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今回の話は、友人毬さんの「佑遊草子」で連載中の「父の面影」に触発されて思いついたお話です。

ま、こんなことがあったのかも・・・という感じでお読みいただければと思います。

佑介が師匠である真穂の警察官時代の後輩たちから特訓を受けてから3週間ほどが過ぎていた。



初めの一週間くらいは、慣れない稽古に付いて行くだけで精一杯であった佑介だが、近頃ではかなりいい感じになってきていたので、毎日ではなく週に3日の稽古になっていた。
真穂も「このまま行けば、かなりいいところまで行けるかしらね」などと考えていた。
・・・・そう、いくら佑介に才能があるとはいっても、以前のままの彼ではとても優勝出来るとは真穂とて本気で考えてはいなかったのだ。
だが、猛者たち3人の荒くれな稽古にも根をあげず、ここまで喰らい付いてきた。
真穂は、区民大会が終った頃には、佑介はまたひとつ成長しているだろうと思っていた。
そんな矢先に、佑介の様子がおかしくなった。


『・・・・以前の、自分の力が嫌いだった頃の佑介くんに戻っちゃったみたいで・・・・』
『・・・え。ここ数週間佑介くんとは会ってないけど、特訓前の佑介くんは全然そんなんじゃなかった じゃない』
後輩たちの特訓のため、佑介は芙美の通うこども剣道教室に顔を出していなかったうえ、佑介の稽古の邪魔になってはいけないからと、芙美に佑介と会うことを禁じていたから、咲子も佑介に会っていなかった。
『そうなのよ。・・・・何があったのかしら・・・・。咲子、何かきいてない?』
普段はなにかと佑介をからかう咲子だが、幼い頃から妹の栞と一緒に面倒を見てきており、いわば姉のような存在として、母の小都子に相談できないことなどを時には相談されたりしていた。
真穂はそのことを知っていたので、こう聞いてきたのだった。
『なにも・・・・。どうしたのかしらね。』
『小都子さんに聞いてみてもいいけど・・・・』
真穂と佑介の母小都子は、子ども同士が幼馴染ということもあり仲が良かった。
『おばさん、心配しちゃうわ。・・・ちょっとわたし佑介くんと話してみるから』
『そう・・・・・。でも無理にあれこれ聞き出さなくていいからね』
『わかってますって』
そう言って電話を切った。
(いったい、どうしちゃったのかしら・・・・)
心当たりなどないに等しい。
「佑介くんがどうかしたのか?」
何とはなしに、会話が耳に入っていた咲子の夫・絋次が尋ねる。
「ん・・・・。ちょっと様子が変だって、お母さんが」
「そうか」
佑介の能力のことは、絋次には話していない。いつかは話さなければいけないとは思っているのだが。
「明日にでも芙美連れてあっち行ってくるわ」
「・・・・何事もなければいいな」
「・・・・そうね」


「佑介くん、調子はどう?」
「・・・・あ、咲子さん」
稽古の合間の休憩時に上手く佑介と会うことが出来た。
「すっかりたくましくなったじゃない。ふふ。しーちゃんも惚れなおすわね」
「・・・・そんなことないですよ」
(やっぱり・・・・・)
母が危惧していた通り、どこがどうとはいえないのだがいつもの佑介とはあきらかに様子が違っていた。
栞のことで咲子が佑介をからかうのはいつものことなのだが、返ってくる反応が全く違うのだ。
「・・・・ゆうちゃん?」
「芙美ちゃん」
区民大会が終るまで佑介と会ってはいけないと言われていたので、母である咲子が「今日はいいのよ」と言ってくれてはいても、いつものように駆け寄って抱きつくことは遠慮していたのだ。
そんな芙美のとまどいがわかったのか、佑介はひょいと芙美を抱き上げ、にっこり笑った。
・・・・だがその時芙美に見せた笑顔には、やはりどこか陰りがあった。
「うれしい、ゆうちゃんだ」
まぼろしじゃない、本物の佑介だと確認するかのように、芙美は佑介にぎゅっと抱きついた。
「そんなに抱きつくと、汗臭くなっちゃうよ」
「いいもん。ゆうちゃんのなら」
「・・・・3歳児のくせして、そんな台詞言わないでくれる?芙美ってば」
「咲子さん(^^;)」
ことさらおどけて咲子は言う。
「稽古の邪魔してごめんなさいね。・・・・芙美がやっぱり寂しがっちゃってて」
佑介が心配だから来たとは言えなかった。芙美をダシに使うしかないのだ。
「・・・・俺は別にかまわないですよ」
「あら。しーちゃんだったら、かまうんじゃないの?」
「・・・・栞とは学校で会ってるし」
どんなに咲子がいつもの調子でからかってはみても、佑介の反応は芳しくなかった。
(佑介くん・・・・。いったいなにがあったの?)
「あ、休憩する時間減っちゃうわね。・・・・佑介くんに抱っこしてもらって芙美の気も済んだでしょうから、母屋へ引き上げるわ」
これ以上佑介と話をしていても無駄だと咲子は悟った。
佑介はけして口を割らないであろう。・・・・今の自分についてを。
「がんばってね、大変でしょうけど」
咲子は芙美を佑介から譲り受けた。
「ありがとうございます。・・・大丈夫ですよ」
全然大丈夫じゃないくせに!そんな表情をして。
そう言いたいのを、咲子はぐっとこらえた。

・・・・咲子と佑介が話している間、芙美は黙って佑介の背後をじっと見上げていたのだった。


結構な時刻になってから人形町の自宅へと帰り、あわただしく芙美の夕食やお風呂を済ませ、そろそろ寝る準備・・・・という時に絋次が仕事から帰ってきた。

「・・・佑介くん、どうだったんだ?」
「ん、やっぱりちょっと・・・・・」
咲子が言いよどんでいると、芙美が。
「おかあさん、ゆうちゃんげんきなかったね。どうしてかなあ」
そう言って来た。
芙美にも佑介の様子がおかしいことが感じ取れたようだ。咲子は内心驚いていた。
「どうしてだろうね。剣道のお稽古が大変なのかもよ?」
「そうかなあ。・・・・だってうしろのおじちゃんがさみしそうにわらってたよ」
「・・・・え?」
咲子の表情を見て、芙美はしまった、という顔をした。
佑介の後ろにいる“おじちゃん”とは、佑介を守っている神霊・安倍晴明にほかならず、奇しくも見えざるものが見えてしまう(それもかなり霊性の高いもの)芙美は、ある日の剣道教室の時佑介に、常に傍らにいる晴明のことを誰なのかと尋ねたのだ。
佑介と同じように子どもが好きで、そして芙美についているモノに気がついたのだろう。
晴明はあらためて芙美の前に姿を現し、その上でこのことは佑介と芙美、ふたりだけの秘密で内緒だよ、と約束をしていたのだった。
「芙美、うしろのおじちゃんってなに?」
まさか佑介のご先祖である晴明が傍らにいるなどとは知らない咲子は、もしかしてその人物は、佑介が幼い頃に亡くなった佑介の父・祐孝のことではないかと一瞬考えた。
「あの、んと、ヒミツなの」
「誰と?」
「・・・・ゆうちゃんと」
----------違う。
佑介とした約束なら、佑介がその背後の者が誰かわかっているということだ。だったら、祐孝ではないだろう。
佑介は祐孝がどうして亡くなったのか知らないのだから。
いや、咲子だってくわしくは知らない。
あの時、何かが起きて祐孝はそれ故に命を落とした。
それだけだった。
「佑介くんとの秘密なの?」
咲子はしゃがみこみながら、芙美に視線を合わせ、尋ねた。芙美はうんとうなづく。
芙美を追求したところで、“うしろのおじちゃん”が誰かなんてわかりはしないだろう。
「・・・そう。じゃあ、おかあさんも秘密にしておくからね。・・・もう寝なさい」
秘密にしておく、と言われて芙美は安心したようだ。
絋次におやすみなさいと挨拶をし、咲子に連れられて居間から出ていった。


芙美を寝かしつけ居間へ戻ると、仕事から帰ってきたときの姿のまま絋次がソファに座っていた。
「・・・・咲子」
「なに?」
「佑介くんは・・・・・。そうだな、上手く言えないんだが、なにかあるよな?」
咲子はどきっとした。
先ほどの芙美との会話を聞いていれば、そう考えるのは妥当かもしれなかった。
芙美の神社での一件を話す際も、佑介の能力にふれずに話すのに苦労したのだ。
・・・絋次と結婚して5年。
絋次と佑介が直接に関わることなどほとんどないであろうし、強いて話しておく必要もないから今まで佑介の能力のことは話さないでいた。
「なにかあるって、どんな?」
慎重に咲子は聞く。
「俺が佑介くんに対してあれこれ言える立場ではないことはよくわかっているが、佑介くんには常になにかに迷っているような、とまどっているようなそんな印象を受けるんだ」

絋次と佑介はたまに草壁家での夕食で一緒になったりするが、絋次にとっては義妹の栞の幼馴染でしかなく、佑介にとっても栞の姉咲子の夫という間柄でしかない。
ただ、咲子と栞の姉妹仲がよくその上娘の芙美が佑介に懐いていて、それ故に咲子や芙美が佑介のことをあれこれ話すのもあって(おまけに草壁の義父母も)、あまり直接に話をしていないわりには
佑介のことを知っているに過ぎなかった。

そんな絋次が、“佑介はなにか違う”と感じ取っていた。
咲子は、そろそろ夫に佑介の能力のことを話すべきではと思った。
-------いずれは義理の弟になるかもしれないんだし。
そんなことを思いながら。

「こーさん、あのね」
「・・・・言いたくなければ何も言わなくていい。無理に聞きたいとも知りたいとも思わん。ただ俺が感じたことを話しただけだから」
咲子の長い沈黙が、簡単に話せる内容ではないのだと絋次に悟らせた。
咲子には、絋次のその優しさが嬉しかった。
大丈夫。わたしが選んだひとだもの。
佑介を傷つけるようなことはしないだろう。
「ううん、聞いてくれる?・・・・いつか必ず話さなきゃいけないって思ってたことだから。将来のためにも」
「---将来?」
「だって、義理の弟になるんですもの」
「確定か?(^^;)」
「確定よ。・・・佑介くんがしーちゃん以外の女の子に目をむけるとはとても思えないわ」
「・・・・まあ、それはわかる、な」
「でしょ?」
そんな風に始まり、咲子は絋次に佑介の能力について話したのだった。
もちろん、それに伴う佑介の今までの痛みも、咲子は出来る限り語った。
・・・・・絋次はただ静かに耳を傾けていたのだった。


言いたいことは全て話し終えて、一息ついてから絋次をそっと見た。
絋次は一度目をつむり、そして。
「俺には、特殊な能力があろうが佑介くんは佑介くんで、何も今までと変わりはないさ。・・・・栞ちゃんの幼馴染で、小さな芙美の面倒を見てくれる優しい子。違うか?」
こう、咲子に告げた。
「違わないけど・・・驚かないの?」
この人なら大丈夫。
そうは思っていたけれど、こんな嬉しい答えが返ってくるとは思わなかった。
「もちろん、驚いてるさ。でも、その力だって佑介くんが望んで持っているわけじゃないだろう?佑介くん自身が惑い、折り合いをつけながら自分の一部にしようとしているんだ。だったら周りは有りのままの佑介くんを受け入れるだけだと思うぞ」
そこで言葉を一旦きり。
「こんなこと今さら俺が言わなくたって、草壁のお義父さんお義母さんにしろ、栞ちゃんだってお前だってそうしているじゃないか。・・・・だから、俺も同じだ。何も、変わらない」
咲子にそっと笑いかけた。
「こーさん・・・・!」
それ以上咲子は言葉を継げず、思いを込めて、ただ絋次に抱きついたのだった。

自分が選んだ人は間違っていなかった。そのことは素直に嬉しかった。
でも。
佑介の様子がどうしておかしいのかは、結局いまだよくわからない。
佑介にとって、姉のような存在であると多少の自負があった咲子は、手助け出来ない自分がはがゆかった。
一日もはやく、いつもの佑介に戻ってほしいと祈るしかなかったのだった。


2008.06.02
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