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旦那の夏休み期間だったため、更新が一時停止しておりました(^^;)
なんとか再開。

ちょっと中途半端なところで切ってしまってますが、佑介くんと近衛の試合は決着がついたのでアップすることにしました。

8/19追記
一部手直しと切りのいいところまで載せることにしました。
かたくなな斎姫もやっとこころがほぐれたようです(^^)


ではではつづきをよむからどうぞ。



「佑介ってば、本気モード全開」
「え?」
航はじっと腕を組み、上段に構える佑介の姿をまじまじと見つめた。
「月人にはわからない?佑介の気迫。『青白い炎』だよ」
「確かに、いつもよりは気合が入ってるみたいだけど・・・・」
月人は航の言葉に困惑する。
「ぞくぞくするな、あんな佑介。僕が対戦したいよ。近衛になんてもったいない」
にっと航は笑う。航のその笑みは、まさに剣士の笑みだった。
ふたりは親友だが、剣においては互いが互いを奮い立たせ、高め、認め合うライバル同士だ。
きっと生涯において。
「・・・・・インターハイ前に、上段の佑介と無制限勝負をやりたいな」
「航くん・・・・」
嬉しそうに話す航。そんな相手を見つけられたふたりがうらやましい。
だが。
(俺はまだまだふたりの足元にも及ばないんだ)
すぐに尻込みしてしまいそうになる弱さ。
斎姫との一戦はなんとか引き分けたけれど、自分には足りないものが多すぎる。いつかふたりと肩を並べるためには、もっともっとこころもからだも強くならなければならない。
そんな風に思う月人だった。


真っ直ぐに近衛を見据え、構えはまったく崩れずに凪いだ海のようにゆっくりと動き始めた佑介。
佑介のそのゆったりとした動きに近衛はやはり動けない。これまでにだって上段に構える相手と、多くはないが対戦してことはある。だがなんで、佑介に対してはここまで足が竦むのだろう。
激しく動いたわけでもないのに、額に汗が噴出してくるのだ。

間合いがじりじりと狭まり・・・・一足一刀の間まできた。
(これが土御門さんの『本気』だ・・・・!)
数道との試合でも、佑介はそれを見せていた。
戻ってきた数道に自分の気持ちはわからないだろうと言ってしまったが、もうそんなことどうでもよくなってきた。
・・・・佑介はあの時の自分とは違うと、全力でかかって来いと言ってるのだ。
だったら、それに応えなくてはいけない。いつまでも足を竦ませていてはだめなのだ。
近衛は決意をもって一歩踏み出した。


「面あり!」
勝負は決まった。
胴を狙った近衛の竹刀を体捌きで素早く避け、佑介が片手面を決めていた。
佑介と近衛のふたりが、開始戦に戻り蹲踞の姿勢を取ると、主審が旗を上げ「勝負あり」の宣告をした。
『本気』の佑介と自分との差に、近衛は愕然とするしかない。
立ち上がって佑介をちらりと見れば、面越しに同性の自分が見惚れるくらいに笑っていた。
(ちっくしょ、そんな顔して笑うなんて卑怯じゃねーか)
悔しいけれど、近衛の顔にも笑みが浮んでしまう。

完敗だ。
なにもかもが自分より遥かに上をいっていた。
今更ながらに、あの時自分が取った一本は本当の一本じゃなかったんだと実感する。
-----そして佑介があの時手を抜いたわけじゃないってことも、薄々わかった。
本気になりたくてもなれなかったのだろうと。
(いつか本当の一本を取ってやるさ)

これまでの思いをふっきるかのように、近衛は礼をした。


(なんでみんなそうなの?!どうして?)
面越しに見える近衛の表情を見て、斎姫は一時治まっていたいらつきがまたざわつきだした。
佑介との代表戦を終えた近衛は、斎姫の目には晴れ晴れと見えた。
全員での礼が済み、試合場の外へ出れば自分以外は佑介や航たちのもとへと行き、仲良く話し出している。
(なによ、なによ。オトコ同士で勝手にわかりあっちゃって!ばかっ)
震える手で竹刀と面を掴み、斎姫は踵を返した。

悔しいのか悲しいのかわからない涙が瞳を濡らし、視界をぼやかす。
あんなに佑介に対し複雑な思いを抱え拘って近衛までもが、竹刀を交えただけでああもあっさりとふっきってしまった。
・・・・直接対戦していない彰生すら行ってしまった。
自分だけ割り切れない。いまだ佑介に対して素直になんかなれない。
(嫌い。近衛も彰生も数道も)
みんな自分を置いていく。
(土御門さんは、もっと嫌い!大嫌い)
頬を伝う涙を拭いもせずに、だが頭は敢然と上げて目的地に向かう斎姫だった。


「・・・・お久しぶり、斎姫ちゃん」
「咲子・・・さん」
目的地の更衣室の扉の横に咲子が立っていた。
「あら。昔みたいに『咲ちゃん』でかまわないわよ」
にっこりと咲子が笑うと、斎姫の顔がくしゃくしゃとゆがむ。
「・・・・咲、ちゃん・・・・!」
今まで我慢していたものをすべて吐き出すかのように、わっと斎姫は泣き出した。その斎姫の肩を抱きながら咲子は更衣室の中へと入った。

咲子は自分の試合が早々に終わってしまったこともあり、真穂や小枝と一緒に佑介たちの試合を観戦していた。(涼音は子供たちの試合の方へ行った)
近衛や斎姫たちが入門してきた時はすでに剣道をやめていた咲子だったが、時々は道場を覗いていたし、なにかあればずっと手伝いをしてきていたので、彼らことは当然知っていた。そして同年代の女の子とは性格的に合わず苦手な斎姫も(なので栞は苦手である)、咲子ほど年が離れていれば素直に接することが出来たのだ。

(大丈夫、まかせて)

心配そうにこちらを見ていた真穂に目で合図を送った咲子。真穂はかるく頷くと静かに立ち去った。
咲子は、斎姫の気持ちはきっと自分にしかわからないだろうと思った。
突出している佑介に対して、拘りなにか素直になれない感情は、ずっと以前に自分も抱いたものだ。
ただ自分は佑介よりはるかに年が上だったし、『弓道』という別の道を選び取ったことで、その感情を昇華することが出来た。
けれど斎姫は。
・・・・負けん気が強い斎姫は、その拘って素直になれない思いが『憧れ』という思いの裏返しなのだと気が付いていない。
いや、気付きたくないのだろう。

中に入って斎姫を座らせた咲子は、隣に座り何も言わずに斎姫が泣くままにした。
時々、頭や背をやさしく撫でて。

「・・・・少しは落ち着いた?」
小さくこくりと斎姫は頷く。
「よかった」
にこっと笑う咲子。
「・・・・男って単純なのよ」
「?」
「一試合竹刀を交えて、わかりあっちゃうんだから。こっちはそんな簡単にいかないのにね」
「・・・・・」
「佑介くんって子は、なんというか理解しずらい部分が多いから」
苦笑を浮かべる咲子。
「なんて言ったらいいのかしらね。あれだけの強さを持つのに、勝負に対する欲がないから周りだけがじれて。・・・・もっと本人ががつがつしていれば、まだこっちもいらつかないんでしょうけど、あの通りヘンに大人びててどこか達観しちゃってるから。だから手に負えないの」
と、肩を竦める。
咲子には佑介がどうして「ヘンに大人びてて達観している」のかはわかっているけれど、斎姫にその理由は話せないので、それ以上のことは語らない。
「それでも近頃は少し欲も出てきたのよ。それゆえに数道くんや近衛くんたちとの対戦では本気モード全開だったし。・・・・でもね、なんで今なのって思うわよね」
「!」
斎姫は瞳を見開く。咲子はあの時のことを知っているんだろうか。
「ほんと、勝手。・・・・だからわたしは三段に昇段したら、佑介くんに無制限3本勝負を挑むつもりなの」
・・・・知っている筈がない。誰もあのことを他の人に語していないし、尚壽館でではなく中学の部活内での出来事だったのだから。
「そう。わたしの中で本当の決着をつけるためにね」
「決着?」
斎姫が疑問符を浮かべつつ咲子を見やると、咲子はやさしく微笑み返した。
「・・・・いろいろな理由があったんだけど、それでもわたしに剣道をやめさせたのも復帰させたのも佑介くんの剣道だから」
「え・・・」
『警視庁の鬼姫』とまで呼ばれた真穂と学生時代に『上段の草壁』とその名を馳せた直哉の娘たちである咲子と栞が何故剣道をしていないのかは、尚壽館に通ってきている人たちのなかでは不思議に思われていたことだ。(もちろん事実をきちんと知っている人もいる)将来的には栞の恋人である佑介が栞と結婚して継ぐのであろうと思われている。ただ咲子が復帰したことで、またその辺りは変わってくるのではないかとあれこれ邪推する者達がいないわけではなかった。
「斎姫ちゃんくらいの頃だったのよね。でも相手の佑介くんはまだかわいいかわいい幼稚園生。それじゃ勝負を挑むわけにもいかないでしょ?」
「?」
「・・・・わたしも斎姫ちゃんと同じように佑介くんに対してそれなりに含むところがあったのよ」
「!さ、咲ちゃん・・・」
うろたえる斎姫。
「でもねえ、五歳児相手にうらやんでも仕方ないし、別の道を選んで自分を取り戻せたから」
「・・・・別の道?」
「ええ。・・・・・ある人に囚われて、弓道をね」
今度の笑みは、ちょっと照れ臭そうな笑みだった。
「それって、旦那さま?」
「うふふ、そう」
咲子と夫の絋次との仲の良さは、尚壽館でも有名だ。

「だから、もう剣道には戻らないと思ったの」
しばらくして、先を続ける。
「それが去年の区民大会で、急成長を遂げた佑介くんの戦いぶりを見てたら、また剣道をやりたくなっちゃって今に至るってわけ」
「・・・・・」
昨年の区民大会。佑介は高校生個人の部で初出場・初優勝を飾っている。
数道に見に行かないかと誘われたけど、とてもそんな気にはなれず断った。翌日数道はただすごかったよと一言告げたのみだった。
「さすがにね、今更佑介くんに含むところはまったくないけど、・・・・今なら戦えるのよ」
はっと斎姫は咲子を見る。
「もちろん、相当分が悪いのは承知の上。でも戦わずにはいられないの。そうしないと、あの頃のわたしが前を向けないから」
裏表のない、率直な咲子の言葉が斎姫のこころに染み透る。
かたくなだった気持ちが少しずつほぐれていくようだ。
同じように悔しい思いをした近衛でさえ、けしてわからない感情。もどかしい気持ちをずっと抱えていたのだ。
「咲ちゃん、ありがとう」
すっと出てくる言葉。咲子はその言葉に瞳を見開く。
「あら。お礼を言われるようなことはなにもしてないわよ」
そしてあでやかに笑う。同性の斎姫でさえどきどきしてしまうような笑みだ。
「・・・咲ちゃんって、ほんと美人でいいオンナ。でも全然つんつんしてないんだよね」
ぽつりという斎姫。咲子はそんな斎姫の頭をぽんぽんとかるくたたき。
「つんつん思いっきり尖っていたのよ、斎姫ちゃんくらいの頃(笑)今だって、しーちゃんみたいに素直とはいい難いし」
「えと、じゃなくて」
斎姫が言った「つんつん」とはお高くとまってないという意味だったのだが。
「・・・でもね、ちゃんとそういう部分もひっくるめて、自分を好きになってくれる人があらわれるから大丈夫。斎姫ちゃんのかわいさをわかってくれる人、絶対いるから」

『俺が好きなのは、そんな斎姫じゃないからな』

唐突に、試合中に数道に言われた言葉を思い出す。
これって、もしかして。

明るく陽気な近衛が好きで、前に告白したけれど。
「斎姫のことは好きだけど、友達としてだから」
と言われて、あえなく玉砕。
それでもずっと好きという想いは消えなくて。
・・・・・だけど多分、近衛と共通のことを持ちたくて、あの時を拘り続けていたのかもしれない。

すとん、となにかが落っこちた。

「決めた。あたしも土御門さんに決闘状をたたきつけてやるわ」
すくっと立ち上がる。
「いますぐはちょっと無理だけど、一年後でも二年後にでも。真穂先生に鍛えてもらって、絶対1本取るんだから!」
きらきらと輝く瞳。

咲子は嬉しそうに斎姫を見ていた。

2009.08.18 / Top↑
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