上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.--
このお話は「佑遊草子」『足りないのは』、『小さな約束』より続いております。


剣道のことに関しては、ママさん剣士である友人のKさんに教えていただきました。
真穂ままの設定や佑介くんの段審査の時もお世話になったのです。
いつもいつもありがとう、Kさんv
大会の先鋒、がんばってくださいね。



最後に佑介のことをひとしきりからかってから、咲子は電話を切った。
佑介と話しているうちに感極まって泣き出してしまった芙美は、曾祖母やち代にあやされ抱かれたままで、寝てしまった。
「やち代さん、どうもありがとう。芙美、寝ちゃったのね」
と、やち代の腕から芙美を譲り受け、芙美が寝やすいように抱きなおす。
「ちっこいなりに我慢していたんだろうさ。もうこのまま寝かせておやり」
「ええ。・・・・正直、ここまで芙美が佑介くんに懐くとは思っていなかったんだけど」
芙美の頭をなでながら、咲子は言う。
「子どもは本当に自分のことを好いてくれている人がわかるもんなんだよ。ましてやこの子は感受性が強そうだ。なにか感じるものがあるんだろうさ」
「そうなんでしょうね。・・・・それにしても佑介くん、芙美には平気で『大好き』って言えるのに、しーちゃんにはいつまでたっても言えないんだから」
やち代の「なにか感じるものがあるのだろう」という言葉に咲子は内心驚いていたがそれは顔には出さないように、おどけて言葉を続けた。

妹の栞と佑介が遊びに来てくれた春休みにわかったことで、氏神である神社にお参りに行った際に佑介が受けた『歓迎』を芙美も受けていたのだ。
しかも芙美には見えざるものが見えるというおまけまでついて。
子どもの今だからなのか、母方の祖母の由利の血の影響なのかわからないが、父母の以外には、そのことを言ってはいけないと約束させた。
だが、芙美は曾祖母やち代と仲が良く、やち代の毎日のお参りにもよくついて行っている。
ぽろっと、やち代に話していたとしてもおかしくないだろう。
・・・やち代は知っていたとしても、そんなことおくびにもださないであろうが。

「ばかだね咲子。芙美に言うのと栞ちゃんに言うのじゃ全然ちがうだろ。人の恋路を邪魔する人間は馬に蹴られるんだよ。機が熟せば自然とそうなるさ。ほっといておあげ」
「わかっているんだけど、はがゆくて」
「おまえさんに人のこと言えるのかい?自分たちは時期を逃して、いつまでも意地張ってぐずぐずしていたじゃないか」
「やち代さんっ!」
「こちとら、伊達に長生きしてないよ。・・・・だから、ほっておおき」
やち代は咲子のことを、絋次と正式に付き合うようになる前から、気に入っていた。

それは高校一年の時。
咲子に傘を貸してしまったがゆえに絋次は風邪を引いて学校を休み、罪悪感にかられた咲子がお見舞いに来たのがきっかけで。

咲子に会って話をしていくうちに、元芸妓であったやち代には、幼い頃から剣道と茶道を習っていた咲子の礼儀がきっちりと身について居るところや、老舗呉服屋の孫娘で母は一年中を着物で過ごしているという環境から来る着物好き、さらには、下町育ちの自分がぽんぽんと何を言っても、打てば響くように返ってくるその言動や気性のさっぱりしたところをすっかり好きになってしまったのだ。
それに、孫の絋次の口から直接名前が出てきた異性はこれまで咲子しかいなかった。
咲子も絋次もお互い惹かれつつも、意地を張り、なかなか素直になれず、気持ちが通じ合うまでに長い年月を費やしてしまっていた。
そんなふたりを傍で見ていたからやち代は、栞と佑介は幼い頃からお互いを大事に思い、気持ちを育んできたので、へたなちょっかいをだすな、と釘をさしているのだ。

「あたしゃ、部屋へ戻るよ」、と言ってやち代は目の前の襖を開けて中へ入っていってしまった。
咲子はひとつため息をついて、芙美を寝かせようと二階へ上がった。

すでに敷いてあった布団の上に芙美を寝かせ、掛け布団をかけると、また、咲子の携帯が鳴った。
芙美が起きるといけないので、居間にむかいつつ、電話に出る。
「もしもし?」
「もしもし、咲ちゃん?」
妹の栞からだった。
(うわさをすればなんとやら、なのかしらねえ)
苦笑する咲子。
「こんばんは、しーちゃん。どうしたの?」
「あのね。・・・・佑くん、あんな稽古されて大丈夫なの?」
佑介の師匠でもある母親の真穂から、区民大会までは自分ではなく警察官時代の後輩たち(今も真穂は自身の稽古のため、在官時代の警察道場には週に2日ほど通っている)が稽古をつけることに
なり、しばらくは佑介も大変だと思うけど心配しないようにと言われていた。
だが、はじめてその後輩の猛者たちに稽古をつけられた佑介が、翌日学校に行くので朝迎えに来てくれた時に栞はびっくりしてしまったのだ。
顔には小さな擦り傷や痣があるし、歩いていると時々小さな声で「いて」と言っていた。
あげく、授業中には居眠りまでしていたのである。
栞が「大丈夫?」と聞いても、佑介は「平気、平気」と答えるだけだったのだ。
家に帰って、真穂に言っても
「これからの佑介くんのためには大事なことなの。そばで見ているのはつらいかもしれないけど、我慢なさい。・・・・・剣士と付き合うのなら、覚悟がいるのよ」
と、厳しい声で諭され、栞は何も言えなくなってしまった。
栞も幼い頃、少しだけ剣道を習っていた。怪我をしたのがきっかけで2年くらいでやめてしまっていたが稽古に多少の打撲や怪我がつきものなのは、重々承知していた。
でも、今までの佑介にはそのようなことがほとんどなかった。
高校生で三段の腕前はかなりハイレベルな筈。
そんな佑介なのに。
「・・・・心配なのはわかるけど、大丈夫だからやっているに決まっているじゃない。おかあさん、そう言ってたでしょ?」
「うん・・・・。でも、あんなに怪我をして。なんだかしごきみたい」
剣道をやめてしまった栞にはそう見えるのだろう。なので咲子は。
「あのね、しーちゃん。あれはしごきなんかじゃけっしてないわ。実戦さながらの稽古なだけ」
「でも」
なお栞は言い募る。咲子は溜息ひとつ。
「じゃ、ぶっちゃけて言うわよ。佑介くんが怪我をしているのは、それは佑介くんのせいなの」
「どうして?」
「それは、佑介くんが下手だからよ」
「だって、佑くん、三段なんでしょう?」
そう、段位から見ればけして下手なんかではない。ただ・・・・。
「三段でも、佑介くんは実戦経験はゼロに等しいの。部に所属していないから、高校の剣道大会には出ていないし、道場にも高校生は来ているけど、佑介くんとは稽古に来ている日が違うみたいだし
 ね。・・・試合は段審査とは違うのよ。一本を取るためにはなんだってするわ」
咲子は中学3年の秋まで剣道を習っていた。段も二段まで取っており、全中(全国中学生剣道大会)にも出ている。試合がどんなものであるのかは、承知済みなのだ。
「佑介くんにはその一本を取りに行くがむしゃらさが足りないし、同じ高校生同士がぶつかるパワーやスピードがわかってないの。それらは女性である母では教えられないことなの。」
「・・・・」
栞は無言で咲子の言うことを聞いている。
「本来なら、佑介くんが警察道場に行って頭を下げないとなのよ?それをいくらおかあさんの後輩だからって、わざわざこちらに来てもらって稽古をつけてもらっている。とてもありがたいことだわ。今はまだ佑介くんは彼らのスピードやパワーに慣れてなくて、体捌きも上手く出来ないから怪我をするの。上手な人は防具でカバーされている有効になる部分を打つし、手の内が効いていれば、衝撃はあるけれど痛くないんだから」
とここで一旦言葉を切り、その後を一語一語丁寧に咲子は言った。
「だから、なの。佑介くんがきちんと体捌きが出来るようになれば、怪我もなくなるし体力ももっと温存出来る様になるから、授業中に居眠りなんかしなくなるわよ」
「ほんとうに?」
「ほんとうよ。・・・・ま、二週間後くらいを見てなさいって。きっと惚れ直すくらいさらに精悍になっているわよ」
「咲ちゃんっ」
栞のあせっている様子が電話越しに伝わる。
(初々しくて、はがゆいふたりだこと)
そんな風に思う。
でもこの稽古を乗り越え、もしも区民大会で本当に優勝したら、なにかが少し変わるのではないかとも思う咲子だった。
「しばらくはつらいと思うけど、耐えなさい。佑介くんだってがんばっているんだから」
「うん、わかった。・・・・咲ちゃん、ありがと。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
その言葉をしおに、電話を切れた。

(・・・・・佑介くんって、ほんと罪な男ね)
佑介を慕う幼い芙美を泣かし、大事なおさななじみを心配させ・・・・。
(やち代さんにはああ言われたけど、ひとつやふたつからかってやらなきゃ気がすまないわ)
そんなとんでもないことを思う咲子であった。

2008.05.16
Secret

TrackBackURL
→http://mizuhohagiri.blog35.fc2.com/tb.php/36-137a03e0
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。