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「学園祭は踊る」、3作目です。
今回は朔耶嬢が主役の話です。・・・・って「きざし」でも日夏里が主役とは思えないですよね(^^;)
もやもやをかかえた朔耶嬢、単身朱雀高校へ訪問します。

ま、ベタな(笑)展開ではあるんですが、お許しを。

ではでは、つづきをよむからどうぞv



(わたし・・・・何やっているのかしら)
朔耶はある学校の正門の前に呆然と立っていた。


「朔耶、朔耶ったら」
「あ、侑那」
何回か名前を呼ばれ、ふと気がついて顔を上げれば、クラスメイトで親友の侑那子が目の前に立っていた。
「・・・・もうHRとっくに終ってるよ。部活行かなきゃ」
「あ、うん」
朱雀高校を訪問してからどこかおかしい朔耶。気がつくとぼうっとしていることが多い。
あれ以来、常に頭の中はあるひとりの人物を思い浮かばせる。

打ち合わせのときの自分の態度は、あらためて考えてみてもかなり失礼なものだったと思う。
確かに、雑誌で見た「土御門佑介」に会えるという浮ついた気持ちは当然あったから。
そんな朔耶の態度を怒り、友人をかばった、朱雀高校弓道部主将の梁河康一。
・・・・相当、きついことを言われた。
そんな風に言われたことなど今までなかったし、それだけが目的のように言われたのがくやしくて気がついた時には「帰ります」と言っていた。
その場は佑介がなだめ、打ち合わせを中断して梁河と佑介の模範演武を見させてもらい、帰り際に
梁河は謝ってくれた。(もちろん朔耶も謝った)
その潔い態度にはすごく嬉しかったが、でも彼は今でもきっと誤解していると思っていた。
試合を申し込んだのは、けっして佑介だけが目的ではないのに。

「・・・・朔耶ヘンだよ。朱雀に行ってから」
また考え事をしている朔耶が心配な侑那子。
「侑那」
「なに?」
「・・・わたし、今日部活さぼる」
そういうと、朔耶はカバンを持ってすっと立ち上がった。
「え、さ、さぼるって、ちょっと朔耶」
「城東先生には適当に言っておいて。・・・・わたし、朱雀高校に行ってくるから」
「朱雀?どうして?」
事態が飲み込めない侑那子。
「ちょっと用があるの」
「え、だって。待ってよ、朔耶。立ち寄りは?」
翠嵐では放課後、真っ直ぐ帰宅するのではなくどこかへ立ち寄る場合は、保護者と担任の許可が必要だった。
「許可取ってないわ。でもいいの。行くから」
「行くからって、朔耶!」
侑那子が返事した時には、朔耶はもう教室から姿を消していた。
(朔耶ってば、どうしちゃったっていうのよ)
朱雀高校に行く前までは、あれだけあの『土御門佑介』に会えることを楽しみにし浮かれていた朔耶なのに、今では彼の名前はまったく朔耶の口からのぼらない。
(・・・・まさかねえ)
朔耶はサラリーマン家庭や中小の自営業者家庭の多い翠嵐の中ではめずらしい、大会社の社長令嬢だ。
貴(あて)なる血筋も入っているらしい。
良くも悪くも生粋の『お嬢様』で、中学から翠嵐に通っており、“男”に対してあまり免疫がない。
ゆえに、面と向かって男性からあれこれ言われた経験も皆無に近いのだ。
・・・・いやな目にあったことはあるが。
(イケメン好き、なんて言われてるけど、中身はとってもウブいのよね)
中学1年から友人としてずっと朔耶を見ている侑那子はそう思う。
侑那子には小学校のときの同級生だった彼氏がいる。少なくとも朔耶よりは男性に対して免疫がある。
(ここらで、“恋”の経験をするのもいいのかな)
憧れではなく、本当の恋を。外見とかで判断しない恋を。
そして、いやな経験を乗り越えてほしいと思った。
(さて、どーやってごまかそうかな)
・・・・顧問の城東になんていおうか、アタマの痛い侑那子であった。

一方、朔耶。
勢いで学校を飛び出し、ここまで来てしまったが、何か用事があるわけではない。
「打ち合わせ」の続きに来たといえばいいのかもしれないが、城東ときちんと話を詰めていないので
やはり話し様がない。
どうしたものか。
門のところで逡巡している朔耶は目立つことこの上なかった。
すらりとした長身。くっきりとした二重に長いまつ毛にふちどられた瞳。
じゅうぶんに人目を引く美しさを持った朔耶は、下校する生徒達からかなりの注目を浴びていた。

(あら?あれは・・・・)
髪の長い、ひとりの女生徒が朔耶に近づいてきた。
「・・・先日いらした翠嵐女子のかたですよね?」
声をかけられ、朔耶は振り向く。
「あ、はい。・・・・あなたは確か、さわ、きさん」
そこに立っていたのは、新聞部の澤樹玲佳だった。
「ええ。今日も弓道部にご用?」
「いえ、あの・・・」
言いよどむ朔耶。用などこれっぽっちもないのだ。ただ自分の気持ちを持て余して、学校を飛び出して
きてしまっただけで。
・・・・一体、なにをやっているのだか。
もう、帰ってしまおうかと思った。
「ひとりではやはり共学校は入りづらいかしら」
考え込んでしまった朔耶を見て、澤樹はひとりで中へ入る勇気が持てなく、とまどっているのではと
思った。
「・・・大丈夫。弓道部まで案内するわ。ついてきて」
そう言うと、澤樹は朔耶の手を握り、さっさと歩き出してしまった。
「あの、澤樹さん」
「もう、練習始まっているかしら」
朔耶のいうことなどきいていない。もう観念するしかないようだった。

そうこうしているうちに弓道場が視界に入ってきた。先日会った衣里那や佑介、そして梁河の姿が見える。
(あ、あんな顔で笑うのね・・・・・)
遠目ではあったが、梁河は佑介に何事か話しかけていた。佑介は少し赤くなり、梁河はからからと
笑っている。
先日会った時の梁河は、ずっと厳しい表情のままだった。
(わたしにも、ああやって笑ってほしい)
ーーーーーーわたしにも?
それは不思議な気持ちだった。
打ち合わせの帰り際、咄嗟に彼の名前が知りたくなった。教えてもらった途端、ついて出た。
「康一くん」
と、ファーストネームが。
あれから彼の顔があたまを離れなかった。あんなにひどいことを言われたのに。
そして、いま。
あの笑顔を自分に向けて欲しかった。
わたしだけに。
・・・・・そう、わたしだけに笑いかけてほしいのだ。

「梁河くん、土御門くん」
澤樹は談笑しているふたりに声をかけた。
「あ、澤樹さん。今日は何の御用ですか?」
と、そこで後ろに控える朔耶に梁河と佑介のふたりは気がついた。
「翠嵐の吉田さん」
佑介は気軽に声をかけるが、やはり梁河の表情は硬い。拒絶とまでは行かないが、歓迎していないことは感じ取れた。
「門のところで入りづらそうにしていたから、連れてきちゃったわ」
と、澤樹はちょっとおどけて言う。
「おひとりじゃ、共学校の敷居は高かったですか」
「いえ、そんな」
佑介は気を使って朔耶に話しかけるが、梁河はとなりで憮然としていた。
「おい、梁河。少しはなんか話せ」
佑介は小声で梁河をつつく。
「何もないね」
「梁河~」
「・・・・あの」
やはり誤解したままなのだと朔耶は思い、さっと梁河の前に行き。
「先日は本当にごめんなさい」
そう言って、あたまを下げた。梁河は一瞬目を見開いた。
「・・・・わたし、本当に舞い上がっちゃってて。部長なのにいいかげんな態度で」
そこであたまをあげ、梁河をじっと見た。
「けして試合をないがしろにしたつもりはないんです。・・・・・土御門くんに会いたかったのは本当だけど
 でも、ずっと違う学校と対戦してみたいと思っていたんです」
「・・・・・」
「・・・・翠嵐は、どちらかというと冒険心の少ない堅実なタイプの学校です。悪く言えば保守的で、
学園祭でも本当に毎年同じ学校との対戦で、うちも相手の学校もまたかという感じで。部員の士気も上がらないんです」
「・・・・・」
梁河も佑介も、朔耶の言うことをじっときいていた。
「弓道のレベルはけして高い方ではありません。団体も都大会まで行けたことはありませんし。 ・・・・でもいろいろな学校と対戦することは部員達のためになると思って」
「あら。そうはいっても吉田さんは都大会個人でベスト8に残っていたでしょう?」
新聞部で情報通の澤樹が言う。これには梁河も佑介も驚いた。
「ええ。わたしは小学校の高学年から始めているので、他の部員よりは弓道歴が長いですから。ですが部員のほとんどは高校からです。翠嵐は中高一貫校で中高共通の部も多いのですが、弓道部は高校にしかありません」
「へえ」
「・・・・ですから、わたしひとりの態度だけで、部のみんながそんな、試合をないがしろにしているなんて思ってほしくないんです。朱雀高校はとてもレベルが高いですよね?そういうレベルの高い学校と対戦するのってすごく勉強になるんです。・・・だから本当にわだかまりなく、試合をしたいんです」
朔耶は必死だった。
自分だけそう思われるのは、つらいけど仕方ないと思っていた。
でも、部全体が佑介目当てで、試合はどうでもいいみたいに思われるのはとにかくいやだったのだ。
「俺はあの時も言ったけど、本当になんとも思ってないですよ」
佑介はにっこりと笑う。
「ありがとうございます。・・・でも・・・・」
ちらっと朔耶は梁河を見る。
梁河は一息ついてから。
「・・・・わかりました。ちょっと、こいつ」
と佑介の方を見。
「あの雑誌に載ってから、本当にいろいろあったんです。佑介は本来あんな風にアイドル視されるようなタイプの人間じゃないんですよ。だからろくにこいつのことを知りもしないのにって腹がたったんです」
そう言った。
朔耶はその言葉にはっとした。
「わたしだって、勝手にいろいろ思われていやなことがあったのに。・・・・同じことしていたんだわ。ごめんなさい。全然わかっていなかったんですね。恥ずかしいわ」
「そんなことないですよ」
「いえ。・・・・でも梁河くんはとても友達思いなんですね」
「え、いや」
と、梁河は少し赤くなった。
「あら。梁河くんたら、照れているの?」
「澤樹さん!」
「友情にあついヤツなんですよ、これでも」
とは佑介。
「これでも、とはなんだよ」
そこでみんな笑い出した。

ひと通り笑いがおさまって。
「じゃあ、あらためてこれからよろしくお願いします」
そう言って、梁河から右手を差し出した。差し出された右手を朔耶はじっと見つめた。
「大丈夫ですよ、吉田さん。ちゃんと洗ってありますから(笑)」
佑介が横で茶化す。
「佑介~。久しぶりに顔出して、言うことそれか?!」
「久しぶりって・・・?」
朔耶には話が見えない。
「佑介は剣道も習ってて、その大会が近いんでずっと弓道の方は練習に出ていなかったんですよ」
梁河が説明をする。
「剣道も習っているんですか。きっとかなりの腕なんでしょうね」
「三段なのよ」
澤樹が言う。
「三段!・・・弓道も都大会では個人で二位の成績だったんですよね。努力もされているとは思います けど、すごいですね。がんばってくださいね」
朔耶は素直に褒め称えた。
「ありがとうございます。でもまだまだですよ」
高校に入ってからは剣道では試合に出場したことがなく、実戦経験ゼロの佑介は、この1,2週間猛特訓を受けていた。
師匠である、真穂の警察官時代の後輩たちに。
足の裏の血豆が何度もつぶれたりして、歩くのも大変なくらいだった。
「・・・・佑介。久しぶりなんだから、模範演武くらいやっていってくれよな」
「やだよ。お前が主将何だからちゃんとやれって言ったばかりだろ」
「そんなこと言わずに。佑介がいない間がんばって見せてたんだからさ」
「なに言ってんだよ、そんなこと当たり前だろ?」
「・・・いや~、今日はお願いしますよ、土御門大明神さま!」
と、手を合わせ佑介を拝む梁河。ふたりのやり取りを見て、朔耶はくすくす笑っている。
「本当に仲がいいんですね」
そう言って、今度は朔耶のほうからすっと手を差し出した。
「これから試合当日まで、どうぞよろしくお願いいたしますね」
「はい、こちらこそ」
梁河はあわてて、その手を握った。

「近いうちに中断してしまった打ち合わせをきちんとしておかないとですね」
「ああ、そうだった!・・・・もう、顧問抜きで行きましょう。気楽に」
「梁河~。どうしてお前はそうなんだよ」
「かたいこと言うなよ、佑介。ほら、インハイの予選も近づいてくるしさ」
と、佑介をなだめる。
「もう、そんな時期ですものね。うちはあまり関係ないですから、予選が終ってからでもいいですよ」
・・・・それまで、ここ朱雀に来られない、梁河に会いに来られないと思ったら、朔耶の胸は痛んだ。
「大丈夫ですよ、ちょっと打ち合わせするくらい。な、梁河?」
「まあ。そういつもいつものことじゃないし。・・・・って、お前インハイ予選出られるよな?」
「・・・・剣道と重ならなければね。今回はちょっと剣道に重点置きたいんで・・・」
「剣道に佑介取られた~」
「あのな~。なに、ばか言ってんだよ」
泣きまねをする梁河を佑介は小突いた。
ちょっとしたことで、佑介と梁河のふたりの会話は、こんな風に脱線していく。
(本当に仲がいいのね。男の子ってこんななのかしら?)
翠嵐に入学する前ーーー小学校ですら女子部にいた朔耶には、同年代の男の子ことが正直よくわからない。
「イケメン好き」は、あることを隠す仮面でしかなく、偶像視して異性を見ているほうが現実に直面しなくて済むだけなのだ。
あれ以来、はじめて現実の男の子が朔耶の心を占め始めたのだった。

「・・・・吉田さん、あきれてるぞ」
黙ってしまった朔耶を、佑介はそんな風に受け取ったようだ。
「いえ、そんなことないです。見ていて楽しいですよ」
あわてて朔耶は否定した。
「楽しい・・・・・。あまり嬉しくない形容詞ですが、ま、いつもこんな感じです、うちは」
「わかりました。・・・・わたしそろそろ帰りますね。いつまでも練習の邪魔をしてはいけないもの」
くすくす笑いながら、朔耶はいとまを告げる。
「いえいえ。・・・・じゃあ、門まで梁河に送らせますから」
「お、おい、佑介」
「その間、模範演武やっといてやる。ちゃんと送れよ」
「俺が見られないじゃないか」
「お前はいいの!・・・じゃ、吉田さん気をつけて」
佑介は強引に梁河を押し出した。
自分抜きで、きちんと朔耶と梁河が話す事が出来なければ本当に解決したとは思えなかったから。
・・・・他にも、自分のことに関してはかなり鈍感な佑介ではあったのだが、あることに気がついたからでもあったのだ。
(・・・・梁河、気が付くかな。あ、それに筒井・・・・)
衣里那は何故か、澤樹に朔耶がここ弓道場に連れられてきたら、すっと巻き藁で練習している一年の方に行ってしまっていた。
本来なら女子の試合なのだから、ここにいるべきであったのだが・・・・。
(なるようにしか、ならないよな)
当分は見守る立場でいようと思った佑介であった。

「送ってくださらなくても、大丈夫ですよ?」
わずかな距離とはいえ、隣を一緒に歩けるのは嬉しい朔耶であった。
「いや、佑介に言われたし」
が、梁河の返事で朔耶の気持ちは急激にしぼんだ。
言われなかったら、自分とこうやって並んで歩く気なんてないんだろうかと。
「・・・・ごめんなさい。練習戻ってくださいな」
朔耶の様子を見て、梁河はまずった、という表情になった。
「あの、すいません。佑介に言われたから渋々とかじゃなくてですね。その、なんていうか」
ここでいったん言葉を切り。
「慣れてないんですよ、こーゆーシチュエーションに」
少し赤くなりながら、梁河はあたまをかいた。
「え?」
「・・・・吉田さんみたいな綺麗な人と並んで歩くのには、慣れていないんです」
「そんな・・・・」
「家も男兄弟ばっかりで、がさつなもんで、正直どうしたらいいもんかと。誤解といえど、ひどいこと言っちゃいましたしね」
「それはわたしが悪かったから」
朔耶は、朴訥に自分のことを話す梁河に、ますます好感を持った。

そんなこんなで歩いているうちに、門のところにたどり着いた。
「じゃ、気を付けて帰ってください」
「突然だったのに、本当にありがとうございました」
朔耶はじっと梁河の顔を見る。見つめられた梁河はなんだか落ち着かないようだ。
「あの?吉田さん?」
「・・・・また、来ます」
「あ、はい。打ち合わせもありますしね」
まじまじと見られて、何か重大なことでも言われるのかと梁河は身構えていたが、なんだ、そんなこと
かと一瞬ほっとした。
次の言葉を聞くまでは。
「・・・・あなたに会いに」
「え?」
梁河は瞬間、何を言われたのかわからなかった。
朔耶は、言うやすぐにくるりと梁河に背を向け、歩いていってしまっていた。
(あなたに、会いにって・・・・・。え?俺?!)
また、朔耶に何かしてしまったのだろうかと、必死に考える梁河の姿がそこにあった。

2008.05.27
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