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三ヶ月以上ぶりの更新となりました。

待っていてくださった方がいるのかそうかはわかりませんが、なんとかやっとUSBメモリの中でほとんど腐りかけていたお話を救い出すことが出来ましたです(爆)

二次の方で1本仕上げることが出来たからかな(^^;)

サルベージしたお話なのでネタはかなり古いです>おい;;

そんなのでよろしければつづきをよむからどうぞ。




左足の捻挫もすっかり治り日々の部活へも完全復帰を果たした佑介を、絋次はいつもように自分が通う深川の弓道場へと誘った。佑介を気に入っている絋次の師匠である都竹が佑介の怪我のことを気にかけていたからだ。
久しぶりに佑介に会った都竹は射る姿を見るまでは安心できないとばかりに、着いた早々射場に連れて行こうとし絋次をあきれさせたものだ。

絋次は大学四年時のインカレで優勝してからしばらく弓道から離れていたが、一年くらい前よりふたたび再開していた。
まずは五段への昇段を目標に置き、仕事が忙しくはあっても出来うる限り稽古に通った。
そして再開してから半年後に、見事五段に合格したのだった。

段審査会場に絋次が姿を現した際、会場内に囁き声が広がった。
中学で弓道を始めて以来、諸大会において常に上位に名をおいていた絋次が、インカレ優勝後ぱったりとその姿を見せなくなっていたので、関係者からは落胆の声が多く上がっていたのだ。
その絋次が数年ぶりに段審査を受けにやって来て、以前と変らぬ・・・・いやむしろ周囲を圧倒するような射を見せてさらりと合格したのである。
師匠である都竹はにこやかな笑顔で絋次を褒め称え、嬉しげに妻の波瑠花に報告をした。


二時間ほど射て弓道場を後にし、絋次と佑介は「いつものお店」に向かった。
絋次は佑介と稽古に行くと時間の許す範囲でその後、絋次の高校大学時の先輩・倉田 臣の経営する喫茶店へ寄ることがお決まりのコースとなっていた。
そして深川の弓道場からその喫茶店「Cafe Lidell」へは一度路線を乗り換えないと行かれなかったが、三十分もかからない場所にあった。
車中で並んで立つ絋次と佑介のふたりは相当に目立ち、多くの視線にさらされたようだった。



「てめえに飲ませるコーヒーなんざ、うちにゃ一滴たりともねえからな!」
ドアが開くのと同時に威勢のいい声があたりに響き、中からごろりと男が転げ出てきた。
いままさにそのドアを開けようとしていた佑介は驚いたものの、素晴らしい反射神経でしっかりとよけた。
「・・・く、倉田さん。そんなこといわずに・・・・」
なおも食い下がる男に。
「じーさまが勝手に寄越しちゃいるが、だからといってどうぞって売れるかっつーの。おとといきやがれ!」
臣は小脇に抱えた入れ物に手を突っ込んで握り、ぱっと周囲に撒いた。
「うわ」
塩である。
男は撒かれた塩をはたき落としながら、「あきらめませんよ!」と捨て台詞ひとつ残して立ち去った。
「知るか、んなこと。・・・・と、星野に、佑介くん」
扉を閉めようとした臣は、並んで立っている絋次と佑介に気がついた。
「こんにちは」
ぺこりと佑介は挨拶し絋次も軽く頭を下げる。
臣は苦笑いを浮べ頭をがりがりと掻いてふたりを見やり。
「その、へんなとこ見せちまったな。・・・たいしたこっちゃないから。入ってくれ」
ふたりを店の中に入れ、「本日閉店」の札を扉に下げてから閉めた。


「いったいどうしたんですか」
カウンター席に佑介と座った絋次はおもむろに尋ねた。
臣はコーヒーを淹れる準備をしながら「実はな・・・・」と話し始めた。

臣の両親は彼の姉夫婦と浅草でそばやを切り盛りしているのだが、母方の祖父は陶芸の人間国宝となっていて、その祖父が孫かわいさゆえか時々臣の店で使えるようなカップ類を勝手に製作しては勝手に置いていくのだった。
頼んでもいない勝手に置いていったものだがいちいち突っ返すのも面倒だし、そもそもコーヒーカップなどというものは割れることが多々ある。ゆえに遠慮なく使わせてもらっていた。
そうはいっても、人間国宝の作ったコーヒーカップ。
臣が黙っていてもいつの間にやら聞きつける人間はどこにでもいて、「売って欲しい」という輩が後をたたなかった。
もちろん、祖父が勝手に作って持ってきたものであっても、臣としては譲るつもりも売るつもりもないのは当然のことだった。

「いいかげんにしてほしいもんだよ、まったく・・・・・」
ふうと溜息をつく。

趣味が高じて開いたこの店。
もともと妻の綾が学生時代からアンティークも売っている伯母のジュエリーショップを手伝っていて、卒業後そのままのお店を受け継いでいた。
当初は少しでも妻の綾に協力できればと修行から帰ってきた臣がお店に来ているお客にお茶の代わりにコーヒーを出していたのだが、そのコーヒーの美味しさが評判になり、また綾がひとりですべてを把握するには店の面積が少々広すぎたこともあり、それなら・・・・と店の一部を改装し隣りあわせで喫茶店を開いたのだった。
店内はカウンター席が8席ほどで、注文を受けてからお客の目の前で豆を挽きドリップする。
カップやソーサーは同じものが一客としてなく、マスターの臣が修行中に集めたものや休みの日に骨董市などに顔をだしては探し出してきたものだった。
そしてお客のイメージに合わせたカップに淹れて出すのが臣のスタイルだった。常連たちは「マイボトル」ならぬ「マイカップ」をキープしていたりするのだ。

「そうだったんですか。・・・・でもそんな輩は追払って正解ですね。臣さんのコーヒーを飲ませたらもったいないですから」
にこっと笑う佑介。
「嬉しいこと言ってくれるねえ」
臣はカウンター越しに身を乗り出して佑介を抱きしめた。
「お、臣さん?!」
瞳を見開いて驚く佑介だ。
佑介の隣に座る絋次は、そんな佑介から臣をすかさず引きはがした。
「なんだよ、星野」
不満気な声音だ。
「むやみやたらと佑介に抱きつかないでください。・・・・佑介はずっと身辺が騒がしくていろいろあって大変だったんですから」
「そりゃあ、仕方ないんじゃないか。そもそもがこ~んなオトコマエ。で、例のコンテストで賞をふたつも獲って芸能活動はしないって聞いちゃいたが、結局あの不破爽也とかいうボクにほだされてTVに出ていたんだからなあ」
「・・・・倉田さん」
「なんだ?俺は嘘は言ってねえぞ」
咎めるような絋次の口調に臣は不敵に笑う。当人である佑介は困ったような表情をしている。
「あの『Escape!』だけじゃないよなあ。その前に若手俳優メインの時代劇にも出てたろ?」
「!」
確かに出てはいたが、あくまでスタントの代役でそれとはっきり顔がわかるようには映していなかったはずだし、クレジットに名前もでていない。
それでどうして臣にわかったのか。
「----瞳(め)、だよ」
「え・・・・・」
「ロングカットが多かったけどな。だが瞬間的に捉えられた表情は、それまで見ていた役者のものじゃなかったんで、すぐにわかったのさ」
「そう、ですか・・・・・・」
「ま、たまたまだよ。実家に行ってた時におふくろと姉貴がその時代劇を見ていて。・・・いいトシして若い役者たちにわあわあ言ってるもんだから、義兄さんがあきれてたよ」
そう言うと臣はやわらかく笑った。

-----痛いところをつかれたと佑介は思った。
確かにいくら爽也と爽也の所属事務所に頼まれたとはいえTVに出てしまった事は事実なのだ。これでは芸能活動に興味がないといっても説得力がない。
一応「ジャーノン・カフェ」を最後にそのような場に出ることは止めようと考えている佑介ではあるが、爽也から頼まれてしまったら嫌とは言えないかもしれなかった。

「ちょっと手を貸せ」
考えに沈む佑介の右手を絋次は掴んで、まじまじと見た。
「?」
いきなりな絋次のこの行動の意図が、佑介にはさっぱり掴めない。
「・・・・爪はきちんとそろえてあるな」
言いながら掴んだ右手を離す。
「えーと、それは、その。・・・・長いと不潔だし」
「それだけか?」
「?」
それ以外に爪を切っておく理由があるのだろうか。
疑問符を浮かべている佑介に、絋次はそれこそ同性でも見惚れるような艶っぽい笑顔を向け。
「・・・・傷をつけるだろう?爪が長いと」
そして中指と人差し指をたててくいっと動かした。
その動作で佑介はようやく絋次が何を言わんとしているのか理解し、これ以上はないくらい赤くなった。
さらになまめかしく指を動かすものだから、佑介はとうとう俯いてしまった。
「星野おまえ、こーこーせー相手になんてことやってんだ」
あきれた口調の臣。
「大事なことですよ」
平然と答える絋次に、まったくこのオトコは・・・・・と大きく溜息をついた。


そうこうしているうちに、あたりはコーヒー独特の苦味のある香で満ちてくる。
「そろそろだな」
慣れた手つきでコーヒーをカップに注いだ。
「お待たせ」
絋次と佑介の前にふわりとコーヒーの香気が広がった。
「いただきます」
そういうと佑介はカップを持ち上げ一口飲み、じっと自分を見つめる臣へ「おいいしいです」というように、にこりと笑顔を向けた。
絋次は無言でコーヒーを飲む。
そして。
「これは・・・・・」
「いつもうちの店で飲んでいるのと違うだろ」
にやにやと笑いながら臣は絋次を見る。嫌そうな表情の絋次。
「いうなれば『カメリア・ブレンド』かな」
「『カメリア』って・・・・」
「・・・・・椿のことだ」
隣の絋次が憮然と言った。
「椿?コーヒーのブレンド名に椿ってめずらしいですね」
「・・・・・」
絋次は返事をしない。
「絋次さん?」
別に怒っているわけではなさそうだが・・・・・。

「なんで閉店の札が下がっているのかと思ったら、こういうことだったの」
微苦笑を浮べながら、臣の妻綾が奥から顔をだした。
目が合い、佑介は会釈する。
「いらっしゃい、おふたりさん。・・・・あら、このコーヒーはあれね」
と、周囲に広がるコーヒーの香りをあらためて吸い込む綾。
「そ。あれだ」
ふたりの会話に佑介はますます困惑する。
確かに深みと苦味が嫌味なく混ざり合い、香りもどこか華やかさを感じさせる美味しいコーヒーなのだが・・・・。

・・・・コーヒーに華やかさ?
そして『椿』。
佑介の頭に、自分にとって姉のような存在の女性が思い浮んだ。

「絋次さん、もしかして『カメリア・ブレンド』って・・・・・」
「・・・・・」
派手ではないが一本芯の通った華やかさのある花。
----椿。
その花のイメージとぴったり合うのは。

「わかったみたいだな。・・・・俺が咲子ちゃんをイメージして、なおかつ星野好みに仕上げたやつさ。この『カメリア・ブレンド』」は。『咲子スペシャル』でもいいけど、安直なネーミングはどうもな~」
と妻の綾と視線を交わす。どうやら綾が名づけたようだ。
「毎朝飲んでいくから、好みに合った美味しいコーヒーを飲ませてあげたいっていうのよ。咲子ちゃん」
絋次へにっこりと笑いかける綾。
「悪いな、佑介。先に帰らせてもらう」
財布から二千円ほど取り出してカウンターに置き、立ち上がった。
「絋次さん?」
「おまえはゆっくりしていくといい」
「あ~、帰れ帰れ。帰って女房にめいっぱい感謝しろ」
臣はにやにや笑いながら、カウンター越しに手で追い出す仕草をする。
「言われなくても」
それは鮮やかに絋次は微笑み、呆然とする佑介を残して店をあとにした。

「ほんと、かわらんなあ。あいつは」
「そうね。でもずいぶんかわいくなったわよ」
「どこが」
「わからない?」
あきれた表情の臣に、ふふふっと笑う綾。
「わかりたくないな。男がかわいくなったらおしまいだ」
「そういうとこが、かわいいのよ」
臣、絶句。
そして傍らで会話を聞いていた佑介もだった。


絋次が帰ってしまった後、佑介はもう一杯コーヒーをいただいてから店を出た。

(さすがというかなんというか。絋次さんの周りにはどうも一筋縄ではいかない女性が多いような・・・・)

そんなことを思う佑介の周囲の女性たちもなかなかなものであるのだが、自分のことはわからないものだ。
夕日のまぶしさに目を細めて、佑介はゆっくりと家路にむかった。
2012.01.21 / Top↑
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