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1週間ぶりの更新です。予告していた都ちゃんのお話。
ネタそのものは昨年からあったのですが、時期に合わせて書こうと水曜日あたりからちんたら打っていたら、ほんとの試合でも同じ結果になってしまい、あせったワタクシです(^^;)
いや、ファイナルの結果から考えれば順当なんですけどね。

このSSを書くために、つべやニコ動で過去のフィギュアスケートの演技を見ていたんですが、ついつい見入ってしまいました。
いけませんねえ。

今回のお話のプロットを練っている時には、大好きなフィギュアスケーター・ゆかりんが引退表明。
都ちゃんは最初は別の人のイメージで書いていたはずなのに、いつの間にやらすっかりゆかりんのイメージになってしまいました。

ではではつづきをよむからどうぞ。



リンクに立てばひとり。
持てる力のすべてを出しきって、あの場所を目指す。



欧州の一都市で、次世代を担うフィギュアスケーターたちの今季最後の大きな試合が開かれていた。
満年齢13歳から19歳までの少年少女たちが華やかに競い合うのだ。

日本からは男女シングルに各1名と、ペア1組が出場していた。
世界ジュニア選手権の枠はシニアの世界選手権同様、昨季の出場者の成績で決まる。
数年前まではジュニアの下のクラス・ノービス世代から強化を図っていた成果が現れ、男女どちらかがタイトルを取り、アベック優勝も果たすほどであった。
そしてこれら優勝者たちは、みなシニアに上がってからも活躍していた。
だがここ何年かは少々低迷気味と言わざるを得ない。
JGPS(ジュニアグランプリシリーズ)で良い成績を上げているのにもかかわらず、世界ジュニアで実力を発揮出来なかった。
今大会では「1」となってしまった枠をまず増やせるよう、出場する選手たちに課せられた使命となっていた。


大会最終日の今日は女子シングルのフリーを残すのみだ。
開催早々に競技を終えたペアは銀メダル、男子シングルは金メダルを獲得し、ともに3枠復活を遂げた。
高校一年生の男子シングル代表の羽田 稜(はねだ りょう)はJGSで出場した2大会のどちらをも優勝し、JGPF(ジュニアグランプリファイナル)も制した。
代表を決める全日本ジュニアは当然のように王者となり、まさに向かうところ敵無しでこの大会に臨み、昨季15位と沈んだ悔しさをばねにタイトルを獲得した。
来季はシニアへ移行するだろう。
そんな稜とペア代表の上橋流奈(うえはし るな)は、女子シングル代表の徳成都の応援のために観客席に座っていた。

「みゃーこちゃん、大丈夫かな」
6分間練習の始まったリンクを見つつ、隣に座る流奈に心配そうに話しかける稜だ。
「う~ん。ショートに強いみゃーこが、得意のループジャンプで失敗しちゃったからねえ。今もなんだか表情が冴えないし・・・・・」
流奈も心配気に都を目で追う。
SP(ショートプログラム)が終わって都はトリプルループジャンプでの転倒が響き、現在4位だ。3位との差は2点差で1位とは5点差近くあった。
「ミヤ、イツモ『オトコマエ』ナノニ」
「マックスってば」
至極真面目な表情でいうマックスに流奈は苦笑いを浮かべた。

流奈がペアを組んでいる日加ハーフのマックス・・・・・マクシミリアン・トリタニは、ペアを組んで間もない頃、同じリンクで練習をしていた都に一喝されていたのだ。

流奈は都の一歳年上で、小学校まではずっと一緒にシングルの選手として試合に出場していた。だが中学からは希望していたペアに転向し、2回ほどパートナーを変えた末にやっと見つけた相手がマックスだった。
そもそも日本は「ペア不毛地帯」と呼ばれていた。
フィギュアスケートを習う男子は少ないうえ、外国人に較べて体格もあまりよくなく小柄だ。さらに思春期近くなると周りにかわかわれるのが嫌でやめてしまうことが多い。流奈のパートナーもそれでやめてしまった。
もう日本人でパートナーを探すのは難しいと判断したコーチが、カナダでアイスホッケーをやっていたマックスに声をかけた。マックスの父親とコーチが知り合いであったからだ。
トライアウト後正式にペアを組んだ。
マックスの父親が日本人であるし、そもそも日本にはペアがいないということも考慮し、彼らは「日本代表」となった。
日本とカナダを往復しつつ練習に励んでいたが、ひとりっこのマックスは流奈より年上であったのに、家族がいなくて寂しいと日本での練習を嫌った。
父親の親族はあまり付き合いがなかったし、マックスはその頃ほとんど日本語が話せなかったせいもあり、孤独感が募っていたのだろう。
練習に来てもまったく身に入っていないマックスに都は、
「流奈が怪我したらどうする気?!ママが恋しいならカナダへ帰りなさいよ!」と言った。
リフトやスロージャンプにスローツイストなどペアの技は危険なものが多い。それゆえふとした気の緩みが取り返しのつかない事態になることも有り得るのだ。
マックスは都のこの一言で目が覚めた。
自分が納得したうえで流奈とペアを組むことを決めた筈だ。大事なパートナーを怪我させるなんてことはもっての外なのだ。
以来、泣き言を言わずに練習するようになった。

「このくらいの点差なら、いつも通りの演技ができれば十分逆転可能なんだけどね」
「僕の金と流奈ちゃんたちの銀が変なプレッシャーになっちゃったのかもよ」
「流れはファイナルの時と同じだもの。みゃーこにそれはありえないから。・・・・ただね・・・・」
流奈はふっと全日本選手権での都の演技を思い出す。

都も今季は稜と同じように、派遣されたJGPSの2試合を優勝しファイナルも制していた。もちろん全日本ジュニアもだ。
だが、前年度と同じように全日本ジュニア上位者として出場した年末の全日本選手権で、ショートは6位であったのにフリーで大崩れして10位へと沈んでしまったのだ。
都はどの試合でも安定した演技が出来るのが強みだった。
それは、「練習は裏切らない」というコーチの言葉を信じ、真摯に人一倍練習をしていたからだ。その練習も常に本番と同じようにやっていた。だから崩れないし、メンタルも鍛えられていた。
そんな都であるのに、ルッツの失敗から演技を立て直せなかったのだ。

試合後のエキシビジョンの練習で顔を合わせた時に、またちょっとルッツとフリップが跳べなくなっているとは言っていた。もともと苦手なジャンプだったからタイミングが合わなくなってくると跳べなくなってしまうのだろう。

(悩んじゃだめだよ、みゃーこ。絶対跳べるんだから。迷わないで)

何度もジャンプを跳ぶタイミングを合わせている氷上の都を見つめる流奈だ。

6分間練習が終了し、一番滑走の選手を残して他の選手達が次々とリンクから上がっていった。
いよいよ女子シングル最終グループの演技が始まり、ジュニアの女王が決まるのだ。
最終滑走の都は、コーチからエッジケースとジャージーを受け取ると、かたい表所のままバックステージに戻って行った。


「巴姉さま、みゃこちゃんの様子はどう?」
チームメイトの稜や流奈たちからはまた離れた席で、都を見守っている人達がいた。
「・・・・いまいち、かな」
二階席であるため、双眼鏡でウォーミング・アップする都を追いかけていた巴(ともえ)は、溜息混じりに答えた。
「まだ全日本のを引き摺ってるのかなあ。あれだけ練習してるんだから自信持てばいいのに」
「なーちゃん・・・・」
少し身を乗り出すようにして目を凝らす渚(なぎさ)に心配気な瞳を向ける環(たまき)。
巴、環、渚はみな都の姉たちで、世界ジュニアに初出場する都の応援に来ていた。
「ほらほら、私達が不安になっちゃだめなのよ。絶対大丈夫っていう気持ちを都にそそいであげなきゃ」
そう言ってにっこりと微笑んだのは、母親の久美子である。
巴達はいっせいに母親を見た。久美子は娘達の視線を受け止め。
「・・・・・あの広いリンクにたったひとりで都は立つの。誰も手助けは出来ないのよ。だったら私達に出来ることは、精一杯応援してあげることでしょ。ちがう?」
双眼鏡を膝の上に置き巴が答える。
「・・・・ちがわない」
「ね」
またもやにこりと久美子は笑った。


スケート靴を一度脱いで、都は体が冷えないようにヘッドフォンで音楽を聴きながら軽いストレッチをしていた。

(試合前にこんなに不安な気持ちになったことなんて、いままでなかった)
もちろん緊張はするが、しっかり練習をつんできたという思いが常にあったから、不安を覚えることなんてほとんどなかったのだ。
全日本の前はいつも以上に練習をした。昨季の5位入賞がフロックだなどと言わせたくなかったし、ジュニアチャンピオンとしての誇りもあった。
そうであったのに。
最初のルッツが2回転になり、しかも着地につまってエッジが氷に引っかかって転倒してしまった。
転倒ぐらいたいしたことじゃない。
他のエレメンツで取り返せばいいと思いながら演技をつづけたが、何かがかみ合わなくなっていた。曲にどんどん置いていかれあせりもで、終わりは音とまったく合わなかった。

こんな演技じゃ世界ジュニアに出場する資格なんてない。
悔しくて、それまで以上に都は練習に打ち込んだ。
だが一度狂ったジャンプのフィーリングはどうしても合わず、結果、世界ジュニアのショートではステップからのジャンプをルッツではなくループに変更した。得点はルッツの方が高いが、転倒のリスクを負うよりは、得意なループで加点を狙うことにしたのだ。

ショートプログラムではひとつのミスが大きく得点に響いてしまう。ミスなく終えるための変更であった。
確実に上位につけるようにと。
それが・・・・・。

(ループで失敗するなんて。曲とのタイミングだってしっかり合うようにプログラムを作ったのに)
今季の都のショートプログラムは映画『Moulin Rouge』の「Bolero」だ。フリーはクラシック音楽にしたので対照的な曲を選び、衣装も黒を基調としたシャープなものだった。
昨季は世界ジュニアに出られなかったので、シーズンが終わる前から新しいプログラムを作り練習を重ね、新シーズンに臨んだのだ。
どんなに練習していても好不調の波はある。
あるのだが、それでも安定した成績をこれまでは出して来れたのだ。
今回は、失敗を引き摺ってしまっている。
得意なジャンプに変えたのに転倒してしまった。しかも回転不足を取られ、2回転判定に転倒によるディダクションがつき技術点はかなり低くなった。
だがそれでも4位につけられたのは、都のスケーティングの上手さと音楽表現のよさによる芸術点の高さに助けられたからだ。

(PCSで助けられたって、TESをちゃんと出せなきゃ。フィギュアスケートは『スポーツ』なんだから)
PSC(芸術点)とTES(技術点)、両方がバランスよく取ることが都の目標だ。だから苦手なジャンプだって逃げないで今季はしっかりとプログラムに入れたのだ。
全日本ジュニアまではちゃんと滑りきっていた。
出来ないことはないのだ。


「都、そろそろ準備しなさい」
リンクサイドから戻ってきたコーチの佐瀬が言う。
4番目の選手が滑り終わり、「キスアンドクライ」に座って得点を待っていた。次に滑る選手はリンクインしている。
都はうなづくとベンチに座りスケート靴をはき、締め過ぎないように緩くなり過ぎないように調節しながら紐を締めた。

メンタル面が強く、一緒に練習している仲間たちから「オトコマエ」などと言われている都に、佐瀬も安心していてあまり演技前にあれこれ言った事がなかった。
だが今回は。
ショートで得意のジャンプを失敗したうえ、フリーが崩れた全日本のようなことになってしまったら・・・・・と不安を抱えている。それにきっと出場枠のことも考えてしまっているだろう。
男子もペアも3枠確保したのだから。

(連盟のお偉いさんは、簡単に言ってくれるからな)
選手にすべてをまかせっきりのくせして。
この小さくて細いからだに全部を押し付けて。


準備が整い、リンクサイドに向かう。前の選手はもう得点を待っていた。
一瞥した都ははずしたエッジケースを佐瀬に預け、リンクに降りる。
「枠のことなんて考えるな。楽しんで滑って来い」
きっぱりと佐瀬は言う。
「コーチ・・・・」
「昨季出られなかった、大舞台なんだぞ。楽しまないでどーすんだ」
「・・・・」
それは、自分だってそう思っている。
でも・・・・・・。
都はうつむいてしまう。
「・・・・大丈夫だ。都には出来る。それだけの練習をしてきたんだ。練習は絶対裏切らない。信じろ」
「!」
うつむいていた顔をあげれば、佐瀬の力強い瞳があった。
「都は出来る。跳べる。絶対だ」
呪文のように繰り返す。

------都は出来る。跳べる。絶対だ。

佐瀬の言葉が頭の中をこだまする。
都の瞳から不安の色が消えた。
にこりと佐瀬は笑い。
「よし。持てる力のすべてを出し切れ。・・・・・Let's enjoy skerting!」
「はい!」
都も笑顔を返し、両肩をぽんっとたたかれたのを合図にリンクの中央へと向かった。

(・・・・自分を信じよう。絶対に出来ると)
2,3回その場でくるりと回り、始まりの位置につく。深呼吸ひとつしてポーズをとった。


クラシック・ギターの切なげなメロディーから始まる「アランフェス協奏曲」。スペインの作曲家ホアキン・ロドリーゴの作曲で、哀愁をたたえた美しい旋律に魅せられ、これまでに数多くのスケーターたちが使用してきた。

その静かなメロディに合わせゆっくりと滑り出す。
冒頭のジャンプは、トリプルルッツ。

(跳んでみせる)
滑りのスピードを上げアウトエッジにのって、後ろ向きに踏み切った。
1回2回3回と回り、綺麗に着氷。

(跳べた!)
思わず笑顔がこぼれた。
もう、大丈夫。自分は跳べる。
曲に集中し、この「アランフェス協奏曲」という美しい旋律をフィギュアスケートで表現しよう。
音を一音もはずさず、この曲に込められた想いをジャンプやスピンやステップで。


3回転3回転のコンビネーションジャンプも音に合わせて着地も決まりスムーズに流れた。
スパイラルシークエンスは、祈るようにのばした腕をひろげ、指先まで神経を行き届かせる。
大きく弧を描いて。

最後のダブルアクセルを跳んでシットスピンをすると、激しくかき鳴らすギターの速さにあわせて加速していくストレートラインステップ。
風のように駆け抜けていく。
ためを置かず、壮大な主題に添うようなやわらかいイナバウワーに気持ちをのせた。

得意のドーナツスピンの回転の速度がゆるくなりほどけ、イーグルで小さな輪を作っていく。
くるり、くるりと。
静かにゆっくりと止まり、想いを込めて両手をかかげた。
最後の一音が余韻を残す音楽にあわせて。


一瞬の間の後、人々は立ち上がり大きな歓声と拍手が沸き起こった。

「え・・・・」
音の洪水に都は我に返った。
丁寧に滑らかに、そして自分を信じて滑りきった。
笑顔が出て、それからすぐに涙が出てきた。

リンクサイドの佐瀬を見れば、手をたたきながら泣き笑いの表情だ。目が合って、ちゃんとおじぎをして戻って来いという。
うんと小さくうなづいて、すべての観客にむかって「ありがとう」の挨拶だ。
手を振りながら佐瀬のもとに戻ると。
「すごいぞ、都!!」
両手を広げて、思いっきり抱き締められた。


「みゃーこちゃん、カッコイイ」
観客席の稜も立ち上がっていた。隣の流奈とマックスも。惜しみない拍手を都に贈る。
「ヤッパリミヤハ、『オトコマエ』ダネ」
「ちがうよ、マックス。『イイオンナ』なの」
にこにこと笑うマックスに、流奈は瞳を潤ませて言い返す。

(みゃーこ、がんばったね。すっごく素敵だったよ)
キスアンドクライに座る都の笑顔がまぶしい。やり切ったという笑顔だ。

得点を催促する手拍子が観客席に起きる。
そして、表された点数にまた歓声が上がる。
佐瀬に促され、都は立ち上がって歓声に応えた。



あの場所を目指して、やってきた。
その場所にまず立つことが出来たけれど、まだまだ通過点のひとつに過ぎない。

もっともっとその先へ。




都ちゃんがフリーに使用している「アランフェス協奏曲・第二楽章」です。
長いから、もちろん編集してますが・・・・・。
本田くんがソルトレークOPの時のフリーで使用したときの曲編集で私はイメージして書きました。

2010.03.14 / Top↑
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