栞ちゃんと佑介くんが、栞ちゃんの姉咲子の嫁ぎ先に遊びにやってきます。
咲子の娘・芙美が「あそびにきて」と言ったからなんですが。

どんなことが起きるやら。

つづきをよむからどうぞ。






「おはようございます」
「あら、佑介くん、おはよう」
佑介が門の引き戸を開け中にくぐって入ると、幼馴染の栞の母で剣道の師匠でもある真穂が庭の花に水をやっていた。
真穂は老舗の呉服屋の娘だったゆえか、着物が普段着であった。今日は格子柄のすっきりとした木綿のものを着ている。
佑介が、春休みでもある今日早々に草壁家にやってきたのは、10歳離れた栞の姉の咲子のところに行くからで、それは。
「芙美がわがまま言ったものだから。・・・・せっかく部活の練習が休みだというのに悪いわね」
という真穂の言葉からもわかるように、咲子の娘の芙美が佑介に懐いており、家に遊びに来て欲しいとせがんだからだった。
「いえ、そんなことないです。栞も咲子さんのところに行くのは久しぶりだし、芙美ちゃんと遊ぶの楽しみって言ってましたよ」
「そう言ってもらえると助かるんだけど」
「佑くん、お待たせ」
立ち話をしている間に栞が玄関から出てきた。
今日の栞は淡いミントグリーンのチュニックをオフホワイトのカットソーの上に重ね、ロールアップジーンズを履いている。
姪っ子・芙美と遊びやすいようにと考えた服装だ。
そんな栞の姿に佑介は一瞬まぶしそうに目を細めた。
「今、来たばかりだよ」
「ホント?・・・あ、おかあさん、じじさまが呼んでたよ」
「あら、何かしら?・・・じゃあふたりとも気をつけていってらっしゃいね」
「いってきます」
栞は真穂に手を振り、佑介はぺこりと頭を下げた。

「ごめんね、待たせちゃって。ふーちゃんにあげようと思ったリボンがなかなか見つからなくて探していたものだから」
「たいして待ってないよ。それでリボンは見つかった?」
「ばっちり」
こんな会話を交わしながらふたりは駅へと向かう。
「・・・咲子さんちって確か中央区だったよな?」
「そう。中央区の日本橋人形町。だから大門駅から行こうと思って」
栞と佑介は浜松町界隈に住んでいるので、電車を使う時はJRの浜松町駅か都営浅草線の大門駅を利用することになる。咲子の住まいの人形町へは都営浅草線なら乗り換えなしで行かれるのだ。
「人形町か。じゃあ地下鉄で10分くらいだ」
「だからいつも来てるの、咲ちゃん。絋次お義兄さんもやさしいから」
「そういうことで怒るような人には見えないよな。・・・・で、人形町のどのあたり?ってきいてもくわしくはわからないけど」
「番地は二丁目だよ。水天宮とか明治座とかに近いかな」
ちなみに水天宮は蛎殻町、明治座は浜町にあり、どちらも人形町駅から歩いて行くことの出来る距離である。
「へえ。なんか「江戸情緒」って感じだな」
「う~ん、大通りは車も多いしオフィスビルも多いから微妙。でも通り一本中に入ると雰囲気違うかな」
「・・・深川の方が下町っぽいか」
栞の母・真穂の実家が深川にあり、祖母は表千家茶道の教授ゆえ季節になると茶会を催している。佑介も栞経由でうちうちの小さな会の時のみ何度かお客として呼ばれたことがあるので、深川界隈は多少わかるようだ。
「そうかもね。一応咲ちゃんのところは『昔ながらの人形町』かな。おばあちゃまは元芸妓さんだし」
「芸妓さん・・・。あれ?でもおじいさんは皇族の人たちが通うあの学校の出身だって、東都のクリスマスパーティの時、確か咲子さんそう言ってたような」
東都学院との弓道部の交流試合の後、より親睦を深めようと東都側が企画したクリスマスパーティがあり、そのパーティは「仮装パーティ」であった。
その時佑介と栞ははじめ「書生と女学生」のスタイルをしていたのが、いつの間にか会場に着ていた咲子(事前に栞が何を着るのかチェックしていたらしい)の「地味!」の一言でお色直しするはめになり、その時に佑介は絃次の祖父の制服を着させられ、栞は深川の曾祖母の娘時代の大振袖を着させられたのだった。
コンセプトは「昭和初期の良家のお嬢様とその婚約者」ということだった。
「うん。・・・・あのね、咲ちゃんからきいたんだけど、おおじいちゃまは実は元伯爵の次男で、芸妓だったおばあちゃまと恋に落ちて一緒になること決めたんだけど、おおじいちゃまのおうちが大反対したから駆け落ちしたんだって」
「駆け落ちか、情熱的だな。・・・・って、伯爵家の次男?」
「佑くんちだって子爵さまだったじゃない」
「今は極々フツーの家だよ」
「そうだね。・・・・でも世が世ならあたしは佑くんとこうして並んで歩けなかったのかな」
「なあに言ってんだよ。今はそんなこと関係ないよ」
そう言って佑介は栞の髪をくしゃっとした。
「さ、もう駅だぜ。芙美ちゃん待っているし、行こう」
栞の手を取り、階段を降りて行った。
佑介&栞・桜


2008.04.11 / Top↑
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