師走最初の更新は、「キス&クライへようこそ」の後編ではなくて、日夏里のぱわふるなすみれままのお話。

本来は書く予定なんてまったくなくて、毬さんとのメッセで「すみれままなら、来てるかもね~」と軽~く話していただけなのに、その日の夜「キス&クライ~」の続きをやろうと思ったら、すっとんと落っこちてきました(爆)
すみれまま、おそるべし(大爆)


で、今回も佑介くんや航くんと関わっているすみれままですが、話の中で佑介くんが航くんにしてあげたことをくわしく知りたい方は、毬さんの方のオリキャラブログ「佑遊草子」「僕のバリスタ」をお読みくださりませ♪

ではではつづきをよむからどうぞ。


「だからね、雪はついてこなくてもいいの」
「いや、かあさん・・・・」
「大丈夫。カフェでコーヒーを飲んでくるだけですもの。ひとりで平気」
にっこりと笑顔を浮べた少女のような風貌の女性に、細めでフレームなしの眼鏡をかけた理知的な印象を与える男性は大きく溜息をついた。
「じゃあ、一時間後にあそこの信号のところでね」
すっと数メートル先を指差し、その女性----橘すみれはかろやかに歩き出した。

「・・・・・なにかあったら、僕は後悔してもしきれないんだけどね」
母であるすみれの後姿を見送りながら息子の雪也はさらに深く溜息をつき、すみれが目的とするカフェからそう遠くないコーヒー・チェーン店に足を向けた。


四十も半ばを過ぎているというのに、橘すみれはその年齢にはとても見えない若々しさと少女のような可愛らしさを持ち合わせた女性であった。
そのたおやかな外見からは想像できないほどに内面は、実に肝の据わったなかなかに底知れない女性だったりするのだが、からだは丈夫な方でなく心臓に負担をかけられなかった。それゆえに人が多い場所や遠出の外出となると長男である雪也が主に行動をともにしていた。雪也の仕事は航空管制官なので、平日に休みが取りやすいということもあった。
そんなすみれが、原宿という若者が多く集う街にオープンしているあるカフェに行きたいと言いだし、本来なら高校2年生である娘の日夏里がついて行くのが自然な姿なのだろうが、あいにく日夏里は小学生の頃から習っている合気道の合同稽古が入ってしまっていた。
また、すみれいわく「剣道バカ」なもうひとりの息子の七星になぞ到底任せることなんか出来ない。
急遽勤務先に休みを願い出て、結局はいつものように雪也がお供をしてきたのだった。

とはいえそのカフェはすみれのような年齢の女性が訪れるような類のカフェではなかった。
原宿という土地柄を思い起こせば明らかで、お客のメインターゲットは女子中高生。
そう、毎年11月に行われている有名な美少年コンテスト『ジャーノン・スーパーボーイ・コンテスト』主催のカフェなのだ。
この「ジャーノン・カフェ」はゴールデンウィークの始まりである4月29日から11月23日までの期間限定オープンで、本日は11月23日だった。
カフェの最終日でありコンテストの最終選考会の日でもある今日は、昨年のコンテストの受賞者----「ジャーノン・ボーイズ」たちがやってきて、一時間ほど握手会を行う予定になっていた。

すみれは昨年のコンテスト最終選考会のチケットを-----携帯サイトに登録してなおかつ抽選に当たらないと手に出来ない、いわゆる「プラチナ」チケットなのだが、すみれの持つ様々なコネクションから入手し、会場でしっかりと観覧したのだった。
17歳の娘の日夏里ではなく、何故すみれがこのコンテストに興味があるのか。
それはすみれが、元気にがんばっている「イケメン」な青少年たちが大好きだからだ。
とはいえ、顔が良ければなんでもいいというものではなく、性格も物腰もすべてにおいて「素敵男子」でないとお気に召さない。
そのようなすみれが大きな花丸をつけたくなるほどに気に入っている少年が、このコンテストの最終選考に残った。
コンテストの主催者である出版社の発行するで雑誌と携帯サイトにその名を見つけたときには、さもありなんと思ったものだ。
むしろいままでこういう機会がなかったことの方が驚かれるくらいの、オトコマエなのだから。

その少年は、とあることで娘と友人になった。
日夏里は都内の女子高校に通い、彼は都立高校に通う。本来なら交わることのないふたりだったのだろうけど、様々な縁が結ばれてそうなった。
娘の言葉の端々から彼への信頼度が計られ、明るく天真爛漫ではあるけれど実は警戒心の強い娘の心の鍵を開けた少年に、一度は会ってみたかった。
その機会は思いがけず訪れ彼をすっかり気に入ってしまったすみれは、なかば強引に家に遊びに来る約束を取り付けた。
そしてゆっくりと彼と話したことで、ますますお気に入り度を深めたのだった。


(あらあら、まあ。雪はついてこないでやはり正解ね)

若いお嬢さん方でごった返す店内を見つめ、すみれは小首をかしげた。
雪也が溺愛してやまない日夏里はアイドルの類に熱を上げるタイプではないし、家によく遊びにやってくる日夏里の友人らも・・・・若干1名ほどはジャ○ーズ系が大好きな少女もいるが、同類だ。
そうであるから、雪也はきゃあきゃあと甲高い声で話す少女たちが苦手だ。
もっとも彼は25歳の立派な成人男子なので、中高生ははなから「守備範囲外」であるのだけど。

「いらっしゃい、ま・・・せ・・・」
店内に入ったすみれにスタッフから声がかけられる。
すみれがにこりと笑顔を返したら、そのスタッフは口をぽかんとあけてすみれを見入った。
年齢不祥な可愛らしい容貌とリボンやフリルとレースにあしらわれながらも装飾過多にならず大人の女性の甘さを引き立たせる服装を着こなし、その服装に負けない品のある雰囲気を漂わせているすみれにだ。
「席は自由に座ってもいいのかしら」
目で空いている席を探しつつ、尋ねるともなしにつぶやくと。
「あ、はい。・・・あの、こちらにどうぞ!」
ロゴ入りの揃いのTシャツを着たスタッフがやってきて席まで案内した。
本当は空いている席に勝手に座ってもらえばいいのだが、すみれの醸し出すものがそうさせてしまったようだった。
すみれはありがとうと一言言い、自然なしぐさで実に優雅に引かれた椅子に座った。

「なに、あのおばさん。場違い」
「若い男の子物色するんじゃね?キモチワルイ」

こそこそと、だが聴こえるように悪意ある言葉を吐く少女たち。
自分たちはこのままの姿でずっといて、「オバサン」なんてものにはならないと信じているから言える言葉だ。
「こんにちは。今日は『ジャーノン・ボーイズ』くんらが来店するから楽しみね」
だがすみれは、どこ吹く風だ。にこやかに微笑みを返す。
少女らは黙ってしまった。
「あら。おしゃべりしてていいのよ?・・・・・ええと、なににしようかな」
頬に右手を添えながらメニューをながめ、視線を走らす。
「どれもみんな素敵メニューで迷うわね。もっと回数来られていたら、いろいろ飲むことが出来たのに」
実はすみれ。
これまでにも何回かこのカフェに来店しようと試みていたのだけれど、今年は異常気象でこの夏はとてつもない猛暑。秋になってもなかなか涼しくならなくて、思うような外出が出来なかった。大好きなフィギュアスケートのアイスショーでさえ、足を運ぶ回数が減ってしまったくらいだったのだ。

と、ざわついている店内に「きゃあ~っ」という歓声が上がった。
「?」
メニューとにらめっこしていた顔を少し上げ、声の方を見やれば。
ギャルソン姿をした少年が、店内の少女らの熱い視線を一身に受けながらあるテーブルに給仕をしていた。
テーブルの少女らは信じられないといった面持ちで、固まってしまっている。

(まあまあ。佑介くんだわ)

すみれは瞳を見開いて、ギャルソン姿の少年・・・・土御門佑介をまじまじと見つめた。

すみれが今日ここを訪れた目的は、昨年のコンテストでグランプリを受賞した不破爽也が一日店長として来店するからだった。
今すみれの視線の先に立つ佑介は、雑誌の読者投票と携帯サイトの投票で一番多くの票を獲得した「フォトジェニック賞」と「理想の恋人賞」のダブル受賞を果たしていたが、そもそもがクラスメイトが勝手に応募してしたことで芸能界にははなから興味がなかった。
それゆえにこのコンテストで友人となった爽也に頼まれてTVのバラエティ番組に出てしまったが、あくまでも一介の高校生。
まさかここに来ているとは思ってもいなかった。

(なんてラッキーなのかしら。佑介くんのギャルソン姿が見られるなんて)

にんまりとすみれは微笑む。
そう、娘の日夏里の友人ですみれのお気に入りの少年とは佑介のこと。
すみれは思いがけないこの機会を、存分に楽しむことにした。


佑介に自分の姿が見つかってしまっては面白くないなと、すみれはなるたけ目立たぬように少女らの影に隠れるようにした。
とはいえ、目はしっかりと佑介の姿を追っているのだが。

(あらやだ。七海ちゃんと航くんまで。・・・・・デートにしては航くんの様子が変ね)

日夏里の後輩の清水七海と七海の恋人で佑介の親友の千葉航が、カフェに入ってきたのだ。
負けん気が強いけど優しげな容貌の航の瞳が、冷たい光を放っていた。航に気がついた佑介が怪訝そうな表情を浮べている。

(----でも、七海ちゃんと佑介くんにお任せしておけば大丈夫)

確信して、すみれはふたたび少女たちの喧騒にまぎれた。


その後佑介のあることについてのクイズがあり、それはどう考えても航に当てて欲しくて佑介がスタッフに伝えた設問としかすみれには思えなかったが、様子が変だった航を励ましたくてそうしたのだろう。

答えを当てた航に、佑介は「バリスタ」としてラテ・アートをほどこしたカフェ・ラテをプレゼントした。
カップの中に描かれた絵柄は航を感激させ、また佑介の心遣いが嬉しくて、航はそこが「ジャーノン・ボーイズ」目当ての少女らで埋め尽くされているカフェだということをすっかり忘れて、佑介に抱きついた。
すみれにはその様子を微笑ましく見られたけど、店内の少女らは・・・特に佑介のファンの子達にとっては心穏やかではなかったはずだ。

昨夏家へ呼び、ふたりのある意味「相思相愛」とも言えるような強い絆をすみれは感じ取っていた。
そのような相手を一生のうちに見つけられる人は、多くはない。
すみれには、同年代の少年たちよりも大人びている佑介に、航や栞がそばにいることを嬉しく思った。

とても気持ちが優しくて常に相手を気遣って。
謙虚で礼儀正しくて。
でもその出来すぎともいえる佑介の、影のようなものにすみれは気づいてしまっていた。

(うちの娘の天真爛漫さも、少しは佑介くんの影を消させる役に立つかしらね)

ふっとすみれは思った。


今日のメインイベントである握手会が始まろうとしていた。
9人のジャーノン・ボーイズたちが30分ずつ2グループに分かれて行い、それぞれの回で横一列に並んだ彼らと順々に一言二言言葉を交わしつつ、握手してもらうのだ。
すみれも握手会の列に・・・・少女らを優先して後ろの方に並び、ゆったりと順番を待つことにした。
並んでいる最中に航と七海に気づかれたのだが、黙っててねというようなジェスチャーをした。航は面白そうな笑みを七海はどこか困ったような表情を浮べていた。

間近で憧れのジャーノン・ボーイズたちと話と握手が出来、少女らの嬉しい悲鳴がやまなかった。
一回目が終わると、引き続き二回目が始まる。
佑介は不破爽也や昨年「マキ●ムカフェメニュー賞」を受賞した水岬貴彦らとこちらの回に登場することとなった。
こういうことも最後だからと佑介はにこやかに笑い、少女らがおずおずと差し出すその手を優しく握った。

そうこうしているうちに最後のひとりとなったようだ。
笑顔を浮かべ、「今日はどうもありがとう」と相手をみれば。
「・・・・え、橘さんのおかあさん?!」
すみれが立っていた。
「あらやだ。それじゃひーのおまけみたい。『すみれさん』って呼んで」
目の前の佑介を見上げながら、ほんの少し拗ねた口調のすみれに佑介は絶句する。
まさかすみれがここに来ていようとは思いもよらない佑介だ。
「よっ、マダムキラー♪」
「うっさーい;;」
佑介の横に立つ爽也がはやしたてた。
そんなふたりを見つめ。
「じゃあ、次に会った時には『すみれさん』って言ってね」
実に優雅な笑みを浮べて言ったのだった。

「こんにちは。・・・・佑介くんとはどういう関係なんですか?」
この握手会のトリを務める爽也は、悪戯っ子のような笑みを浮べてすみれに尋ねた。
咎めるような佑介の「爽也っ!」という声は耳に入れないことにして。
すみれはにこやかに笑い。
「うふふ。ご想像におまかせするわね」
とまた、とんでもないことを言う。
「うわ。それって、秘密の・・・・ってことですか」
「あーのーなー。んなわけないだろーが;;・・・・・ゴールデンウィークにうちに遊びに来たときに一緒にDVDを見た栞の友達のおかあさんだよ」
「あ、大きな瞳が印象的な女の子のことだよね」
「・・・・橘さんは小柄だけど、爽也よりひとつ上だよ」
爽也の発した『女の子』のニュアンスに、佑介は苦笑する。
「あらずるい」
「へ?」
すみれの言葉に思わず間抜けな反応をしてしまう。
「・・・・ずるいわ。オフの爽也くんとひーちゃんたら会っていたなんて」
「ずるいって;;」
「DVDのことは話してくれたけど、その場に爽也くんがいたことは一言も話してないのよ。おかあさんが爽也くんのファンだってこと知ってるのに」
心底悔しそうなすみれの口ぶりだ。
「すみれさんは、僕のファンなんですか?嬉しいな」
笑顔でぎゅっとすみれの手を握る。
爽也がさらりと「すみれさん」と言ったのに、佑介は爽也と自分の違いを思い知った。
すみれのファンだという言葉に即座に対応出来る爽也は、しっかりと自分がどのような存在であるのかを自覚しているのだ。
だが。
「・・・・でも、一番は佑介くんなの」
佑介をちらっと見て、すみれがそれは見事なウィンクひとつ。
「ええ~」
爽也がそう言ったのと同時に、はたで会話を耳にしていたジャーノン・ボーイズたちがいっせいに吹き出したのだった。


少し離れたところで七海と握手会を眺めていた航。
「『レディ・バイオレット』には誰もかなわないってことだね」
それに七海は、ただくすりと笑った。
2010.12.04
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