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とうとう区民大会当日となりました。

今回は団体で航くんやつっきー(月人)と一緒に出場する佑介くん、そして剣道に復帰した咲子もやはり団体で出場します。
尚壽館で稽古する他の高校生チームも参戦するようで。
どんなことが起きますやら。

つづきをよむからどうぞ。



梅雨の真っ只中である今日、雨は降っておらず、時折雲間から太陽が顔を出している。
佑介らが出場する区民大会は先ほど開会式を終え、今は形の演武が披露されていた。



「今年は、なんで真穂くんじゃないのかって、随分言われてしまったよ(笑)」
そう言って苦笑を浮かべながら、真穂と話しているすらっと背の高い初老の紳士。
「昨年は先生にお願いして演武をさせていただいたのですから。無理は言えませんわ」
にっこりと笑う真穂。

昨年の区民大会で真穂は黒紋付に仙台平の袴といういでたちで、剣道における「形」の披露をしたのだ。高校に入学して以来、試合というものに出場していなかった愛弟子の佑介を出場させるためにだ。
・・・・・ただその時は、「形の演武」ではなく「個人戦に出場」と言っていたのだが。
大会当日の朝に「真穂は試合ではなく、形の演武をやる」と聞かされた佑介は、まんまとはめられたと思ったものだった。

「ひとたび竹刀を握ると、姫のような容姿に鬼神が宿る」ということから『鬼姫』と称された真穂の演武は実に美しいもので、今年もそれが見られると期待した大会関係者や出場者は多かったらしい。それゆえに、真穂の師匠・寒河江嵩一(さがえ しゅういち)はあちらこちらから不満の声をあげられ、先ほどのようにぼやいていたのだ。

「無理はしてないけどねえ。・・・・まあ、後進の指導もいいけど、真穂くんの闘いぶりもまた見たいものだよ。『全日本』での決勝戦は忘れられないから」
その決勝戦を思い出すかのように、寒河江は遠くに視線をむける。

真穂は過去二回全日本に出場していた。もう20年ほども前になろうか。
当時の真穂はすでに直哉と結婚し、咲子も生まれていた。同年代の女性たちが引退という二文字を選択するなか、真穂は「生涯現役」という覚悟で剣の道に望んでいた。
そして、二度目の全日本。
決勝戦の対戦相手は大学生で、たがいに有効となる一本が取れずに時間だけが過ぎていった。
緊迫する空間。
先に仕掛けたのは真穂だった。真穂の剣道は「攻め」の剣道だ。
打つ。かわす。捌く。
一瞬の隙も逃さずに。
-----どちらが勝ってもおかしくない試合だった。
真穂は面を、相手は胴を打っていた。
ほんのわずかな差で、真穂の面はかわされていたのだ。
・・・・・いまだ語り草となっている試合であった。

「そんな昔の話、お恥ずかしい限りです。・・・・今は、あのこたちの成長ぶりを見ているのが嬉しくて。私は、古巣のみなさんが鍛えてくださっておりますから」
少し離れた場所で、形の演武をじっと見ている航や佑介たちに視線をむける真穂。
「あんな秘蔵っ子がいるのだから、気持ちはわからなくもないが。・・・・昨年は本当に驚かされた(笑)今年は今年で、インターハイの出場権を勝ち取るような子を出してくるし」
寒河江もまた、真穂と同じ場所に目を向ける。
(みな、いい瞳をしている)
「草壁先生もさぞや喜んでおられるのだろうね」
ふたたびにっこりと真穂は笑う。その笑顔に寒河江も満足そうに頷いた。
「ま、直哉くんも交えて、また飲みに行くことにしよう」
「はい、いつでも」
関係者席に戻っていく、寒河江を見送った。


今年は、七段と六段の段位を持つ男性ふたりによる演武だった。演武の披露が終われば、いよいよ試合開始となる。

「さ~、早く試合始まらないかな。もう、腕が鳴って♪」
にっと笑って、竹刀を一振りする航。
この区民大会は区が所有するスポーツセンターを使用して開かれていた。今、航や佑介たちは試合会場となるメインの大武道場から出て、準備運動のための小武道場にいた。
「演武も終わったし、もう始まるって(^^;)・・・・まったく、インターハイ出場を決めたのに浮かれて足元掬われないようにしろよ」
昨日のインターハイ東京都代表をかけた、予選会。航は一本負けの惜敗・準優勝だったが、二枚のうちの一枚である代表切符を掴みとった。
「ありえないね、そんなこと。・・・・優勝するのは僕なんだから」
すっと細められる瞳。
どちらかというと童顔でやさしげな面輪の航だが、「剣士」としての表情はまるで違っていた。
「今からそんなに気合入れちゃうと、途中でへばるわよ」
「咲子さん」
試合用の白い道着に防具をつけた咲子が立っていた。
「航くんは団体と個人の両方に出るんでしょ?ペース配分考えなきゃ」
「そうそう。・・・でも、うちの月人にもそのくらいの気概があればねえ」
そうぼやくのは月人の母親の小枝だ。小枝も今日は白い道着である。
言われている当の月人はちょっと席をはずしていた。
「小枝さんも個人と団体で出るんですよね」
「ええ。・・・・って、すずさんまだ?」
小枝はあたりを見回す。
すずさんこと御津田涼音(みつた すずね)は咲子や小枝と一緒に婦人の部の団体戦に出場するメンバーのひとりだ。
「お子さんの方にいってるみたいですよ。初出場だし。多分、もう来るんじゃないかと思うけど・・・・」
涼音はふたりの子供と一緒に剣道を習い始め、そろって尚壽館へ通っていた。さっぱりとした気性の明るい女性である。
「すずさんが来ないと手ぬぐいがないのよ。なんか揃いの物を買ってきたから、それを使おうって昨日メールが来て」
「そうだったんですか。すずさんの手ぬぐいっていつも面白いから、どんなの買ってきたんでしょうね」
くすりと咲子は笑う。
どこで見つけてくるのか、涼音の手ぬぐいは変わったものが多かった。涼音いわく、「剣道で唯一出来るお洒落だし」とのことである。

「あ、すずさん来た」
白い道着は嫌いという涼音はいつもの紺色の道着姿だ。
「ごめんね~。もう、陸(りく)のやつが「おかあさ~ん、僕こわいから試合出たくない」とか、この後の及んでぐずるもんだから、ちょっと一発活を入れてて」
「陸が?大丈夫なの」
「大丈夫、大丈夫。海(うみ)にも「おにいちゃん、なっさけな~」って思い切りばかにされて、それはさすがに悔しかったみたいで「・・・・出る」だってさ。だったら初めからんなこと言わなきゃいいのに」
陸と海は涼音の子供で、二卵性の双子だ。今は小学校5年生である。
「すずさんてば(^^;)」
「陸と海の性格が逆ならよかったのに。・・・・あ、これ手ぬぐい」
そう言って、小枝と咲子に手ぬぐいを手渡した。
それは綺麗なピンク地に白抜きで小桜が散らされたものだった。
「あら、素敵じゃない」
と、小枝が言うと。
「ありがと。これ、『姥桜手ぬぐい』だから」
にっこりと涼音は笑う。
「あら(笑)・・・・それじゃ、私はまだまだメンバーに入れないですね」
『姥桜』とは、盛りを過ぎてもなお美しさや色気が残っている女性のことを差す。謙遜の意でよく使われるが、本来は娘盛りを過ぎても美しい女性のことで、褒め言葉なのだ。
小枝と涼音は40代前半。咲子はまだ20代である。
「だから今回は特別ということで。・・・・・もっとオンナを磨かなくちゃね♪」
楽しそうな涼音。
「がんばりますわ(笑)」
咲子にも笑顔が浮ぶ。
「すずさんたら」
小枝も笑っていた。

先鋒・涼音、中堅・咲子、大将・小枝の尚壽館・婦人部チーム、そろそろ参戦である。
三人は面と竹刀を持ち、試合会場へと歩き出した。


2009.06.28 / Top↑
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