つの字のあらたな学校でのお話「はじまりは、ここから」。
やっと最終話です。
ちょっと前の3話より短めになりましたが、無事エンドマークをつけられました。

「晴田 廉」としてあらたな人生のスタートを切ったつの字を見守ってやってくださいね。

ではではつづきをよむからどうぞ。



(・・・・どうして私の周りには、こうも真っ直ぐなタイプが多いのか)

どんなにこころを閉ざしても、気持ちのままに真っ直ぐ入り込まれたらもはや防御しきれない。
廉が大切に思う日夏里----橘 日夏里はその最たる人物で、人交わりを嫌いかたくこころを閉ざし壁を作って蹲っていた当時の廉に、大輪の向日葵のような笑顔と素直な裏表のない一途さでその壁を壊し、飛び込んできたのだ。

そして、ことあるごとに「大好き」と廉に告げていた。
どこででも。誰がいても。

それはずっと自分自身が好きになれない廉にとって、どこかこそばゆくて、でも安心できる言葉であった。

だが、日夏里の想いはもっと深かった。
日夏里は、友情などではなく、ひとりの人間としてそのすべてを大好きだと言っていたのだ。
------廉が『晴田次子』であった頃から。

廉は、同性の日夏里に惹かれていく想いを認めることが出来ず、さらにはいずれ別々の道を歩まねばならないことを告げられずにいて、そのジレンマに悩み、そこへ自身のからだの変化も重なって入院という事態になり・・・・・・そして本来の性を知った。

多くの合点がいくことがあったが、だからといってそれですぐに納得出来たわけではなかった。
絶望し、何も考えたくなくなって病院を発作的に飛び出した。
気遣いの塊のような廉は、そのように感情のままに行動することはこれまでなかった。
・・・・・飛び出したところでどうにかなるわけはなかったのに。

ふらつくからだを休ませていたところに、『彼』が現れた。
きっと身内の人間以外には語りたくないであろう過去を、彼は廉に教えてくれた。
彼のそんな勇気が廉を後押しし、決意する事が出来たのだ。
-------すべてのことを受け入れようと。
本来の性も、日夏里の想いも。
そして、日夏里への想いも。


その彼に雰囲気の似ている千里。
廉は大きく息を吐いた。
「・・・・ありがとう」
穏やかな笑みを浮べ、俯き気味になっている千里とアリスを見つめた。
「こんな私をそこまで気にかけてくれて。でも・・・・」
「・・・・・よ」
千里の呟きが聴こえた。
「センリ?」
アリスが千里の顔を覗きこむ。
「・・・・・って、なんだよ」
「センリ!」
「『こんな私』って、なんだよ。何でそんな風に自分を卑下するんだよ」
顔を上げた千里の瞳には悲しげな色が宿っていた。
「おまえが編入してきてまだ一ヶ月しか経っていないけど、ずっと近くで見ていたんだ」
「・・・・・」
「おまえは絶対自分が思っているようなやつじゃない」
千里はまっすぐに、射るように廉を見る。
「・・・・・そんなやつに、恋人があんな笑顔を見せるかよ。あんな信頼しきった、まぶしいくらいの笑顔を」
「・・・・!」
「だから、こんななんて言うな。もっと自分を信用しろ。おまえは絶対いいやつだ。・・・・俺が保障してやる!」
きっぱりと言い切った。

「・・・・もう、センリってば。センリが保障してどうなるのよ」
廉が瞳を見開いてなかば絶句しているので、アリスが苦笑まじりに口を開いた。
「どうなるって、いいじゃないか。俺の保障で。・・・悪いか」
拗ねた口調で言い返す千里。
「悪いなんて言ってないでしょ。どうしてそうすぐに拗ねるんだか」
「拗ねてなんかないぞ。俺は俺の素直な気持ちを言っただけだからな」
「それはセンリのいいところだけど、あんまりストレートすぎると相手はびっくりするわ」
「なんでだよ。こそこそ言うよりいいだろ」
「そういうことじゃなくて」
「じゃあ、どういうことだよ」
「つっかからないの!・・・ほら、レンを見なさいな。黙っちゃったじゃない」
と千里が廉に視線を向ければ、廉の肩がわずかに震えてて。
「晴田?」
「レン?」
訝し気に問い掛ければ。
「・・・・降参」
両手を軽く上げて泣き笑いのような表情で、廉は千里とアリスを見ていた。

日夏里と同じようなことを言う千里。
自分を好きになれず人交わりを嫌い、壁を作ってその中にずっと蹲っていただろう「欠陥人間」だ、と言った廉に。

『そんなこと、絶対ないから。つーさんはあんまり話さないけど、でもすっごくあったかくて、やさしくて、気遣いができる、そんな素敵な人だから』

転院することが決まった廉との別れに泣いていた日夏里だったのに、その泣いていることをすっかり忘れて言ってくれたのだ。

(雰囲気は土御門さんだけど、中身は日夏里だな)

もう、抗えるわけがない。
日夏里からは素直になる大切さももらったのだ。

そうして廉は、自分を心配そうに見つめている千里とアリスに長い長い話をした。ふたりはただ黙ってその話を聞いていた。


翌日の朝の教室。
体調が良い日は、前の学校に居たときと同じように早く来ている廉。
ある決意を秘めて、待っていた。

「Good morning。レン」
隣の席のアリスがにこやかに挨拶をしてくる。
「おっす、晴田」
そのアリスの後ろの席の千里も笑顔で声をかけてきた。
編入してきた日からの変わらない笑顔だ。
「・・・・おはよう、千里。アリス」
だから廉も笑顔を返す。
こころからの笑顔を。
「今日も早いんだな。・・・・って、今、なんて言った・・・?」
挨拶を受けて席に座ろうとした千里の動きが止まる。アリスも煌めく碧の瞳を見開いていた。
「・・・・・おはようって、挨拶を」
「その後だよ!」
「・・・朝から元気だね、千里。アリスはお守りが大変だ」
千里の勢いに、ついついくすりと笑ってしまう。千里は一瞬言葉を詰まらせ。
「!・・・・誰が誰のお守りだよ。たく、俺とアリスを廉はどうみてるんだ」
廉も一瞬眼鏡の奥の瞳を見開いた。
「『お釈迦様と孫悟空』かな」
くすくすと笑いながらさらっと言う。
「それって、もしかして俺が・・・・」
「もしかしなくても、孫悟空はセンリに決まってるじゃない。ね、レン?」
「・・・・だね」
「廉、アリス、おまえらなあー!!」
3人のやりとりを見ていた周囲からも明るい笑いが起きた。
『晴田 廉』のはじまりは、ここからだった。



「・・・・そうそう。今度、レンの向日葵を紹介してね」
1時間目の数学の準備をしながら、悪戯っ子の笑顔を浮べて言うアリス。
「俺も会いたいからな。廉の元気のモトに」
結局廉のプリントを写せないと悟った千里は今必死に格闘している。
「・・・文化祭に呼ぶから。日夏里もふたりに会いたいって言ってるしね」
そんな千里の手元をちらっと見て、その化学式違うよ、と最後につけくわえた。
「あら、光栄ね。楽しみだわ」
甘やかしちゃだめよ、とアリスは呟く。
「答えは教えないから、大丈夫」
にっこりと言っていい笑顔で廉は返した。


------そう、はじまりは、ここから。
あらたな自分のはじまりは。

彼からもらった勇気と彼女からもらった素直な気持ち。
しっかりと胸に刻み、廉はこれからを歩む。
2010.01.13 / Top↑
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