笑)」
「真穂先生」
3人の声が重なった。
「でもねえ、牛はちょっといただけないわね」
月人の広げた手ぬぐいを見つつ、真穂は言う。
「そうですか?なんか恐そうで強そうなんですけど」
自分の手ぬぐいの牛をまじまじ眺める月人。
真穂はぷっと吹き出し。
「その柄は確かにそうだけど、牛じゃ素早い足捌きには程遠いでしょ?」
「・・・・母さんが俺にはこれだって;;」
「あらら。小枝さんたらひどいわ(笑)」
月人の母親の小枝は学生剣道の経験者で、月人が習い始めた時に復帰した。現在は四段である。
「もっと図々しくなれってことだろ。月人はどうにも押しが弱いから」
『のび太』な性格の月人は、実力はあるのに試合になると腰が引けてしまう傾向があるのだ。その辺りのことを航は言っているのだろう。
「それは俺だってわかってるけどさあ・・・・」
ぶちぶちと呟く月人。
佑介は会話に加わらず、先ほど咲子がくれた手ぬぐいをせっかくだから使おうと、袋を開け取り出していた。
(へえ。『天上大風(てんじょうたいふう)』か。風の乗って、空に高く舞い上がる感じだな)
真穂が、佑介のその手ぬぐいに気がつき。
「・・・・メリハリや力のない字ねえ」
と苦笑する。
「良寛の書らしいんですが」
手ぬぐいの袋の中に入っていた説明書きをちらりと見て佑介は言う。
「佑介くんには、もうちょっと剣道らしい力強い字の方があうんじゃないかしら。書いてある言葉はいいと思うけど」
「咲子さんからもらったものだし、俺は別に不満はないですから」
そう。手ぬぐいの柄や文字になど特にこだわりは持っていないのだ。
「佑介くんはそうでしょうね。でもそうはいっても咲子ももっと力のある字を選べばいいのに」
子供達のところにいる咲子を見ながら真穂は言い。
「ま、そろそろ稽古始めるからね」
と行ってしまった。
佑介は咲子が文字の強弱よりも、『天上大風』という言葉に惹かれたのだろうと思った。

「良寛って、誰だっけ?」
暢気な口調で月人が尋ねた。
「江戸時代の歌人だよ。幕末近いかな」
佑介が答える。
「え、そんな人いた?」
「月人~;;」
「代表的な歌でもあげたらわかりそうじゃないか」
航が言葉を添える。
「そうかもな。・・・・え~と『われときて…』は一茶だよな。『菜の花や…』は蕪村だし」
と、佑介が口に出せば。
「佑介、それ両方とも俳句(笑)」
航がすかさずつっこんだ。ちなみに、良寛も俳句を詠んでないわけではない。
「・・・・わかってるよ;;ちょっと待てよ。良寛の有名な歌って・・・・」
文系の中でも、国語(古典)は得意な佑介だ。航に言われる前に思い出したいところだ。
「・・・・『この宮の 森の木下に 子供らと 遊ぶ春日は くれずともよし』は、そうだよな?」
「正解(笑)」
確認の意味も込めて航を見ると、航はにっこり笑った。
が、月人は。
「知らないや、それも」
ばつの悪そうな笑みを浮かべて佑介と航を見る。
「月人~;;」
苦笑いを通り越してしまった。


「ところで今年は区民大会は出ないのか?」
そろそろ稽古前の素振りをしようと、航は面を置く。佑介も隣で同じように面を置いていた。
「今回は考えてないな(^^;)そもそも去年だって真穂先生にはめられたようなもんだったし;;」
「はめられたって・・・・」
航があっけにとられているので、佑介はかいつまんでこの時の経緯を話した。

「・・・・僕は真穂先生の気持ちわかるな。欲のなさは佑介のいいところだけど、それだけの腕を持っているんだから試合にもっと出て欲しいと思うのは当たり前のことだよ」
話を聞いた航はにこっと笑ってそう言う。
「航・・・・・」
「僕としては、高校でも剣道部に入って欲しかったしさ」
すっと竹刀を構える。
「・・・・」
佑介も竹刀を構えた。
佑介とて、入学した時はそのつもりでいたのだ。だが弓道部の練習風景を見たときに「これだ」というものを感じてしまったのだ。剣道ならここ、尚壽館でも出来るから・・・・という気持ちもあったのだと思う。
「あ、責めてるわけじゃないから。ただ佑介の剣道をもっと多くの人に見せたいって思ってるだけでさ」
大きく一振りする。
「ま、ちょっとしたぼやき」
そう言って航は苦笑いを浮かべた。

「・・・・・航はどうするんだ?」
そんな航をちらっと見て尋ねる佑介。
「インターハイの予選の後だし、模試ともかち合わなかったから出るよ。・・・・佑介が出ないなら、僕が優勝だな」
きっぱりと航は言う。
「すごい自信だけど、そうだな。航なら優勝だろうな」
佑介もさらりと言う。航の実力は承知の上だからだ。実際、区民大会レベルではないのだ。
「なんだったら、佑介は団体戦に出たらどうだ?」
「団体戦?」
「そ。個人ではそもそも優勝しちゃってるんだし、団体なら学校の部に所属してなくても道場単位で出られるからさ。そう、佑介と僕と月人で」
「え、俺も?;;」
さりげなく自分の名前が入っていて、黙ってふたりの会話を聞いていた月人は驚く。
「当然だよ。僕らは『三羽がらす』なんだから」
何を驚くことがあるのかと言わんばかりの航だ。
「ちょっと待て、航。団体って、五人だろ?あとふたりはどうするんだ;;」
ここ尚壽館に、高校生が他にも来ていないわけではないのだが、あまり接点がなかったりする。
「え?三人でもOKだろ。月人のおふくろさんは確か三人で団体に出てたと思ったけど」
「母さん達はそうだったけど、俺ら高校生は五人だと思うよ」
「普通はそうだろうなあ;;」

そうあれやこれやと話しているうちに、本格的に稽古開始の時間となった。
ひとまず団体戦出場に関しては保留ということに。

さて、どうなることやら。
2009.05.09 / Top↑
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