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やっと終りました。

後でいろいろ修正するかもしれませんが、とりあえず。
くわしいあとがきは、別にアップしますね。

ではでは最終話、どうぞ。



少し遠回りになるが、芙美が食べたいと言った人形焼を買うために清洲橋通りには戻らず新大橋通りまで出て、そこからそのお店のある水天宮方面へ歩いていった。
人形焼は水天宮に参拝に来るお客に人気の和菓子で、寿老人を除いた七福神(七人目の神様はお客)のかたちの甘い皮に漉し餡が入っているものと粒餡の入った茶壷のかたちのものがある。
そのお店では、通りからガラス越しに職人達が手焼きする姿を見ることが出来るのだった。
人形町界隈には他にも、水天宮の碇紋を皮に型押しした最中や豆大福、シナモンの香りが上品なお芋風味のお菓子、鯛焼き等も売っている。
芙美はこのどれらも好きで、やち代と狭山茶を飲みながら3時のおやつに食べるのが日課なのだ。
それもあって今日のリクエストは人形焼で、栞や佑介と一緒に食べようと思ったらしい。
だが佑介は甘いものが苦手なので、同じお店で売っている煎餅を買ってもらったのだった。


芙美は深く眠っているようで、昼寝用の布団に寝かせるため抱き下ろしても全く起きようとはしなかった。
「着替えさせなくて大丈夫?」
寝ている芙美の横に座っている栞が咲子にきく。
「いつものことだから大丈夫よ」
「着物、しわにならないの」
「これ、モスリンだから平気よ。それより私たちこそ着替えないとね」
モスリンとは薄手で柔らかいウール生地のことで、戦前は普段着の着物や冬物襦袢に用いていたものだ。かわいらしい柄も多く、やち代が芙美にと仕立ててくれたのだった。
「・・・・久しぶりに着たから、ちょっと緊張しちゃった」
という栞。
緊張したのは佑介と一緒に着たからではないのか・・・・と咲子は思っていたが口には出さない。
「あ、そうそう。その着物、しーちゃんにあげるわ。芙美が着られるのはまだ先だし、私には流石にもう似合わないから」
「え、いいよ。ふーちゃんがいずれ着るんだから」
「着物は着てあげてこそなの。箪笥の肥やしにしたらもったいないわ。芙美が着られるころにまた返してもらうから」
「・・・いいの?」
「しーちゃんによく似合っていたもの。・・・・佑介くんもそう思うでしょ?」
「あ、は、はい」
いきなり自分に話を振られてとまどう佑介。となりへ着替えに行こうかと立ち上がったところだったのだが。
「ね、佑介くんもそう思っていることだし、たくさん着てあげて」
にこりと咲子はふたりへ笑いかけた。


着替えをすませた後、芙美がまだ寝ているので先ほど買ってきたおやつの人形焼は、芙美が起きたら食べることにし、とりあえずはティータイムならぬコーヒータイムとなった。
栞はコーヒーが苦手なのでミルクたっぷりのカフェ・オレを、佑介と咲子はブラックで飲んでいた。
栞と佑介は芙美が目を覚まし、一緒におやつを食べたら帰ろうと思っていた。
「・・・・ところで咲ちゃん」
「なに?」
「佑くんとちょっと話したんだけど、ふーちゃんってさっきの神社以外でも何か見ていたりするのかな」
先ほどお参りに行った神社での芙美の衝撃発言。
佑介もこのくらいの頃には、いろいろと見えざるものを見、聞こえざるものを聞いていた。
栞は、芙美が「視える」だけではなく、佑介のように何か能力をもっているのではないかと考えたのだ。
咲子にも栞のその心配はよくわかった。
「もしかするとね。今にして思えばいくつか思い当たることもあるのよ。・・・・でも佑介くんのように、ではないと思うわ」
「そうかもしれませんけど、俺だってそうそう『神さま』は見ませんよ」
先祖である安倍晴明の神霊が常にそばにおり、うちに秘める能力の高い佑介であっても、『神』にお目にかかることはほとんど皆無に等しい。
「亡くなったばばさまの血が濃いのかもしれないわ。私にもしーちゃんにも何もでなかったのに」
咲子はぽそりと言う。
「ばばさまって、お母さんがお父さんと結婚する時にはもう亡くなっていた、由利おばあさまのこと?」
そう、と咲子はうなづく。
「ばばさまは神官の娘で巫女だったらしいの。多少の霊能力を持っていたってお父さんからきいたことがあるのよ」
咲子と栞の祖母に当たる由利は、直哉が25歳の時に病気で亡くなっていた。
「そうだったんだ・・・・。ふーちゃんこれから大丈夫かな」
「それこそ神のみぞ知るだわ。ただ、『視える』ことを家族以外に言ってはだめと教えておかないとね」
・・・・・この数日後、剣道の稽古の合間の休憩中に芙美は、佑介のそばにいる神霊の安倍晴明を以前から見ていたといい佑介を驚かせることとなるが、今の佑介には知る由も無かった。

「いま、帰ったよ。・・・おや、芙美は寝ているのかい?」
やち代が三味線の稽古から帰ってきた。
「がんばって起きていたんだけど、睡魔には勝てなかったの」
「そうかい。・・・ところで咲子、おまえあたしの着物着て出かけたろ?」
やち代自身がどこかで見かけたのか、稽古にやって来たお弟子さんが見かけたのか。
どちらにしろ目立っていた面々であったのだから仕方ない。
「あら、やち代さん、このあいだくれるって言ってたじゃない」
「あたしがこの世からおさらばしてからだって言っといただろ」
「やち代さんがお墓に入るの待っていたら、いつになるかわかんないわ」
「なんだって。口の減らない嫁だね」
「おあいにくさま。あなたの孫が選んだんですよ」
佑介があっけにとられているのをよそに、咲子とやち代の応酬は続く。
隣の栞にこそっと。
「いつもこんな感じなのか?咲子さんとおばあさんって」
そうつぶやく。
「うん。いつもこんな感じ。おばあちゃまの元気の素かもね」
答える栞は笑っている。
「・・・・・ばーば、かえったの?」
にぎやかな声に芙美の目が覚めたようだが、まだ目をこすっている。
「あ、芙美起きた?ばーばも帰ってきたことだしおやつにしようか?」
「うん」
眠気より食い気が勝ったらしかった。


やち代も交えにぎやかにみなで3時のおやつを食した後、栞と佑介は咲子宅を辞すこととなった。

「じゃあ、気をつけてね」
「お邪魔しました。・・・咲ちゃん着物ありがとう。大事に着るね」
「いいのいいの。ずっとしーちゃんにあげようって思っていたものだったから」
そう言って着物を包んだ風呂敷を咲子は栞に手渡した。
「しおちゃん、ゆうちゃん、もうかえっちゃうの?」
寂しげにつぶやく芙美。佑介は芙美と視線が合うように、少し身をかがめた。
「ごめんな。でもまた土曜日に剣道教室で会えるよ。がんばって稽古しような」
そして芙美のあたまに手を置き、髪をくしゃっとする。
「うん」
芙美の返事ににこっと佑介は笑い返した。


「佑くん、今日はありがと」
地下鉄の駅の階段を降りている。行きと同じように栞の手は佑介につながれていた。
「礼を言われることなんかしてないぞ」
「そんなことないよ。ふーちゃんと遊ぶはずだったのが、着物を着させられて、しかもそのまま外に連れて行かされちゃって・・・・」
「びっくりはしたけど、別になんとも思ってないよ。気にすんな」
「ホント?」
「ほんと。・・・・さ、帰ろうぜ」
佑介は栞の手をぎゅっと強く握った。
「うん」
栞もぎゅっと握り返した。
はなれないように。
この手をずっと、はなさないようにと。
2008.04.28 / Top↑
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