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つーさんメインの「ファインダー」、思ったよりも長くなってきてしまいました(^^;)
ちょっとエピソード、詰め込みすぎなのかな。
とりあえず、「中編」です。

つづきをよむからどうぞ。



(さて、私も暗室へ行くか)

日夏里が行ったのを確認して次子も教室を後にする。現像に必要な道具や薬品液は家にも置いてあるのだが、どうにも落ち着いて作業が出来ない。
次子は真剣に写真に取り組んでいて、将来もこの方向に進みたいと考えていた。
だが両親は、あくまでも学校の部活で趣味の範囲としか思ってくれていないようだった。次子の両親はともに医者で、次子にも医者の道に進んでくれることを望んでいた。
・・・・望めるだけの成績を、全国模試でも50番以内には必ず入る成績を次子が取っていたことも大きかった。

カメラはファインダー越しに、時に思いも寄らないものを見せてくれる時がある。
自分は口下手で、相手に感情を伝えることも苦手な方だ。
でも、カメラを通してなら気持ちを伝えられた。
撮影した写真に自分の感情を載せることが出来るのだった。

区民大会を撮りに行ったのも偶然だった。
次子が毎月購入している写真雑誌の月毎コンテストに応募する写真の題材を何にしようかと、つれづれに撮影をしに行く場所をネットで探していて見つけたのだ。



会場に着いて階下の試合場を撮影するのにちょうどいい場所を見つけ、自身の愛用のカメラを取り出し望遠レンズを取り付けて、ファインダーから覗きながら焦点を合わせていると偶然に『朱雀高校の土御門佑介』を見つけた。
イケメンにもアイドルにも興味がなく関心を示さない次子だが、友人の日夏里が所属する弓道部がこの朱雀高校と対抗試合をするということになり、一時学園中が騒然とした。それゆえ無関心な次子でも佑介のことを知らなくはなかったのだ。

彼は弓道部じゃ。
そう疑問に思ったが、何とはなしに佑介を追いかけていると、先ほど形の演武をした女性が佑介に近づき何やら背中に布を結んでいた。
そして二言三言話しかけ、肩をぽんとたたいて離れていったのだ。

(ああ、そうか。道場で稽古しているんだな、彼は。・・・・となると今のは先生ってとこか)

シャッターを切りつつ、次子は合点がいった。
なので佑介がどこまで進むのかわからないが、追いかけて撮ってみたくなり、佑介の試合を中心に撮影をすることにしたのだった。

フィルムはたくさん用意してきたが、交換する手間が惜しかった。
佑介の試合がない時は、他の試合場(剣道は同じフロアで一斉に試合を開始するので、あちこちで試合が行われている)や試合場の周囲で素振りをしたり軽く走ってからだをほぐしたりしている人などにもカメラを向けた。

そんな風に撮影しているうちに、佑介は決勝に進んだ。
高校生男子・個人の部決勝を行う試合場にカメラを向ける。佑介は頭に手ぬぐいを巻き面をつけようとしていた。
ファインダーからのぞく佑介の表情は実に落ち着いて見えた。

(どう考えても、あのての雑誌に載って騒がれたいタイプとは思えないな)

今自分がファインダー越しに見ている佑介とティーンズ雑誌に載って女の子がきゃあきゃあと騒いでいる佑介はとても結びつかなかった。
本来の佑介はこちらなのだろうと次子は思う。

試合が始まった。次子のカメラを持つ手にも緊張が走る。
面に隠れて表情は見えないが、それでも真剣勝負にかける彼らの思いを写し取りたいと思う。
剣道の試合は一瞬で決まる。
だからその一瞬を逃さぬよう-----それはとてもむつかしいことではあったが------次子はシャッターを切り続けた。

決まる・・・・!
相手の動きが一瞬止まったのがわかった。
佑介はその好機をのがすことなく、吸い込まれるように一本を決めた。会心の一本だった。
審判の旗があがり、佑介に勝利が告げられていた。
・・・・次子は見入ってしまっていて、佑介が決めたその一本を写すことが出来なかった。

何事にも真剣に向かい合っている人の姿は美しい。
いつもいつもその姿を自分のカメラに収められたらと思う。
でも次子は、そういう時にこそシャッターが切れないのだ。
コンテストにいくら入賞していたって、自分の腕はまだまだ未熟だった。

各部門の表彰式も終わり、応援していた人たちが階下の試合場へと降り始めていた。
次子は直接佑介のことを知っているわけではないし、フィルムも残り少なくなってもいたので、片付けてそろそろ帰ろうかと思っていた。

ふと見ると、佑介の周りにはずいぶん多くの人が集まっていた。
家族や友人であろうと考えながら眺めていると、幼稚園くらいの小さな女の子が飛ぶように佑介のもとへ駆けていくのが見えた。

(・・・・妹かな。彼もずいぶん優しい表情をしている)

佑介はその女の子をひょいと抱き上げた。女の子は満面の笑みを浮かべている。
その様子がかわらしくて、とても微笑ましくて無意識にカメラを掴み、シャッターを切り始めた。
と、佑介を祝福するように、女の子は佑介の頬にキスをした。
シャッターは切り続けていたが、今の場面を上手く撮ることが出来ただろうか。
そんなことを考えながらさらにファインダーから覗いていると、自分と同い年のような女の子が佑介のそばに立っていた。

(彼にとっての勝利の女神か)

その女の子は佑介の幼馴染の草壁栞で、日夏里の友人・徳成都の小学校のときの同級生だ。今の次子には知る由もない。
佑介の表情がさきほどよりももっと優しく、いとおしむような、壊れ物をそっと扱うようなものに変化した。
・・・・彼は今、自分がどんな表情を浮かべているかわかっているのだろうか。
あの女の子・栞に勝てる子は、誰一人いないだろうと思った。

翌週、日夏里と出かけた際にも佑介と彼女を偶然見かけた。
日夏里は佑介のことを知らないわけではないので声をかけようとしていたが、次子が止めた。
区民大会の時にも感じていたが、佑介が連れの彼女をとても大事にしているのが見て取れ、“恋人”なんて言葉でくくるよりももっと深い何かがあるように感じたから、邪魔をしてはいけないと思ったのだった。



写真部の部室に着くと次子は、机の上にカメラを置き、フィルムを手にしながら暗室へと向かう。
夏の暑い盛りに、わざわざここへやってくる物好きはやはり自分くらいしかいなかった。

さっさと終らせてしまわないと。
今日一日、部室にこもるつもりでいたのに、ぽろっと昼にはやめると言ってしまったのだ。
あの、大きな瞳で真っ直ぐに見られると、思いもよらないことを言ってしまうときが多々ある。

日夏里と初めて話をしたのは高校1年の夏休み前くらいだったと思う。
それまでにも同じクラスの町川翔子と一緒に帰ったりするので、放課後よく教室へ来ていたようだが、昼休みに頻繁に来るようになったのは梅雨明け頃からだった。


その日は翔子が図書委員の仕事が急に入ってクラスには不在だった。
翔子から、日夏里が来たらそう言っておいてと言われたものの正直次子は困っていた。
日夏里のことは知らないわけではなく、これまでにも翔子が隣の席だった時に顔はあわせていたけれど、話したことはなかったから。

クラスのドアのところできょろきょろと中を見回し、翔子の姿を探している日夏里。
思い切って声をかけるしかないかと覚悟を決め、歩を進める。
「あ、つーさん。翔ちゃんいないの?」
日夏里の方から声をかけてきた。大きな瞳をこちらにむけて。
「あ、ああ。なにやら急に図書委員の仕事が入ったって・・・・」
日夏里は小柄だったので、頭ひとつは確実に背が高い次子をじっと見上げていた。
「そうなんだ。了解!伝言ありがとうね」
にこっと笑い、自分のクラスへと戻っていった。

彼女は自分のことを翔子が呼ぶような愛称で呼ばなかっただろうか。
今まで同じクラスになったこともなく、挨拶程度の会話以上はしたことがなかった筈だ。
けれどそれは不愉快ではなかった。彼女からそう呼ばれるのは極自然なことに感じたのだった。

このことをきっかけに、日夏里が翔子のところへ遊びに来ると次子にも時々話しかけるようになった。
大きな瞳で真っ直ぐこちらを見つめる日夏里に、どこか落ち着かない気分にさせられたとしても。

1年の終わりの春休み。
休み前に申請した書類が出来たというので学校まで取りに行くと、事務室に新年度のクラス分け表が置いてあった。
翠嵐では基本的にクラスの事前発表はない。本来ならここにあるべきものではないのでは、と思いつつも目の前の表を手に取った。

自宅へ帰ると次子は翔子に電話した。メールでもいいかと思いつつも、文章ではさらに上手く伝わらないような気がしたからだ。
電話を受け、一通り話を聞いた翔子は、
「めづらしいこともあるんだね。」
とちょっとからかい気味だった。
「・・・・・あれだけ毎日来ていれば、いやでも覚える」
「一年間一緒だったクラスメイトの名前すらロクに覚えてないくせして、よく言うよ~」
「・・・・ほっとけ」
次子自身、どうしてそんなに彼女のことが印象に残っているのか測りかねていた。
2008.08.05 Tue l 学園祭は踊る(連作) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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