10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
え~、つの字の新生活、というか学校生活の中編です。
今は少しばかり過去に遡っております。

つづきをよむからどうぞ。


こんな風に廉の新しい学校での生活は始まったが、余計なことに煩わされたくなくて編入初日にこう言ったのに、そんなことでへこたれないのが今時の女子高生なのだろうか。結局は、この後も廉に対するアタックは無くなりはしなかった。

「病み上がりの病弱」ということの廉は、運動の類は一切禁止。そしてまだ暑さも残る9月だというのに、長袖のシャツに薄手のカーディガンを常に羽織っていた。
時々軽めの貧血を起こしては、保健室の世話になったり早退したりということもあった。
担任の北條から、それとなく廉のことを気をつけてやってほしいと言われていた千里は幼馴染のアリスとともに、そんな廉を心配して声をかけるが、構うなオーラ全開の廉は当たり障りの無い返事しか返さないでいた。
廉のそのような態度から、ただ「病弱」というだけでない何かを抱えているのではないかと推測し、気になって仕方ない千里やアリスたちは、もう一歩踏み込んで廉と対したいと思いつつも、廉からはさらりと上手くかわされていたのだった。
だが、編入してから1ヶ月ほど経ったある日にそれがくずれた。



廉の顔色は朝からあまりよくなかった。
「休んだ方がよかったんじゃないか」と心配して気遣う千里に、「大丈夫だから」と返した廉。
1時間目を無事に終え、2時間目は体育なので廉は見学だが、体育館までは行かなければならなかった。
席を立ち、見学用のノートを持って歩き出そうとして。

(まずい・・・)

思った瞬間、全身に走った冷たい感覚。視界がモノクロームになる。
これまでのような軽い貧血ではないとわかった。
「晴田?!」
咄嗟に千里がふらついた廉のからだを支えた。周囲がざわつく。
「だい、じょう・・・・ぶ・・・」
「ばか言うな。どこが大丈夫なんだよ。そんな青白い顔して」
「本当に、へい・・・き・・・」
そこでがくっと膝が折れ、千里に倒れ込んできた。女生徒の悲鳴があがった。
「おい、晴田。しっかりしろ」
声をかけるが、反応がない。
更衣室に行こうとしていたアリスが。
「センリ、このままじゃいけないわ。とにかく保健室に」
「ああ」
ひとりで連れて行かれるかどうかわからないが、取りあえずと千里は廉を抱き上げた。
(軽い・・・・!なんでこんなに軽いんだ?!俺とそう身長が変わらないのに)
千里の方が数センチ高いというだけだ。それなのに。
「どうしたの、センリ?はやく連れて行かないと」
廉を抱き上げたまま動かず、訝しげな表情の千里をアリスは促す。千里ははっとして。
「わかってる。・・・・アリス、ついて来てくれ」
「All right、センリ」
呆然としている周りをよそに、ふたりは保健室へとむかった。


アリスが扉を開けて。
「竹田先生、急患!」
保健室のなかに飛び込み千里は叫ぶが、養護教諭の竹田の姿が見えない。
「センリどうしたの?」
「いや、先生いないみたいなんだよ」
「Really?」
アリスもすぐになかに足を踏み入れ見回すが、竹田の姿は見当たらなかった。
千里は腕に抱く、一向に目を覚まさない青白い顔色の廉を見下ろす。
(・・・・また、入院なんてことになったら・・・・)
やっと退院してきたのだろうに。
例え廉がこちらを拒絶していようと、これまでの廉をそばで見ていて、千里は廉と友人になりたいと思い始めていたのだ。
「・・・・とりあえず、ベッドに寝かせよう」
そう言って、保健室の奥にあるベッドまで運び、そっと静かに降ろして寝かせた。
ほんの少しばかり廉は身じろぎをしたが、目を覚ます気配はなかった。
「ほっとけないんだよ、こいつ」
「センリ?」
「“構わないでくれ”って全身で訴えているんだけどさ」
廉を見つめ、言葉を切る。アリスはそんな千里をじっと見つめた。
「・・・多分、何か俺らには言えない事情を抱えているんだと思う」

ぱたぱたと廊下を走ってくる足音が聴こえてきた。
「先生、戻ってきたみたいだ」
「そのようね」
扉の方に視線を向けると、がらりと扉が開いた。
「あら、2-Aのおふたりさん。そろってどうかしたの?」
千里とアリスの姿に目を見張る。
学園の理事長の息子である千里と英国人のアリスは、なかなかに目立つ存在であるがゆえ教師達の間にも馴染みが深い。
「・・・・うちのクラスの晴田が倒れたので・・・・」
千里が言いかけて。
「次・・・晴田くんが?!」
竹田の表情が強張る。
「はい。・・・その朝から顔色が悪かったんですが、本人は大丈夫と言ってて」
「そう・・・・」
言いながら、廉の寝ているベッドに近づく竹田。
「呼びかけても目を開けないので、とりあえずとここに連れてきちゃったんですが、大丈夫ですか」
千里の言葉が耳に届いているのかどうか。竹田は廉の額に手をあてたり、手首を取って脈を測ったりし、そして大きく息を吐き出した。
「・・・・今は寝ているみたいだわ。・・・・また寝られなくなっているのかしら・・・」
また?
ぽつりと呟いた竹田の言葉が引っかかった。
「その、晴田は・・・・」
「大丈夫よ。このままここで寝かせておくから。・・・・・君たちはもう戻りなさい」
そう言って千里とアリスを促した。
------結局廉は、その後教室に戻ってくることはなかったのだった。


HRも終わって。

「カバン、保健室に持っていった方がいいよな」
廉の机から教科書やノートの類を取り出して、千里はカバンに詰め込む。
「そうね。階段上って教室に来るより保健室からそのまま帰る方が負担がないし」
アリスは椅子の背もたれにかけられたままだった、チャコールグレイのブレザーを持ち上げた。
ぱたっと何かが落ち、慌てて拾おうとして、手が止まった。
「アリス。どした?」
アリスがしゃがみこんだまま動かないので、訝しみながら千里も同じようにしゃがみこんだ。
「あ」
落ちていたのは生徒手帳だった。
校則で生徒手帳は在学中は必ず携帯することになっており、大概の生徒が胸ポケットに入れていた。それゆえに落ちたのだろう。
だがアリスの手が止まったのは、落ちた際にある頁が開かれてそこに写真が入れてあったからだ。
「これって・・・・・」
「ええ・・・・」
その写真には、お日さまのような大輪の向日葵を彷彿させる笑顔の少女が写っていた。撮影者に全面的な信頼を置いているであろう、安心しきった笑顔。「大好き」という気持ちが写真からでも伝わってきた。
撮影したのはきっと廉で、編入初日に言っていた大切な彼女に違いないとふたりは思った。
「・・・・見なかったことにしましょ」
静かにアリスが開いた頁を閉じ、拾い上げ胸ポケットにしまった。


保健室にふたたび訪れた千里とアリス。
扉が少し開いていたのでそのまま静かに開けていく。

「・・・・私はキミのお母さんの織依からくれぐれもって頼まれているし、まだ無理の利かないからだなんだからね」
「・・・・・・」
竹田の声が聴こえてきた。口ぶりから察するに、どうやら母親同士が知り合いのようだ。
(だから蒼陽(うち)に編入してきたのか。・・・・母親が心配して)
そんなに廉は病弱なのかとも思う。
千里は、立ち聞きするのも気分が良くないし、それにいつまでもドアのところにいても仕方ないので、声をかけて半分ほどカーテンの閉まっている廉の寝ているベッドに近づこうとしたが。
「・・・・そもそも完全な“男性体”じゃないのよ、まだ。ホルモンバランスがくずれても当然で・・・・」
(え・・・?どういうことだ)
千里とアリスは顔を見合わせた。
完全な男性体じゃないっていうのはいったい・・・・・?
疑問に思いつつも、一呼吸置いてから千里は声をかけた。

「カバンを持ってきたけど、帰れそうか」
「真田くん」
養護の竹田が振り向いた。カーテンの中の廉はうつむいていた顔をあげた。
「上着も持ってきたわ。教室に戻るの面倒だと思って」
にっこりとアリスは笑った。
「その、勝手に机の中のもの入れてきちまったんだけど・・・・」
ちらりと廉を見ると、廉はやわらかく微笑んだ。
「・・・何から何までありがとう。ここに連れてきてくれたというのもさっき先生から聞いたから」
「いや、そんな。たいしたことじゃないから」
何故か廉の笑みに千里はどきっとしてしまった。

男性にしては、線の細い廉。
抱き上げた時の軽かった、華奢なからだ。
声も女子よりは低いが、男子と較べれば高い方だ。
眼鏡の奥の瞳は、睫が長い。

(・・・・・わかってしまったかな)
千里にじっと見られ、廉は小さく溜息をつく。
「いってえ;;」
思いっきり大きな声が上がる。
「なにすんだ、アリス!」
「You are insensitive!(無神経ね!)」
千里は隣のアリスをきっと睨む。アリスも負けじと睨み返していて。
アリスはぎゅうっと千里の背中を抓ったのだ。
そんなふたりの様子に廉は瞳を見開き。
「ぷ」
吹き出した。
「なんでそこで吹き出すんだよ;;」
千里が顔を赤くし、廉にかみつく。
「・・・・悪い」
「悪いってなあ;;」

廉は千里とアリスのそれぞれに、雰囲気の似ている自分の知人を重ね合わせていた。
そのふたりは、どう考えても目の前のふたりのようなやり取りを絶対することはない。
でも、そのふたりで想像したら、なんだかとってもおかしかったのだ。
・・・・・おかしかったけど寂しくもあった。
雰囲気が似ていたって、当然まったくの別人だ。
今の自分を後悔はしてないけれど、あたたかかった時間は戻ってこない。
そのことが思い知らされて、切なさが胸をよぎった。

2009.11.03 Tue l 空に咲く花、光の雨以降 l コメント (0) トラックバック (0) l top

コメント

 

コメントの投稿












 

トラックバック

トラックバック URL
http://mizuhohagiri.blog35.fc2.com/tb.php/207-e78ae41f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)