本日の更新は、昨日毬さんとメッセでいろいろ話しているうちに、すとんと落ちてきたSSです。
話していたネタは、こーさんは「送り狼」(爆)になるかどうか(大爆)

とはいえ、今日のは「あだると」じゃないですよ。きわどいことは書いてありますけど(^^;)
恋人として付き合い始めて一年くらいのふたりの話です。

つづきをよむからどうぞ。


「もう、家に入らないと」
恋人である絋次のくちづけから解放された咲子がそっと呟く。
ほんの一時間ほど前まで、あれほど愛をかわしあってきたというのに、絋次はその腕から咲子を離さなかった。
「…ね、10時になっちゃう」

              咲子・絋次2

草壁家の門限は、午後10時。
出来ることなら朝まで一緒にいたいといつも思う絋次ではあるが、それは咲子が事前に母親に話していないと無理なので、自制心を駆使してなんとか門限の時間に間に合うように、ちゃんとチェックアウトしてきていた。
そして、咲子の家の前----門前(引き戸の門を開けたすぐ中)で、最後の抱擁をするのだった。
「あと、5分ある」
腕時計をちらっと見、そしてまた咲子にくちづける。
いまだ慣れない、絋次のそのあふれんばかりの愛情表現に咲子は軽い抵抗を試みるが、すぐに翻弄され体の力が抜けてしまうのだった。
                              咲子・絋次1

ことに到るまではなかなか素直じゃない(ほのめかしに気付かない場合もある)咲子も、最後には絋次に全てをゆだね、あずけてくれる。
そんなところが愛しくてたまらない。
だからついつい、ぎりぎりまで「狼」でいてしまうのだ。
とはいえ門限を破らせるわけにはいかないので、名残惜しくはあるが咲子の甘やかな唇を味わうのを絋次はやめた。
「また、明日な」
「…ん…」
恥ずかしくてまともに絋次の顔を見られない咲子は、うつむいたまま玄関までを歩き、中に入っていった。
咲子が家の中に入るのを見届けると、門から出て、絋次は帰途へつくべく歩き出す。
醒めない熱がいまだ残るからだをもてあましながら。



「ただいま」
台所にいた母親の真穂に声をかける。
「おかえりなさい。今日もきっかり10時ね」真穂
ちらりと壁に掛かっている時計に目をやる真穂。
「…やぶってないんだからいいじゃない」
「はいはい。あ、今コーヒー沸かしたんだけど飲む?」
全てを見透かしているであろう母には余計な事を言わない方が、身のためだ。
「お父さんは?」
「直哉さんは、今日は残業でまだ帰ってないわよ。よかったわね、そんな赤い顔を見られなくて」
「おかあさんっ」
自分の頬を咄嗟に両手で押さえる。
「ふふ、おあついこと。コーヒーも冷めちゃうわね」
そう言ってからからと笑う。
咲子はそんな母をにらみつけることしか出来ない。

「おかあさん、のどかわいちゃった」
声がしたので振り向くと、妹の栞が寝ぼけ眼で立っていた。
栞は10歳下の妹で、現在小学5年生。9時にはいつも寝ていた。
「じゃあ、少しだけよ」
真穂が、コップにお茶を入れて差し出す。
栞は「ありがとう」と言って、コクコクとお茶を飲み、空になったコップを母親に返した。
「あ、さきちゃんだ。おかえり」栞・5
一息ついて、姉の存在に気がついたらしい。
「ただいま、しーちゃん。飲み終わったのなら早く寝なさいね」
「はあい。…あれ、さきちゃんの顔真っ赤だよ。どうしたの?」
無邪気に聞いてくる栞だ。
「…駅から走ってきたからかな」
咲子の返答にぷっと真穂が吹き出した。
「なんで走ってきたの?」
「ちょっとね。…それよりいつまでも起きてると寝坊して、佑介くんと一緒に学校行けなくなるわよ」
「そうだ。明日はあたしが佑くんちに行く日だ。おやすみなさ~い」
仲の良いおさななじみの佑介と毎日一緒に学校へ通っている栞に佑介の名前をだしたことは効果絶大で、栞はあっという間に自分の部屋へ戻っていった。

「“走ってきた”は傑作だったわね」
「他にどう言えばいいの」
「ま、仲がいいのは、なによりよ」
くすくすと笑う真穂に、咲子は返答に窮してしまう。
娘の咲子の恋人である絋次のことは、ふたりが恋人として付き合うようになる前から真穂は知っていた。
それは、ふたりが高校の同級生で部活仲間だったし、よく絋次は練習で遅くなったから…とたびたび咲子を送ってきていたのだ。
その頃から真穂は絋次が気に入っていた。
寡黙だが、礼儀正しくて。
そして何よりも、娘を真摯に思う気持ちが感じ取れたからだった。
だが、そんな風に絋次から思われていた当の咲子は、奥手なうえかなりの意地っ張りで自分の気持ちをなかなか認めず、絋次をかなりやきもきさせた。
大学だって、学部こそ違えど同じ大学に進学したのは、絋次を追いかけたからだったのに。
真穂も、なかなか進展しないふたりをはたで見ていてとてもはがゆかった。
そんなふたりが、やっと気持ちを通じ合わせたのはまだ一年くらい前のことでしかなかった。
今はいつまでも一緒にいたくてたまらないのであろう。
だから、娘が門限ぎりぎりに赤い顔で帰って来ても、特になにか言うつもりはなかった。
それに娘ふたりを持つ母親にしては、真穂はかなりさばけた方であった。
ちゃんと事前に話しておいてくれれば、絋次とふたりで泊りがけで旅行に行っても全く構わないと言っている。
とりあえず、お嫁に行くまではちゃんと避妊はしなさいね、と注意するだけだった。
そんな母の言動に娘である咲子のほうが戸惑っていた。

「近いうちにまた、夕食に来てもらいましょ」
「それは構わないけど…」
「あ、そのあとふたりでどこへ行ってもいいからね。さすがにまだうちに泊めて、一緒に寝かせてあげるわけにはいかないから」
「おかあさんてば!」
にっこりと笑ってそう言う母親に、二の句が告げない咲子だった。
しょせん、母にはかなわないのだ。
2008.10.07
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