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最終話でございます。
少しすみれままがおとなしくなったかも(笑)

ま、いろいろなことをばらしてるというか、なんというか(^^;)

つづきをよむからどうぞ。



日本茶のおともには和菓子が一番と、少し渋めの楽焼のお皿の上にはかわいらしいうさぎを模したお饅頭が乗っている。

「食べるのが、なんだかかわいそう」
白い薄皮に焼印で耳とつぶらな赤い目が施されている、愛らしい姿に食べるのを躊躇してしまう栞だ。
「本当ですね」
と、隣の七海も戸惑い気味だ。
「でも、おいしいよ?」
日夏里はすでにぱくっと一口食べていた。
「・・・・ひーちゃん、手づかみじゃなくて黒文字を使って食べなさいね。ちゃんとお茶でそう習っているでしょ?」
栞や七海だけでなく、佑介や航だってさすがに手づかみでは食べていない。
・・・・・七星は、当然のように手づかみで、あっという間に一口で食べてしまっていたが。
「え、でも、お饅頭とかは手づかみでもOKだよ?」
ぷっと口をとがらす。
「例えそうでも、ちゃんと黒文字を出してあるんだから使いなさいってこと」
「・・・・はあい」
「お稽古の時にそんな返事しちゃだめよ。杜野先生に怒られるからね」
(あれ?お茶で杜野先生って・・・)
すみれの言葉に、栞がわずかに反応した。
「日夏里ちゃん、お茶習ってるの?」
「あ、うん。学校の特別クラブで、中学からね。普通の部活以外に、お茶とお花とお琴があるの。ななみんも習ってるよ」
七海と顔を見合わせ、「ね」と頷きあう。
そういえばと、都も学校で習っていたことを栞は思い出す。都は、栞の深川の祖母が自宅で開いている教室にも通っていた。
祖母は、自宅でのほかに何校かの学校の茶道部にも指導に行っていて、日夏里や都の通う翠嵐女子はそのひとつだった。
そして、『杜野』は母親の真穂の旧姓で、深川の家の屋号でもあるのだ。
「もしかして、杜野先生をご存知なのかしら?」
「はい。・・・・あの、あたしの母方の祖母だと思います。ずっと翠嵐女子へ指導に行ってますし。フルネームは『杜野迪子(もりの みちこ)』です」
「あ、ビンゴだ♪・・・へえ~、栞ちゃんは杜野センセイのお孫さんなんだ」
にこっと笑う日夏里。
「じゃあ、草壁さんもお茶を習っているんですか?」
「・・・・習っているけど、祖母のところへは月に1,2回行くか行かないかくらいかな。姉が教えてくれてるから」
「栞ちゃん、お姉さんがいるんだ」
「ひとりね。ちょっと年が離れてて、もうお嫁に行っちゃってるんだけど」
「離れてるって、どのくらい?」
「10歳だよ」
「ふうん。あたしと雪にーちゃんも8歳差だから割合離れてるけど、間に七にーちゃんがいるし」
と、ダイニングテーブルに座っている七星を見る。
七星は、饅頭一個じゃ全然足りないと、食パンをかじっていた。
「・・・・そーいや、兄貴はどうした?」
いる筈であろう人物の姿が、先ほどから見当たらなかった。
「雪にーちゃんは二階。自分の部屋に行っちゃった」
「へ?なんでだ。俺に『ひーがオトコを連れてきたからさっさと帰って来い』ってメールを送りつけてきたの、兄貴なんだぜ」
最後の食パンをかじり、空になった袋をくしゃくしゃと丸める。そんな七星を呆れ顔で見つめ。
「やっぱり~;;・・・・・今日は大先生が来るから、夕方まで帰らないって張り切って稽古に出かけたのに帰ってきたから、おかしいなって思ったんだ」
「いや、ちょうど休憩時間に着信音が鳴ったもんだからさ」
「だからさ、じゃなくて。そんなことで帰って来ないよ、普通は!・・・・もう、土御門さんも千葉さんもちゃんと可愛い彼女がいるんだし、あたしは今のところ彼氏なんていらないから気にすることないの」
「そんなことわかんないじゃねーか。俺も兄貴もひーに変な虫がつかないようにだな・・・」
「女子校に通ってるんだから、変な虫なんてつきようがないもん」
つーさんは変な虫じゃないよね・・・・とこっそり思う日夏里だ。
先週次子と会って、思いがけない初めてのことがあったけれど。
「どーだかな」
どことなく探るような瞳で日夏里を見、そして玄関に置きっぱなしの剣道の防具を片付けないとと、七星は椅子から立ち上がったのだった。



あっという間に時間はたち、夏も終わりに近づいてきたこの頃は、夕闇が落ちてくるのが早くなってきていた。
そろそろおいとまを・・・・と告げれば。
「あら。うちは全然かまわないのよ。夕ご飯も食べていって」
にっこりとすみれは言う。
「いえ、それはいくらなんでも・・・・」
佑介や栞たちは顔を見合す。
いくらこの家の主婦であるすみれから誘われのだといっても、初めて訪ねた家でそこまで図々しくはなれない。
じゅうぶんもてなしてもらったからと遠慮をするが、すみれはきかなかった。

「・・・・橘さん、お母さんに言ってもらえないかな。俺達、ほんとにそこまでは申し訳ないからさ」
ほとほと困って、佑介は日夏里を見る。
「ん~、我が家はこういう状況って慣れてるから全然申し訳なくなんかないんだけど。それにうちのお母さんが言い出したらきかないのは、土御門さん目の前で見てたんだもん、わかるよね?」
苦笑いの日夏里だ。
そう。そもそも佑介たちが日夏里の家を訪ねることになったのだって、すみれが言い出したことなのだ。だから日夏里がすみれに言ったところで覆りはしないのは眼に見えていた。
「佑介、いいよ。ここまで言ってもらってるんだし、お言葉に甘えようよ」
「航・・・・。いや、だって。清水さんは大丈夫なのか?」
佑介が心配しているのは、航と七海のことだ。自分達は多少遅くなったところで連絡さえすれば大丈夫だが、七海の場合は違う。
門限前に七海を送り届けなければ、航との交際を禁じられてしまう。
「・・・七海は大丈夫だって言うんだよね」
「え?」
七海は佑介が自分の門限時間を気にしているのだわかり、航にそっと門限のことは気にしないでと話したのだ。
どうして大丈夫なのかは、まだわかないのだが。
「その、橘さんの家だから大丈夫なんです」
「?」
それまで黙っていた七海が口を開いたが、いったいなにが大丈夫なんだろうか。
「えとね、ななみんのおじいさまは、うちのことというか、お母さんのことよく知ってるの。実は」
日夏里がそう言えば、すみれはにっこりと微笑む。
「お母さんのお父さん、つまりあたしのおじいちゃんと親友同士なんだって。旧制中学時代からの」
「ええ?!」
佑介・栞・航の3人の声が重なる。
「しかも生まれた子供が男女だったら結婚させて、家族になろうとか言ってたらしいし」
と日夏里が言えば。
「でもそれは、どちらも女の子だったんでかなわなかったんですけど」
七海が続ける。
実はすみれには兄と弟がいるので、それはかなわないわけではなかったのだが、いろいろあってあきらめたようなのだ。
「だからね、わたしから七海ちゃんのおじいさまにちゃんと連絡するので大丈夫。心配しないでね。それに多少遅くなったって、腕の立つ素敵な彼氏が一緒なんだから危なくなんてないでしょう?」
楽しそうにすみれは笑った。


夕食には、部屋に戻ってしまっていた雪也も何事もなかったかのように顔を出した。
すみれは日夏里の「慣れている」という言葉の通り、いつもの食事から4人増えたことなどまったく感じさせない手際のよさで調理をし、栞や七海らにもしっかり配膳の手伝いをさせた。
笑いの絶えない賑やかな食事が終われば、食べ終わった食器類を下げるのは男性陣の担当で、運ばれてきた食器をこれまたさくさくと洗って片付けていくすみれに、佑介や航は驚きを隠せなかった。
そして食後のコーヒーをいただき(コーヒーを淹れるのは雪也の担当)、-----コーヒーが飲めない日夏里や栞はココアだったが-----、佑介らは橘家をあとにした。
「また、いつでもいらっしゃいね」と言うすみれと日夏里の笑顔に見送られて。


外はすっかり暗くなっており、秋の気配を感じさせる涼しい風が吹いていた。

「しかし、橘さんのお母さんって、なんというかパワフルな人だな」
アイスショーで会った時にその片鱗はすでに見えてはいたが、とにかくあの少女のような風貌からはとても想像がつかないのだ。
「ほんと、おにいさんたちへの接し方とかね。外見はすごく可愛らしいのに中身は『肝っ玉母さん』って感じ」
「あ、それってなんとなくわかる。七海とのことといい、驚かされっぱなしだよ」
佑介や栞、航は、とにかくすみれに圧倒されてしまった。
「・・・・・すみれおばさまは『レディ・バイオレット』だから」
七海がくすりと笑って言う。
「『レディ・バイオレット』?」
隣を歩く航が聞き返した。
「おじいさまが、そう呼んでるの。名前の“すみれ”にちなんで」
「・・・・あのじーさまがそう呼ぶなんて、いったい何者だ。七星さんのお母さんは;;」
海千山千の有象無象を相手にし、政界を支配している七海の祖父にそんな風に言わしめるすみれ。
当然のように、怪訝そうな航だ。七海は黙ってそんな航を見ている。

-----『レディ・バイオレット』。
幼い頃よりその愛らしい外見からは想像出来ないほどに好奇心が旺盛で、何者にも怯まず理不尽なことには屈せず、常に前向きで明るい少女であったすみれのことを、父親の敦実(あつざね)の親友である七海の祖父瑛三郎(えいざぶろう)が、敦実のやんごとなき血筋に繋がる家系にも引っ掛けてそう呼んだのだ。
すみれの父親はもともとリベラルな考えの持ち主で、そのようなものはもはや「過去の遺物」だと捨てていた。
そして親友の瑛三郎と切磋琢磨しながら、己の力で人生を切り拓いていったのだ。

「・・・・『レディ・バイオレット』か。まさにって感じだな」
「そうだね」
しみじみと納得顔の佑介。隣の栞も同じような表情だ。

「そういえば、今ちょっと思ったんだけどさ。あれってわざとだったんじゃないかな」
「わざとって、何がだ。航」
「・・・・・佑介と栞ちゃんの馴れ初めを聞いたことさ」
瞳を見開く佑介。航は慎重に先を続ける。
「僕と七海のことを知ってたのに、佑介たちのことを知らなかったとは思えないんだよね。橘さんが話してそうだしさ」
「・・・・言われてみればそうだな」
「だろ?上のお兄さんに発破かけたくてかなとは思うけど、なんとなく唐突な感じがしたから」
「確かに」
航に言われて腑に落ちる。あの場面で自分達に馴れ初めを聞く必要は、確かになかった。そして、雪也と風子のこともだ。
「あとさ」
躊躇いがちな航。
「?・・・・あと、なんだ?」
促す佑介。
「その、七星さんとの勝負のこと。・・・・受けなくていいからな。あんなのほんとただの我儘なんだからさ」
視線を逸らす航を見やる。
「・・・・俺が負けるとでも?」
「ばっ・・・!そんなわけないだろ」
慌てて佑介を見れば、佑介は笑みを浮かべて自分を見ていた。
「・・・・そんなわけないけど。でも、七星さん強いから」
「だろうな。それは俺にもわかったよ」
「・・・・」
「でもな。俺自身で決めたことだから、大丈夫。それに」
「それに?」
夜目ではっきりとはわからなかったけれど、ほんの少し照れたふうで佑介は言った。
「・・・・・航が信頼してくれているから、俺は負けない。しかも、あんな風に話してくれてて。嬉しかった」
「佑介!」
「わっ;;なに抱きついてんだよ、航っ;;」
がばっと思いっきり航は佑介に抱きついた。佑介はあわてて引き剥がそうとするが、なかなか航の力も強いので、そうはいかない。
一緒に並んで歩いていた七海や栞に笑顔が浮ぶ。

「こら、いいかげん離れろ;;」
「大好きだよ、佑介」
「・・・・・ば、ばか;;なに言ってんだよ、もう;;」



思いがけなく友情を確かめあった、佑介と航。
過ぎ行く夏に様々な思いをのせて、秋がゆっくりとやってくる。

2009.09.08 Tue l レディ・バイオレットは上機嫌(全4話) l コメント (2) トラックバック (0) l top

コメント

不思議な…
栞「でも…、男の子から『好きだ』なんて言われたの、これで二度目よね、佑くん(笑)」
航「え?」
佑介「栞;;」
栞「ほら、大阪でのインターハイのときに、月人くんからも言われたじゃない、USJで(笑)」
航「え、そうなのか!?」
佑介「う゛;; ま、まあ…(^^;)。でも、そーいう意味じゃないからな;;」
航「……どーだか」
佑介「航~;;」

七海「なんていうのか…。ほんとに不思議な人ですね、土御門さんって」
栞「え、そう?」
七海「きっと、男女問わず魅きつけられるものがあるんでしょうね。いつもなら冷静な航ちゃんもあんなだし(笑)」
栞「言われてみれば(笑)。…そう…なのかな」

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こんばんわ、今日もすっごく楽しかったですわん♪

無事完結、お疲れ様でした~。とても楽しませて頂きました♪
思いがけない繋がりがいくつも出てきて、目が点の連続でございました。
七にーちゃんとの勝負は私めが書かせて頂くことに相成りましたが、微力でも頑張らせて頂きまする(^_^;)。

しかし航くんってば(笑)。…いつも佑のことを考えてくれていてありがとうね。
私も航くんには佑に抱きつかせちゃったけど、そのうち、つっきーにもそうさせちゃおうか(爆)。
2009.09.08 Tue l 草壁 栞. URL l 編集
また、きてね(^^)
すみれ「うふふ。とっても楽しかった♪」
日夏里「・・・・・;;もう、お母さんてば、言いたい放題なんだもん。困っちゃったよ」
すみれ「あら。どのへんが困ったのかしらね」
日夏里「え?・・・・いろいろ、全部;;」
すみれ「そ~お?・・・・ま、ひーちゃんに彼氏がいらないことはわかってるからね」
日夏里「ど、どーして;;」
すみれ「次ちゃんがいるでしょ」にっこり笑うすみれまま(笑)
日夏里「!//////;;;;」
すみれ「あらら。今までと反応が違うわね。・・・・・・なにがあったのかしら♪」
日夏里「なにもないから;;」

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おはようございます♪ワタクシもとっても楽しゅうございましたわv

労いの言葉、ありがとうございます。
今回は橘家の面々にすっかり振り回されてしまいましたね、佑介くんたち(^^;)
お疲れ様でございました(笑)

思いがけないいろいろな繋がりは、今回の話を練っている時にとんとんと、決まりました。
ま、深川とのことは、日夏里もななみんも翠嵐なので別にさほど意外ではないと思いますが。(すみれままも在校時、特活でばばさまから習っておりました)
ちなみにこのみ姫も習っておりますわ(爆)

七にーちゃん、雪にーちゃんより目立ってましたね(笑)
やっぱり雪にーちゃんはヘタレだからいかんのだろーか(爆)
佑介くんとの勝負は、よろしくお願いしまする。なにかわからないことがあったら、いつでも聞いて下さいね。

航くんは・・・・・、ほんと佑介くんが大好きなんだなあと思います。
ま、抱きつくのもじゃれているだけですから(笑)
・・・・つっきーは、抱きつくとやばいのでは(爆)
2009.09.09 Wed l 橘 日夏里. URL l 編集
 

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