今日、6月18日は栞ちゃんのバースディです。

平日なので学校帰りにふたりでお祝いをしたわけですが、どんなバースディをすごしたかは、毬さんちの「佑遊草子」の方を読んでいただくことにしましょう(爆)

こちらでは、週末にあらためて「バースディ・デート」に出かけるふたりの模様をお届けしようと思いまする。
前編では、バースディ当日の回想場面が入るので、先立って本日アップをしました。
後編は21日にアップの予定です。

ではではつづきをよむからどうぞ。



「・・・・一駅だから、立っててもいいよな」

そう言って乗り込んだ新幹線。
品川ー新横浜間はほんの10分あまりということもあり、座席に座るほどでもないだろうと佑介と栞のふたりはデッキにいた。栞はドアを背にして立ち、その栞の姿を覆い隠すかのように佑介はその前に立っていた。

「新幹線を使うと、一時間もかからないんだね」
「そうだな。ちょっと交通費は高くつくけどな(笑)」
浜松町駅からJRで品川に出て乗り換えてきた。そのまま乗り換えずにその在来JR一本で新横浜駅まで行かれるのだが、時間もかかることだからと新幹線を使うことにしたのだ。帰りも同じルートで帰ってくるつもりだった。

今日、佑介と栞は小学校時代の同級生の徳成都に招待されたアイスショーを観戦するために会場である新横浜へと向かっていた。
このアイスショーはフィギュアスケート日本代表のエキシビションで、新しいシーズンが始まる前にそのシーズンの様々な大会で世界を相手に活躍した選手のみが出場を許されるものであった。(フィギュアスケートでは7月から新しいシーズンとなる)
都自身も初参加で、JGPシリーズ2位、初めて出場した全日本選手権での5位入賞と新人賞の獲得、さらには年初の高校選手権と国体の高校生の部に優勝した実力が認められ、来季はジュニアの特別強化指定選手となった。(今までは『強化指定』だった)
金曜日より3日間開催され、都が招待したのは最終日の日曜日。夕方6時から始まる夜の部 ・・・・いわゆる『千秋楽』であった。

「アイスショーを生で見るなんて初めてだから、どきどきしちゃう」
「確かに。・・・・しかも、世界選手権で優勝している選手も出場するんだしな。滅多にない機会だよ」
嬉しそうに頬を紅潮させている栞。そんな栞を佑介はやさしく微笑んで見ていた。



それは、栞の誕生日の日。
都は普段より練習を早めに切り上げて、久方ぶりに草壁家を訪れた。
門をくぐり玄関までの道程を数歩歩き、インターフォンを鳴らそうと思ったところで、目の前の引き戸がからりと開いた。

「徳成さん?!」
「え?・・・あ、土御門くん!」
開いた玄関の中に立っていたのは、栞の恋人の佑介だった。
都もびっくりしているが、佑介も予想外の人物が立っていて驚いた。引き戸の向こうに人影が映った時、てっきり栞の母親の真穂が帰って来たと思ったからだ。真穂は今日は警視庁へ出向き、自身の鍛錬も兼ねて指導にあたっていた。

・・・・そうであるからこそ、今まで栞と過ごしていたのだけれど。

都は佑介をまじまじと見上げる。(都は栞とほぼ同じくらいの背の高さだ)
「・・・・今まで一緒にいたんだよね?」
あえて、誰と?とは聞かない。
「あ、まあ;;」
もちろん佑介とて、言われなくてもわかる。
「今日は栞ちゃんの誕生日だし、あたしも栞ちゃんにプレゼントがあって来たんだけど」
と、ここでいったん言葉を切り、佑介越しにちらっと家の中を覗く。
「出直した方がいいのかな。恋人の土御門くんが帰るっていうのに、栞ちゃん見送りにも来られないみたいなんだもん」
そしてまた佑介に視線を戻した。
「え、いや、その。俺がいいって言ったんだ。明日また会えるから」
そうとでも言うしかなかった。
つい先ほどまでこの腕の中に栞を掻き抱いていたのだ。ゆっくり仕度をすればいいと言ったし、自分の前ではまだ恥ずかしくて脱がされたものを着られない栞は、きっと今頃それらを着ている筈だ。
「ふうん」
都は多くを語らない。佑介はなんだか居心地が悪くなってきた。
出来ることなら、真穂が帰ってくる前にここから退散したいのに。

------それは、叶わなかった。

「あら。めずらしい組み合わせね」
警視庁から帰ってきた真穂が立っていたから。
藤色と鳥の子色の市松模様に蜻蛉があしらわれた夏用の薄手の結城紬に、染めの絽塩瀬の帯を締めてすっきりと着こなしており、竹刀袋や形用の木刀の入った袋、さらには防具類の入ったバッグを持っていなければ、とても剣道の稽古から帰ってきた姿とは思えなかった。
「おばさん、こんにちは。」
都がにっこりと挨拶をする。
「こんにちは、都ちゃん。今日は練習お休みなの?」
都がフィギュアスケートの選手であることは、真穂も当然知っている。
「早めに切り上げてきたんです。栞ちゃんに誕生日のプレゼントを渡したくて」
「わざわざありがとうね。・・・・でも、肝心の栞の姿が見えないわね」
と、三和土に立つ佑介の向こう・・・・家の中に真穂は視線をめぐらした。
「先ほど来たばかりで、まだ声をかけてないんです」
横目で佑介を見つつ、都は答える。
「・・・・玄関を開けたところで、俺とばったり会ったから」
都はどこまでわかっているのだろうか。
あれこれと考えながら答える佑介だ。
「そう。・・・・にしても佑介くんの見送りに出てこないのはめづらしいわね」
意味深な笑みを浮かべる真穂。
この笑みの深い意味は考えたくない。
「俺がいいって言ったんです。・・・・その、明日も会えるし」
都に対して言ったのと同じ理由を言いながら、佑介はゆっくりと玄関の外へ出る。
自分が隠し事に向かない人間だということをこれまででよ~くわかっていたから、余計なことを言ってしまわないうちにとっとと帰りたかった。
「そうね。毎日一緒に行ってるんだから。・・・・あら、栞」
木綿のシンプルなワンピースを着た栞が廊下の奥から現れた。
佑介に「ゆっくり着替えればいい」と言われたのと恥ずかしさもあって、佑介が部屋から出て行ったあとにベッドからでて着替えたのだった。
「お帰りなさい、お母さん。お稽古お疲れさま」
ほんのりと頬を薄紅色に染めている栞。

(栞・・・・)
佑介は、早く帰ろうと思っていたのに栞の姿を認めると立ち止まってしまった。
まぶしそうに目を細め、栞が改めて美しい少女・・・・いや、女性なのだということを感じていた。
・・・・そして自惚れでなければ、自分とそういうことになってからさらに綺麗になったように思っていたのだった。

「ただいま。・・・・って、顔真っ赤にしてどうしたの」
真穂があきれたように言う。
栞は、自分を見つめる佑介の視線に気がついて、先ほどまでの出来事を思い出してしまったのだ。------ふたりですごした、親密な時のことを。
ゆえに、薄紅色どころではなくなっていた。
「え////;;な、なんでもないから;;」
「ほんとに?ならいいけど」
ちらりと佑介を盗み見すれば、こちらの顔も赤かった。
(仕方ないわね)
小さく溜息。
咎める気持ちはまったくないが、もう少し上手く表情に出ないようにしないと友人知人のすべてが知るところになってしまうのではないかと少々心配な真穂だ。
「あのね、都ちゃんが来てくれているわよ」
真穂が言うのと同時に、都はひょっこり顔を出す。
「都ちゃん!どうしたの?練習はもう終わったの?」
嬉しさをにじませて、栞は都のもとへ近づいた。
「うん。ちょっと早めに切り上げてね。・・・はい、これ。お誕生日おめでとう」
都は栞に綺麗に包装された長方形のものを差し出した。
「え?・・・・都ちゃん?!」
突然の都からのプレゼントに、栞は受け取ったもののなんだろうと小首をかしげる。
そんな栞に都はにっこりと笑って。
「ささやかなものなんだけど。あたしの気持ち」
「どうもありがとう、都ちゃん。・・・・嬉しいけど、でも、そんな良かったのに」
「気にしないで。それね、明日から始まるスケートのショーの招待券なんだ。・・・・あたしも出演する、ね(笑)」
「アイスショーの招待券?!都ちゃんも出るの?」
栞の瞳が見開いて、都をまじまじと見つめる。都は栞の視線を受け。
「憧れのショーでね、一度でも「日本代表」として試合を戦った選手なら出たいものなの。・・・・今回初めて出させてもらえることになって、もうすっごく嬉しくて。だから大好きな栞ちゃんに見て欲しいの。TV越しじゃない、本当のスケートを」
「都ちゃん・・・」
小学校にあがって友達になった時、もうすでに都はスケートを習っていた。並行してバレエも習っていたから一緒に遊べる時間は限られていたけれど、それでもその限られた時間を大切にしていたのだ。
「あ、そうそう。最終日の千秋楽の回だから、日中はゆっくり土御門くんとデート出来るよ(笑)デートの締めとしてふたりで来てくれればいいから」
悪戯っ子の表情で、都は栞と佑介に笑いかけた。
「徳成さん;;」
「都ちゃんたら////;;」
苦笑するふたりだった。

「千秋楽はサプライズがたくさんあるんだよ。それも楽しみにしててね」
そんな言葉を残して都は帰っていった。
夏至も近く日は長くなっていたが、それでも辺りは段々と夜の帳が落ちてきつつあり、危ないから送るよという佑介の言葉を振り切って。

真穂はいつの間にか家の中に入っていた。
栞と佑介は玄関から門までのわずかな距離を誰に邪魔されることなく並んで歩き、ゆっくりと別れを惜しんだのだった。



「都ちゃん、どんなプログラムを滑るのかな」
「去年の年末にTVで見たのとは違うものを滑るのか?」
佑介はフィギュアスケートについて、ほとんど知らない。
「多分。このアイスショーって、来季への壮行会も兼ねているみたいだから」
栞もそう詳しい方ではないが、都からチケットをもらって自分なりに少し調べたのだ。
「へえ。となると、新作のお披露目会でもあるんだな」
「そうだね(笑)・・・・全日本での『Sing Sing Sing』もお洒落でかわいくって、都ちゃんにすごく合ってからまた見たいなって思うけど、新しいのも見たいし。もちろん他の選手のも楽しみだし。・・・・・都ちゃんからのプレゼント、とっても嬉しい」
やさしく自分を見つめる佑介に、はにかむように栞は笑いかけた。
「よかったな」
栞の喜ぶ顔を見ているだけで、自分もこころが温かくなる。佑介の笑みが深くなった。

「・・・・佑くんのプレゼントはもっと嬉しかったよ。素敵な指輪をありがとう」
誕生日に佑介からプレゼントされた自身の指にはめた指輪を見ながら栞は言う。小さな花の花びらに淡いピンク色の石が埋め込まれたもの。『ローズ・クォーツ』という名の石で飾られた指輪は、佑介が栞のイメージに合わせ選んだものだ。
「でもいいのかな。あたしはケーキを作っただけだったのに」
ぽつりと呟く。
佑介は指輪をはめた右手を掴み、指先をそっとくちづけた。
「ゆ、佑くん//////;;」
その石の色のような薄紅色だった頬が、紅色に染まる。
「・・・・とても大事なものをもらったから。俺の、一生の宝物になるものを」
真っ直ぐに栞を見つめて言い、それから自分の方へ引き寄せて包み込むように栞を抱き締めた。抱き締められた栞はたくましい佑介の胸にそっと頬を寄せる。ほのかに香るライム。
「あたしにとっても、そう。佑くんだから・・・・・」
それ以上の言葉はいらなかった。


速度を上げていた新幹線も駅が近づきつつあるのか少しづつ速度を抑え、ドアの窓から見える景色がいくぶんゆるやかに流れはじめた。
「そろそろ着くみたいだな」
名残惜しげに栞を放す。
まもなくの到着を知らせる車内アナウンスが聴こえた。



会場となるスケートセンターは駅から歩いて5分ほどの場所にある。事前にインターネットで場所を調べておいたが、駅の改札を抜けると、会場までの案内の看板を持った係の人がすでに立っていた。信号や曲がり角などきちんと要所要所におり、迷うことなくたどり着けたのだった。

中に入れば、ロビーであるそこは人でごった返している。
せっかくだから記念にパンフレットでもと一冊購入し、ぱらぱらとめくれば、都の紹介頁があった。
その頁は見開きで、昨季のFPやSPの写真、簡単なプロフィールに来季の抱負などが掲載されていた。
「徳成さんって、すごい選手なんだな」
しみじみと感心する佑介。プロフィール欄にはこれまでの戦績が載せられていた。

都は国際試合での優勝経験こそないが、出場した試合では必ず入賞するという安定した強さを持っており、大崩れしない選手であった。ただ、スケーティングスキルは高いし踊りもいいが、ジャンプでは高難度の「フリップ」や「ルッツ」が跳べなかったのもあって得点が伸びずにいたのだが、世界ジュニアに出場できなかった悔しさがばねとなって、その二種類のジャンプもほぼ習得するに至った。「特別強化指定」になったのも、それらを含め活躍が期待されているからであろう。

「そうだね。海外の試合にも出場してるし。・・・でも都ちゃんは、都ちゃんだから」
一緒にパンフレットを見ながら栞は言う。
特別な目で見られるのを嫌う都。今は特にフィギュアスケートはブームになっていて、なかでも女子選手は色々な意味で注目を浴びやすかった。
だが栞にとっては、あくまでも小学校時代からの仲のいい友人なのだ。
「ああ・・・・。そう、だな」
『都は都』だと、なんの飾りもなくあっさりと言えるのが栞の強さかもしれない。佑介のことも、『佑介は佑介で、誰でもない』と言ってくれたように。

「?」
とんっと背中に何かが当たった感触。
「まあ、ごめんなさい;;」
「ほら。楽しいのはわかるけど、ちゃんと前見てって言ったよ?」
(あれ?この声は・・・・)
聞き覚えのある声。ほんの少しばかり語尾がかるくあがる話し方。
佑介はそっと振り返る。栞も同じように。
そこには。
「橘さん!」
「日夏里ちゃん」
翠嵐女子の橘日夏里がちんまりと立っていた。
2009.06.18 / Top↑
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