今日の更新は咲子とこーさんの新婚時代のお話で、ずっと前にいただいてきたお題からです。
「新婚さんに贈る7つのお題」から。(配布元はTVさま

直接的な表現はないけど、なんだかんだと「あだると」な内容ではないかと。
大丈夫、という方のみつづきをよむからどうぞ。



「えっと、あの。ちょっと待って」
「待たない」
咲子は必死に絋次の手を押しとどめようとするが、かまわず絋次は先に進もうとする。
「だめだったら」
「……」

ばしん。

「こーさんのばか!だめっていってるじゃない。…もう、ケダモノ!!」



「あはははは」
目の前で大笑いをされて絋次は憮然とするしかなかった。

相談したいことがあるからと、自分の行きつけのこじんまりとした飲み屋に上司である都竹忍を絋次は誘った。
たわいない話から始まり、ある程度お酒が入ったところで都竹の方から「ところで、相談ってなんでしょうか?」と切り出してきた。
相談の内容が内容だったのでなかなか話は進まなかったのだが、なんとか絋次は話し終えた。
途端、都竹は笑いだしたのだ。必死で堪えていたのだが、我慢出来なかったようだった。

「…いいかげん、笑うのやめてくれませんか?」
「だってそんな理由で海外出張を望む人、フツーいないでしょう?」
目にはうっすらと涙まで浮かべている。絋次は苦虫を噛み潰したような表情だ。
「仕方ないじゃないですか。我慢できるか自信がないんですから」
「咲子ちゃんも罪ですねえ。そりゃあ、英語が堪能な君には入社当初から海外へ行って欲しかったけど、まさかこんなことでねえ」
といってまた笑い出しそうなのをこらえる都竹。

都竹の言葉通り、絋次は英語が得意であった。
国文学者である祖父の影響か幼い頃から本が好きで、活字であればなんでも読む乱読型でもあり、高校生の頃には翻訳物の原書に手を出していた。
始めはもちろん辞書を片手に読み、後には海外ドラマや映画を吹き替えなしで字幕を追いかけながら耳で英語を聴いているうちに言い回しなどを自然に覚え、あとは単語力がものを言うと、ひたすら単語を覚え今に至るというわけだ。

「いいじゃないですか。会社はねがったりかなったりでしょう」
「まあ、それはそうですけどね。でも今の今まで『絶対行きません!』って宣言してたのに、どうして急に気が変わったのか不思議がりますよ、常務が」
「そんなの都竹さんがいつものように丸め込めばいいことでしょう」
きっぱりと言う絋次。

実はこの都竹忍は絋次と咲子が中学時代から大学まで通っていた弓道場においての師匠であった。
絋次もまさか自分が入社した会社に都竹が勤めており、おまけに配属された部の取締役部長などとは夢にも思わなかった。
中学生の頃から自分たちのことをよく知る都竹。
そんな都竹でもあるから、絋次は恥を忍んで話をしたのだ。
---------そう、咲子の傍にいたら自分は抑えがきかないと。

現在新妻の咲子は妊娠二ヶ月。
結婚して早々に子供を授かったのは嬉しいが、絋次にとっては困ったことになっているのだ。
妊娠初期の胎児はとても不安定で、この時期の自然流産も少なくない。
なるべくそのリスクを減らすために、安定期となる五ヶ月くらいになるまで夫婦生活も控えるよう医者から指示される。
当然咲子としてもお医者様の指示には従うべきだと考えているし、正直つわりがひどいのでそういう気分になんてとてもなれなかったりする。
だが、夫である絋次は新妻の咲子が愛しくてたまらない。いつだって抱きしめて愛し合いたいのだ。
だめなのはわかっていてもついつい手が出てしまい、そして咲子にだめだと拒絶されるという、そんな日々がもう二週間近く続いていた。
そして、とうとう妻からケダモノとまで言われてしまったこともあり(咲子も言い過ぎたとあとで謝ったが)、もうこれは妻の傍にいないほうがいいのではないかと思い至ったのだった。


「丸め込むなんて人聞きの悪い。でもまあ、星野くんの悲愴な決意はわかりましたから、なんとかうまい理由をつけて上に通してみましょう」
そう言うと都竹はにっこりと笑った。
「お願いします」
絋次は頭を下げるしかなかった。



都竹がどんな理由をつけて人事権を握っている常務に話したのかはわからないが、無事に(?)絋次に海外出張の辞令が降りた。
出張先はオーストラリア。来年から現場が動き出すので、今まで開店休業中のようだった現地会社を先に稼動させるのだ。そこへ半年ほど行かされることになった。



「オーストラリアに半年ほど行くことになったから」
仕事から帰ってくるなり、絋次は咲子に告げた。
「来年から現場が動くんで、そのための現地会社でいろいろとな」
咲子の戸惑いをよそに淡々と述べる絋次。
「だってその、海外へは行かないって…」
そう言ってたじゃない、という言葉を飲み込む。
「会社から行けと言われたら断れないさ」
「それはそうだけど」
自分から希望したとは口が裂けても言えない。
「初めての妊娠で不安な時についててやれなくて悪いが、やち代さんもいるしもしも大変だったら実家に帰ってもいいから」
「わたしの家はここだから。ここであなたを待つわよ」
絋次の目を見て、きっぱりと告げる咲子。
「咲子」
絋次はぎゅっと咲子を抱きしめる。
「こーさん?」
「待っててくれ。…愛しているよ」
そっと優しく、ついばむようにキスをした。



短いようで長い半年。
帰国した絋次を成田まで迎えに来た咲子のおなかは、もう洋服の上からでもわかるくらいふくらんでいた。
「おかえりなさい」
「ただいま。おなか、だいぶ大きくなったな」
「もう七か月になるもの。…その、とっても元気なの。おなか蹴られていたいくらい」
そう言って絋次に笑いかける咲子の表情には、母の顔が垣間見えた。
自分には父親の自覚なんてまだ全然出てきてはいないが、きっとこれから徐々に芽生えてくるであろう。
「そうか。あとでゆっくりさわらせてもうらうさ」
とりあえず今は、半年ぶりの妻を堪能したい。
「え?」
「そう、すみずみまでね」
ぼっと火が出そうなくらい、咲子の顔が朱に染まった。
「や、やだ。こーさんたら何言ってるのよ」
「一人寝は寂しかったからな。…覚悟しとけ」
「もう、ばか!」


久しぶりに会う妻はやはり愛しくて。
気遣わないといけないと思いつつも、一晩中求めてしまった。

「こんな大きくなってきたおなか見せたくなかったのに」
「おなかが大きくなったって、お前はお前だ。…すべてが愛しいよ」



思いがけない罠に落っこちてしまったけれど、甘い甘い蜜月はまだまだこれから。
2008.09.07
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