上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.--
今回も舞台は尚壽館。
日夏里の兄のひとり、七にーちゃんこと七星がやってきました。
あまりみなに知られていない、日夏里のあることがわかります。
そのことでまた別の波乱(?)がちょっとだけ起こりますが、それはまた後日に。


ではではつづきをよむからどうぞ。



尚壽館へ訪れたときの彼の第一声は、決まってこれである。

「たのもうー!」

そして一礼して道場内に入る。
彼の声に、道場の奥の方から、
「・・・・また来た」
という、冷ややかな呟きが漏れていた。


「あら、こんにちは。今日も大学の帰りなの?」
防具をはずし片付けている咲子が、大きな声を響かせた人物・橘 七星ににっこりと笑いかけた。
「はい。・・・その早目に終わったんで、夕方の稽古までこちらでちょっと」
「熱心なのね。わたしは上がっちゃうけど、佑介くんも航くんもまだ残るから鍛えてやってね」
鮮やかな笑顔を残し、咲子は芙美を連れて道場から出て行く。
その後姿を七星はぽ~っと見つめていた。

(結婚してたって、イイオンナはイイオンナだよな~。道着を着てたってメリハリのあるナイスバディだってわかるんだから・・・・)

少々不埒なことを考えていたりもする。
「そ~んな目つきで咲子ちゃんのこと眺めて。旦那さんに見つかったら絞め殺されちゃうわよ」
「そうそう」
からかい混じりの声に七星ががばっと振り返ると。
「御津田さんに相馬さん;;」
親子で尚壽館に通う御津田涼音と相馬小枝が立っていた。
涼音は小学5年生になる男女の双子海と陸の母親で、小枝は「三羽がらす」のひとり月人の母である。
「絞め殺されるって、そんなオーバーな・・・・・」
「オーバーじゃないのが、咲子ちゃんのダンナなの」
「視線だけで射殺せるわよね~」
「・・・・・;;」
いったいどういう人なのかと七星は考えるが、一度も会ったことがないので想像がつかない。
「でも、すごい『イイオトコ』なのよ」
「『色男』じゃない?」
「咲子ちゃんひとすじだからちょっとちがうわよ。色気はあふれるほどあるけどね」
「確かに。フェロモン振りまいてるし」
「本人はその気がないのにね」
涼音と小枝の会話は七星をますます混乱させたが、とにかく咲子の夫は男性的色気にあふれたイイオトコらしいと察することは出来た。
「・・・・七ちゃんは、下手すると鼻であしらわれちゃうわよ」
「?」
佑介と手合わせをして以来、七星はたびたび尚壽館へ訪れるようになっていたのだ。
七星の大先生で真穂の師匠でもある寒河江嵩一が、尚壽館の方へ迷惑をかけなければかまわないと許していたし、佑介のことがおおいに気に入って・・・・・もちろんもともと高校の方で稽古の相手になっていた航もだが・・・・何度でも竹刀を交えてみたいと思ったからだ。
それと師匠の堀田から常々聞かされていた、「警視庁の鬼姫」との異名を持つ憧れの真穂に会いたいという気持ちもあった。そして、鬼姫の娘である咲子にもだ。

そんな風に始終出入りしているうちに、いつの間にやら涼音や小枝からは「七ちゃん」などと呼ばれるようになってしまったのだ。
「だって、七ちゃんまだだもの」
「・・・・なにがまだなんですか」
普段はべらんめえ口調の七星も、目上にはきっちり丁寧語だ。
「あ、そうね。まだだわね」
小枝の言葉に、七星だけでけではなく涼音も理解していなかったが、どうやらぴんときたらしい。そして涼音は小枝と顔を見合わせ、意味深な笑顔を浮かべた。
「ふたりして、いったい・・・・」
「わからないなら、いいの。とにかく咲子ちゃんの旦那さんには近づかないことね」
近づかないことと言われても、顔もわからないのだからどうしようもない。七星の頭の中は疑問符だらけだったが、しょせん熟女にはかなわないことは悟っていた。


「よ、航。佑介」
熟女な(または姥桜~ずか?)涼音と小枝にあれ以上遊ばれる前に、七星は本日の目的を果たすために佑介らのもとにやってくる。
「こんにちは、七星さん」
「また来たんですか」
佑介は笑顔で挨拶をするが、航はいえばとじと目で七星を睨みつけ、周囲を凍らせるような冷たい声で言い放つ。
「来ちゃ悪いか」
そんな航の目つきも物言いもまったく七星は気にしていない。
「悪いです」
さらに声の温度が下がる。
「ご挨拶だな、まったく。・・・・航、インターハイ連続出場おめでとさん」
にっと照りつける真夏の太陽のような笑みで言われて、航は毒気を抜かれてしまった。
「今年は優勝しての出場だもんな。稽古につきあった甲斐があったぜ」
インターハイ予選前、七星は自身の大学での稽古よりも航の稽古相手を優先していた。それは航の所属する剣道部に航より実力のある選手がいないためだった。週末なら、尚壽館へやってくれば佑介がいたからよかったけれど。
「その、ありがとうございます」
航はぺこりと頭を下げた。

「・・・・弓道の予選の日と重なっていなかったら応援に行きたかったよ」
「いいって。ちゃんと僕と約束したとおりにしてくれたじゃないか」
すまなそうに佑介が言うので、航はにこっと笑いぽんぽんと佑介の肩をたたいた。
航は剣道で佑介は弓道でと、種目は違ってしまうが、一緒にインターハイへ出ようという約束をふたりは交わしていたのだった。
「約束?なんの」
「内緒です」
「減るもんじゃあるまいし」
「減ります。・・・・それに七星さんには関係ないです」
「なんだと?それが稽古につきあってやった先輩に言う科白か」
「それとこれとは別物ですから」
何故か七星に対しては、強気の態度の航だった。
こんなふたりのやりとりに。
「まあまあ、ふたりとも;;」
苦笑を浮かべながら佑介が割って入ったが。
「佑介は黙ってて!」
一言、言い返されしまった。


佑介ら3人のやりとりを少しばかり離れたところで見ているのは。
「誰、あの人?」
怪訝そうに隣で自分と同じように素振りをしている数道に斎姫が尋ねた。数道は素振りの手を止め。
「橘 七星さんと言って、千葉さんの部活の顧問の後輩の人らしいよ」
「千葉さんの部活の顧問の後輩?なんでそんな人がここに」
斎姫も竹刀を下ろししばし素振りを止める。疑問がわくのも無理もない。
「・・・・・全部を説明すると長いから」
七星が初めて尚壽館にやって来た日、数道も稽古に来ていた。七星は佑介と勝負しに来たのだ。
その勝負するに至ったいきさつについてはのちに航から聞いてはいたが、それをいま斎姫に話さなくてはいけないことでもないと判断した。
「ふうん」
数道が元来無口な性質で必要以上のことは語らないのは斎姫もよくわかっているので、それ以上追求はしない。
「剣道は強いよ」
「みたいね」
ここに通い稽古を続けていると、強い人がおのずとわかるようになってしまうらしい。
現在はほとんど稽古には顔を出さないが、道場主の綱寛は全国でも数少ない八段を有しているし、その綱寛に見込まれ実質的に尚壽館を仕切っている嫁の真穂は全日本準優勝者で、「警視庁の鬼姫」と呼ばれた女性だ。
時折顔を出す綱寛の息子の直哉も、今は競技剣道から退いているとはいえ、学生時代は立ち上る炎のようなオーラをまとい相手を威圧し「上段の草壁」と名を馳せた。
その他にも綱寛や真穂を慕って、警察関係の猛者たちもやってきたりするのだ。
とはいえ、見る側にもそれなりの「目」がなければ、何も意味がないのであるが・・・・・。


そろそろ稽古を再開しようと真穂が道場に戻ってくると、視界に七星の姿が映った。
「佑介くんは昨日も今日も大変ね」
七星が真穂に気づき、かるく頭を下げた。
「昨日?・・・・昨日は佑介は警視庁に出稽古でしたよね」
警視庁での稽古も尚壽館との稽古に較べればはるかに大変なのだが、真穂が言っているにはそのことではないようで、それゆえ疑問符を浮かべた航だ。
真穂は苦笑しながら、昨日の出来事をかいつまんで話した。

「佑介、合気道も習ってたのか?!」
「習ってないって;;・・・・知り合いから簡単な護身術を教わってるだけだよ」
話を聞き終わって、航はなかばあきれたように告げる。
幼い頃から剣道を習い、高校からの部活で弓道を始め、さらには合気道までとは・・・・・。
「・・・・『簡単な』で、警視庁で師範を務められるような人に誘われないだろ。普通。まったくそれ以上強くなってどーするわけ」
「どうするって言われても・・・・・」
返答に窮してしまう佑介だ。
「合気道といや、ひーが習ってるぞ」
七星が口をはさむ。
「ひー・・・・って、橘さんが?」
佑介は自分の頭ひとつぶんよりもさらに小さい、でも大きな瞳にあふれんばかりの元気さを映し出している少女を思い出した。
「ああ。・・・・・知らなかったのか。小学校からやってるぞ、ひーは。今、ニ段だったかな」
七星の瞳に優しさが宿る。ひーこと日夏里は、目に入れても痛くないであろうかわいい妹なのだ。

「あら。合気道は確か三段から師範代を務める人もいるし、高校生で二段ならなかなかの腕前なのね」
にっこりと七星に笑いかける。元警察官だった真穂なので、合気道も当然習っていた。
「そうなんですか?」
「ええ。・・・・七星くんもそうだけど、ここにいる男性陣、みんな投げられちゃうかもしれないわよ」
真穂の言葉に佑介や航は瞳を見開いた。
「・・・・俺はひーに投げ飛ばされたことがある」
「!」
つぶやくように言った七星を、佑介と航はまじまじと見つめてしまう。
身長183センチ、体重85キロのがっちりとしたからだつきの七星を、その七星にひょいと抱き上げられてしまう小柄な妹の日夏里が投げ飛ばしたというのだから、驚きを禁じえない。
「ちなみに兄貴もだ」
憮然としてさらに告げる。
「その、どうして投げられたのかって、きいていいですか?」
おそるおそる尋ねる航。
「・・・・俺と兄貴が大喧嘩したときにだよ。おふくろが『家が壊れるから、外で好きなだけやりなさい』って言ってたらしいんだが、全然聞こえなくてな。で、ひーが・・・・・」

おにーちゃんたち、いいかげんにしてってば!

気がついたら、自分たちはリビングの天井を眺めていたのだ。

「俺たちが護身のためにって習わせたんだが、それで投げられてるんだから世話ねえよな」
ぽりぽりと七星はあたまをかく。
「え、七星さんたちが?ご両親でなく?」
「ああ」
きっぱり答える七星。
「俺や兄貴が傍に居れば即座に不届きな相手を再起不能にしてやるけど、いつもいつもひーにくっついていられねえから」
多分いやきっと、傍にいなくたってあとで報復に向かうに決まっている。七星と雪也の日夏里に対する溺愛ぶりを見ていれば簡単に想像がつくというものだ。
航と佑介は互いに苦笑いを浮かべ顔を見合わせていた。
2010.06.27
Secret

TrackBackURL
→http://mizuhohagiri.blog35.fc2.com/tb.php/231-fe5e33bb
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。