今日のアップは毬さんとこの「佑遊草子」「護る力、剛き心」1を受けての突発SSで、佑介くんが怪我をしたことの連絡受けた星野家の様子です。

つづきをよむからどうぞ。



「おかあさん、ゆうちゃんどうしちゃったのかなあ」
尚壽館での稽古の後、人形町の自宅へ戻った夕食中、芙美がぽつりと言った。
不安気に瞳を揺らして。

芙美の慕う佑介が、土曜日に警視庁へ出稽古することになり尚壽館での稽古を日曜日に移したことで、芙美もというか、大勢の佑介を慕う子供達が「ゆうにいちゃんと一緒に稽古がしたい!」と声をあげ、土曜日の午前中がメインだったこども剣道教室を日曜日にも正式に開くようになった。
ただ今は夏休み中ということもあり、木曜日も稽古日になっていた。(従来は夕方6時以降から始まる大人の稽古日になっている)
佑介も弓道の練習と上手く調整しながら、木曜日も土曜日も(警視庁の出稽古の後)顔を出していた。
その佑介が稽古に来ないのである。ここ数日。

「そうね。風邪でもひいたのかな」
そう答える咲子も内心は不安だった。
母の真穂からちらりと聞いたところ、佑介の母小都子と祖母の梅乃も家にほとんどいないようなのだ。
・・・・・どうやら佑介も。
咲子は気になって、芙美の稽古中に土御門家を訪ねていったが、確かに留守だった。
佑介の恋人である妹の栞なら何か知っているのではないかと思い、つかまえて佑介のことを聞こうと思ったが、何やら避けられている感じがしていた。

(おかしいわ・・・・・)

「-----佑介くんがどうかしたのか?」
妻と娘の様子をいぶかしみ、絋次は尋ねる。
「ん、ちょっと剣道の稽古に来てないらしくて・・・・。今日も来なかったし。それに・・・・」

電話のベルが鳴った。
咲子が出ようと思い腰を上げる前に、電話の一番近くに居た絋次の祖父史隆が先に出た。
「・・・・はい、そうですが。・・・・・ああ、ご無沙汰しております。・・・・・・・はい、はい。ありがとうございます。・・・・・少々、お待ちください」
そう言って史隆は通話口を押さえ
「咲子さん、実家のお母さんからですよ」
と、咲子に受話器を渡す。
(お母さんから?)
何か例えようもなく、いやな予感がした。
母はめったなことではこちらへ電話なんて掛けて来ない。
・・・・・毎週、芙美を尚壽館へ稽古に連れて行っているので、用があればその時に話すからだ。
前回の電話は、そう、佑介の様子がおかしくなった時だ。
「もしもし?」
『あ、咲子』
「どうしたの?電話なんかよこして。さっき会ったばかりなのに」
咲子は内心の不安を吹き飛ばすかのように、つとめて明るく言う。
『咲子。落ち着いて聞いてね』
「やだ、お母さん。ホントに何があったの?」
-----予感が的中してしまいそうだ。
『あのね、実は佑介くん、今入院してるの』
「え・・・・・?」
『大怪我をしたらしくて』
「うそ」
『うそなもんですか』
母は今、何と言ったのか。
咲子の顔から血の気が引いた。

「-----もしもしお義母さん?」
『絋次さん』
電話を受ける咲子の様子がおかしいので、咲子から受話器を取り絋次が電話に出た。
半分放心状態の咲子は、絋次に受話器を取られたことに気がついていないようだった。
そんな妻の肩を掴み、自分の方へぐっと引き寄せる。
「なにかあったんですね?」
『ええ。・・・・・その佑介くんが大怪我を負って入院中なのよ。意識も今は無くて』
「・・・・事故にでもあったんですか」
『いえ、そうじゃなくて・・・・』
真穂が少し言い淀むので、どうやら絋次はなんとなくではあるが察したようだった。
数ヶ月前に咲子から佑介の特殊な能力のことを聞いていたから、真穂の口ぶりからそのことでの怪我なのだろうと。

その後、佑介の入院先の病院を聞き、だが今は面会謝絶中なので身内以外は病室に入れないから、意識が戻り次第(重体ではあるが、命に別状はないので)また連絡を寄こすということで電話を切った。

電話を終えて、自分に引き寄せた咲子を見ると真っ青な顔をして震えていた。
「咲子?」
「・・・・・」
返事が無い。絋次はもう一度呼びかける。
「咲子、大丈夫か?」
「・・・・こーさん、佑介くんが・・・・」
絋次の声に気がついたかと思うと、わっと咲子は泣き出した。
「咲子・・・・・」
泣いている咲子を抱え込み、自分の胸に預ける。

「おとうさん、ゆうちゃんがどうしたの・・・・・?」
曽祖父の史隆に抱っこされている芙美が、瞳に涙をいっぱい溜めながら父親の絋次にそっと問う。
自分達が電話を受けている、そのただならぬ様子に心配になったやち代と史隆も傍に来ていたのだ。
母親である咲子が泣き出してしまったのもあって、佑介の身になにかが起きたのだろうと幼い芙美にも察せられたのだろう。
絋次は、そんな芙美にどう答えたものか逡巡していた。

「土御門の坊(ぼん)に何かあったんだね?」
「やち代さん・・・・」
「隠さずおいい。何も無くて、咲子がここまでになるわけないだろ」
自分の腕の中でいまだ泣き止まない咲子。
幼い頃から妹の栞とともにわけ隔てなく面倒を見てきた佑介だからこそだ。
「他人」ではあるけれど、気持ちの上では身内同然なのだ。
「・・・・・大怪我を負って、入院中だそうです、佑介くん」
やち代も史隆も息を飲んだ。
「命に別状はないようなんですが、今は意識不明だと」
「------事故ですかね」
「ええ、まあ」
史隆は(もちろんやち代も)佑介の能力のことは当然知らないので、こう答えるしかない。
「あの坊は・・・・・いろいろ抱え込んでいるもんがあるようだね」
じっと絋次を見つめるやち代。
(このばーさんは、どうしてこう・・・・)
「ま、いいさ。あたしゃそんなことには興味ないからね。早く意識が戻ることを願うだけさ」
つとめて素っ気なく言ってはいるが、やち代とて佑介のことは気に入っている。「意識不明」と聞けばやはり心配だった。
「ばーば、ゆうちゃ・・・・」
芙美ももうそれ以上言葉にならない。
大きな瞳から涙をぽろぽろこぼし、嗚咽をあげ始めた。
「大丈夫さね、芙美。ちっとの間、人様より長く寝ているだけさ」
そう言って芙美の頭を優しくなでるやち代。

「佑介くんという子は不思議な子ですね」
「じーさん?」
「史隆さん?」
ぽつりと史隆がつぶやく。
女性陣のただならぬ様子を見て(特に咲子)史隆にもなにか感じるところがあったのだろうか。
「私はまだ本人にお目にかかってませんが、気丈な咲子さんがここまで感情を乱しやち代さんもまた気にかけ、芙美もすごく慕う佑介くんという子。・・・・気になりますね。はやく本人会いたいですね」
そこでにこりと笑う。
「~~~なにとんちんかんなこと言ってんだい、史隆さんは。まったくこれだから学者先生なんてのは浮世離れしちまって」
そんな史隆にやち代はあきれ顔だ。
「ひどいですね。だってみなさんは会っているんでしょう?」
「・・・・じーさん;;」
自分の祖父ながらどこかぽやんとしていて、やち代がいなかったら絶対飢え死にしているのでは・・・・・と絋次はしばしば思ったことがある。
「ああ、もう。湿っぽいのはごめんだよ。・・・・絋次、坊は今日明日死んじまうってわけじゃないんだろ?」
「やち代さん;;・・・・・まあ、命に別状はないって」
「じゃあ、もう泣くのはおよし。咲子も芙美も。目が覚めりゃ会いに行けるんだ」
確かにその通りなのだが。
それでも意識のない状態が何日も続けば事態は変わってくる。
やち代がみなの不安を少しでも軽くしてくれようとしているのはわかるのだが、佑介自身の元気な姿を見なければやはりそれは取り除かれないだろう。
はやく意識を取り戻してほしい。
ただ、そう願うしかなかった。
2008.10.03
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