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前作より間が開いてしまいましたが、「学園祭は踊る」シリーズ4作目です。

今回の主役はつーさんこと「晴田次子」女史です。
寡黙で必要以上にしゃべらず、内面もあまり見せてくれない彼女のことをまさか主役に据えて話を書くことになろうとは思いもよりませんでしたが、すとんとストーリーが落っこちてきたものですから(笑)

前の3作よりもちょっと長くなりそうなので前後編にわけました。
ではではつづきをよむからどうぞ。



夏休みに入った。
だが、校内からは活気のある声がそこかしこから聞こえてきていた。
午前の早々から、様々な部が活動をしているようだ。
特別教室では、外部進学者のための補講や中間試験での成績不良者のための補習が行われていた。

例年通りなら、数学の補習で夏休み最初の一週間は部活に出られない日夏里であったが、今年は試験前の次子の指導の賜物か60点を越えることが出来たので、補習から逃れられたのだった。
とにかく数学が苦手で「天敵」とまで言っている日夏里は、中学2年の時27点(!)をとり、この時はじめて補習なるものを受けた。(中学1年の時はなんとか50点はとれた)
補習担当の教師に、「こんな問題も出来ないのか?」と言われ、「出来るくらいなら補習になんて来てません!」と言い返したことがある。(開き直りともとれる)
今年度の日夏里の在籍クラス・2-Eの数学担当教師はこの時の教師で、よほど日夏里のことが印象に残っていたらしく、お前だけは補習したくないと言っていたくらいだった。
・・・・が、今年はなんと平均よりも上。くだんの教師は大喜びだった。

と、いうことで。今年は夏休みの初日からばっちり部活に参加している日夏里。
今日もその部活に行くためには、まずは着替えを・・・・・と教室にやってきた。

翠嵐は女子校なので特に更衣室は設けてなかった。体育の時も部活の時もみな教室で着替える。
だが、つい生徒達は女子校という気軽さに窓際のカーテンも閉めずに着替え始めてしまうのだ。翠嵐は渋谷の地の真っ只中にあり、周囲にはオフィスビルも多いというのに。多少遠目とはいえ見えないわけではない。
生活指導担当の教師が口を酸っぱくして注意しているが、「だって、夏はカーテン閉めたら暑いじゃないですか」などと言って、みな守っていなかった。
おおらかといえば聞こえはいいが、少々恥らいなるものが足りないようであった。


「あ、つーさん。おはよ」
日夏里が教室のドアを開けると、中には次子がいた。
「今日は写真部、部活があるの?」
すたすたと自分の座席にむかいつつ、尋ねる。
「ああ、おはよう。・・・いや、部活はない」
「じゃ、何しに?」
「フィルムの現像に」
カメラの入ったバックを肩に掛け、撮影が済んだフィルムを何個か手に持ち立ち上がりながら答える次子。
次子はデジタルカメラが苦手だったので、愛用のカメラは昔ながらのフィルム式の一眼レフだ。
デジカメはお手軽便利で撮った画像がすぐ見られるという利点はあるが、どうにも『写真』という気がしないのである。
あたたかみがないというか、息遣いが感じられないと思えた。
「写真屋さんにださないの?」
「・・・・自分で現像しないとサイズの調整が出来ないし、今回のはモノクロだから」
「ふうん。よくわかんないけど、がんばってね。暗室って暑いんだよね」
「まあね」

ばたばたと誰かが廊下を走ってくる音がした。がらりとドアが開き。
「あ!日夏里いた!!」
「おはよ、美緒。どーしたの?そんな息せき切って」
ばたばたと走ってきたのは、クラスメイトで(ちなみに中学2年から一緒である)剣道部所属の山上美緒(やまがみ みお)だった。
170cmを越えるすらりとした長身で、ボーイッシュな雰囲気を漂わせている。
どうやら、練習場である体育館からかけてきたようだ。防具をつけていない道着姿である。
「あのさ、この“ツチミカド”って、例の朱雀のイケメンキュードー王子じゃないの?」
「はあ?」
いきなり美緒に言われて何のことかわからない日夏里。
そうはいっても、朱雀・弓道・土御門とくればひとりしか思い当たらない。
「ちょっと、コレ見て!」
と美緒は日夏里の机の上に一冊の雑誌を置いた。
「あ!朱雀の土御門さん!」
「やっぱりー!・・・・一応あたしもさ、あの例のティーンズ誌は見てたしめづらしい苗字だからなんとなく覚えててさ」
「でもこれ・・・・」
「そう、剣道雑誌。昨日出たばかりのやつなんだけど、さっき滝ちゃんが見せてくれて」
山上美緒が持ってきた雑誌の開かれた頁には、数ヶ月前にこの翠嵐にちょっとした騒動を引き起こした『朱雀高校弓道部』の『土御門佑介』が載っていたのだ。

日夏里より先に学校に来て教室で着替えも済ませ、部活へと向かった美緒。
体育館へ着くとなにやらざわついていて、一箇所に群がっている部員達。
準備もしないで何を騒いでいるのやら・・・・と皆がいるところへ足を進めれば、同級生の滝沢成子(たきざわ なりこ)が美緒にむかって手にしていた雑誌をさしだしたのだ。
それは成子が毎月買って、みなで回し読みしている剣道雑誌だった。
美緒はその雑誌を成子から受け取り、ここを見てと成子が指差した先を見た。
そして、成子に「これ、ちょっと借りてくよ」と言い置いて、弓道場は体育館に行く途中にあるので通りすがりに覗き、まだ日夏里がきていなかったので2-Eまで戻ってきたのだった。

「なんで剣道雑誌に載ってるの?土御門さんが」
根本的な疑問を日夏里はぶつける。
日夏里にしてみれば、佑介が幼い頃より剣道を習っていて、弓道歴より剣道歴の方がはるかに長いなどということは知らないのだから仕方ない。 もちろん、美緒も知らないことである。
「いや、6月にさ、港区で剣道の区民大会があってね。彼、それに出場して優勝したんだよ。しかも初出場で!」
「ええ?!」
驚く日夏里に美緒はその雑誌を指差し。
「そのことが、これに載ってんの!あちこちの地方の大会のことをレポしたコラムなんだけどさ。記事を書いた人、もうべた褒め!」
「そうなんだ。弓道だって都大会で個人二位の成績なのに。すごいんだね」
素直に日夏里は感心する。
「ほんと、びっくりしたよ。ウチの部にもこの大会に個人で出た子がふたりくらいいるんだけど、全然知らなかったって」
翠嵐は私立なので、都内の(もちろん都内に限らない)あちこちから生徒が通っている。居住区が港区であれば、出場してもおかしくなかった。
「剣道の試合って、一度にたくさんやってるから仕方ないよ」
「それもあるけど、そのこたち一回戦で負けちゃったからさっさと帰ったというのもあるんだ。・・・でもねえ、そのキュードー王子、三段なんだよ!三段!」
・・・・・キュードー王子。確かに“ツチミカド”とはいいづらいし舌もかみやすい。
「------って、美緒だって三段じゃん。合格した時ケンダーのみんな大騒ぎだったくせに」
『ケンダー』とは剣道部の子達に対する愛称のようなもの。
翠嵐剣道部で三段を持っているのは2年では美緒と滝沢成子のふたりしかいない。ちなみに滝沢成子も高校1年の時同じクラスだった友人だ。
「そうだけどさあ。・・・・あたしはこれ(剣道)しかやってないし、部活と道場の往復で。でもキュードー王子は学校では弓道部でしょ?」
「うん。だから朔耶先輩が対抗試合を申し込んだわけで」
「信じらんないなあ。これだけの腕を持ちながら、部活に所属してないなんて!・・・・高校剣道は学校単位が主流だよ?インハイや国体に出られないんだよ?そりゃ玉竜旗なんかはオープン参加だから道場単位でも出場できるけどさ。でも結局勝ち残るのは学校だし」
「ふうん、そうなんだ」
「道場に通っていることはわかるんだけどさ」
それは雑誌に記載されていた所属が道場名の「尚壽館(しょうじゅかん)」と書かれてあったゆえ。
「あ~、なんかもやもやする。あたしがオトコだったらたのもーって、手合わせの申し込みに行くのにな」
美緒なら、男の子で通用してしまうのではないかとこっそり思ってしまう日夏里。
女の子にしては、きりりとした眉を持つ凛々しい顔立ちをした美緒だ。髪もすっきりとショートにしている。スレンダーな体つきであまり凹凸がはっきりしていないのだ。
「ひ~か~り~。今、あたしなら大丈夫とか思っただろ~?」
「え?そ、そんなことないよ」
「ど~だか」
外見がボーイッシュでさばさばした性格のせいか、女子校にありがちなことが美緒にはよく起きている。美緒本人にはあまり有り難くなかった。
「・・・・山上さん、練習は?」
「あーっ!そうだ。怒られちゃうよ。中学の方の練習みてやるんだった。じゃねっ」
来た時と同じように、またばたばたと美緒は戻っていった。
「つーさん、ありがと」
「別に何もしちゃいないから」
次子はあくまでも横で美緒と日夏里の会話を聞いていただけだ。
でも、日夏里にとってはいつもいつもここぞという時に助け船を出してくれているように感じていた。

(山上さんも、わざとああふるまっているから。本来の彼女はもっと繊細だろうに)

翠嵐には新聞部はないゆえか代わりの校内紙に載せる写真は写真部が撮ることになっており、次子はよく様々な部活を訪れていた。
カメラのファインダー越しに覗くと、いつもとは違った一面を発見することが多々あった。
美緒に対してもそうであったのだろう。
「・・・・それより日夏里こそ部活は?」
と次子が聞くと、日夏里はあわてて着替え始めていた。
「よくないよ~。せっかく補習がなくて朝から練習に出られるのに。美緒のバカ~」
「文句を言っても始まらないよ」
「わかってるもん。・・・・・つーさん」
山上美緒が来たので一度荷物を降ろしていた次子は、再びカメラケースを肩にかけて目でなんだと日夏里に問うた。
「あのね、間違っているかもしれないんだけど。出かける約束が一週ずれたのって、もしかしてさっきのツチミカドさんが出てた区民大会に行ってたから?」
時々日夏里は妙に鋭い。
真っ直ぐに次子を見つめながら、問いかける。

(どうして、こう大きな瞳で射抜くように見つめるかな)

日夏里の真っ直ぐさがわかっていながらも、まだ慣れない。
翔子の友人として自分に話しかけてきたときに、その印象的な瞳から目が離せなかった。
自分はいつも少し視線をはずして相手と話してしまう。自分というものを知られたくないゆえに、踏み込んでほしくないゆえに、伊達眼鏡までかけているのだ。
だが、日夏里はそんなものを簡単に飛び越してきた。
「・・・・・正解。悪かった、黙ってて」
「ん~、別につーさん悪くないよ。つーさんが撮りたいなあって思う被写体がその区民大会にあったんでしょ?だからいいよ」
「・・・・・」
でも、出かけようっていいだしたのは次子からだった。
こちらから言い出して、延期させたのだ。楽しみにしていただろうに。
「いい写真、いっぱい撮れた?現像できたら見せてね。つーさんの撮る写真大好きなんだ」
着替え終わった日夏里は次子の前に立ち、そう言ってにっこり笑った。
「・・・・ありがとう」
「楽しみにしてるね。・・・・って、わあ、ちーこーくーだ」
教室の時計を見てあせる日夏里。
「・・・・・現像、時間がかかると思うけど、昼にはやめるから」
「じゃ、一緒に帰れるの?」
「多分」
「なら、教室で待ってて!お昼も一緒に食べようね」
学校帰りの立ち寄りは保護者と学校の許可を取ってからだが、飲食店への立ち寄りは一切禁止されている。
・・・・・・忠実に守っている生徒は一割にも満たないのが現状だ。
「ああ」
次子の返事を受けて日夏里は満面の笑みを浮かべ、そして弓道場へ走っていった。
2008.08.04 Mon l 学園祭は踊る(連作) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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