一週間ぶりの更新です。

日夏里とすみれままの日常のお話。
本日の話題は佑介くんの写真集のこと。

イケメン大好きすみれままは、佑介くんの性格も含めてとっても気に入ってます。
そんな佑介くんの沖田総司に扮した写真集もお気に入り。
とはいえ、この写真集は栞ちゃんからの借り物でございます。
そろそろ返さないと・・・・と思っている日夏里なんですが。


写真集が出来るまでのくわしい経緯は毬さんちのオリキャラブログ「佑遊草子」にてどうぞ。
「春は名のみの・・・・」とは歌の一節であるが、なかなか暖かい陽気の青空に恵まれないそんな卯月も半ばを過ぎていた。


「さて。朝の片付け物はすべて終わったことだし、いつものものを・・・・」
と、お気に入りのダージリン・ティーをテーブルに置きゆったりとソファに座った“レディ・バイオレット”こと橘すみれは、この二ヶ月あまりの日課となったある写真集を手に取り頁をめくった。
「うふふ。何度見ても飽きないわ。どの表情もみんな素敵」
語尾に音符かハートマークがつきそうな声音で、にっこりと笑う。
そんなすみれを、娘の日夏里は呆れ顔で見ていた。

「あら、ひーちゃん」
娘の冷たいとまでは言わないが、それに近い視線などせずあっさりとうっちゃって、少女のような可愛らしい笑みを浮かべるすみれ。
「お母さん、それいつまで持ってるの?そろそろ栞ちゃんに返したいんだけどな・・・・」
「春休みに返すつもりだったのに」という言葉を飲み込む。
すみれは全然意に介していないらしく。
「いつまでって、まだ二ヶ月よ」
「もう二ヶ月だってば」
はあっと日夏里は大きく溜息をついた。


母すみれがこの二ヶ月間ほど毎日日に何度も眺めている、ある写真集。実は日夏里の友人土御門佑介の写真集であった。
とはいえ、佑介は別に芸能人でもなんでもない。有名な美少年コンテストで「理想の恋人賞」と「フォトジェニック賞」のダブル受賞をしているが、極々普通の高校生だ。
そんな佑介がなぜ写真集などになっているのか。
それはこのコンテストに取材に来ていたあるカメラマンが、佑介に魅せられて個人的に「写真集を作りたい」と申し出て、佑介は快諾したのだ。このカメラマン御津崎豊のことはさる場所で会って人柄を知っていたというのもあった。

日夏里はこの写真集を、すみれに見せる前に恋人の晴田 廉に見せていた。廉はプロ・カメラマンを目指していて、以前に佑介を撮っていたからだ。
写真集を見終わった廉は、いつか自分が撮るならやはり「素」のままの佑介を撮りたいと言ってにこりと笑った。
廉は風景や動植物を撮る方が性に合っていた。
だが人物を撮るのなら、カメラで撮られると意識していない自然な姿を撮りたいといつも思っていたのだった。

写真集の中の佑介は、ある歴史人物をイメージして撮られていた。佑介のコンテストでのパフォーマンスを見ていてその人物が、オーバーラップしたというのだ。
故に、写真集のタイトルは「浅黄色の肖像」とつけられていた。
-----浅黄色。
歴史に少しでも詳しければ、この「浅黄色」でさる集団を連想出来るだろう。
そして、コンテストで受賞出来るほどの男前で剣道三段の腕前を持つ佑介が、その集団の誰をイメージされたのか察しはつくと思うのだ。

日夏里は友人の栞からこの写真集が生まれたいきさつは聞いていた。「さもありなん」と思った日夏里だ。
でも、母のすみれがこんなにこの写真集を気に入ってしまうとは思いもよらなかった。
すみれはこよなく佑介を気に入っているが、生身の佑介が一番だろうと思っていたから。
つくづく読みが甘かったと思う。


「・・・・遅くてもGWには返しに行くからね」
「どうして?」
「どうしてって、それ、栞ちゃんのなんだから」
そう日夏里が言うと、すみれはほんの少し黙り。
「・・・・栞ちゃんは、いつでも本物の佑介くんに会ってるじゃない」
上目遣いに娘を見て、拗ねた口調で言う。
-----栞と佑介は幼馴染の恋人同士で、家も近所だし高校も同じなのだから当たり前のことなのだが。
「おか~さ~ん;;」
「おかあさん、夏以来会ってないし。ひーちゃんは猫ちゃんに会うからって遊びに行ってるのに」
「・・・・・;;」
佑介が栞や親友の千葉航と一緒に日夏里の家を訪問した折----それは、すみれが強引に誘ったからであるが----、3匹も飼っているほどの日夏里の猫好きを見て、飼い猫のハクの写真を見せたのだ。
日夏里はすぐさま「会って、なでなでしたい」と言い、その後栞に、佑介に言ってハクと会えるようにして欲しいとお願いしていたのだ。
その願いは適い、無事ハクと会う(遊ぶ?)ことが出来た。
ヒメのお婿さんに、という願いは適えることが出来なかったけれど。

だがそもそも母親が、娘の友人しかも他校の異性の友人に会いたがるというのはよほどのことではないだろうか。
いくら佑介が、すみれ好みの「イケメン」だとはいえ。
その佑介が、日夏里を同い年なのに妹のように見ていて気にかけていることが、親として嬉しいこととはいえ。

日夏里が黙ってしまったので、すみれは渋々といった風情で。
「仕方ないわね」
やっとわかってくれたのかと、日夏里は表情を明るくするが。
「・・・・でも、そうだ。一冊、いただけばいいのよね。きっと何冊も手元に届いてるんでしょうから」
「え?;;」
続いたすみれの言葉に唖然としてしまう。
「おかあさん、この写真集欲しいの。『一冊ください』って、お願いして?ね、ひーちゃん」
小首をかしげてにこりと微笑んだ。


「おかあさんてば、そんな勝手言って!」
「ま。そんな大きな声で言わなくても聴こえるわよ。おかあさん、まだ若いんだから」
それは十分に承知してるからと日夏里は心の中でつぶやく。
18歳で父親の周(あまね)と結婚して、二十歳(はたち)になる前に兄の雪也を生んだすみれ。
40代半ばに差し掛かってきたが、ハリのあるつやつやした白い肌に少女のような風貌があいまって、30代でも通用する。
ウェーブがかった長い栗色の髪をゆったりとまとめ、ピンタックやフリルにリボンがついたワンピースを実に見事に着こなすのだ。
だが、外見と中身のギャップがものすごくあるのが、自分の母親だったりするわけで。

「・・・・無理だと思うけど。内々の写真集だから、たくさん作ってないって言ってたもん」
これは事実で、撮影者の御津崎が極内輪の関係者とあとは佑介の自宅に5冊、撮影場所を提供してくれた草壁家に数十冊程度しか送られていないのだ。
いわば「レア物」なのである。
「それでも、1,2冊くらい余ってるかもしれないでしょ?」
「それはそうかもしれないけど、でも・・・・」
そこまで図々しくはなれない。
佑介を気に入っている母に見せたいからと、栞にお願いして借りてきたのだ。

「いいわよ。直接佑介くんに交渉しちゃうから」
え?;;
母はいまなんと。
「土御門さんに直接って・・・。だっておかあさん、土御門さんの自宅の電話番号も携帯のアドレスも知らないのに、どう、やって・・・・・;;」
「あら。わたしが知らないわけないでしょう?」
驚きでしどろもどろになっている日夏里に、笑顔ですみれは自信たっぷりに答えた。
「・・・・・;;」
ありえる。
この母なら、十分にありえるから、怖い。
なので。
「えと、いつ、教えて、もらった・・・の?」
恐々尋ねる日夏里だ。
「もちろんうちに遊びに来てくれたときよ」
それはわかっている。佑介とすみれが会ったのは、6月にあったアイスショーのときと夏休みに家へ来てくれたときだけなのだから。
だがそのどちらでも自分はすみれの傍にいた。すみれがそのようなことを聞き出そうとしていたら、絶対止めている。
・・・・・・無謀な行為であっても。


佑介らが日夏里の家へ遊びに来たあの日。
途中から席を立ってしまった兄の雪也を、夕食が出来たからと二階の部屋まで日夏里が呼びに行った。
部屋の中の憔悴しきった雪也の様子に日夏里は悲しくなり、すぐに階下へ戻れなかったのだ。
二階を見上げすみれは、佑介たちにそろそろ座ってて、声をかけた。
ダイニングテーブルに向かう佑介たちに。
「そうそう。佑介くんと航くんのおうちと携帯の電話番号を教えてね」
「え?」
佑介と航の声が重なった。
「七海ちゃんと栞ちゃんのは、わかってるからいいわよ」
にっこりと笑う。
すみれの父親と七海の祖父は親友なのだ。それに日夏里と七海は先輩後輩の関係だがとても仲が良い。知らないわけがなかった。
栞の番号は、日夏里が自分からすみれに教えていた。「友達だから」と。
「でも、それは・・・・」
口を開いたのは佑介だ。
いくらすみれ自ら誘ってくれ、日夏里と栞が友人同士とはいえ、他校のしかも異性の自分がここに来ていること自体が異例なのだ。そのうえ、自宅と携帯の電話番号まで聞かれることになろうとは。
「あ、僕のはこれです」
佑介が逡巡している間に、航は七海からメモ紙をもらって番号を書き、すみれに手渡した。すみれはありがとうと笑顔で答えていた。
「航;;」
なんでそんなあっさりと、と佑介は思う。
きっと航はこれまでの経緯を傍から見ていて、すみれに反論しても無駄ということを悟ったようなのだ。
なおも困り顔でどうしようかと悩んでいる佑介に。
「あのね、もしもひーが佑介くんに何か連絡出来ない事態になった場合、その時は困っちゃうでしょ?だからそういう時のためにね」
言ってることはもっともらしいが、そういう時は栞に連絡すればいいことで、それに多分、連絡がなくても自分には察せられてしまうだろう。
「・・・・ひーちゃんには教えてくれるのに、わたしには教えてくれないのね」
「いえ、その;;」
睫が綺麗にカールされた瞳で自分を見上げ、拗ねた口調ですみれは言う。

(おかあさんにまで、こんな真っ直ぐな瞳で見られるなんて・・・・)
やっぱり親子だと思った。

「も、あきらめなよ、佑介」
「航・・・・」
「あの七星さんが太刀打ち出来ないんだから。僕らには無理だって」
苦笑いを浮かべつつ航は隣の七海を見ると、七海もまた苦笑しつつうなづいた。
「うふふ。そういうこと。さ、教えてね」
実に嬉しそうに、すみれは微笑んだ。


と、このような経緯があったことを日夏里は知らないのだ。
知らないが、自分の母親はどこか底知れない。そして謎めいていることは重々承知していた。

「・・・・今度栞ちゃんにメールしてお願いしてみるから」
なので、諦めるしかない。すみれが言い出したら利かないこともわかっている。
「ありがとう、ひーちゃん」
にこにこ笑顔のすみれに、日夏里はそっと溜息をついた。

“レディ・バイオレット”に逆らうなんて、やはり無謀だったのだ。
その“レディ・バイオレット”に気に入られてしまったのは、佑介にとって吉なのか凶なのか。
誰も知る由もない。
2010.04.17 / Top↑
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