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今回アップしたのは、SSや雑談で少しずつ話が動き始めていた日夏里やつーさんたちと友人・こしろ毬さんの「星紋」のキャラたちをゲストにむかえた、コラボ小説です。

前回の「桜始開(さくら、はじめてひらく)」とは違い、学校がその舞台で、日夏里たちの学校・翠嵐女子の学園祭終了までを「学園祭は踊る」というタイトルの連作シリーズで追いかけて
いきます。

無事学園祭終了までたどりつくのかどうか不安はありますが、よろしくおつきあいくださりませ。

では、つづきをよむからどうぞ。


「梁河、土御門、筒井」
都立朱雀高校弓道部の主将・梁河康一と副主将・の土御門佑介、そして女子のまとめ役をしている筒井衣里那は放課後の練習中に、顧問の藤成に呼ばれた。
「あちらさんがいらっしゃった。すまんが、練習中断してきてくれないか?」
“あちらさん”とは二ヶ月ほど前に対抗試合を申し込んできた私立翠嵐女子高等学校のことだ。
今日はその試合の打ち合わせのために朱雀高校へ訪ねてきているのだ。
「わかりました」
梁河は、30分くらいでその打ち合わせは終るだろうから練習は続けていてくれと残る部員達に言い、佑介や衣里那とともに藤成のあとを追った。
「道着姿のままでいいのかね」
とは梁河。
「東都の時だってこのままで校長室に行ったじゃないか。今回は応接室で、あちらも顧問の先生と部長、副部長しか来てないっていうし大丈夫だろ」
と、佑介。
「わ~、緊張する。じゃんけんで負けた女子のまとめ役にすぎないのに」
少し不安げな衣里那。
「取って食われるわけじゃないんだからさ。平常心、平常心」
「大丈夫、筒井の心臓は鋼鉄製だから」
そう言って、梁河は衣里那の背中をばんとたたいた。
「だれが鋼鉄製よ!」
衣里那は梁河にこぶしを振り上げる。が。
「こら、じゃれあってるんじゃない。おいていくぞ」
藤成の催促の声で、その手を渋々引っ込めた。


応接室の中に入ると、顧問らしき初老の男性と女生徒が3人座っていた。
3人のうちひとりは座っていてもその背丈が高いことがわかるくらいすらっとしており、少し茶色がかった髪は肩より少し長いシャギーの入ったレイヤードヘアで、くっきりとした二重まぶたで切れ長の眼を持つ美少女であった。
そのとなりの女生徒は少しふっくらとしていたが、肌の色が透き通るように白く、髪をゆるく三つ編みにして両脇に垂らし、黒目がちな瞳をにっこりと微笑み細めていた。
もうひとりの少女は肩までのセミロングヘアで、少しつり目気味の大きな瞳をくりくりとさせている。
(あ、彼があの雑誌に載っていた“土御門佑介”くんか)
瞳をくりくりさせていた少女ー橘日夏里(たちばな ひかり)ーは、顧問に連れられて入ってきた生徒の中からすぐに佑介を見つけた。
そっと、学校でも1,2を争う美少女ー吉田朔耶(よしだ さくや)ーの方に視線をめぐらす。
(あ~、もう朔耶先輩ってば・・・・)
佑介の姿を見つけるなり、きらきらと眼を輝かせていた。
隣の小澄侑那子(こすみ ゆなこ)につつかれても全く気付く気配がない。
(先が思いやられるなあ)
一抹の不安を覚える日夏里であった。

「この度はこちらの無理なお願いを聞いてくださってありがとうございます」
テーブルを挟み、向かい合って両校が席に着くと、翠嵐女子の顧問・城東が早速挨拶をした。
これから打ち合わせをしようとしているこの対抗試合は、翠嵐女子の秋口に開催される学園祭の最中に行われるものであった。
だが、毎年学園祭の対抗試合の相手は、近隣の女子校との対戦となっていたのだが・・・・。

翠嵐女子は渋谷区にある、創立100年以上の伝統を誇る中高一貫校だ。付属の短期大学と4年制大学もある。
世間的には「お嬢様学校」と言われているが、在学している生徒達自身はあまりそう思っておらず、どちらかといえば地味で庶民的だと感じている。
なにせ補助バックに荷物が入りきらなければ、風呂敷に包んで持ってこなくてはいけないし(ただし、色柄は自由)調理実習や美術の授業、そして清掃の際には「割烹着」着用なのである。(むろん、白い三角巾も)制服も私立女子校にしては実にシンプルで、白いブラウスに紺色のベストとプリーツスカートにブレザーを着、中高で色の違うリボンタイ(中学は赤、高校は深緑)を結ぶという、流行りの制服からは程遠いスタイルだった。
とはいえ、学校帰りの立ち寄りには事前の許可が必要であったり、学園祭も一般客はチケットがなければ入場出来ないなど(在校生の家族、卒業生、受験予定者などはその限りではないが、受付にて名前や学校との関係など記入しなければならない)私立ならではの面も当然あった。
そのような学校が、学園祭の対抗試合とはいえ、共学の都立高校に申し込みをしてきたのだ。
この翠嵐女子の顧問城東から対抗試合の申し込みの電話を受けた藤成は、当然とまどいを隠せなかったが、私立の名門校・東都学院と交流試合を行った経験が彼を多少柔軟にしていたようで、その場で応諾の返事をしたのだった。
それに今回は東都学院のときのような両校の交流復活を名目に掲げた行事などではなく、あくまで先方の学園祭での対抗試合のひとつである。そんな大ごとにならないで済むだろうと藤成は考えたのだった。

「いえいえこちらこそ。どのような経緯でわが校に白羽の矢が当たったのかわかりませんが、そちらの学園祭の盛り上げに一役買えれば幸いですよ」
藤成には話していないが、佑介や梁河は何故朱雀が選ばれたのかは知っていた。
「寛大なお言葉、恐れ入ります。…では、わが校の方から生徒を紹介をさせていただきますか」
と城東は、3年生で部長の吉田朔耶、同じく3年の副部長小澄侑那子、2年副部長の橘日夏里の3人を次々紹介し、朔耶たちはそれぞれに「よろしくお願いします」と会釈をした。
それを受けて、藤成が梁河や佑介、そして衣里那を紹介する。
その間も朔耶はずっと、佑介から視線をはずさなかった。
(朔耶先輩、ロコツだよ。試合は女の子たちとするのに)
朔耶の「イケメン好き」は校内でも有名で、そもそも対抗試合の相手が朱雀高校になったのも、東都学院との交流試合の様子がティーン雑誌に載り、その雑誌に載った佑介に興味を持ったからだった。
とはいえ、もちろん朔耶とて例年とは違う学校と試合をしてみたいという思いはずっと持っていた。
だから、だめでもともとと校長に「朱雀高校と対戦したい」と掛け合ったのであった。

「どのような試合形式しますか」
「そうですね」
と顧問同士で打ち合わせは続く。時折、同席している梁河や衣里那、日夏里たちにも話を振ってきた。
当然、翠嵐側の部長である朔耶にも意見が求められるのだが、朔耶は少々(いやかなり)上の空で、隣の侑那子は気が気ではなかった。侑那子

朔耶は、この応接室に佑介が入ってきてからずっと、かなり不躾な視線で佑介を見つめていた。
佑介は当然その視線に気がついているが、下心も邪気もなく、ただただアイドルに憧れる少女のように見つめているだけなので、ただ苦笑するしかなかった。
だが、佑介の横に座っている梁河はそうは感じていないようだった。
あの雑誌に載ってしまったのはもう仕方ないこととしても、佑介はあくまで一介の高校生にすぎない。
従来なら、同じような女子校と対抗試合や交流試合をしているというこの翠嵐女子が朱雀に試合を申し込んできたのは佑介目当てだと漏れ聞いている。
それはこの打ち合わせの場の朔耶の様子を見れば、一目瞭然だった。
自分達弓道部の実力は、都内ではかなりトップクラスの方だ。
そういう点を加味しないで、試合を申し込んできたことにもいい気分がしないのだ。
ゆえに梁河は。
「藤成先生」
「なんだ梁河。何か希望でもあるのか?」
会話が切れたのを見計らって、顧問の藤成に声をかけた。
「あります」
佑介はいつものおちゃらけた雰囲気とは違う、梁河の様子に目をみはった。藤成も気づいたようだ。
「先生、試合やめましょう」
「え?」
その場のみながいっせいに梁河を見る。
「ちょっと待て。やめるって…」
言われた藤成は困惑顔だ。もちろん、相手方・翠嵐女子の顧問城東も。
「そちらの部長さん、吉田さんといいましたか。あなたの目的は『試合』ですか?それとも『土御門』ですか?」
かなりきつい口調で朔耶を見据え、問う。
「いえ、あの…」
朔耶の顔が一瞬で朱に染まった。
「梁河!」
あわてて佑介が止めに入るが、梁河はきかなかった。
「先ほどから打ち合わせの話をろくにきいていないようですね。土御門のことばかり失礼なほど見つめて。佑介は芸能人でもなんでもないんですが」
「わたし、そんなつもりじゃ…」
東都学院との交流試合の件が思いがけずティーン雑誌に載ってしまったことで、佑介の周囲は以前とは随分変わった。
もちろん佑介のことをよく知る、おさななじみの栞や親友の和樹、弓道部の面々は全く変わらず接してくれているが、佑介をよく知らない他の生徒たちの中には、やっかむ者やあてこすりを言う者などいないわけではなかった。
おまけに校外からのアプローチも少なくないのだ。
佑介は口に出して何も言わないが、内心ではかなりうんざりしているのではないかと思う。
佑介には何の咎も無いのに。
「梁河くん、いいすぎ」
衣里那も止めに入る。
「いいすぎなものか。ミーハーはお断りだ。それに試合をするのは筒井たちであって、佑介や俺じゃない」
「それはそうだけど」
「ぶっちゃけていえば俺たちは試合には直接関係ないんだ」
そう言って、梁河は朔耶を射るように見た。
「…わかりました」
朔耶は臆することなく、梁河の視線を真正面から受けた。そして。
「先生。侑那、日夏里ちゃん帰りましょう」
すくっと立ち上がった。
「お、おい、吉田」
「朔耶」
「朔耶先輩!」
困惑している3人を見下ろし。
「わたしの態度も悪かったのでしょうけど、ここまで言われる覚えはありません。いいです、先生帰りましょう」
きっぱりと言い切った。
場の空気が、なんとも気まずくなった。

「…え~と、ですね」
少々、雰囲気にそぐわぬ物言いで、当事者の佑介が口をはさんだ。
「梁河の気持ちは嬉しいけど、俺はそんな嫌な感じは受けなかったし、それに理由はどうあれせっかくの申込なんだから、試合はやはり受けるべきだと思います。…な、筒井」
「え、あ、そうね。都大会でも対戦したことのない学校だし」
衣里那はあわてて答える。
その言葉を受け、佑介は朔耶を見た。
「と、いうことです、吉田さん。ですから帰るなんておっしゃらないで下さい」
「え、でも」
言いよどんで、朔耶は梁河の方をちらっと見た。それに気づいた佑介は。
「梁河もいいよな?」
「…佑介がいいっていうのなら」
いまいち承服しかねるようだったが、当の佑介がいいと言っているのにこれ以上反対は出来なかった。
「やれやれ、どうなることかと思ったぞ」
とは朱雀高校顧問の藤成。
「ウチの吉田がすみません」
翠嵐女子の顧問城東があやまる。
「いや、そんなことないですよ。梁河もちょっと言い過ぎたと思いますし。東都と試合してからいろいろあって生徒達も戸惑っているんですよ」
「そのようですね」
「そうだ。打ち合わせはこのくらいにして、せっかくですからこいつらの引くとこ見ていきませんか?顧問の私がいうのもなんですが、なかなかの腕前ですよ。当然対抗試合には出ませんしね」
と、藤成は梁河と佑介を見た。
「じゃあ、ぜひ」
打ち合わせを切り上げて、弓道場へ場を移すこととなった。


「めずらしいな、お前があんなこというなんて」
前を歩く藤成と城東のあとをついて行く道すがら、佑介は梁河にそう言う。
実際、めずらしいことなのだ。
根は真面目な梁河だが、どちらかというと普段は陽気で明るい印象が強い。佑介に対してだって、なんやかやとからかいの種にしているくらいだ。
「そうか?いや、なんか不愉快でさ」
どうしてそんなに不愉快なのかは、自分でもはっきりわかっていない梁河だった。
そんな彼を佑介は、なんとなくだがその理由がわかっているので、なんとも言えない表情で見ていた。

一方朔耶たちは。
「侑那、日夏里ちゃん。わたしそんなに失礼だった?」
ぽそっと朔耶は言う。
「ま、朔耶のイケメン好きは今に始まったことじゃないし」
と朔耶の中学からの親友である侑那子は、わざと茶化してそう言った。
「実物の方が写真より数倍格好いいですもんね。見とれたくもなりますよ」
日夏里は朔耶を下から見上げ、にっこりと笑う。
「ふたりともありがと」
朔耶は侑那子と日夏里の手をぎゅっと握った。


弓道場へ着くと、梁河と佑介は早速準備を始めた。
衣里那は朔耶や日夏里たちを射場の上座に案内してから、練習を続けていた部員達のところへ戻った。
部員達は当然、試合相手となる翠嵐女子の朔耶たちに目が行っていた。
「梁河と土御門が模範を見せるぞ」
藤成が声をかけた。部員達はいっせいに練習をやめ、それぞれによく見える位置へ移動した。

佑介、梁河の順で入場し上座に向かい礼をし、本座へ進み弓を持ち跪座(きざ)の姿勢で揖(ゆう)を行い、その後立ち上がり、射位へと向かった。
まずは佑介が射る。弓道を始めて2年弱とは思えない、堂々とした射姿だった。
梁河の番になった。
いつもの練習では、射法八節の見本を佑介にまかせてしまう梁河だが、自宅には弓道場があり幼い頃から弓にふれていた彼は、実はかなりの腕前を持っているのだ。
背筋を凛と伸ばし、すっと打ち起こしに入る姿には目を見張るものがある。
普段ではなかなかその姿を見せることがないので、部員達はめったにないことと固唾を飲んで見つめていた。
もちろん、朔耶や侑那子、日夏里たちも一瞬にして、引き付けられた。
(上手いわ)
朔耶は、佑介も上手かったが、梁河の方がもっと上だと感じた。
そして、その姿から目が離せなかった。


「梁河、土御門。門の所までお送りしてこい」
梁河と佑介の模範射法が終わり、時間も遅くなってきたので打ち合わせはお開きとなった。
細かいことはまた追ってつめていけばいいということだった。
「いや、いいですよ。練習を…」
と城東は言いかけて、藤成の意図に気がついた。
「…じゃ、遠慮なく、騎士(ナイト)ふたりに送ってもらおうか。な?」
梁河と佑介は釈然としないが、顧問の言うことなので素直に先を歩きだした。


「あら、梁河くんに土御門くん」
「あ、澤樹さん」
新聞部部長の澤樹玲佳だ。
「ミス朱雀」と噂されているほどの美人であるが、さばさばした性格で気取ったところがなく、後輩達からとても慕われている。
「きれいどころ3人も連れて、どちらへ行くの?」
(すごい美人だな~。頭も良さそうだし)
と日夏里は見とれている。
「対抗試合の打ち合わせに来たみなさんの見送りですよ」
そう佑介が答えると。
「対抗試合って…。ああ、翠嵐女子とのね!と、いうことはこちらはその翠嵐女子のみなさん」
さすが、新聞部。情報は早いようである。一応まだオフレコの段階なのだ。
「そうです」
知られているものを否定しても仕方ないので、あっさり認める。
「お帰りのところを申し訳ありません。私、新聞部の澤樹と申します。試合当日はぜひ取材にうかがわせていただきますわ」
「それはよろしくお願いいたします。お待ちしておりますよ」
城東はそつなく答えた。
「ありがとうございます。…ところでそちらには高校写真コンテストに入賞された方がおられましたよね?確か…」
「あ、それつーさんです」
澤樹が考え込み言いよどむと、日夏里が即答した。
「じゃなくて、晴田次子(はるた つぐこ)さんのことですよね」
澤樹は小柄でちょっとつり目気味の少女の顔を見た。
「そう、晴田次子さん」
にっこりと笑いかける。
「同じクラスの友人なんです」
そう言う日夏里はすごく誇らしげだった。日夏里
「とても暖かい、素敵な写真を撮る人ね」
「本人もすっごく素敵ですよ!…あ」
その場にいた全員が自分を見ていることに気がつき、急に恥ずかしくなった。
だが日夏里は、写真関連のことで他校の生徒にまで名を覚えてもらっている次子のことが、自分のことのように嬉しかったのだ。
「何言ってるんだろ、あたし。恥ずかしいな」
「そんなことないわ。晴田さんに当日お会いできたらと思っているの。…梁河くん、土御門くん。そして翠嵐女子のみなさま、お引止めして申し訳ありませんでした」
「じゃ、澤樹さん、また」
澤樹にうながされ、一堂は歩き出した。校門はもうすぐだ。


「ここまでで結構ですよ。おふたりとも素晴らしい腕前で勉強になりました。これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
佑介が答える。梁河はここに来るまで終始無言であった。
が、なにか意を決したように朔耶の方をむいた。
「さきほどは失礼なことを言いました。許してください」
そう言って、ぺこっと朔耶に頭を下げた。
「え、いえ、そんな。私の態度もほめられたものじゃなかったから。私の方こそごめんなさい」
一瞬びっくりし、でも朔耶も謝っていないことに気付いたので、同じように頭を下げた。
「これでわだかまりなく、試合が出来そうだな」
城東は藤成のしたことが、効を奏したと思った。
「では、このへんで」
一礼して、門を出て行く。朔耶は咄嗟に振り返った。
「梁河くん、フルネームなんていうの?」
「え?」
「下の名前、教えてくれません?」
朔耶はもう一度尋ねる。
お互いの紹介をした時に名乗っている筈なのだが、その時朔耶はきちんと聞いていなかったのだ。
「…梁河康一です」
「どうもありがとう。…さようなら、康一くん」
ふっと口をついてでた、名前。朔耶

あざやかな微笑みを残し、侑那子や日夏里の後を朔耶は追った。
(梁河康一くん…)

朔耶の中に、なにかが芽生えたようであった。
2008.05.09
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