なんとか中編をアップです(爆)
グランプリファイナルが終わるまでには完結させたいものですわ~;;

今回は都ちゃんがメイン。

つづきをよむからどうぞ。


「・・・・そろそろ次の徳成選手を呼びましょうか。徳成選手、そちらにいますね?どうぞこちらに」
ひとしきり笑いが収まって進行役の針谷は、キス&クライからそう離れていない客席に稜と座っていた都に声
をかけた。
都は稜に「行ってくるね」とハイ・タッチをし、アリーナ席に並んで設置されているキス&クライにやってきた。
都が来ると流奈たちは立ち上がって席を譲り、都が座る前にやはりハイ・タッチしたのだ。
「流奈、顔赤いよ」
笑いながら声をかければ。
「ほっといて」
かるく睨むように都を見た。

「みなさん、本当に仲がいいですね」
先ほどの稜とのことと、今のふたりの様子を見た針谷が言う。
「開会式が終わった後に稜くんも交えて、みんなで円陣組んでいたですよ」
「見られちゃったんですね」
「見ちゃいましたよ」
苦笑する都に、井口がにこにこと答える。
「いいんですよ、それで。原田選手や高井選手たちも、みなとても仲がいいですから」
と、井口が視線を客席上方にむけた。
視線の先には、都たちと一緒に出場していたシニアの先輩たちである原田奈央(はらだ なお)と高井圭輔(たかい けいすけ)が座っており、カメラはそのツーショットを捕らえ、TVにはしっかりと放送されていた。
「でも、どうして円陣を組んでいたんですか?」
素朴な疑問らしい。
「え?・・・・あ、その」
言ってしまってもいいものか言いよどんでいる都に、稜が大きく手で「○」のポーズを取った。
そんな稜を見て都はうなづき。
流奈とマックスは昨年からジュニアにいながらシニアの試合もいくつかかけもちで出場してたが、正式なシニアデビューは今季からで、それは自分と稜も一緒。
そろってのシニアデビュー戦がこのN/H/K/杯で、それぞれに目標があり、それにむけてがんばろうとの決意表明をしたのだと説明したのだった。
「・・・・そうだったんですね。それでその目標は達成されましたか」
「はい」
「そうですか。よかったですね」
針谷も井口もにこりと笑った。


「さて、徳成選手。SPとFPとどちらのビデオが見たいですか?」
「・・・フリーは転倒が多かったから出来ればショートを」
シニア初戦でSP2位という順位に都自身が信じられなく、FPの時はどこかふわふわして落ち着かないままに6分間練習を終えてしまった。
滑走の順番が来て自分の名前がコールされた途端、とてつもない緊張が襲い、その悪い緊張が解けぬままに演技にむかった結果が、相次ぐジャンプの転倒となって現れてしまったのだった。
演技終了後キス&クライにて得点を待つ都の瞳は、悔し涙に濡れていた。
「でも、素敵なプログラムですよ。滑りも素晴らしかったですし。SS(スケーティングスキル)で7点台いただいて」
SS・・・スケーティング・スキルとは五つの演技構成点(PCS)のうちのひとつで、スケートの技術をあらわす項目だ。10点満点で0.25点きざみで評価をする。
シニアのトップ選手でも7点台後半から8点台を出せるか出せないかなので、ジュニアからあがってきたばかりの都はかなりの評価を受けているのだった。
「そうですね。ジュニア時代からスケーティングの上手さには定評がありますからね、徳成選手は」
都のスケーティングの上手さは、習い始めた頃から徹底的に教え込まれた「コンパルソリー」がものを言っている。練習でまず一番最初にこのコンパルソリーから始めていた。
1991年に競技から廃止され、大会に出場するためのバッジテスト項目からも3級以上から廃止され、今では教えることすらほぼなくなっているコンパルソリーだが、本来フィギュアスケートとは、氷上に「フィギュア」=「図形」を描くように滑ることに由来している。それゆえに都のコーチの佐瀬 満(させ みつる)はこだわるのだ。
正確なエッジで滑らなければ、氷上に描く様々な「図形(フィギュア)」はトレースがきれいに重ならない。ひとけりでの伸びも柔らかなエッジワークも、すべてがここからといっても過言ではなかった。
「ありがとうございます。・・・・・でもビデオはSPので」
お礼を言いつつもしっかりと主張する都に、井口は流奈たちのときのように「FPを」とは言わなかった。
井口が褒めたFPは、1968年に公開された映画「ロミオとジュリエット」のテーマ曲で、ニーノ・ロータ作曲のこの音楽はこれまでも数多くのスケーターたちが使用していた。
一方SPは、スウィング・ジャズの名曲「Sing Sing Sing」だ。
1936年に歌手でトランペット奏者でもあるルイ・プリマによって作曲された、吹奏楽でもおなじみの曲である。
都がはじめて全日本選手権に出場した2008-2009シーズンにエキシビジョンで使っており、その際に好評であったのと今季のFPが「激しくも切ない悲恋」をテーマにしているので、SPは明るいイメージにしようと選んだのであった。

画面は、始まりのポーズをとって笑顔を向けている都がロングで映り、それから顔のアップに切り替わった。

「笑顔が素敵ですね。GOEプラス3あげたいくらいですよ」
見ている人たちも笑みを誘う、そんなにこやかな都の笑顔に井口は言う。アナウンサーの針谷も。
「本当に。緊張・・・・はされてないみたいですね」
「まさかとんでもない!心臓ばくばくで、引きつってましたよ」
都は右手を顔の前でぶんぶんと左右に振る。
「そんな風にはとても見えなかったですけどねえ」
井口が苦笑した。

トロンボーンとトランペットの掛け合いによる躍動感あるイントロが流れ、何拍か拍子をとってから滑り出す。
フォアクロスでぐんぐんとスピードを上げ、トリプルトゥループ-トリプルトゥループのコンビネーションジャンプを跳び、着氷もきれいに決まった。

「スピードに乗った、いいジャンプでしたね。セカンドジャンプのDG(ダウングレード)がもったいなかったですよ」

続けて、SPの要素のひとつでもあるステップからのトリプルジャンプ・・・得意のループをきれいに着氷した。
拍手と歓声がわあと上がる。
サクソフォンとトランペットが奏でる、マイナーコードにもかかわらずダンサブルで華やかなメロディにのり、スピンをくるくるとまわり、今季からは必須要素からはずれたスパイラルを短くだが効果的に取り入れ氷上を滑る。

印象的なドラムソロにあわせてのサーキュラーステップシークエンス。
一音一音を軽やかに弾むように、都は滑り踊る。
手拍子が自然と沸き起こった。

「ノリノリですね」
「・・・・楽しかったです」
針谷アナのつっこみに、都は正直に答えた。
「いいんですよ、それで。観客のみなさんも笑顔を浮べてとてもたのしそうだったんですから」

画面は終盤のコンビネーションスピンとなっていた。
フライングキャメルスピンから都の十八番ともいえるドーナツスピンが、トロンボーンやトランペットのアップテンポのリズムに合わせて加速し、ドラムの音でぴたりと止まって終わりのポーズをとった。

「とても楽しい、それでいて実にスケートらしい演技でしたよ」
井口のあたたかいコメントに、都は「ありがとうございます」とほがらかに笑った。
TVの向こうで、この笑顔に魅了された多くの人たちがいたと後に都は雑誌のインタビューで知ることとなる。


会場の準備が整い、いよいよエキシビジョンが始まった。
ちびっこスケーターたちが、出場選手たちの国旗を持ちリンクを周回してフェンス際に並ぶ。
しばらくすると試合の実況の時とは違ったノリのいいアナウンスが入り、選手たちが次々と紹介されていった。

開催国の選手は順位にかかわらずエキシビジョンに出場出来るが(エキシビジョンに出場出来るのは、たいがい4位か5位の選手までで、このN/H/K/杯では4位までとなっていた)、今回シングルは男女ともに3人ずつ、ペアとアイスダンスに各一組出場し、そのうち男女シングルは優勝と3位と4位に。ペアも3位に入っている。
残りの選手も5位6位8位とつけ、日本の強さを各国に見せ付ける結果となった。


試合の緊張から放たれて、どの選手ものびのびと滑っていた。
試合では使えない小道具やボーカル入りのしっとりした曲でなど、また違った演技で観客たちを魅了していく。
いよいよ第一部最後の登場となる稜のエキシビジョンの番となった。
今季の稜のエキシビは「ロック・ソーラン」。
オフシーズンに都や流奈たちと出演した「Escape!」での衣装を彷彿させるような姿で、観客の手拍子に押され弾けるように滑った。
ただ、やはりフリーの試合後1時間強ほどしか経っておらず疲れも少しみえ、ジャンプで転倒した際にフェンスに頭をぶつけたようだった。
すぐに立ち上がり演技を続けたが、リンクサイドに上がったときには膝をついてしまった。
第二部が始まる前にも先ほどと同じようにキス&クライにてインタビューがあるのだが、稜は順番を最後にしてもらい、しばしロッカールームで休むこととなった。

2010.11.30
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