後編です。
なんとかやっと終わりました;;

でもあとで修正するかもです(--;)

つづきをよむからどうぞ。



名残惜しくも(?)佑介と栞は日夏里とすみれ母子と別れて、都が招待してくれた座席についていた。その座席は東側一列目・・・・アリーナ席で正面にあたり、選手の演技が一番よく見える場所であった。
リンク内はロビーと違いかなり冷える。初めの数分は涼しい程度なのだが、30分もたってくると寒くなってくるのだ。
ゆえに、今日の栞はめずらしくジーンズ姿で、ふたりとも持って来ていた長袖の上着をはおり、フリースの膝掛けをかけている。アイスショー初観戦のふたりに都が事前にアドバイスをしたことをしっかりと実践していた。


「日夏里ちゃんのお母さんって、なんていうのか、パワフルだね(^^;)」
「そうだな。外見からは想像できないよな(笑)」
小柄で華奢で少女のような風貌の、かわいらしい雰囲気をまとうすみれ。だが、中身は男ふたりの母親なだけあって豪快さも感じられたのだ。
「でも、とっても明るくて素敵だな。ちょっと強引ではあったけど、日夏里ちゃんちに行くの楽しみだもの」
「しかしなあ;;ほんとに俺も行っていいのやら」
「『ふたりで』って言ってたんだから(笑)それに日夏里ちゃんのおにいさん剣道やってるんだし、話が合うかもよ」
日夏里の二番目の兄・七星は小学生の頃から剣道を習っており、大学も剣道が強いことを基準にして入学したくらいだ。(母のすみれに言わせれば、「せめて剣道で引っかかってくれないとねえ;;」とのことなのだが)
三年生であるの今は四段の段位を持っていた。
「・・・・おにいさん、家にいるのか;;」
超がつくほどシスター・コンプレックスな兄だときく。在宅していたら、自分は門前払いをくうのではないだろうか;;
そんな佑介の考えがわかったのだろう、栞はくすくすと笑いながら。
「いなくても、帰ってきそうだよ?・・・・日夏里ちゃんに「悪い虫がついた」って(笑)」
めったにうろたえない佑介の姿を想像したらしい。
「こら(笑)」
佑介も笑いを含ませながら、栞の肩を抱き自分の方へ引き寄せる。
「佑くん?」
「・・・・冷えてきたからな。この方があったかいだろ?」
「うん・・・・」
栞の頬がほんのりと朱に染まったのだった。


ひとつ、またひとつと照明が落とされ、場内が暗くなっていく。
そして。

音楽が鳴るのと同時に出演スケーターたちが滑り出てきた。佑介と栞の前も風のように滑りぬけていく。

「あ、都ちゃん」
笑顔で手を振りながら都が滑っていった。

いよいよショーの始まりだ。様々な色の照明がリンクのあちらこちらを照らし出す。
オープニングは出演スケーター総出による氷上での舞踏会。
アップテンポに編曲された3拍子のワルツにあわせ、男女仲良くペアになって華麗に舞う。

「都ちゃんはどの選手と滑ってるかな」
都が気になるが、ひとりの選手だけに絞って見るのはもったいなかった。オープニングのダンスは、全体でひとつのプログラムなのだ。
「ちょっと見当たらないな。・・・・2月に初めてスケートをしたけど、あの思っていたより重いスケート靴を履いて、ジャンプしたりスピンしたり。・・・・・すごいよな、ほんとに」
初めてだということももちろんあったが、自分は普通に滑るのが精一杯であった。だが、目の前の選手達はスケート靴の重さなど微塵も感じさせず、踊り滑っているのだ。そのように見せるためには、相当の練習を積まなければ出来ないはずだ。
一見華やかで、常に「芸術か、スポーツか」と議論されるが、フィギュアスケートはまぎれもなく「スポーツ」であるのだと思わされた。


オープニングのダンスが終わると、ジュニアの選手達から順番に新プログラムのお披露目となる。それはSP(ショートプログラム)だったりEX(エキシビジョン)だったりするのだが。
出来立てのほやほやのプログラムは、まだ選手のからだに馴染んでおらずひととおり覚えてきたのを「ただこなしている」感が強いのだが、滑り込んでいくうちにどんどんその内容を変えていき、選手と一体になっていくのだ。
フィギュアスケートのファン達は、滑るごとにこなれていくプログラムを追いかけていくのも楽しみのひとつであった。

「都ちゃん、何番目かな」
購入したパンフレットには、滑走順は出ていなかった。
このショーは二部構成で、例年第一部は世界ジュニア代表選手、全日本ジュニア上位選手そしてシニアの全日本4~6位選手の順で滑っていたので、都は全日本ジュニア3位でシニアの全日本5位の選手なのだから、5,6番目あたりになるだろう。
「よくわからないけど、そろそろじゃないのか」
リンクでは、競技では使用できないボーカル入りの曲で元気に滑った選手の演技が終わっていた。


『・・・翠嵐女子高等学校。徳成都さん』
都の名前がコールされた。
拍手と歓声のなか都は、出演選手の入退場口である北側カーテンの向こうからすーっと滑り出てきた。
リンクの真ん中まで来ると、そこで2回3回とくるりと回り、始まりのポーズをとる。

ゆっくりと音楽が流れ出した。
淡い色のライトに照らし出され、エメラルドグリーンに細かなスパンコールがほどこされた衣装の都が浮かび上がる。
手には、白い百合の花。

静かに厳かに始まる弦の調べに合わせて、ゆるやかに滑り出す。
それは、フィギュアスケートの基礎であるコンパルソリーのステップだ。
手に持つ百合の花はそっとかかげられている。

一本の弦の音にもう一本の音が追いかけて重なっていく。
都はどこまでもなめらかに氷の上を滑る。右に左に細かなターンを繰り返して。

「この曲って、なんだったかな。よく聴くけど」
「『カノン』。パッヘルベルの『カノン』だと思う」
滑る都を目で追いながら、佑介の疑問に栞は答える。



三本のヴァイオリンが音を追いかけながら重なり、通奏低音のコントラバスはあくまでもゆったりと同じ音を繰り返していた。
音が綺麗に重ねあわさると曲の調べも速くなり、それにあわせて都の滑るスピードがあがっていって、ジャンプ。
すーっと流れるように着地をすれば、拍手が沸き起こった。

透明感あふれる音楽と絡まるようにエッジを倒して深く深く滑る。
花を胸の前で両手で持ちながら、レイバックスピン。
スカートがふうわりとひろがった。

「去年見た『古事記』は力強かったのに。曲が変わるだけでまったくちがう雰囲気の世界を描けるものなんだな」
「うん・・・・。月並みな言葉になっちゃうけど、癒される感じだよね」

氷上の都は、にこやかな笑顔を浮かべながらキャッチフットスパイラルでリンクを横切っている。水の上を滑る船のように。
都の滑りに目が離せない。

「・・・・え?」
「お誕生日おめでとう。・・・・・土御門くんと仲良くね」
自分達の方へ滑り寄ってきたかと思うと、栞の膝の上にそっと持っていた百合の花を置き、にっこりと笑って都はまたリンクの中央へ戻っていった。
「都ちゃん・・・・」
栞の瞳にみるみる涙があふれる。

何かを祈るような、捧げるようなやさしいやわらかなステップでリンクを滑る。
都の想いが伝わってくる。

曲の終わりは、都が得意なドーナツ・スピン。右腕がしなやかに動く。
そして、最後のヴァイオリンの音にあわせて静かにひざまずき、両手を組んだのだった。


沸き起こる歓声と拍手。
都は立ち上がり、笑顔でそれらに応える。栞たちが座る方向にも挨拶の礼。

「よかったな」
「うん・・・・」
都は言葉にして多くを語らなかったけれど、その想いはしっかりと伝わってきた。
それは、すべてのことに対しての祝福の想いだ。

佑介は涙をぬぐう栞をさらに引き寄せて、その髪にそっとキスをした。


第一部が終わり、休憩が20分ほど入って第二部となった。
第二部は海外からのゲストスケーターや国内のプロスケーターが滑り、その後に世界選手権に出場し活躍をした日本代表の選手達が次々と滑ったのだった。

TVの画面越しに見ていた選手達が、すぐ目の前を風を切って滑りぬけていく。
リンクの上で、ステップを踏み、くるくるとスピンをまわり、大きく弧を描くようにジャンプを跳ぶ。
TVからは伝わらないスピード感と迫力。
そして、どの選手達からも伝えたいなにかを感じ取れ・・・・・。
栞と佑介は、すっかり魅了されたのだった。


千秋楽のフィナーレは「お祭り」だった。
オープニングと同じように、出演スケーター総出でやはりダンスを踊っていたのだけれど。

ひとりの男子選手が輪から抜け出し、スピードをぐんぐん上げて跳び上がる。
きれいな放物線を描き降りる3回転半。
うわあっと歓声が起こる。
負けるものかと言わんばかりに、別の選手も同じようにジャンプ。
果敢に4回転に挑み、着地はちょっと失敗したが、大きな拍手に包まれた。

「男子選手のジャンプって、すっごい迫力!」
「・・・・着地した時の音もすごいんだな;;」
これもTVからでは伝わらないもの。

もう、ダンスを踊っている選手はいなかった。
どの選手も自分の得意なものを見せ、時にジャンプを跳びあい、きまぐれにペアを組んで一緒に滑り出す。
仲間の選手のプログラムを大げさに真似して笑いを誘う。

「来季も一緒にがんばろう」

ライバルではあるけれど、それ以上につらいことも嬉しいこともともに過ごしてきた仲間達。

観客達もおおいに巻き込んで、ショーの幕は降りたのだった。



駅までの帰り道。
興奮さめやらぬ顔の人たちが多くいる。きっと自分達もそのひとりなんだろうなと思いつつ歩く。

「すっごく楽しかった。都ちゃんには感謝してもしきれないな」
「・・・・・」
笑顔の栞をやさしく見つめる佑介。佑介にも都の想いはじゅうぶんに伝わっていた。

「栞ちゃん、土御門さん」
「日夏里ちゃん」
ぴょこっとふたりに並ぶ日夏里。
「ごめんね、邪魔しちゃって」
「そんなことないよ」
「すぐ、退散するから。・・・・・あのね、今日のショーTVで放送してたって、知ってる?」
「ううん」
近頃は競技会だけでなく、ショーもよくTVで放映しているのは知っていたけれど。
「映ってたかどうかは、わからないけど、でもあたしはばっちり目撃しちゃったから・・・・」
「なにを?」
言ってもいいの?というよな上目遣いの瞳。戸惑う栞と佑介だが、うなづく。
「土御門さんが、栞ちゃんにキスしたとこ」
途端、ふたりの顔が赤くなった。
「ま、口じゃなくって髪にだったのがまだ救いかなあ」
にっと悪戯っ子の表情だ。
「橘さんっ!;;」
「うちの学園祭でもそうだったけど、あんまり人前でそういうことしちゃだめだよ。・・・・いくら栞ちゃんがかわいくってもね!」
そう言うと、かろやかに日夏里は後方へ走り去った。

佑介と栞が振り返れば、にっこり笑うすみれと穏やかな笑顔を浮かべた恰幅のいい紳士が立っていて。
日夏里はその紳士に思いっきり抱きついた。
そして満面の笑顔で、佑介と栞に手を振る。

「もしかして、橘さんのお父さん・・・・・?」
「かな?」
自然と栞と佑介の顔にも笑みが浮ぶ。


しあわせな誕生日。
あたたかい気持ちがたくさんの誕生日。

来年もまた、佑介とこうやってすごせたらいいと思う栞だった。
2009.06.21
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