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今回の話は、剣道の師匠・ままさん剣士Kさんのところに稽古に来ていた男の子が、現在高校二年生でこの度三段に合格したというのをきいて出来たものです。

佑介くんにも剣道仲間がいてもいいよねと思って毬さんに話したらOKをもらえたのもありました。
手合わせの場面は今回ちょっと手抜きしちゃいましたけどね(爆)

ちなみにこの男の子の彼女は翠嵐に在学しております(笑)

ではではつづきをよむからどうぞ。





「こんにちは。・・・・・あ、稽古中だ。ちょっと待ってるかな」

日曜日の草壁家道場・尚壽館。
あるひとりの高校生が尋ねてきた。
年の頃はそう、佑介と同じくらいか。剣道着を着ており防具袋と竹刀袋をかついでいるので、剣道を習っていることがわかる。
どうやら、ここ尚壽館は勝手知ったるところのようで、中をのぞいて稽古中だとわかるとそそくさと靴を脱ぎ道場へあがり、稽古の邪魔にならない隅にすとんと座った。

座ってから、今稽古をしている人物の名を探すと「土御門」と垂れに書いてあるのを見つけた。
(佑介だ。・・・・・真穂先生との互角稽古か。すごいな)
どうやら佑介のことを知っているようである。
いつものこども剣道教室が終わり、いつものように佑介が真穂に稽古をつけてもらっていたのだ。
(この時間は佑介の貸切状態みたいだ。僕もたまには顔出すかな)
ふたりの打ち合いを眺めつつ、そんなことを考える。
「おにいちゃん、だれ?」
女の子の声が聞こえた。
声の方に顔を向けると、3,4歳くらいの目がくりくりとしたかわいらしい女の子が立っていた。
「こんにちは」
その女の子はにっこりと笑う。つられてこちらも笑顔になる。
「こんにちは。僕は千葉航(ちば わたる)と言います。以前ここで剣道を習ってたんだよ」
「ふーちゃんもおけいこしてるよ。いまはね、ゆうちゃんとばばがおけいこしてるの」
「へえ、そうなんだ。お稽古楽しい?」
「うん!とってもおもしろいよ」
(真穂先生を“ばば”って呼ぶことはこの子はお孫さんだよな。娘さんの栞ちゃんは僕と同い年だし。・・・・・あ、咲子さんの娘さんか!)
以前尚壽館で剣道を習っていたと言うだけあって、草壁家のことも良く知っているようだ。
ただ「以前は」と言っているので、今は習っていないらしい。
「あ、おけいこおわったよ。ふーちゃんいってくる」
「え?ちょっと待って」
止めるまもなく芙美はとててと駆け出し、真穂と佑介のもとに走っていった。
芙美に気づいた佑介が、面の物見から芙美の駆けてきた方向を見やる。
お互いの目が合った。
そして。
「航!」
佑介が声をかけた。

「久しぶりだな。元気だったか?」
小手をはずし面を取った佑介が尋ねる。先ほど佑介に駆け寄った芙美は、母親の咲子に二人の稽古が終わったことを告げに母屋へ戻っていた。
「ああ、うん。・・・・・この時間、なんだか佑介の貸切みたいだね(笑)今度から僕もお邪魔しようかな」
「今日はたまたま俺しかいなかっただけだよ(^^;)・・・・って、航またこっちに顔出せるのか?」
「多分ね」

(なんだか佑介、雰囲気変わったような・・・・・・)
航がこの尚壽館で稽古していたのは中学生までで、小学生から習い始め同じような頃に入門していた佑介とは切磋琢磨しつつお互い稽古に励んだものだった。
佑介とは割合ウマが合い他の子達よりは仲がいい方であった航だが、そんな航でも佑介はどこか人を寄せ付けない雰囲気を持っていると感じていた。
優しくて気遣いが出来、人当たりも良いが、ある一定の距離以上は踏み込ませない佑介。
そんな佑介に一抹の寂しさを感じていた当時の航だった。
航は中学も佑介とは学区が違っており、高校も中学で学年一番だった航は都内一の都立に進学していた。
高校に入れば部活の方が中心になり尚壽館に稽古に来ることはあまりないだろうけど、きっと剣道の大会で佑介と顔を合わせられると信じていた。
だが、高校に入学してから佑介の名を見ることはなかった。
中学の頃から剣道の腕前が際立っていた佑介。
団体は無理でも個人でなら絶対どこかの大会に出てくると思っていたのだが、弓道部に入ったということを耳にしてそれはかなわないことだと悟った。
特別「高校でも剣道部」と約束していたわけではないけれど、佑介は剣道をやめてしまったのかと思い、なんとなく裏切られたような気がして尚壽館にも顔を出さないでいた。
ところが6月の区民大会に佑介は高校男子・個人の部に剣道で出場し、優勝していたのだ。
航はこの大会は模試と重なってしまったので出られなかったが、佑介が剣道を続けている事実を知って嬉しくなった。
だから久しぶりに会いたくなり三段受験の指導も受けたくて、尚壽館に顔を出した。
でも佑介は平日には稽古に来ておらず、真穂からいつ来るのか尋ねて今日やってきたのだ。

「航くん、三段合格おめでとう」
真穂もふたりのそばにやってきた。
「ありがとうございます。真穂先生のおかげです」
ぺこっと頭を下げる。
「ふふふ。がんばったものね。よかったわ」
そう言ってにこっと笑う真穂。
「そっか。航も三段か。おめでとう。・・・・でもまだ三段取ってなかったなんて意外だったな。航の腕ならとっくに取ってると思ってたよ」
「ありがとな。いや模試が入ったりで、なかなか段審査の日程とあわなくてさ。わざわざ江東区まで行って受けてきたんだ」
「大変だったな。・・・・まあ進学校だもんな、航の高校は」
「まあね」
肩をすくめる航。
「それはさておき、佑介こそ区民大会初出場初優勝おめでとう」
「サンキュ。・・・・・航こそよく知ってるな」
今現在航は尚壽館へ稽古に来ていないうえに高校も港区内ではない。区民大会にも参加していなかったようだし、どこから知ったのであろうかと佑介は思った。
不思議がっている佑介に、航はふうっと溜息をついた。
「あのね、高校剣道界では無名の佑介が区民大会とはいえ優勝したんだよ?・・・・東京都のインハイ予選ではその話で持ちきりだったんだからな!」
「なんで?」
「なんでって、佑介が決勝で対戦した相手は東京都の春季剣道大会でベスト4に残ったやつで、それを全く無名で部に所属していない佑介に負けたんだから話題になるに決まってるじゃないか」
「・・・・・そういうものか?」
がく。
力説していた自分がばからしくなってきた航だ。
そう、佑介とはこういうやつだった。
一番になりたいとか、絶対相手を倒すとかそういう気持ちをおよそ持っていないのだ。
「かわらないね、佑介は」
身にまとう雰囲気は変わったけど、それ以外は少しも変わっていない佑介に航は嬉しくなってしまった。
「そうか?ちゃんと成長してると思うけどな」
大真面目に言う佑介に航はぷっと吹き出してしまう。
「なんだよ、笑うなよ;;」
「ごめん、ごめん」
そう言いつつも、しばらくはおなかを抱えていた航だった。

「ところで航くんは今日は稽古に来たのよね?」
「はい、そうです。だから道着で来ているんですけど」
真穂に尋ねられいぶかしむ航。自分の格好は稽古をしに来た以外の何者でもないと思うので。
「・・・・せっかくだから、佑介くんと手合わせしたらどう?」
「ええ?!」
真穂の提案に航は驚き目を見開いた。
「・・・・そんな驚くことないじゃないか;;」
佑介はどことなく不満そうだ。
「え、だって。勝負になるのかなあ。佑介は区民大会優勝者だろ」
「関係ないよ。俺は高校に入ってから同じ高校生と試合したのはあれが初めてだったんだから。試合の経験値からいったら航のほうがずっと上だよ」
佑介はそう言うが、その「経験値」が少ない佑介なのに春季剣道大会ベスト4を破って優勝しているのだ。
もちろん、真穂の後輩たちの猛者らの特訓もあったからではあるけれど。
「まあ、それはそうだけど・・・・・」
言いよどむ航。
だがそこに。
「男の子がぐだぐだ言ってないの!覚悟決めてさっさと準備しなさい」
真穂の一喝が落ちた。
佑介と航のふたりは顔を見合す。
「・・・・真穂先生も相変わらずだね」
「ああ」
どうやらこのふたりの勝負を真穂が見たいようであった。


佑介と航の手合わせの結果は1-1で、三本目はなかなか勝負が尽きそうもなかったので引き分けとなった。
「中学生の頃、よく航と勝負していたの思い出したよ」
「僕も懐かしかった。確か当時もよく引き分けたよね」
一本目は航が小手を決めた。二本目は佑介の胴。
そして三本目がなかなか勝負がつかなかったのは、お互いがこの相手と戦っているのが楽しくて仕方なかったから。
鍔迫り合いで互いが近づくと、面越しに笑い合っていた。
小学生の頃から中学までずっと稽古しあっていた相手だ。手の内も攻め方も守りも段々にわかってきて、でもどうウラをかくか。そんなことが面白かった。
「部活もいいけど、やっぱりこっちもいいな」
「航がまた稽古に来てくれるのは嬉しいけど、部活と両立はきつくないか」
進学校なんだし、という言葉を飲み込む佑介。
「大丈夫、大丈夫。むしろストレス解消になるしね。・・・・毎週は無理かもしれないけど、なるべく来るよ」
「そっか。じゃ、あらためてよろしくな」
そう言って互いにこぶしをぶつけあった。「竹馬の友」



「あら。じゃあ、航くんも警視庁に連れて行こうかしら」
「え?」
「佑介くん、今警視庁に出稽古してるのよ」
「ええ~~~!」
さらっと真穂は言うが、航にとっては衝撃の事実だ。
真穂が昔警察の特練だったことは知っていた航だが、まさか高校生の佑介が天下の警視庁の道場に顔を出していることは当然知らなかった。
「・・・・・やっぱ、佑介ってすごいんだな」
「そんなことないって;;」
こんなことを言っていた航だが、将来キャリア組になれるのを蹴って(航は某国立大法学部に進学する)特練に入った変り種と言われることになるのだった。


「お母さんまだお稽古終わらない?咲ちゃんがお昼を作り始めていいかって・・・・・」
ひょっこりと栞が顔をだした。
「もう、そんな時間?」
「うん。・・・・・あれ?佑くんと・・・・」
母と佑介だけだと思った道場に、もうひとりいた。
「栞ちゃんだよね?」
そのもうひとり、航のほうから栞に声をかけた。
「・・・・あ。もしかして、航くん?」
「あたり。久しぶり。またこっちにお邪魔することになったんだ。・・・・栞ちゃん、美人になったね~」
にっこりと航は栞に笑いかける。
「やだ、航くん。何言ってるの;;」
ストレートに言われて栞は照れてしまう。佑介はなんとなく航をにらみつけていた。
そんな佑介の視線に気がついた航はくすりと笑い。
「僕、彼女いるから安心しなよね」
と、こっそり告げる。
「俺は別になにも;;」
あせる佑介。
「佑介って、わかりやすいなあ(笑)・・・・・あのさ、昔っからこの道場に稽古にきているやつで栞ちゃんに手をだそうって愚か者はいないから」
「・・・・なんだよ、それ」
「佑介に勝負を申し込む勇気のある男はひとりもいないってこと。それくらい、ふたりの間には誰も入れなかったってわけ」
そう言うと、航は佑介にむかってにっと笑った。
「わーたーる~;;」
佑介の顔が赤く染まった。


しばらくぶりに会った友は以前とどこか変わっているようで変わってなく。
懐かしさと慕わしさでいっぱいになった。
2008.09.05 Fri l 短編小説 l コメント (2) トラックバック (0) l top

コメント

そういえば…
航「そういえば佑介、翠嵐と弓道の対抗試合するんだって?」
佑介「…へ、なんで航がそれ知ってるんだ?」
航「だって、僕の彼女翠嵐に通っているんだもの。それでちょっと聞いたからさ」
佑介「えーっ;;」
航「…なんだか、弓道姿の佑介も見てみたくなったな~♪」
佑介「俺はただの付き添いだぜ…(--;)」

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例の彼のお話ですね。なんだかこちらもなつかしいような、ほのぼのとした気分になりました(^^)
手合わせの鍔迫り合いの時に笑い合う二人の雰囲気がいいなあ、と思いましたよ。
佑にとっては和樹や梁河くん、そして龍くんとも違う立場の「親友」とも言えるかもしれませんね。
2008.09.06 Sat l 土御門佑介. URL l 編集
@稽古が終わり、航くんが帰って。

芙美「ゆうちゃん、さっきのおにいちゃんおともだち?」←また道場に戻ってきたようです(笑)
佑介「航?うん、そうだよ。小学生のころからのね」
栞「懐かしいね。航くん、ちっともかわってなくて(笑)」
佑介「い~や、性格がわるくなった」
栞「佑くんてば(^^;)」

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はい、例の彼のお話です。Kさんからはネーミングで笑われてしまったのですが(笑)
中学まで一緒に稽古をしていて、久しぶりにあったら、きっとこんな感じだろうなあと思いながら
書いてました。
航くんは彼女が翠嵐にいるのできっと学園祭にも来るでしょうね。
・・・・・・佑介くんも対抗試合に参加してもらうかな(爆)
2008.09.06 Sat l 星野芙美. URL l 編集
 

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