本日のアップ・・・・もつの字の話のつづきではありません(爆)
ええと、これはもう、年明けに(大爆)


ということで、今日のは星野家の長女・芙美のちょっとしたお話です。
佑介くんの神霊晴明さんやお仕えする白虎のハクちゃん。そして佑介くんのお友達龍くんを守護する青龍のロンくんなどなどが「視えて」いる芙美。
『見鬼』だと晴明さんに言われてます。

幼い子供は神に近しい存在でもあり。
そんな芙美の、ある日です。

つづきをよむからどうぞ。


その日は冬だというのに、暖かで風もない穏やかな日だった。


「おかあさん。ふーちゃん、じんじゃにいってきていい?」
一階の居間で、絋次のワイシャツにアイロンをかけていた咲子は、顔を上げ目の前に立つ娘の芙美を見た。
「朝にやち代さんと行ってきたんじゃなかったの?」
芙美の言う『じんじゃ』とは、咲子たちの住まう人形町の氏神でもある稲荷神社を指している。星野家からも歩いて5分とかからない距離にあり、芸妓時代から芙美の曾祖母のやち代は、毎日のお参りをかかさない。
そして今朝もいつものように、お参りをすませていた。
「いってきたけど、またいくの!やくそくしたんだもん」
「約束?」
「うん」
「・・・・お母さんは一緒に行かれないわよ」
「だいじょうぶだもん。それに、おかあさんはきちゃだめなの」
「あら、どうして?」
「やくそくだから」
咲子は、誰とのどのような約束なんだろうかと思う。
これまでにも何度か芙美はひとりでその神社に行っていた。三歳にしかならない幼い娘をひとりで外に出すことに抵抗がないわけではないが、不思議なことに芙美は本能的に相手が善人か悪人かわかるようなのだ。
本来見えはしないものを「視て」しまう芙美。
幼い子供は神に近しいとは言うけれど、咲子には芙美は亡くなった祖母の由利(芙美にとっては曾祖母)の他に、何かおおいなるものに護られているのではないかとさえ思えるのだ。
------確信があるわけではないけれど。
「・・・・わかったわ。約束は守らないとだものね」
咲子は小さく溜息をついて、それからにこっと笑った。


母親の咲子に送り出され、芙美は元気よく歩き出す。
大通りは車の往来が激しいが、路地に入ればそんな喧騒とは別の世界だ。

「芙美ちゃん、こんにちは」
「あ。おばちゃん、こんにちは」
「おや、ふーちゃんどこにいくんだい?」
「うじがみさまのじんじゃにだよ」
芙美の住まう人形町は、人情溢れる下町だ。常に見知った顔が近所を闊歩しており、お日さまのようににこにこと笑顔を浮かべながら歩く芙美にあちこちから声がかかるのだ。
「気をつけて行くんだよ」
「うん。ありがとう」
礼儀正しさも芙美が好かれる要因のひとつで、人見知りもなく明るく元気な芙美はここいら界隈のちょっとしたアイドルだった。


そんなこんなで、あっという間に件の神社にたどり着いた。
ビルの谷間にひっそりと佇むこの神社は、広くはないが、緑が多く清浄な空気に包まれていた。
「こんにちは」
境内で掃除をしていた宮司に挨拶をする芙美。
「こんにちは、芙美ちゃん。今日もたもんさんと待ち合わせかな」
穏やかな笑みを浮べ、挨拶を宮司は返す。
「そうだよ。だからじゃましちゃだめなの」
「わかってますよ。・・・・・あ、ほら。もうお見えだよ」
芙美のおしゃまな物言いに笑みを深くした宮司は、己の視界の隅にその人物をとらえた。
「あ、ほんとだ!」
宮司にそう言われ振り向けば、黒い着物とそれよりは少し色味の薄い黒の袴姿に身を包み、長い髪を首の後ろで紐でひとつにくくった、眼光の鋭い端正な顔つきの年の頃30~40代くらいの男性が佇んでいた。
宮司はその男性に一礼をし、社務所の中に入っていった。


「たもんさん♪」
満面の笑みを浮かべながら、とててと芙美はその『たもんさん』なる人物に駆け寄った。
たもんは軽々と芙美を抱き上げて、切れ長の瞳を細めた。張り詰めた雰囲気がほんの少し緩んだ。
「ふーちゃん、おくれちゃった?」
「・・・・そんなことはない。私も今、来たばかりだ」
小首をかしげて問いかける芙美。
たもんは芙美を抱いたままゆっくりと境内を巡る。そしてちらりと足元を見て。

(呼ぶまで、来るな)

地面より這い出ていたモノの、姿が消えた。
「いっしょにいてもだいじょうぶだよ。ふーちゃんこわくないよ」
「いいのだ。・・・・・用があればこちらから呼ぶ」
それはこのふたり以外には視えないモノたちだった。


ちっちゃな芙美がこのたもんと出会ったのはいつであったか。
曾祖母のやち代とともに赤子の頃から芙美はここに訪れていた。

たもんには・・・・そろそろ「多聞」と表記する方がいいだろうか。
-------多聞には、芙美が剣道を極めようとする武道一家に生まれた咲子と、神事のために弓道を習い始め、最終的には学生での全日本のタイトルを獲った絋次との娘だということがわかっていた。
多聞はそのような血筋のものを好んだ。
そしてここに訪れる人々はそのように『武道』を嗜んでいるものが多いのだった。真摯にその道を極めようとする者には、自身の存在を知らせたりもした。
いずれこの赤子もそのような道へと進むことも多聞には見通せていた。

歩けるようになるとことばがその年齢よりは達者な芙美は、母親の咲子の心配をよそにひとりで遊びに来始めた。
多聞は、そんな芙美を静かに見守っていた。芙美には霊力の高い者がついていたので自分の出番はないと思ったのだ。
だが芙美の方から多聞を見つけた。
大きな瞳をじっと見開いて、不思議そうに自分を見つめていたのだ。

自分のような本来見えざるものを『視る』芙美。
多聞は、芙美と話してみたくなり。
・・・・そして、芙美の前に姿を現した。

「おじちゃん、だれ?なんていうの?」
くりくりとした特徴的な瞳を自分に向けて問う芙美。
「・・・・・多聞だ」
それは自分のもうひとつの名。
とはいえここにいる時はまた違っているのだが、よしとした。


芙美を抱き上げたまま多聞はいつもの指定席である欅の切り株に来ると、ゆっくりと腰を下ろし、自身の膝の上に横向きに芙美を座らせた。
「きょうはすこしあったかいね」
「・・・・」
「でもたもんさんは、それしかきてなくてさむくないの?」
「・・・・寒くない」
「そうなの?なら、さむくなったらいってね。おかあさんがつくってくれたふーちゃんのてぶくろとマフラーをかしてあげるから」
「・・・・そのような気遣いは無用だ。おまえが風邪を引くといけない」
そっと芙美の頭を撫でる。
「だいじょうぶだよ!ふーちゃんけんどおできたえてるもん」
多聞を見上げ、にこりと笑う。
「・・・・剣道は楽しいか」
「たのしいよ」
「そうか」
多聞もゆったりと微笑んだ。


『ああ、もう見ていられない』
『そうか?あのような毘沙門天さまは滅多に見られないから面白いではないか』
『面白いなどと・・・・。このように盗み見ているのがばれてしまったら大変なことに・・・・』
『確かにな。だが本当にあの幼子にはお弱いのだな』
多聞に「呼ぶまで来るな」と言われた異形のモノたちが、口々に言い募っていた。
・・・・・多聞を“毘沙門天”と呼び。
そう、多聞とは多聞天のことで毘沙門天のもうひとつの呼び名である。
ここの神社には倉稲魂命(うがのみたまのみこと)と武甕槌命(たけみかづちのみこと)が祀られており、武甕槌命は毘沙門天と同一視されているのだ。
多聞は、この神社の祭神であった。


「あ、そうだ。たもんさんといっしょにたべたいからもってきたんだよ」
ごそごそと芙美はサーモンピンクのダッフルコートのポケットを探り、取り出した。
「はい、どうぞ♪」
ちいさな手のひらに乗せて、多聞に差し出した。
「・・・・?」
訝し気に多聞は差し出されたものを手に取る。
「ふーちゃんのだいすきなにんぎょやきだよ。あまくておいしいの」
「人形焼・・・・・?」
言いながら包みをそっと開けば。
「これは・・・・」
「ふーちゃんのはね、べんざいてんさん。で、たもんさんのはびしゃもんてんさんだよ」
「毘沙門天・・・・・」
まじまじと多聞は手のひらの人形焼を見つめる。
まさか自分を模したものを食べることになろうとは。


『あーあ。毘沙門天さま、固まっちゃってるよ』
『お食べになられるのだろうか、あれを』
『そりゃ食べるだろうよ。あの幼子のくれたものなんだから・・・・・うわっ;;』

(去ね、と言った筈だ。・・・・二度と言わすな)

多聞からの鋭い睨みが三叉戟と化して、異形の眷属たちに飛んだ。


「たもんさん。いじめちゃだめ」
「・・・・・;;」
しっかりと芙美に見られてしまい、多聞はもう言葉もない。
神様ですら、芙美には叶わないのだった。
2009.12.21 / Top↑
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