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なんとかグランプリシリーズが終了する前に、完結できました;;
よかった~(^^;)

ちょっといろいろどこかで聞いたような雰囲気の選手が登場しますが、気になさらないでくださいね>おい;;
(名前はアレンジしてあります)
すべてはフィギュアスケートを愛するがゆえ、ということで(爆)

つづきをよむからどうぞ。


第一部が終了し、製氷作業のためリンク上をザンボニー(製氷車)が稼動していた。
会場内の暗かった照明は明るくなり、キス&クライではふたたび「のどかの部屋」が始まっていた。
第二部開始まで20分ほどしかないので、ひとりずつではなく若干の時間差でのふたり一緒のインタビューとなったようだった。

-----時に笑顔が生まれ、時に瞳を潤し。

「キス&クライ」とは、演技を終えた選手がコーチとともに得点を待つ場所のことを言う。
表示された得点に、歓喜の声をあげてキスやハグをしたり、嬉し涙や悔し涙を流す、フィギュアスケート独特の神聖なるエリア。
その「キス&クライ」で、インタビューを受ける選手たちは井口の穏やかな雰囲気と針谷アナの巧みな話術に引き込まれ、様々なことを話題にのぼらせていた。

そんな「のどかの部屋」もそろそろおひらきとなるようで・・・・。

「・・・・最後にお呼びするのは、シニアデビューのこのN/H/K/杯で見事4回転を決めた羽田稜選手です」
針谷の紹介の言葉に、ぺこりと稜は頭を下げた。
「もう、痛みはありませんか?」
少し稜の顔を覗き込むようにして、井口は尋ねた。
稜がエキシビジョンの演技中にジャンプで転倒してフェンスに頭をぶつけたのをここ、キス&クライから見ていた。
「はい、大丈夫です。ちょっと疲れてただけで。僕、石頭ですから」
「・・・・頭は大事なんですよ。気分が悪くなったりしたら、すぐに言ってくださいね」
やんわりと諭されて稜は素直にはいと返事する。
「そうですね。無理は禁物ですよ。・・・さて、インタビューへと移りましょう。シニアデビューとなった今大会。いかがでしたか?」
「ん~、やっぱり緊張しました。でも世界でもトップレベルの選手たちと練習が出来てすごく勉強になったことは確かです。学べることがたくさんあって、課題も多く見つかりました」
姿勢をただし、しっかりとインタビュアーである針谷の目を見ながら言葉を重ねる。
「課題とは、なんでしょう?」
「まずは体力なんですけど、練習の仕方ひとつも全然自分とは違うし、集中力も半端じゃなくて。・・・・まだまだだなって、思いました」
最後の方はほんの少し悔しさが滲んでいる。
「体力はこれからつきますよ。・・・・稜くんはね、まずはあれだけきれいな4回転を試合で決められたことを誇らないと」
にこりと、まさに「地蔵菩薩さま」と言われる慈愛の笑みを井口が浮べて言った。
「そうですよねえ。公式練習中に何度も降りているのを見てましたが、本当に素晴らしい4回転でした」
「ええ。高さも幅もあって。回転軸もきゅっと締まった4回転。着地後の流れも綺麗で・・・・」
とここで稜のFP、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」の映像が映し出された。
どちらかといえば幼い顔つきの稜であるが、きりりと凛々しい表情で始まりのポーズを取っている。

「緊張しているようには見えないですけどねえ」
「とんでもないですよ。すっごく緊張してました」
「いい緊張だったんでしょうね」

井口と会話している間に演技は始まり、稜はぐんぐんと加速していく。

「・・・・試合では、初めてですよね?」
「はい。試合の中で跳ぶこと自体初めてでした」
「それでこれだけ見事な4回転決めてしまうのだから。本当に立派ですよ」

井口が絶賛する4回転トゥループを綺麗に決めた。しばらくして歓声がわあっとあがる。
どうやらあまりに綺麗にかつ早い回転だったので、観客の多くは3回転だと思っていたようだ。それは稜本人も感じていたようで・・・・・。

「降りた瞬間、やった決まった!って思ったんですけど、歓声とか聴こえないからやっぱり3回転だったかなとか思っちゃって」
「見事すぎて観客の方たちも見惚れていたんですよ。・・・・私もそのひとりでしたから」
実況中に言葉を一瞬失ってしまったのだ。解説者の「決めましたね」という感嘆のこもった一言に我に返ったのだった。

その後も次々とジャンプを決め、ステップもスピンも確実にこなしていた稜だったが、本人も言うように最後の方は体力がかなり消耗していてスピードが落ちてしまい、演技終了後は肩で息をしていた。
ジュニアとシニアではSPは演技時間が同じだが、FPは30秒長くなる。その30秒がきついのだ。
だが、これから体格も良くなり体力がついていけば、最後までしっかりと演技することが出来るだろう。


「ちょっと時間も押しているので、もうお一方を・・・・・・あ、高井選手、こちらです」
「え?!」
針谷が向けた視線の先には、今大会の男子シングル優勝者で日本が誇るエースの高井圭輔が立っていた。
稜は瞳を見開いて、まじまじと圭輔を見る。
「本物の圭輔くん」
「本物って。ついさっきまで、同じ最終グループで滑ってたじゃないか」
稜の言葉に圭輔はくしゃっとした笑顔を浮べた。その笑顔は演技中に見せる相手を誘惑するような笑顔ではない。
----高井圭輔ほど普段と演技中のギャップがある選手は少ないと思われる。
今季のSPは「エロ紳士」とまで言われているほどに男性的魅力のあふれたプログラムだった。FPは大人の男の哀愁を醸し出している。
だが素顔の圭輔はどこかとぼけてて愛嬌のあるやんちゃな青年だ。リンクにのり曲がかかると世界に入り込み、まったくの別人になれるのだった。

井口が少し横にずれ、圭輔は井口と稜の間・・・・稜の隣に座った。
「改めまして、高井圭輔選手の登場です。N/H/K/杯、3回目の優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「高井選手も4回転決めましたね」
「それも本番で」
井口の言葉に圭輔は苦笑いを浮べた。
一昨年に怪我で休養せざるを得なくなり、復帰後の作シーズンはジャンプが3回転までしか戻らなかった。もちろん元々4回転は跳べるのでチャレンジはしていたが、一度も着氷出来ずにいたのだ。
今シーズンもいまだ練習でも降りられていなかった。
だが、FPの最終滑走。そこで見事に決めた。
「・・・・あせらないことにしたんですよ。練習で降りられなくても本番の1回が決まればいいやって思えるようになって」
以前の・・・・数年前の圭輔は練習ではほぼ100%決められていたジャンプを本番で決めることが出来ずにいた。
「練習では出来るのに」「能力は素晴らしいのに」と関係者から溜息とともに嘆かれていたものだが、大きな怪我を経験し精神的にたくましくなったようだ。
「やっぱりすごいです、け・・・・じゃないや、高井選手は。とても自分はそんな風には思えないし、そもそも表現力にしろステップにしろ比べ物にならないです」
「いやいや。ボクが15歳の頃はこんなしっかりしてなかった。まだシニアデビューもしてなかったし、もちろんクワドだって跳べなかったんだからさ」
「そんなことないですよ。ほんとまだまだです」
「しかもファイナルのタイトルも獲ってるんだよね。・・・・・うかうかしてられないなあ」
「;と、とんでもない・・・・」
言葉とは裏腹に、圭輔の表情は自信に満ちていて。
「・・・・今は俺様じゃないんだね」
にかっと笑った。
「え?!・・・・だ、だって、そのあの、もう試合中じゃないし。それに・・・・・」
「おや。先ほどまでは実にしっかりした受け答えをされていた羽田選手でしたのにねえ」
しどろもどろな稜にすかさず針谷が言うと、井口がぷっと笑い出した。
そんなこんなで、エキシビジョンの第二部が始まる時間も数分にせまり、「のどかの部屋」はゆる~く終了してしまったのだった。

余談ではあるが、稜は練習場所も東北と関西と離れこれまであまり縁のなかった圭輔にまで自分が試合本番になると強気な「俺様」になってしまうのを知っていたのか、エキシビが終わったあとで圭輔に尋ねた。
すると圭輔は。
「あ、タカシが教えてくれたんだよ」
あっさりと言う。
タカシこと武藤隆志(むとう たかし)は稜が初めて出場した世界ジュニアの時に一緒に出場しており、今も仲の良い選手だ。一足早く昨季にシニアにあがっておりN/H/K/杯出場は二回目となっていた。
「たかちゃんってば、なんでばらすんだよ~」
即座に隆志をひっつかまえに行った稜だった。


エキシビジョンの第二部はメダリストたちの饗宴だ。
一番手はペアの流奈とマックスが登場し、曲は「Party Megamix」。
競技のときとはがらりと雰囲気を変えた、ダンサブルなナンバーを滑り観客を大いに沸かせた。

都は流奈たちの次だった。
ワントーン暗くなった照明のなか、黒いマントで顔を覆いつつリンク中央にゆっくりと滑り進む。
始まりの位置に都が立つと、スポットライトが当たると同時に音楽がかかった。都はくるくるとその場で回りながらマントをはずした。
あらわれた都は黒のスワロウテイル姿。顔の半分を白い手袋をつけた右手で隠している。左腕を伸ばし滑り出した。
・・・・そう、一度は耳にしたことがあるであろう曲。都のエキシビジョンナンバーは「オペラ座の怪人」だった。

白い手袋を効果的に使い、上体を動かし細かくかつ激しくステップを刻んでいく。
ドラマチックで華やかな音楽が終わり、また照明が暗くなった。
今度は静かで優しいメロディ。
ゆっくりと滑り出した都の衣装は、白を基調とした長めのスカート。まとめていた髪の毛もおろし、ふわりと広がっていた。
早変わりでの怪人とクリスティーヌの一人二役に、会場が沸く。
先ほどとは打って変わった、優しくてやわらかな笑顔を浮べたスパイラル。
静かに消え行くオルゴールの音に合わせてスピンもゆっくりとほどけていく。
そして怪人をやさしく抱きしめるかのように、黒いマントを胸に抱きしめた。

拍手と歓声が会場内を覆う。
全方向へ優雅に挨拶をしリンクから上がったが、拍手が鳴り止まない。

「Miss.Miyako!もっと滑ってほしいとお客さまが言ってますよ~」

場内アナウンスの明るく弾けた声。
アンコールを要求する拍手なのだ。

「アンコールって。アンコールは1位の選手だけでしょ」
滑り終えてリンクサイドにあがった都は、ただただ戸惑う。
「アンコールに応えればいいじゃない」
「ソウデス、ミヤコ。ミンナ、マッテマス」
先に滑り終えていた流奈とマックスが口々に言う。
「そんなこといって」
とにかく困惑顔だ。
「・・・・滑ってこないと、きっと拍手がやまないよ?」
「奈央は、ショートの『Sing Sing Sing』がみたいな~。都ちゃん、滑って♪」
トリと大トリで滑る圭輔と奈央までそばにやってきて、都に告げる。
「僕、音響さんのとこに行ってくるから」
「ちょっと、稜ってば」
「あ、オレも行って来ます」
いつの間にやら集まっていたジャパンチーム。隆志も稜のあとを追いかけてそそくさと行ってしまう。
「ほら、もう音楽鳴り出すよ」
「そうそう。みんな見たいんだから。もちろん奈央たちもね」
にこっと微笑む奈央。
「・・・・・みんな、ありがとう」
仲間の想いが嬉しく、都は笑顔を返しふたたびリンクへ降りた。

「Sing Sing Sing」の軽快なメロディが流れ出すと、観客が手拍子を打ち始めた。
その手拍子に後押しされ、都も弾けるように踊り、滑った。

「俺たち、霞んじゃうなあ」
「・・・・ただアンコール滑るだけじゃ面白くないし。奈央に考えがあるんだけど、圭ちゃんノッてくれる?」
「お。面白そうだね。いいよ。どんなことするわけ」
と、男女シングルの優勝者ふたりがこそこそとなにか話し出し、にんまりと笑う。

その答えは、大トリを務めた圭輔のエキシビジョンナンバーが滑り終えた後にわかった。
圭輔のFPの音楽がかかると奈央も登場し、ふたりでそろってトリプルアクセルを跳んだ。原田奈央は女子で唯一トリプルアクセルが跳べる選手だ。
そして、圭輔のプログラムのストレートラインステップを奈央も一緒に滑っていく。
ラストのスピンは圭輔がレイバック、奈央はビールマンポジションをとった。
演技が終わりふたりがにこやかに挨拶をすると、このサプライズに観客は大いに盛り上がった。


「やっぱり、圭輔くんと奈央ちゃんは『格』がちがうや」
「ほんと。・・・・・圭輔くんのステップなんて、とても真似できないし」
「でも、彼らだってはじめからこうだったわけじゃないじゃない。・・・・一歩一歩階段を昇っていけばいいのよ」
流奈の言葉に、稜と都ははっとする。
そう、自分たちはシニアにあがったばかりだ。
まだまだこれから。


------大会の始まりと同じように、終わりも円陣を組んだ4人だった。
次戦はそれぞれに違う大会への出場となる、互いへのエールもこめて。
2010.12.11
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