はい、最終話です。
昨日には出来ていたんですけど、ちょっとラストの方で佑介くんがボーソーしてるので、毬さんに「これ、大丈夫?」と確認を取っておりました。
「のー・ぷろぶれむ」のお返事をいただいたので、こんな早朝(5時)のアップでございます。

くわしいあとがきは、また別記事にて。
とりあえず、7月中に完結できてほっとしました。
だって、話の中の時間は7月初めですから。

このあとは、「IF」、「学園祭~」、咲子ねーさんの過去話を書く予定です。




「それじゃ、俺はこれで。ごちそうさまでした」
そろそろ母や祖母も帰ってきているだろうからと佑介が言うので、ゆっくりと杯を重ねている直哉と絋次を残し(綱寛はもう自室へ戻っていた)、栞や真穂、咲子に芙美は佑介を見送りに玄関へ来ていた。

「いえいえ。おかまいしませんで。小都子さんと梅乃おばあちゃんによろしくね」にこやかに別れの挨拶を告げていた真穂が、ふと表情を引き締め。
「佑介くん」
「なんでしょう?」
真穂の口調の変化に少し戸惑う、佑介。
「----祐孝さん、お父さんのことは・・・・」
と真穂が口ごもると、佑介は顔を真っ直ぐに上げ、真穂の目をしっかりと見ながらこう答えた。
「もう、大丈夫です、俺。・・・・・ちゃんと聞きました。だから平気です」
「・・・わかったわ」
真穂はにこりと笑った。横に立って話を聞いていた咲子も安心したかのように笑う。
一緒にその場にいた栞には、真穂と佑介の会話の内容はいまいち理解できていなかったが、ふたりとも晴れやかに笑っているし、いつか必ず佑介自身の口から話してくれるだろうと思い、静かに佇んでいたのだった。

「ゆうちゃん」
「ん?」
「こんどゆうちゃんちいっていい?」
咲子に抱かれていた芙美が突然にこんなことを言い出した。
「・・・・来てもいいけど、楽しくもなんともないと思うよ」
佑介は苦笑する。
「ゆうちゃんのおとうさんにごあいさつするの」
話を聞いていて、幼くとも芙美なりにいろいろと考えたのだろう。
・・・星野家には亡くなった絋次の両親の、ここ草壁家には曾祖母の由利の仏壇があり、咲子ややち代と一緒に手を合わせている。
だから同じように、佑介の父親の祐孝にもそうしたいと思ったのだ。
そのような芙美の気持ちは、充分に佑介に伝わった。
「ありがとう、芙美ちゃん。じゃ、今度栞とお母さんと一緒においで」
「いいの?」
肯定の返事の代わりに、佑介は芙美の頭をくしゃっとした。芙美は満面の笑みを返した。
「いつもいつも芙美の我儘につきあわせてごめんね、佑介くん。でも私もお邪魔していいのかしら?」
にっこりと笑う咲子。
「かまいませんよ。かあさんもばあちゃんも喜びます」


居間に残って晩酌中の直哉と絋次。
ふと話題が途切れたところで、先ほど疑問に思ったことを直哉に聞いてみようと絋次は思った。
「お義父さん」
だが声をかけたものの、どう言いだしたものかと少し逡巡するが。
「・・・・その、佑介くんの父親はいつ頃亡くなっているんですか?」
ストレートに聞いてみた。
先ほど佑介の父親祐孝の話題が出たときは、絋次はあえて口を挟まなかった。
以前より佑介に対して親しみがわいているとはいえ、義父母や咲子のように接してきていたわけではない。
佑介の方がどう思っているかわからないし、あくまで『他人』なのだ。
「今の芙美くらいの頃だったね」
「そんなにはやく」
「君がご両親を亡くされた時と同じくらいかな」
「はい・・・・」
絋次の両親は、彼が二歳の時に事故死している。
-----絋次をやち代らに預けてさるところへ向かう途中、高速道路で無理に追い越しをかけた車がスリップし、それに巻き込まれたのだ。
ふたりは即死だった。
以来父方の祖父母に育てられた。

「そういえば、佑介くんのことで咲子から何かきいているかい?」
空になった絋次のグラスにお酒を注ぎながら、直哉は尋ねた。
「何か、というと・・・・?」
多分、佑介の能力のことだろうとは思ったが、絋次は慎重に問い返した。
そんな絋次の様子を見て、直哉は咲子が話していることを確信した。
「佑介くんの能力のことを。------聞いてどう思ったかな、絋次くんは」
直哉は真っ直ぐに絋次を見る。嘘はつかせない、というような表情だ。絋次は一呼吸おく。
「・・・・正直に言えば、驚きましたよ。でも」
「でも?」
「その能力も佑介くんの一部であることには変わりないし、お義父さんもお義母さんも当たり前に有りのままの佑介くんを受け入れてるじゃないですか。もちろん咲子も」
と、ここで言葉をいったん切り。
「・・・・だから俺も同じです。何も変わりません。・・・・佑介くんは佑介くんです」
きっぱりと言い切った。

(・・・・娘が選んだ男に間違いはなかったな)

直哉は嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう」
「いえ。お礼を言われるようなことじゃないですよ」

「・・・・佑介くんの父親が亡くなったのにはね、佑介くんの能力とかかわっているんだよ」
「・・・・・・」
「私と真穂は、どういう巡り合わせかわからないけれど、彼の最後に立ち会った」
------だから、佑介の成長を見守っていかなくてはいけない。自分の子供同様に。佑介を害するものは許さない。
直哉の目は、そう告げていた。
妻の咲子もそうであるが、草壁家の人たちはみな愛情深い。
我がごとのように受け止め、受け入れる。時に厳しく、時にやさしく。
そして必要以上に手を出すことなく、大きく包み込むように見守っているのだ。
絋次自身も、これまでに随分と助けられてきた。
直哉も真穂も、絋次にとっては実の両親同様であった。

「ところで絋次くん」
「はい?」
直哉の口調ががらりと変わった。なんだろうといぶかしむ絋次。
「咲子のことを大事にしてくれるのは親として嬉しいけどね。・・・・・焼きもちは程ほどに」
絋次にむかって直哉はにっこりと笑う。
「お、お義父さん;;」
絋次は真っ赤になって、うろたえるのみだ。
咲子の初恋が佑介の父親の祐孝だという話題になった時、その息子である佑介は父親によく似ていると言われたせいもあり、かなり複雑な表情を浮かべていたが、また絋次も顔には出していなかったものの、内心様々な感情が渦巻いていたのだった。
・・・・・・かなわない。
一生自分は、義父母にかなわないだろうと悟った絋次だった。


「佑くん、今日はおつかれさま。お父さんとの手合わせ、大変だったね」
玄関からでて、佑介と栞のふたりは門のところまで来ていた。
先ほど栞を残し、真穂と咲子は先に中へ入った。
芙美を寝かしつけるため、とは言っていたが、佑介と栞をふたりきりにさせたかったのだ。
咲子は去り際に佑介に向かって、「がんばってね」と一言言い置いていた。
・・・・なにをがんばれというのだ。はやく思いを告げろ、ということか。
そんな始終、煽らないでほしい。
限界にきていることは、自身が一番よくわかっているのだから。

「・・・・正直、しばらく対戦したくないよ。真穂先生もすごいけど、おじさんも本当にすごい」
本音だった。
中段の直哉ならまだ攻めようがあるが、今の佑介には、上段に構える直哉を切り崩すことは出来ないだろう。
「お父さん、仕事の方が忙しくなるから、しばらくお稽古には出てこないと思うよ」
「あ。それきいて、ほっとした」
直哉は関西に本社のある百貨店に勤務していた。販売の方ではなく後方の経理部に在籍しているが、お中元シーズンに突入しているので8月初めまではいろいろと忙しいのだ。

「それにしても、びっくりしたな。咲ちゃんの初恋が佑くんのお父さんだったなんて」
「あはは;;・・・・俺もびっくりしたよ」
びっくりというよりは、なんとも言えない複雑な気持ちなのだが。
つい最近まで知ることが出来なかった父。思い出らしい思い出もない父親だ。
その父親のことをよく知る咲子。
どこかうらやましく思う気持ちがあるのかもしれなかった。
「咲ちゃんが言うくらいだから、ほんとに笑顔が素敵なひとだったんだろうね」
「ああ・・・・・」
うっすらとだが、自分に笑いかけている優しい笑顔が以前から時々頭をよぎっていた。
・・・・あれが父さんなんだろう。きっと。今ならわかる。
晴明により、冥界から来てくれた祐孝に会い、話すことが出来たから。
「・・・・で、ふーちゃんの初恋が佑くん?」
佑介の顔をのぞきこむように、栞は問いかける。
「え、俺が?違うよ。芙美ちゃんはお兄さんがいないから、それで懐いてくれているだけだろ」
佑介は否定するが。
「そうかな・・・・。ちっちゃくたって女の子だもん。そんなことないと思うよ」
自身の思いも含め、栞はつぶやく。
そんな栞を見て。
「じゃあ、お前は・・・・」
・・・・・栞の初恋は誰なんだ、と思わず問うてしまいたくなる。
今、好きなヤツはいるのかとも。
「あたしが、なに?佑くん」
「いや、ごめん。なんでもない」
そんなこと聞いても、もしも自分だと言われても、今この胸のうちからあふれでる想いがなくなるわけではない。
「ヘンな佑くん」
くすくすと栞は笑う。
「栞」
「え?」

だめだ、まだ。
思いはなにも告げていない。
そうは思うが。
・・・・からだが勝手に動いていた。

「-------いろいろと心配かけた。何も聞かずにいてくれて、ありがとう。感謝してる」
「感謝なんて・・・・。あたし、なにもしてないよ」
「いいんだ、それで」

栞の腕を掴み、引き寄せていたのだ。
それでも抱きしめてしまうことはなんとかこらえて、栞の頭を抱え込み、自分の肩口に置いたのだった。

(佑くん・・・・?)

引き寄せられた栞の顔は朱に染まっていた。心臓は飛び出してしまいそうなくらいどきどきとうるさい。
まだ、ほのかに残っているライムの香り。
佑介自身の不快ではないにおいとともに栞の鼻腔をくすぐる。

弓道はマンツーマンで教えることが多いので、相手にいやな気分にさせないのにはどうしたいいのかと聞かれ、「なら制汗スプレーとかコロンでもつけたら?」
と提案したのは栞だった。
「コロンなんて、あわないよ;;」と言っていた佑介に、あとでプレゼントしたのも栞。
どんな香りが佑介に似合うかと姉の咲子に相談し
「コロンとか身にまとう香りのものをあげるなんて、意味深ね」
とからかわれたが、これと決めたのが「ライム」。
柑橘系の中でも、甘いわけではなくさっぱりとしたさわやかな香り。ちょっと苦味もある。
佑介にぴったりだと思ったのだ。


今佑介はどんな表情をしているのだろう?
そう思っても栞はとても顔をあげられなかった。
あげたらきっと、佑介にわかってしまう。佑介を好きだというこの気持ちが。
佑介に伝わってしまった時の彼の反応がこわい。
だからせめて、今はこのまま。
ぎゅっと、栞は佑介のシャツを握りしめた。

栞が自分のシャツを握りしめたのを佑介は感じた。
・・・・頭で思うより、からだが動いてしまっていたのだ。
先週行ったプラネタリウムで眠る栞の額にそっとキスをした。
もしもいま栞が顔をあげたら、きっとその唇を奪ってしまう。
この腕のなかに抱き寄せて。

(だめだ。まだ何も言ってないのに)

佑介は頭を一振りして、そっと栞を離した。


「また、月曜にな」
「うん」
門灯は点いていたけれど、互いの表情ははっきりとは見えない明るさだった。
佑介も栞も安堵していた。

もう、お互いに秘めておくことが出来なくなっている気持ち。
一歩踏み出す勇気さえ持てば、きっと変わるはずだ。


ふたりの思いもなにもかもを、月がそっと照らしていたのだった。

2008.07.31 / Top↑
Secret

TrackBackURL
→http://mizuhohagiri.blog35.fc2.com/tb.php/70-fbea26d6