久々の「IF」シリーズでございます(^^;)
ネタはあれど、10年後のお話でパラレルだからいつでもいいわ~としばし放置してましたら、ここにきて毬さんが2本続けて書いてくれまして、その2本目の「想いの奥にあるのは」を読んだら落っこちてきました(笑)
毬さんの話が桐梧側のことなら、こちらは星野家女性陣側の話でございます。
いえ、本当なら桐梧の話もこっちに落ちてきていいものなんですが;;

なにはともあれ、キャラの10年後のパラレルな世界。
よんでみてもいいよ、と思う方はつづきをよむからどうぞ。






夫の絋次のワイシャツのアイロンがけを終え、ふと時計を見れば、三女の蒔絵の幼稚園の降園時間が近づいていた。
手早くその場を片付け、四女の草乃を連れて迎えに行くので草乃を探すと、曾祖母のやち代の傍ですうすうと健やかな寝息をたてていた。
咲子の顔を見るとやち代は、「見ているから、置いて行っといで」と言う。その言葉に咲子は甘えて、幼稚園に向かった。

蒔絵の通う区立幼稚園は家から歩いて5分ほどの距離のところにあり、次女の萌や長男の桐梧が通う小学校に併設されていた。
その萌や桐梧たちもそろそろ下校時間の筈だ。静かだった家の中が、途端に賑やかになる。
(今日のおやつは何にしようかしら。最近良く食べるようになったから、たくさん用意しておかないとね)
くすりと咲子は笑った。



蒔絵を連れて家に戻れば、草乃が起きていてやち代と座卓でお茶を飲んでいた。蒔絵も手洗いうがいをし着替えを済ませて、そこに加わった。
当たり前のように着物に着替えた蒔絵に苦笑しつつ、咲子は居間にいる3人のためのお茶菓子を用意する。
今日のお菓子は「くずもち」で、本わらび粉を使った微妙な食感の甘さ控えめのものだった。
蒔絵はそのままでも大丈夫なようだが、三歳の草乃には食べずらいと思い、咲子は黒蜜をかけてやった。

「今日のはまた、ずいぶんと品のいい菓子だねえ」
軽くまぶしてあるきな粉をはたき、やち代は黒文字に差したもちを口に入れた。
「いただきものよ、やち代さん。ほら、お弟子さんの・・・」
と、咲子が言ったところで、がらりと玄関の引き戸が開いたかと思うと、ばたばたと廊下を走る音がして。
「おかあさん、とーご帰ってる?!」
血相を変えた萌がそこにいた。


「帰ってるって、一緒じゃなかったの?今日は全学年一斉下校の日でしょう?」
咲子は立ち上がり、萌の傍へ行き、落ち着きなさいとランドセルを下ろさせて背を撫でる。
三年生の萌と二年生の桐梧では萌の方が授業時間が多いので下校時間も違うのだが、木曜日だけ全学年が同じ下校時間になるのだ。それゆえ、普段は別々に帰ってくるふたりもこの日はほとんど揃って帰ってきていた。
「そうだけど、あたしがくつばこに行った時、桐梧いなくて。少し待ったけど来ないから、だから桐梧のクラスの子つかまえて聞いたら、『もう、帰ったよ』って言うの。それで急いで帰ってきたのに。・・・・なんで家にいないの?」
くしゃくしゃっと、萌の表情が崩れる。
「どこかで寄り道してるんじゃないかい?」
そっと聞くやち代に、ふるふると首を振り。
「桐梧の行きそうなところは寄りながら帰ってきたから・・・・」
そして俯いてしまった。
そんな萌の様子に。
「・・・・萌。お母さんになにか隠してない?」
「!」
「いつもの萌なら、桐梧が先に帰ったくらいでそんな風に慌てないでしょう」
咲子は娘の顔を見て、ゆっくりと穏やかに尋ねた。
萌は、もう今にも泣き出しそうに見える。
活発で男勝りな萌は、年子の弟の桐梧と何かというと喧嘩をしあう仲だ。
「隠し事はなしよ。・・・・桐梧のことは心配だけど、まずは何があったのかちゃんと話してからね」
「おかあ・・・・さ・・・・ん」
とうとう萌はわっと泣き出してしまった。


桐梧への「それ」は今に始まったことではなかったという。
「いじめ」というほどのことではないが、子供は悪意なく無邪気に相手を傷つけるものだ。

-----桐梧の両親である絋次と咲子は、とても夫婦仲がいい。
夫婦仲がいいのは子供達にとって悪いことではないのだが、その仲の良さの程度にもよるだろう。
絋次は、妻の咲子にあふれんばかりの愛情を常に示すのだ。家の中だろうが外だろうが。
それは、海外でなら普通にされている行為ではある。でもここは日本で、眉を顰める人の方が断然多いのだ。
長女で中学一年の芙美には、父親のその行為はもう慣れた「日常」のひとつにしか過ぎないのだが、それでも幼い弟妹達とともに「自分たちの親は周りの親と違う」という認識はしっかりと根付いてしまっていた。
そんな風に自分らでも思っているところへ、桐梧はクラスメイトらにからかわれていたのだった。

小学校にあがると同時に、弓道でインカレを制覇した父親に憧れて桐梧も弓道を習い始めた。
一時期弓道をやめていた絋次も、この頃は義弟の佑介とともに時々は道場に通っていたので、桐梧としては普段あまり話せない父親と話をすることが出来て、いろいろ教えてもらえるのではないかと密かに思っていたのだ。
だが、その期待は裏切られてしまった。
絋次は桐梧を自分の師匠の都竹に紹介すると、そのまま指導も頼んでしまったのだ。
都竹は「仕方ないですねえ」と苦笑していたが、一緒に来ていた佑介は、慌てて自分ももちろん教えるからと顔色を変えていた桐梧に言ったものだった。
佑介はあとで絋次になんで自ら教えないのかと尋ねた。絋次はただ、「自分は教えるのに向かない」と一言告げたのみだった。

佑介に対しては、佑介が高校生の頃から本当の弟のように接している絋次なのに、何故自分の子供・・・・・『娘』ではなく『息子』にそれが出来ないのだろうか。
息子との距離感を測りかねているようなのだ。
絋次としては、どの子供にも同じように愛情を注いでいるのだが、その「距離感」が桐梧に寂しい気持ちを抱かせた。
そこに幼稚園の時からの苦手意識が加わり、大好きな母親の咲子が困る行為を平然とする父親に反抗心を抱くようになるのは無理もなかった。

父親の絋次に対し、すでに複雑な思いを抱いていた桐梧。
萌ももちろん同じようにからかわれていたのだが、むきにならずにかわしていれば、相手はつまらなくなって次第に言わなくなっていた。
けれど桐梧にはそれは出来なかったのだ。

何かにつけからかわれ、その度ごとに言い返して。
そして今日も。

「おまえんとこの親って、いつもあんなことしてるの?」
「人の前じゃ、ふつーはしないよな~、俺んちの親もしないし」
「絶対、ちょっと変だよな」

桐梧はさーっと顔色を変え、「よけいなお世話だ!ばかやろう」と捨て台詞を残して走り去ったのだ。
萌はこのことを桐梧の友達から聞いて、慌てて後を追ったのだが、すでに桐梧の姿はどこにも見当たらなかった。

こんなことになるのなら、もっと早くになんとかしてあげればよかった。
桐梧自身は絶対萌に、「親のことでからかわれている」などと口が裂けても言わないだろうが、萌は知っていたのだ。桐梧がからかわれている現場も見ていたのだ。
もう我慢が出来なくて、辛抱も出来なくて、桐梧は自分を待てずにいなくなってしまったのだ。


「おかあさん、ごめんなさい」
泣きながら謝る萌。
「謝らなくていいの。萌が悪いんじゃないんだからね」
咲子に抱きついて、それでも萌はまだごめんなさいと言う。
そこへ電話が鳴った。
「もしもし?」
咲子が出る前に、ちょうど学校から帰ってきた芙美が受話器を取り上げていた。今日は部活のない日なので、早い帰宅だった。
芙美は一言二言話し。
「お母さん、しおちゃんから」
「しーちゃん?」
そして咲子に受話器を差し出す。なんだろうと思いつつ、咲子は芙美からそれを受け取った。
咲子が話し始めたので、芙美は咲子に抱きついている萌をそっと引き剥がし、どうしたの?としゃがみこんで萌を下から見上げた。萌はまたぽろぽろと涙の粒を落とし始めた。


「・・・・わかったわ。・・・そう。ありがとね、しーちゃん。・・・・じゃあ、よろしくお願いします」
一呼吸置いて、咲子は電話を切り、そして大きく溜息をついた。

いなくなった桐梧の居場所が判明した。
ランドセルを背負ったまま土御門家の門前にぽつんと立っていたのを、仕事帰りの佑介が見つけたというのだ。今日は午後の授業と部活がなかったため、佑介は早退していた。
桐梧に限らず萌にも、「なにかの時のために」と咲子は校章の中に百円玉を一枚忍ばさせていた。その百円玉を使って地下鉄の切符を買い、叔父の家に行ってしまったということのようだった。
桐梧は初めはただ泣いていたが、佑介とゆっくり話をして今は落ち着いたので、夕食を食べた後に車で送っていくと栞は言った。

「お母さん、桐梧ってばゆうちゃんのとこに行っちゃってたの?」
母親の咲子を気遣うように、芙美が言う。
芙美は咲子が電話をしている間、萌を慰めつつ曾祖母のやち代から話を聞いたようだ。
咲子は芙美の隣に立つ萌の頭をそっと撫で、静かに頷いた。
「ゆうちゃんのとこなら安心だけど、お母さんが心配するってことは考えなかったのかな、桐梧は。・・・・萌のことも泣かせて」
落ちてくる涙をそのままに、唇を噛み締めている萌。芙美は持っていたハンカチでやさしくその涙を拭う。
「芙美ねえ・・・・・」
「帰ってきたら、きっちり落とし前つけさせなきゃ!身内とはいえ、オンナノコを泣かせるのは最低だもん」
「おやおや、勇ましいねえ。芙美は」
居間の座卓に蒔絵と草乃と一緒に座っていたやち代が、ほんの少し眉を上げ言う。
「・・・・ばーばだって、いつもそう言ってるよ?」
けろりと言い返す芙美。
「ああ、その通りさ。でも一番悪いのはあの莫迦だから」
やち代の言う「あの莫迦」は当然のことながら、桐梧ではなく桐梧の父親の絋次のことを差している。
だが、その「莫迦」を育てたのは当のやち代本人で。
とはいえ、そこはあえて突っ込まない方が無難なのだ。
「やち代さんたら;;」
だから苦笑いの咲子だ。
「一週間くらいお預けしておやり。そうすれば懲りるだろ」
「やち代さんっっ!」
懲りるどころか、その一週間後がとんでもないことになるのはこれまでの経験から、じゅうぶん骨身に沁みている咲子だ。
やち代の言葉に、ほんのりと頬を染めあせっている母親の咲子を、萌や蒔絵は不思議そうに眺めている。さすがに中学一年の芙美には、やち代がどういう意味のことを言っているのかが察せられ、幼い頃からの父親の母親に対する態度や行動を一番見ていただけあって、苦笑する以外になかった。

「・・・・とにかく、とりあえず桐梧の居場所はわかったから、もうあちらに任せるわ」
あとは桐梧が帰ってきてから、ということになった。


萌も落ち着きを取り戻し、姉の芙美と一緒にやち代らのいる座卓に座っている。
咲子は、お茶とおやつの用意をするために台所に立ったが、知らず知らずに溜息が出てしまうのだった。

結婚して10年以上経っているが、絋次が自分に示す愛情表現はまったく変わっておらず、どんなに人前ではしないでほしいと言っても聞いてはくれなかった。
夫婦の時間であれば、どれだけ求めても構わないと言っているのに。
・・・・子供達だって成長するにつれ、色々難しくなっていくものだ。

咲子には、佑介が「話さない」絋次のフォローをしてくれているのを、以前からわかっていたし有難いとも思っていた。
だが・・・・。

息子の桐梧は、父親が構ってくれない寂しさを叔父の佑介にぶつけ甘えている。
その父親の絋次は、佑介がしてくれる気遣いに甘えている。

(桐梧だけじゃなく、こーさんも佑介くんに甘えているのよね;;結局のところは)

甘えて任せたツケはいつか返ってくるだろう。
その時はどうなるのか。
考えただけで、気が重くなるのだった。


夜の八時近くに、桐梧は佑介に送られて帰ってきた。
桐梧の機嫌はすっかり治っていて、でも、送ってきた佑介は少々複雑な表情をしていた。
出迎えた咲子もまた、お礼を言いつつも佑介に申し訳なく、どことなく浮かない表情であった。
絋次がまだ仕事から帰ってきていなかったのが、幸いというべきなのか・・・・・。

「ゆうおじさんちでごはん食べてきちゃった♪」とにこにこしながら言う桐梧に、萌は無性に腹が立ち、「桐梧のばか!」と捨て台詞残して部屋に戻ってしまった。。
蒔絵は無表情で「とうごにいさま、おかえりなさい」と一言言うとぷいっといなくなり、草乃は「とーごにーにだけずるいの~」と桐梧を見上げていた。
そして、芙美は。
「桐梧なりにいろいろわけはあったんだろうけど、みんなに心配をかけたオトシマエはつけてもらわないと」
にーっこりと笑う。
「ふ、芙美ねえ;;」
思わずあとずさる桐梧だったが、芙美は桐梧の服の襟を掴んで、引き摺るように連れていってしまった。

「芙美ちゃん、お手柔らかにな;;」
その姿に、佑介は苦笑するしかなかった。
『鬼姫』と呼ばれた真穂の孫で、愛情深いが故にまた激しさも持つ咲子の娘なだけある。

(・・・・実は芙美ちゃんが、一番強かったりして)
ふと思ってしまった佑介だった。
2009.07.08 / Top↑
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